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コラム:米国民は世界に何を望んでいるのか
Peter Apps
[5日 ロイター] - 米国の有権者は、外交政策に関してはいつも矛盾に満ちた行動をとってきた。米国民の半数以上は、今でも自国が世界一の大国だと信じているが、その地位が低下しつつあることも感じている。
他の国は全部消えてなくなればいい、と彼らが願っているかのように見えることも多い。
もちろん、そんなことは起こらない。2016年の大統領選では、近年の政治史でも例を見ないほど、外交政策上の選択が大きな争点になりそうである。しかし、最近の出来事は、現在直面する課題が簡単に解決できるかもしれないという希望を打ち砕くものだった。
それは驚きに値しないものだ。9・11同時多発攻撃が起きてからの15年間、米国は自国の安全保障のために人員、政治、経済面で莫大な労力を注いできた。イラクとアフガニスタンでの戦争がその代表例だ。どちらの戦争も、事態を格段に改善させるどころか、むしろまったく逆の結果を招いたように思える。
イギリスが6月、国民投票で欧州連合(EU)脱退を選択してから、EUはこれまで以上に深刻な危機に瀕しており、世界の地政学的な情勢はいっそう広く複雑な様相を呈している。
フロリダ州オーランドとフランスのニースで起きた攻撃をきっかけに、ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプ両氏とも、中東の過激派組織「イスラム国(IS)」に対する強硬な軍事措置をいっそう声高に訴えざるを得なくなった。こうした事件は自国育ちのテロリストによるとみられているにもかかわらず、だ。
さらに、米政府は、ロシアや中国をはじめとする国々から、冷戦終結以降で最も深刻な直接的脅威に直面している。
米国内では、世界各地に対する軍事的・経済的・外交的関与が果たして真の国益に結びつくのか、多くの有権者が確信を持てずにいるようだ。彼らにとってのグローバル化の意味は、特に人と資源の移動による海外への雇用流出と、安全保障問題や、特に移民がもたらす競争の出現でしかない。
米共和党の大統領候補指名を受けたトランプ氏の大躍進のカギは、人々のこうした「外国人嫌悪」をうまく取り込む能力にあるようだ。一部の世論調査の予測通り、外交面では比類なき専門家であるクリントン前国務長官が最終的には勝利したとしても、トランプ氏が選挙運動のなかで利用しようとした孤立主義の動きはなかなか消えそうもない。
トランプ氏は、オーランドにおける銃乱射事件が発生してまもなく、ISに対するさらなる強硬論を訴えた。この事件の犯人のような過激派に関しては、米国民の約60パーセント(両党の支持者の過半数を占める)が、オバマ政権はもっと強硬な姿勢をとるべきだと考えている。しかし、いつものことながら、その「強硬姿勢」が具体的に何を意味するのかは決して明らかとは言えない。
確かに、今までは民主党より共和党の方がISへの空爆強化を熱心に支持していた。しかし両党とも、支持者の過半数はイラクやシリアへの特殊部隊の増派にはあまり賛成せず、通常の地上部隊投入にはさらに消極的である。両党の支持者とも、シリア難民受け入れには難色を示している。難民の受け入れが自国の国家安全保障に影響すると考える人々は過半数に上る。
さらに、ロシアと中国は再び自国周辺の地域に対して自己主張を強めつつあり、こうした挑発の激化は、安易な解決を許さない問題だ。
特に中国の台頭には、米国民は間違いなく多くの不安を感じている。ピュー研究所の調査によると、回答者の約半数が、中国の軍事力拡大、環境破壊や人権侵害の前歴、対中貿易赤字の拡大、サイバー攻撃の脅威などについて「深刻な懸念」と回答している。また、中国に雇用を奪われることや、中国政府が保有する1兆2000億ドル(約123兆円)もの米国債を懸念材料とする人はさらに多く、60%以上という結果となった。
米国は、他の大多数の国と同じように、ロシアのプーチン大統領にはおおむねマイナスのイメージ(本心からでなく、畏怖に近い尊敬の念により緩和されているにせよ)を抱いている。今年行われた世論調査では、ロシアからの攻撃があればNATO同盟国に軍事支援すべきだと回答した人が過半数(56%)に上った。
ご想像の通り、共和党は民主党と比べて、政府は必要であれば地域パートナーを積極的に軍事援助すべきだとの考えがはるかに強い。民主党のうち、欧州でNATO同盟国を保護するために武力行使すべきと考えているのは少数派である。
しかし、今年の大統領候補は、これとは正反対の立場をとっている。クリントン氏はNATOへの強力な支援を表明しているのに、より孤立主義的姿勢の強いトランプ氏の方は、米軍の金銭的負担が大きく、過去数十年と同じように欧州の安全保障を担うのは無理だと明言している。
これは、従来の両党の路線の違いが次第に交錯しつつあることの表れだ。今回の選挙では、民主党のクリントン氏の方が、国務長官という前歴にふさわしく国際協調路線をとっているのは間違いない。しかし、今後の選挙戦では、バーニー・サンダース上院議員のような左派で孤立主義寄りの民主党と、さらに強硬路線を強めた共和党とが対決する構図は十分に想像できる。
現に、状況はすでにかなり複雑だ。トランプ氏は、過激派に対しては拷問も辞さない無差別的な軍事措置を主張するが、イラクでの新しい国づくりのような大がかりな策は望んでいない。要するに、共和党は軍事支出の増大には賛成だが、軍事支出自体はできるだけ抑えたいと考えている。
こうした見解の対立は、米国では古くからみられるものだ。ジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソンといった「建国の父」たちは、当初から、「外国の戦争に巻き込まれないこと」に力を注いだ。二つの世界大戦への参戦も遅れた。「世界の警察官」としての意欲を示すようになったのは1945年以降のことである。それも、多くはきわめて消極的に役割を果たしてきた。
ここまでの選挙戦で材料が出尽くしているとすれば、そこから得られる結論は、米国の国内政治においては、記憶に残るいかなる時点よりも2極化が進んでいるということだけだ。
米国は、そのような国内政治の舵取りをすると同時に、同じぐらい複雑な様相を呈する世界情勢も処理しなければならない。これまでの状況からは、首尾よく行くかどうかはまったく不明である。
*筆者はロイターのコラムニストで、シンクタンク「Project for Study of the 21st Century(PS21)」を立ち上げ、理事を務める。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
http://jp.reuters.com/article/us-people-column-idJPKCN10P05H?sp=true
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