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長谷川幸洋「ニュースの深層」
2016年07月29日(金) 長谷川 幸洋
「トランプ大統領」誕生の可能性が高まった今、日米同盟の危機と未来について真剣に考えてみた
【PHOTO】gettyimages
「主軸」が揺らぐ
米大統領選で民主、共和両党の候補が決まった。菅義偉官房長官はクリントン民主党候補の指名受諾を受けて「日米同盟は外交の主軸」と強調した。だが、今回の大統領選は結果次第で「主軸」が揺らぐ可能性も秘めている。共和党のトランプ候補が勝った場合だ。
日米同盟が「外交の主軸」とか「基軸」であるといった言葉は、読者もこれまで何度も耳にしているだろう。だが、なぜ日米同盟が基軸なのか。新聞やテレビでしっかり解説を読んだり聞いたりした覚えはあるだろうか。私はない。
政府の人間が折に触れて「日米が基軸」と力説しているのは、もちろん知っている。だがそれでも、なぜ日米同盟が基軸なのか、だれにも分かる説明が不足している。暗黙の了解であるかのように、基軸という言葉がすっかり「記号化」しているのである。
日米同盟の是非が政治の一大争点になったときは、いつだったろうか。
私の世代では1970年代の安保闘争だが、当時は高度成長の真っ只中だったせいもあって、国民世論を分断する大論争にはならなかった。真に争点化したのは、それより一世代前の60年安保闘争だった。
先の参院選では、日米安保条約の破棄を唱える日本共産党と民進党など野党4党が手を組んで、与党に挑んだ。野党連合は「安倍晋三政権が成立させた安保関連法は日本を戦争に導く」などと唱えたが、多くの支持は得られず惨敗した。
そもそも日米同盟を否定している日本共産党と容認している民進党が手を握った事実自体が、日米同盟が争点ではなかったことを逆説的に証明している。当の本人たちが「日米同盟の是非などたいした問題ではない」と思っていたからこそ手を握れたのである。
言うまでもなく、同盟関係は国の平和と安全、繁栄の土台だ。そんな重要問題がたいした議論にもならず記号化してしまうのは、平和と安全、繁栄が当たり前で、同盟を支えるロジックやコスト、代替案について深く考えなくなってしまったからにほかならない。
初めての事態
なぜ、そうなったかといえば、日米同盟を基軸と考える政権が民主党政権時代を含めて長期化し、重要性について政府が国民によく説明しなくなったからだ。政府が言わないからマスコミも書かない。とくに左派リベラルのマスコミは政権批判を仕事と心得ているから、なおさら政府の立場を宣伝しない事情もある。
だが、今回の米大統領選によって、平和ボケした日本の側からではなく、米国の側から日米同盟を揺るがす可能性がある。これは初めての事態だ。共和党のトランプ候補は日本側の対応次第で米軍を撤退させる可能性に言及しているのだ(4月8日公開コラム、http://gendai.ismedia.jp/articles/premium01/48381)。
トランプ氏は日本に米軍駐留経費の全額負担を求めている。トランプ大統領が実現して本当に全額負担を求めたら、日本はどうするのか。
共産党は日米同盟廃棄が看板だから、絶好のチャンスとばかり負担を拒否して米軍撤退を要求するだろう。そうでなかったらおかしい。
そうは言っても、私は共産党が米軍撤退を求めない場合もあるのではないか、と実は疑っている。共産党は同盟廃棄や自衛隊の解消を言いながら、議論を詰めていくと「いますぐではない」などと決まって逃げ腰になるからだ。
自衛隊をいますぐ解消しないなら、日米同盟の廃棄だって「いますぐはできない」と言い出しかねない。いますぐ米軍が日本から撤退したら、自衛隊だけでは日本を守れないからだ。米国の核抑止力があるからこそ、全体としてバランスがとれている。
トランプ大統領の誕生は、日本と国民が安全保障について本気で考えるチャンスになるかもしれない。日本はなんだかんだ言いながら、与党も野党も日米安保条約に基づく米軍の存在を安全保障の前提にしてきた。それはいわば「与件」であり、失われるはずはないと思い込んでいたのだ。
トランプ氏の米軍駐留経費負担要求をきっかけに、米軍が撤退する可能性を前提にして議論が起きれば、そこで初めて国の平和と安全、繁栄について本音で議論ができるかもしれない。
共産党が建前通り「どうぞ米軍は帰ってください」と言っても、逆に「いまは都合が悪いから帰らないで」と懇願しても、どちらにせよ彼らの本音や嘘がバレる。そうなれば、国民は日米同盟の意味について真剣に考えるきっかけになる。ぜひ共産党が触媒になってほしい(笑)。
「軍事費5倍」を想像できるか
なぜ、日米同盟が日本外交の基軸なのか。
一言で言えば、日本は単独で中国や北朝鮮の脅威に対抗できないからだ。中国は日本と比べて国土で25倍、人口で10倍、経済力(国内総生産、GDP)で2.5倍に達している。軍事費は中国がGDPの2%なのに、日本は1%だ。
つまり中国の軍事費は毎年、日本の5倍に達している。この調子で10年続いたら、彼我の差は空前の規模になってしまう。だからといって、日本が中国に対抗して軍事費を毎年5倍にできるか。できるわけがない。
もし5倍にしようと思ったら、大増税か国債追加発行か、あるいは他の予算を削るか、その組み合わせしかない。他の予算を削ろうとすれば、最大費目である社会保障費に手をつけざるをえないが、そんな政策は朝日新聞が絶対に許さないのだ(笑)。
そうそう、私がいる東京新聞も。左派リベラルのマスコミをなめてはいけない。軍事費が増大するようなことになれば、彼らは一挙に元気を取り戻して、内閣支持率はあっという間に下がってしまう。政権はたちまち崩壊だ。結局のところ、軍事費5倍の政権は国民が許さないのである。
日本が単独で中国の脅威に対抗できないなら、他国と共同で国を守る以外に選択肢はない。加えて北朝鮮もある。だから日米同盟が基軸になる。
中国や北朝鮮が本当に平和愛好国家で、絶対に日本を攻める可能性がないなら、何も米国と同盟を結ばなくてもいいかもしれない。だが、そんな想定は夢物語である。左派リベラルは「平和を守れ」と叫んでいれば、本当に日本の平和と安全が守れると思っているのだろうか。
南シナ海や尖閣諸島をめぐる中国のふるまいを見れば、中国が日本を脅かしているのはあきらかだ。「南シナ海は日本に関係ない」と言う野党政治家もいるが、南シナ海が日本に原油を運ぶシーレーンである1点をみても、日本にとって死活的に重要な海であるのは疑う余地がない。
「韓国への10億円拠出」はこう考えるのが正しい
中国や北朝鮮の脅威とそれに対抗する日米同盟という整理を踏まえると、その他の国々、たとえば韓国との関係も日本の基本的立ち位置が見えてくる。日本と日米同盟にプラスになる政策なら望ましく、逆にマイナスになる政策は望ましくない。
慰安婦問題をめぐる昨年末の日韓合意に基づいて、日本政府は韓国が設立する「和解・癒やし財団」に10億円を拠出する方針だ。この拠出について、ソウルの日本大使館前にある慰安婦像が撤去されないうちは支出すべきでない、という意見もある。
私も慰安婦像が撤去されないのに10億円を拠出してしまったら、現状を容認した形になりかねないと懸念する。一方で10億円を拠出してしまえば、あとは韓国側の問題であり、撤去されないなら韓国の約束違反をずっと批判し続ければいい、という意見もある。
日米同盟強化の観点からみると、韓国との合意を日本が実行すれば、少なくとも日本側に(米国を間に挟んだ)日米韓の同盟関係を弱体化させる要因はなくなる。「日本が合意を履行しないから日韓関係がうまくいかない」と韓国や米国に批判されなくてすむのだ。
つまり、ボールは完全に韓国側にある形になる。これは、そんな同盟強化の観点と慰安婦像の現状を天秤にかけて、どう判断するかという問題なのだ。慰安婦像は容認できないが、東アジアの情勢が日を追って緊迫化している現状を踏まえれば、10億円拠出はぎりぎりやむを得ないのではないか。
10億円拠出に際して、あらためて日本政府が慰安婦像撤去を求める声明を出す手もある。声明発出に韓国との合意や内諾は必要ない。すでに合意した内容を「韓国側も実行せよ」と迫るにすぎないからだ。
10億円を拠出しても「慰安婦像が置かれた現状を日本は容認しない」ことを日本側が確認する。そんな日本の立場を米国が裏打ちしてくれれば、日米同盟として申し分ないだろう。慰安婦問題は同盟の問題でもあるのだ。
講談社
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