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メイ新首相の選択は REX FEATURES/AFLO
大前研一氏「首相が賢明ならイギリスはEU離脱を撤回」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160820-00000001-pseven-int
SAPIO2016年9月号
イギリスの「EU離脱」国民投票がもたらした世界同時株安ショックは一巡したが、離脱の本格的な手続きはこれからであり、予断を許さない。イギリスの今後について、大前研一氏は意外な展開を予想している。
* * *
こんなことを書くと読者の皆さんは驚くかもしれないが、私はイギリスはEUから「離脱しない」可能性が高いと考えている。なぜか?
残留派の内相から新首相になったテリーザ・メイ氏は「ブレグジットはブレグジットだ」(ブレグジット=Brexit/「Britain」と「Exit」を組み合わせたイギリスのEU離脱を指す造語)として国民投票の結果は覆さないと表明し、「離脱を確実に進めたい」と述べている。
そして離脱交渉相ポストを新設し、与党・保守党のポリス・ジョンソン前ロンドン市長も外相で閣内に入れた。しかし、国民投票で敗北した残留派のメイ新首相が離脱の複雑な手続きや厳しい交渉の舵取りをしていくのは、前途多難と言わざるを得ない。
今回の国民投票の結果としてイギリス人が最も驚いているのは、ポンドの暴落だ。EU離脱決定で31年ぶりの安値をつけ、本稿執筆時点でも1ポンド=1ドル30セント台/140円前後という、私が知る限り最も低い水準で推移している。このためイギリスはGDP(国内総生産)でフランスに抜かれてしまい、イギリス人は離脱を選択した影響の大きさを痛感しているのだ。
その一方で、フランスは大喜びしている。たとえばマニュエル・バルス首相は、次のような外国人や外資に対する優遇策を発表した。
●外国人および外国から帰国するフランス人に対する優遇税制の適用期間を現在の5年から8年に延長する。
●外国企業がフランス国内に拠点を設置する際の手続きを円滑に進められるよう、フランス語以外の言語でも対応できるワンストップ行政サービスを開始する。
●外国から移住してくる子供が学校でそれぞれの母国語で授業を受けられる機会を拡大する。
フランス銀行(中央銀行)総裁も、イギリスの銀行免許を取得している金融機関がフランス国内に拠点を設置するための申請を行った場合、迅速に処理することを確約している。「離脱」を機にイギリスから事業移転を検討する銀行などを誘致し、フランクフルトではなくパリをロンドンに代わるEUの金融ハブに育てようとしているのだ。
あまりにもフランスの動きが露骨で早いため、イギリス人は産業がみんな出て行ってしまうのではないかという不安を急速に募らせている。
実際、イギリスは「EUに加盟しているから投資が集まって成長した」という現実がある。
たとえば、EU主要国の直接投資額の推移を見ると、ドイツ、フランスは対内投資が対外投資を大きく下回っているのに対し、イギリスは対内投資がヨーロッパ最大で、対外投資と同じくらいになっている。つまり、今のイギリスにはカネと企業が世界中から集まってきているのだ。
その理由は、イギリスがEUの中でも英語圏でマネージメントがしやすく、規制緩和が進んでいて、国民が勤勉だからである。
たとえば日本企業の場合、イギリスがEUの前身であるECに加盟する以前、ヨーロッパ戦略は「国別の投資」が行われていた。そのうち南欧への投資はほぼ全敗で、フランスやドイツでも苦戦したが、イギリスでは苦労しながらもおおむね成功した。
代表的な例は、ウェールズに進出したパナソニックやソニー、イングランドに進出した日産自動車などである。だから、その後1380社もの日本企業が、ヨーロッパに拠点を作る際はとにもかくにもイギリスを選んだのである。
しかし、イギリスがEUから離脱するとなれば、企業は再び国別投資を考えなければならなくなる。その時は昔のようなイギリスかドイツかフランスかという選択ではなく「イギリスかEUか」になり、これは5億人市場のEUを選ぶのが当たり前だ。
本当に離脱するとなれば、まずスコットランドがイギリスからの独立・EU加盟に向けて動き出すだろう。そうなればウェールズも追随するだろうし、当然、北アイルランドはイギリスから離れてアイルランドと一緒になることを模索するだろう。つまりUK(United Kingdom)は、EUから離脱した瞬間に崩壊が始まり、イングランドだけになってしまう可能性が高いのである。
イングランドだけのイギリスになっても人口は1000万人くらい減るだけだが、諸外国が投資してきたのはイギリスに発展性があるからではなく、EUに発展性があるからだ。EUから離脱したら、イギリスが分裂しようがしまいが、投資が一気に萎んでしまうのは火を見るよりも明らかなのである。
以上のように考えてくると、メイ新首相が賢明ならば、EU離脱について改めて議会に諮ると思う。
なぜなら、国民投票には法的根拠がなく、最終的に決定権を持っているのは議会であり、議員の7割は残留派だからである。
具体的な方法としては、たとえば離脱オプションをいくつか議会に提案し、その中に「残留」の選択肢を入れておく。離脱後のUK崩壊のシミュレーションも、かなり現実的なシナリオを見せることができるだろう。
そうやってイギリスにとって本当に正しい選択は何かという議論を始めれば、議会はもともと残留派が多数だし、「離脱」を選んだ国民の中にも後悔している人が多いから、おそらく結論は「残留」になると私は思うのである。
ただし、もしメイ新首相が賢明でなければ、本当にEUから離脱することになるかもしれない。
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