http://www.asyura2.com/16/kokusai14/msg/766.html
Tweet |
2016年8月1日 橘玲
サッカーのEUROで「愛国心」を楽しむ
欧州サポーターたちへの羨望
[橘玲の日々刻々]
ヨーロッパのサッカーの祭典EURO2016はポルトガルが地元フランスを下して幕を閉じました。EUROはまた、互いの「愛国心」を競うお祭りでもあります。
今大会で注目を集めたのは、初出場でグループリーグを突破したばかりか、決勝トーナメントでも強豪イングランドを下して8強に進んだアイスランドです。人口33万人と、国というより田舎の小都市といった規模ですが、それだけに「俺たちのチーム」に対する誇りと愛情はとてつもなく、スタジアムには人口の1割に相当する3万人が押し寄せ、熱くて陽気でクリーンな応援が世界じゅうから賞賛されました(イングランド戦の実況の瞬間最高視聴率が99.8%に達したことも話題になりました)。
それに比べて評判を落としたのはイングランドとロシアで、マルセイユでの試合後に両チームのフーリガンが暴動を起こして機動隊が出動する騒ぎになり、ロシアサッカー協会は大会からの追放を警告される羽目になりました。これでまた「ロシア人は民度が低い」という“偏見”が助長されることになるでしょう。
今回のEUROはフランス開催ということで、パリ、マルセイユ、ボルドーの3会場で決勝トーナメントを観戦しました。印象に残っているのはボルドーのドイツ×イタリア戦で、1対1のまま互いに譲らずPK戦で決着する好試合になりました。
ボルドーの会場は市内からトラムで30分ほどのところにあり、試合開始が近づくと、町で大量のビールを飲んだサポーターたちが続々と乗り込んできます。じつは今回の大会は、フーリガン騒動によって会場内での飲酒が禁止され、サポーターは会場入りする前にじゅうぶんに酔っ払っておこうと必死になったのです。
白のドイツのユニフォームを着たサポーターたちは、トラムに乗り込むや壁や天井を叩き、足を踏み鳴らして応援歌を歌い始めます。私の前には年配の夫婦が座っていて、奥さんは車内の馬鹿騒ぎを完全無視でずっと窓の外を見ています。でも夫はどこかもじもじしていて、やがてスマホを取り出すとサポーターの写真を撮り、次は彼らといっしょに自撮りし、ドイツ国歌が始まるととうとうガマンできなくなって、サポーターたちといっしょに大声で歌いはじめました。どうやら彼もドイツ人で、奥さんの手前、最初はおとなしくしていたようなのです。
面白かったのは、同じトラムに乗っていた数少ないイタリアのサポーターが自分たちの応援歌を歌いはじめたときです。それを聞くとドイツ人は喜んで手を叩き、ちゃんと最後まで終わるのを待って、より大きな声で自分たちの応援歌を歌いだすのです。
そのやりとりを見ていて、EUROのサポーターの約束事がなんとなくわかりました。自分たちの「愛国心」を楽しむためには、ライバルの「愛国心」を尊重しなければなりません。そうやってどちらの愛国心=チーム愛がイケてるかを競いあうのが祝祭のルールなのです。――フーリガンは愛国心を楽しむことができないからバカにされるのです。
この約束事さえ守っていれば、国旗をまとって愛国心を誇示し、街なかで大騒ぎしても嫌がられるどころか、大歓迎されます。それを見ながら、同じことが日本でできるようになるのはいつになるか考え、ちょっとうらやましくなりました。
『週刊プレイボーイ』2016年7月25日発売号に掲載
橘 玲(たちばな あきら)
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)など。中国人の考え方、反日、歴史問題、不動産バブルなど「中国という大問題」に切り込んだ『橘玲の中国私論』が絶賛発売中。最新刊『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』(集英社)が発売中。
●橘玲『世の中の仕組みと人生のデザイン』を毎週木曜日に配信中!(20日間無料体験中)
http://diamond.jp/articles/-/97506
WEDGE Infinity2016年07月13日 15:00ドーピングにフーリガン、スポーツを政治利用するロシア ソ連時代の悪しき慣習の再来? - 廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部教授)
リオデジャネイロ五輪の開幕が近づく中、ロシアのドーピング問題が世間を騒がせている。
ロシアのドーピング問題発覚の最大のきっかけとなったのは、2014年12月に放映されたドイツの公共放送ARDによるドキュメンタリー番組であった。同番組では、実際にドーピングを行っていたロシア人選手の告白が報じられ、世界に大きな衝撃を与えた。そして、これを契機にロシアの国家ぐるみのドーピング戦略が明らかにされていくことになる。
この報道を受けて、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が公的に調査を開始、2015年11月9日には報告書が提出されたが、その内容は、ロシア陸上界において、禁止薬物の使用や検査を逃れるための贈収賄などが常態化していること、また組織的なドーピングを隠蔽するために正規のものとは異なるダミーの検査場が存在していたことなど、世界にセンセーショナルを巻き起こした。
キーパーソンたちの亡命、急死……
深まる疑念
その後、ドーピング問題の関係者に次々異変が起こるようになった。
まず、ロシア陸上界の組織的ドーピング問題を告発した中距離のユリア・ステパノワ選手と、その夫でモスクワの検査機関に勤務していたビタリー氏が、11月17日までにカナダに政治亡命を申請したのである。11月10日までに、露政府からドーピング検査機関の所長職を解任されていたグリゴリー・ロドチェンコフ氏も、「身の危険」を感じて米国に事実上亡命し、その後はロシアの組織的ドーピングについて生々しい告発を行ってきた。
他方、年明け2月にロシア反ドーピング機関(RUSADA)関係者の不審死が相次いで発覚した。今回の疑惑を受け、RUSADAは「不適格な組織」と認定されている。
2月上旬には、ドーピング問題で中心的役割を果たしていたとされるRUSADAのビャチェスラフ・シニョフ元会長が死亡したが、その詳細はほとんど知られていない。
また、2月14日には、同じくRUSADAのニキータ・カマエフ前最高責任者が心臓の病気により52歳の若さで急死した。カマエフは一連の疑惑により更迭されていたが、スキーの最中に突然心臓の痛みを訴え、死亡した。それまで、彼に心臓疾患はなかったという。それから一週間ほどすると、英国の『サンデー・タイムズ』が、カマエフがドーピング問題に関する暴露本を執筆する準備をしていたことを報道した。その報道により、彼の死についての疑念が一気に高まった。
ロシア政府は、国家ぐるみのドーピングへの関与を一貫して否定しているが、RUSADA関係者が真実を話すと政府に都合の悪いことがあり、だからこそそのキーパーソンが消されたという疑惑が信憑性を帯びてきたのである。
すると、今度はその疑惑を晴らすためか、RUSADA関係者が、カマエフが亡くなる前に、時々、親しい友人に負担がかかる運動をすると心臓付近に痛みが出ると話していたということが報じられ、近親者が言っていた「心臓疾患は一切なかった」という主張を事実上否定することとなった。また、カマエフが生前に暴露本執筆を辞めたいと話していたというようなことも報じられた。つまり、ロシアの政府に近いメディアは暗殺疑惑の火消しを行ったと言えそうだ。もちろん、実際に暗殺があったかどうかは断定できない。しかし、このような怪しい動きがあったのは事実である。
シャラポワにも向けられた疑惑
続いて、3月7日には、女子テニスの元世界ランク1位、ロシアのマリア・シャラポワ選手が記者会見を開き、1月の全豪オープンテニスでのドーピング検査で、禁止薬物「メルドニウム」の陽性反応が出たと発表したのだった。メルドニウムがWADAの禁止薬物に指定されたのは2016年1月と最近であり、シャラポワは「糖尿病の家系」であるとして長年服用していたと主張した上で、「メルドニウムが禁止薬物のリストに入ったことを知らずに服用した」と強調した。
だが、メルドニウムは1970年代に旧ソ連で開発された薬で、確かに不整脈や糖尿病にも用いられるが、「持久力」を向上させる効能がよく知られている。そのため、意図的な服用を疑う声は根強い。スター選手のドーピング問題は、世界的に大きく取り上げられ、「ドーピング大国ロシア」のイメージを強めることになった。
さらに、6月8日には、ドーピング疑惑報道を最初に行ったドイツの公共放送ARDが、ロシアのビタリ・ムトコ・スポーツ相がロシアサッカー界のドーピング隠しに直接関与した疑いがあると報じたのである。2014年8月、サッカーのロシア1部クラスノダールに所属する選手がドーピング検査で陽性になったことに対し、ムトコはそれをもみ消し、その証拠となる電子メールもあるとされている。ムトコは否定しているものの、国家ぐるみのドーピング疑惑はますます信憑性を増した。
ロシア選手たちは五輪に参加できるのか
こうして、ロシア選手のリオデジャネイロ五輪への参加問題が焦眉の問題となったわけだが、6月17日に国際陸連はウィーンで臨時理事会を開き、組織的なドーピング問題で資格停止中となっていたロシア陸連が必要な対策を十分にとっていないとして、処分を解除しないことを決めた。そのことは、ロシア選手がリオデジャネイロ五輪に参加できないことを意味した。
個人資格で潔白が証明できれば、五輪への参加は認められることになったが*、女子棒高跳びで世界記録を持つイシンバエワなど、ロシアの旗のもとでなければ出場しないと主張する選手も出てきた。
これを受けて、国際オリンピック委員会(IOC)は、国際陸連の決定を支持したが、21日に、ドーピングをしていないロシア選手の救済策について、「ロシア国外」の確たる組織が行う新たな検査で潔白を証明できるなら、個人参加ではなく、ロシア選手団の一員として、五輪参加を認めるという方針を示した。加えて、陸上以外の競技でも、出場を希望するロシアの全選手に、国外で同様の信頼がおける検査で潔白を証明するよう義務付けることになった。
ムトコスポーツ相も、全ロシア選手がそのような検査を受ける用意があるとしつつ、IOCの決定を評価した。その陰で、前述のドーピング検査機関元所長で米国に亡命したロドチェンコフに対する禁止薬物取引疑惑での捜査が行われていた。ロドチェンコフは多くの内情を暴露し、そのことが陸連の決定にも響いているのは当然であり、ロドチェンコフに対する告発は報復に他ならないという。
こうして、ロシア選手の資格として無実を訴えつつ五輪参加を目指す選手が出てきた一方、ドーピングを告発した前述のステパノワは欧州陸連の旗の下で、国旗や国歌を使えない「中立の選手」としての参加を目指すなど(ただし、怪我もあり出場が危ぶまれている)、ロシア選手たちに五輪参加の可能性が生まれたのである。
だが、状況はまだ流動的だ。ロシア五輪委員会は、これらの決定にやはり納得できていない。7月2日に、ロシア五輪委員会は、68人の選手とともにスポーツ仲裁裁判所(CAS)に決定に対する不服を提訴した。68人の選手には、前述イシンバエワや男子走り高跳びのウホフなどが含まれている。CASによる結論は、7月21日までに出される予定である。
*ロイター通信などの報道によると、10日、国際陸連がロシア67選手の個人資格での参加申請を却下したとのこと。タス通信によると、この中にはイシンバエワも含まれている。
組織化された、フーリガンによる暴力行為
他方、話は変わるが、6月10日から7月10日まで、ヨーロッパのサッカーの頂点の座を巡ってフランスで開催されていた欧州サッカー連盟(UEFA)のEURO 2016でもロシアのサポーターに含まれていたフーリガンが大きな問題となった1。
6月11日にマルセイユで行われたイングランドーロシア戦の前後に、ロシア人サポーターは、街中やスタジアム内でイングランドのサポーターに対し、目出し帽やマウスピースで自身の身を守りつつ、刀剣や鉄パイプ、ボトルで容赦ない攻撃を加えた他、花火や発煙筒の使用、人種差別行為など多くの問題行動を起こし、双方の衝突に発展した結果、35人の負傷者が出た。事もあろうに、ロシアサッカー協会の幹部で国会議員でもあるレベデフはロシアサポーターの闘争精神を褒め称え、ムトコスポーツ相もフーリガンを称賛した。
だが、これらのフーリガンの行為、特にスタジアムでの暴動は特に重く受け止められた。UEFAは14日に、同事件を起こしたロシアに対する処分を発表した。その処分内容の概要は、ロシアサッカー協会に対し15万ユーロ(約1800万円)の罰金を科すと共に、サポーターが再度問題を起こした場合はロシアを執行猶予付きの失格処分とした。さすがに、執行猶予がついたとはいえ失格処分がなされたことで、ロシア政府も動いたのか、まさにこの日にロシア政府も初めて暴力行為を批判した。
ただ、この処分は、スタジアムで起きた事件にのみ適応されるものであったため、スタジアム外での暴動には懸念が残った。
その懸念は現実のものとなり、15日のロシアースロバキア戦が行われたリールでも、黒づくめの少人数のロシア人が、大人数で飲んでいたイングランドとウェールズのサポーターに椅子を投げるなどして攻撃し、乱闘に発展したのである。乱闘は警察によって制止され、二人のロシア人が逮捕され、11万9000ユーロの罰金も課せられた。
また、16日には、ドイツ・ケルンで、泥酔したロシアのフーリガンに3人のスペイン人が襲撃され、1人は鼻を骨折、2人は軽く負傷する事件も起きた。このフーリガンは11日のマルセイユでの暴動にも加わっていたという説もある。
1:なお、ロシア代表は6月20日に、グループB最終節でウェールズに敗北してグループ最下位となって敗退した。敗戦試合の内容がひどかったとして、レオニド・スルツキ監督は辞任した。
スポーツが政治に利用される悪しき慣習
ここで問題視されたのは、ロシアサポーターによる暴力が高度に組織化されていたということである。しかも、このような組織化された暴力行為はロシアの文化の一つのようになっていて、ロシアのフーリガンはしばしば極右政治や組織犯罪に結びついているというのである。さらに厄介なのは、ロシア政府が間接的に、ないし、あからさまに国粋主義を煽り、そのような暴動を支持しているということであった(『フィナンシャルタイムズ』6月15日)。
また、ロシアのフーリガンによる暴動は、プーチンの西側に対する「ハイブリッド戦争(従来の戦闘方式に、非軍事的手法を組み合わせた21世紀型の戦争)の一つだ」と見るような見解もある2。
ソ連、そしてソ連の継承国家であるロシアにとって、スポーツは歴史的に、国威発揚を図るとともに、欧米に並ぶ「大国」であることをアピールするための重要な手段であった。特にソ連時代は、五輪で獲得するメダルの数こそが、冷戦における東西対決の一つの要素であったと言っても過言ではなく、国家をあげて優秀なスポーツ選手が養成されていた。だが、ソ連解体でロシアは一時、著しく国力を落とし、スポーツに注入する余力もなくなっていたが、プーチン大統領は再びスポーツ振興に力を注ぐようになった。ソチ五輪の誘致もその一つであろう。だが、最近のドーピング問題やフーリガン問題を考えるにつけ、スポーツが政治に利用される悪しき慣習が再び顕著になってきたように思える。
確かに、ロシア人たちは、自国の選手がドーピングをしているとも知らず、メダル獲得に湧き、選手を心から応援し、誇りに思っていたはずだ。だが、ロシアドーピングの噂は、ソ連時代から最近に至るまで常につきまとっていた。
またサッカーなどの応援で国民が一つになって盛り上がるのは良いことだが、ロシア政府がフーリガンを組織的に送り込み、さらにフーリガンの行為をハイブリッド戦争の一環として考えているとすれば、スポーツマンシップを大いに冒涜している。
ロシアが国際社会の一員としてあり続けたいのであれば、スポーツでの勝ち負けより何より、ドーピングなどの不正をなくし、フーリガンなどを根絶することが必要だ。スポーツマンシップあってこその勝利でなければ意味がないことをロシアはもっと早く学ぶべきだった。
2: Paul Goble, ‘Russian Football Louts In Marseilles Part Of Putin’s ‘Hybrid War’ Against The West,” Eurasian Review, June 15, 2016.
関連記事
リオ五輪を悩ます5つの懸念材料
全てプーチンのシナリオ通り 戦国武将さながらの謀略
反テロで協調を狙うも ロシアが背負う新たな脅威
シリアに介入するロシア その複雑な背景と思惑
「イスラム国」の脅威に 相乗りしようとするロシア
http://blogos.com/article/183313/
外国人「日本のフーリガンおかしいだろ、礼儀正しすぎる…」:らばQ
http://labaq.com/archives/51723744.html
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。