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[時論]緊迫する国際情勢の行方は
ジェームズ・スタヴリディス氏 クリントン米大統領候補の外交参謀
ウクライナ情勢を巡り、冷え込む米国とロシア。南シナ海で攻勢を強める中国。英国の欧州連合(EU)離脱や米大統領選の混迷もあり、世界には不穏な空気が漂う。米大統領選の民主党候補、ヒラリー・クリントン氏の有力な外交参謀の一人、ジェームズ・スタヴリディス米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院長に国際情勢や米新政権の行方を聞いた。
ロシア・中国の圧力強まる
――米国とロシアは冷戦終結後、最悪の状態です。
「米ロの関係は確かに高度な緊張状態にある。ではこの先、どうすべきか。第1に、クリミア併合に関して、プーチン大統領への経済制裁を強化する。第2に、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する東欧諸国による米国への支援を確かなものにする。最後に、ロシアに国際的な行動規範にのっとって行動すべきであると悟らせるため、地球規模での圧力を継続すべきだ」
――世界は新たな冷戦構造に入るのでしょうか。
「我々は冷戦状態にあるわけではない。冷戦に戻るわけでもない。現代流の外交戦術と国際的な経済の枠組みを使って、ロシアに是々非々で対処する。ロシアとは協力できるところでは協力し、争わなければならない部分では争う。『争う部分』とはクリミアであり、シリアだ。では、どこで協力できるのか。アフガニスタン、北極海、麻薬撲滅、対テロなどだろう」
――今年12月、安倍晋三首相はロシアのプーチン大統領を招へいする考えを示しています。プーチン大統領の訪日も「是々非々」と見なされますか。
「『対話』はいつの世でも良いものだ。技術的に(国際法上)、まだ戦争状態にあるともいえる日本とロシアの関係について、議論を続けることも良い。北方領土問題について話し合いを持つことも意味がある。この問題で米国は100%、日本の側にいる」
「安倍首相はとても洗練された政治家であり、彼とプーチン氏の対話が我々を間違った方向に導くものではないと思う。他方、プーチン氏が抱えている数々の問題に鑑みれば、(訪日によって)多くの進展があるという見方には懐疑的にならざるを得ない」
――「プーチン劇場」の目指すものは何でしょう?
「第1、彼は国内の聴衆(国民)の目を気にしている。高い支持率を維持できるか、懸念しているのだ。第2の聴衆は、バルト3国、かつてワルシャワ条約機構のメンバーだった東欧諸国。各国に一定の力を誇示することによって、経済・貿易政策を強気で押し通せるからだ。第3の聴衆はNATOだろう。彼はNATOを分断したがっている。最後の聴衆は米国だ。彼は(米国から)敬意を表されたいと思っている。敬意とは力によってもたらされると信じているのだ」
――プーチン氏による「NATO分断工作」は奏功しつつあるのですか。
「(NATO加盟国は)西に行けば行くほど、(他国防衛には)熱心ではない。だからこそ、欧州の統一は不可欠なのだ。それにより、一定の力を得て、それがロシアを抑止し、安定をもたらすことができる」
――欧州の団結という観点から、ドイツの動向に不安はないですか。
「メルケル首相はクリミア問題に関する対ロ政策については厳しい姿勢を貫くと思う。元NATO最高司令官として、何度もメルケル首相とは話し合っているが、彼女こそ、この制裁において欧州連合を団結させている要だ」
――独ロによる電撃的な「握手」はあり得ないと?
「あり得ない。ドイツの友人たちはこの問題について、自らの立場を堅持する術にたけている」
――英国のEU離脱、いわゆる「BREXIT」は欧州安保にも痛手です。
「あえて議論のための議論をすれば、BREXITによって欧州は弱体化する。それは米国の弱体化を意味し、日本の弱体化にもつながる。今日、民主政治における資産は大まかにいって3人の強いアクターたち、欧州連合と米国、そして日本の双肩にかかっている。そのいずれかでも弱まると、残る2人の力も弱めてしまう。過去70年間にわたって、欧州連合とNATOは平和を醸成してきた。当然、BREXITには懸念すべきだ」
――第2次世界大戦以降に構築された世界秩序が崩壊する危険性もあると?
「その通り。私は英国にはEUに残留してほしかったが、彼らは離脱の道を選んだ。それは英国の友人たちによる、主権に基づいた選択だ。もちろん、米国はこれ以降も英国と良好な関係を維持していく」
――21世紀の世界は結局、英国のハルフォード・マッキンダー卿が唱えた大陸国家(ハートランド=ロシア、中国)と、海洋国家である米国、英国、日本との二大陣営による競争の図式になるのでしょうか。
「この競争に我々が勝つという点でとても楽観的だ。軍事的にもそうだが、外交的にも経済的にも我々は優位だ。それらすべてを動員するのが大陸国家と海洋国家の争いだ。今世紀において、我々の(勝利の)オッズは良好だ。これは世紀をまたぐ争いになる。アジアの大陸国家(ロシア・中国)と周辺国(日米など)が共に歩むという考え方は世界史上、最も壮大な地政学的ゲームとなるだろう」
新秩序を多国間連携で
――日本の安倍政権の中枢では昨今の米英両国が置かれた状況に鑑みて、あなたの言う「三本柱」の一角を占める日本が「踏ん張らないといけない」という問題意識があるようです。
「全く同感だ。今日の世界では米国の力が衰退しているのではなく、他の国々が勃興している。米国は世界随一の軍事力を持ち、強い経済力があり、強固な政治システムを持つ。人口動態においても若者人口は伸びている。エネルギーでも自立は間近だ。高度な教育、技術革新の分野でも中心に位置している。それらはすべて我々の『手持ちのカード』として使える」
「ただ、そのことをもって我々が『唯一の超大国』として行動してはいけない。それでは世界の秩序は取り戻せない。我々は日本、そして欧州連合と共に行動する必要がある。コロンビア、ブラジルなどの南米諸国、南アフリカ、ナイジェリアなどのアフリカの新興国とも協調しなければならない。これらは皆、民主主義国家でもある」
「鍵となるのは日本や欧州諸国、そして米国も大切にしている民主主義、言論・表現の自由といったものをベースにして、世界に新しい秩序をもたらす努力を続けることだ。ロシアや中国などと新しい冷戦構造に入り込むようなことは避けねばならない。同盟各国と協調していけば、それは決して不可能ではない」
――クリントン氏の陣営も日本など同盟諸国との関係を重視しています。
「日本との関係強化、そして地球規模での日本による積極的な行動は、日本のみならず、米国にとっても利益となる。そこには当然、安全保障面の要素も含まれるべきだ。そういう意味で、日本が前進していることに多くの米国人は大変、勇気づけられている」
――米国の次期大統領もそうした観点に基づいて、米国の指導力再生に尽力するでしょうか。
「政治というものは大きな出来事に対し、どうしても過剰に反応してしまう。ブッシュ政権の場合、2001年9月11日の米同時テロに反応してしまった。この結果、振り子はユニラテラリズム(単独行動主義)に基づく軍事行動に極端に振れてしまった。その後、我々はイラクなど多くの困難な局面に遭遇した。そこでオバマ政権が誕生し、その振り子を再度、逆の方向へと戻そうとした」
――その理屈で行けば、次期政権は再び振り子の先を中間に戻すと?
「その通りだ。次期政権にはぜひ、このバランス感覚を取り戻してほしい。米国は独善的なパワーでいたいと思っているわけではない。世界から離れ、孤立主義に乗るわけにもいかない。そうではなく、中庸の度合いに立ち位置を取る必要がある。それは適度に強力な軍事力と同盟国との関係強化を意味する」
――共和党のドナルド・トランプ候補は少なくとも、そうした考えには同調しそうもありません。
「米大統領選の結果、二つの異なる方向性が示されるだろう。トランプ氏が口にしているのは全て孤立主義への回帰だ。『世界に巻き込まれるのは止めよう』『すべての国境に壁をつくろうではないか』といった具合だ」
――伝統的な孤立主義と近代の単独行動主義の混合体のようなものですね。
「その通りだ。クリントン氏の場合、全く違うビジョンがある。彼女の選挙運動のモットーは『共に強くあろう(Stronger Together)』だ。我々の眼前には今、全く異なる二つの米国の未来が提示されているのだ」
James Stavridis 外交における世界のリーダーを養成する米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院長。米海軍のキャリアが長く、元海軍大将。2009年から13年まで北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍の第16代最高司令官として、欧州安全保障の最前線で指揮を執った。
今年7月には、制服組からの副大統領候補として、民主党の大統領候補となったヒラリー・クリントン氏に水面下で打診され、米ニューヨーク・タイムズなど米主要メディアが一斉に報じた。軍事力を使わずに海外で米国の影響力を高める「ソフトパワー」を使ったアプローチを支持する。1955年生まれ、61歳。
〈聞き手から〉同盟国との協力強化カギに
米国の元政府高官や外交専門家と議論すると、彼らの懸念の中心が中国ではなく、ロシアにあることがわかる。ロシアには米国を一瞬で壊滅させる核戦力があり、君臨するのはプーチン氏という異色の指導者だ。米国が冷戦以来、最大級の警戒心を募らせる理由もそこにある。
米大統領選の民主党候補、クリントン氏に副大統領候補を打診されたスタヴリディス氏は北大西洋条約機構の最高司令官を務め、「米海軍切っての天才」との呼び声も高い戦略家だ。
その戦略家が対ロ政策で唱えたキーワードは同盟国・友好国による協力と連携である。対中国でも米国が「日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、ベトナムと共に行動することが必要だ」と力説し、新政権が多国間ネットワーク構築に動くと予言した。
結局、クリントン氏は「伝統的な副大統領候補(=政治家)」を選択したが、スタヴリディス氏は今も緊密な関係を保つ。「ヒラリー政権」誕生の暁には政権幹部に登用される可能性も高く、その言葉にも重みを感じさせた。
(編集委員 春原剛)
[日経新聞8月21日朝刊P.7]
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