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中国・北京で儀仗(ぎじょう)兵を閲兵する中国の習近平国家主席(左)とロシアのプーチン大統領(2016年6月25日撮影)〔AFPBB News〕
世界の厄介者、ロシアと中国に働く吸引力 牛歩ながら着実に進み始めた? "同盟関係"
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47472
2016.7.28 W.C. JBpress
文中敬称略
中国の傅瑩(Fu Ying)・全人代外事委員会主任委員が、米外交雑誌「Foreign Affairs」の1/2月号に「中国から見たロシア」と題した露中関係論を寄稿している。
その結論から見ると、「米国の今の動きはアジアにとって危険である一方、中露には反米ブロックを形成するつもりなど毛頭ない」という米国向けのアピールが狙いだったようだ。
中国の米国対策でロシアが出汁に使われた感がなきにしもあらずだが、露中関係は第三国を敵視することなく2国間の協力により互いの目標を達成し合って行くという、安定した戦略的パートナーシップであると誇らしげに説き、歴史を乗り越えてそのような関係構築に成功したことは、大国同士がどう平和裏に共存できるかを示す好例である、とまで述べる。
米国もこれに見倣ってほしい、というところだろう。それゆえ彼女に言わせれば、露中関係を否定的に捉える西側の互いに相反する2つの見方 − 露中両国の現在の関係は便宜上の結婚に過ぎず、いつかは破綻する運命にある、あるいは、戦略面や思想面で露中が反米・反西側同盟を形成する − はいずれも的外れでしかない、ということになる。
■ロシアと中国で見識の差
しかし、彼女は少なくとも1つだけ間違っている。両国関係を否定的とは言わずとも、彼女とは異なった目で見ているのは西側だけではない、ロシアの知識人やメディアも、なのだ。
傅瑩の説くように、露中が同盟関係には立ち至っていない点には同意しつつ、カーネギー財団モスクワ・センター所長のD.トレーニンは今の露中関係を、「決して対立はしないが、常に同調とも限らない。露中の間の距離は近い、しかし近過ぎもしない」と表現する。
そして、「中国と強固な同盟が作れなかったことは、ロシアの東進政策での失敗とは言えまい、なぜなら過度にロシアが中国に依存することを避け得たから」と付け加えることを忘れない。
こうした地政学的な観点は、物事を冷めた目で見るのが仕事だから、その種の表現がロシア側の対中熱気の薄れを表象、とまでは言えまい。それがあるとすれば、前回(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46883)このコラムでも触れたように、両者の経済関係で、だろう。
トレーニンの下で、カーネギー財団モスクワ・センターのアジア・太平洋方面部長を務めるA.ガブーエフは、ロシアが自国の投資環境の改善を果たさぬままに東進政策を加速し始め、それが世界の資源価格下落と中国の成長鈍化にぶつかってしまった不幸を指摘する。
他のロシアの論者も、これらの要因で中国企業がエネルギー分野への投資に慎重になってしまったと嘆き、ロシア中銀は、中国経済の1%の減速がロシア経済の0.5%の減速をもたらすと弾く。
昨年の露中貿易額は対前年比で約30%と大幅に減少し、ロシアは中国にとって16番目の貿易相手国でしかなくなってしまった。今年に入ってからも1〜4月で昨年同期の2.7%増に過ぎず、2020年で貿易総額2000億ドル達成の看板はまだ下ろしていないものの、ロシア政府高官からはこれに懐疑的な溜息が聞こえんばかりだ。
貿易の減少は、それでもまだ短期的な話として片付ける余地があるかもしれない。しかし、中国の対露直接投資の額が昨年で5.6億ドルと、中国の対外直接投資全体の0.5%でしかないとかになると、ロシア側の失望感は否が応にも増してしまう。
「中国経済が下り坂だから?」
ならば、中国の対露直接投資残高が同じCIS内のカザフスタンに向けての額(2014年末で271億ドル、ユーラシア銀行の数値)の1/10強でしかない事実をどう説明できるのか?
露中政府間委員会(双方のトップはI.シュヴァロフ/第一副首相、張高麗/第一副首相)が両国の共同投資案件として58件(総額500億ドル)を選択したものの、露紙によれば具体的に話が進んでいるのはその中でわずか12件(5件という説も)という牛歩。
V.プーチン大統領自らが声を枯らして投資を呼び込む極東の先進特区では、案件総数166に対し、中国企業はその中の8件にしか参画しようとしていない。そして、金融分野では、在露の中国商銀子会社がすでに昨年の11〜12月に資産を大きく減らした(中国銀行で45.3%減)と報じられる。
こうなると、資源価格下落や中国経済の成長鈍化といった説明そのものまで、何やら胡散臭く見えてしまう。ロシアの失望感は、「中国にはロシアをその経済苦境から引っ張り上げる積りなどない、結局中国も融資などでは対露制裁の影響を恐れてしまう」といった評に行き着く。
■中国、ロシア経済を酷評
だが、中国側にも言いたいことは山ほどある。昨年の12月に新華社のロシア語版は、ロシア経済はお先真っ暗、との論評を掲載した。その中でロシアは、経済戦略が行き詰まり、脱工業化と農業停滞の中で出口なきシステム危機に陥っている、と酷評される。
こんな危ないところにどうして投資などできようか、だ。経済制裁を受ける身で、かつ通貨・ルーブルが大幅下落と来ては、投資を考える側のリスクは際限なく膨れ上がってしまう。
より問題なのは、ロシアのD.メドベージェフ首相が訪中で李克強首相と経済協力拡大に向けた会談を行ったまさにその日(12月17日)に、この論評が公表されたことだろう。あからさまな中国側の意思表示とすら受け取れる。
ロシアでは早速これに対して、露中経済関係の歩みの鈍さの原因をロシアに押し付けようとの意図だ、とかの指摘が出される。
5月末にソチで行われた露中の経済会議では、双方から実務面での問題提起がなされ、中国側からはロシアの諸手続きでの官僚主義、特に労働許可取得の難しさが批判される。中国人は、そこにロシア官憲の対中警戒心を感じ取ってしまう。
在露中国企業家連合の会頭は、別の場でロシア人を前にして、「君らは我々のカネを愛しても、我々を愛しているわけではないだろう」と言い放ったという。よほど日頃のフラストレーションが溜っていたようだ。
冒頭に紹介した傅瑩は、中国からの移民問題や中央アジアが中国経済圏に飲み込まれてしまうことへロシアが懸念を持ち、そして中国も1800年代に多くの領土をロシア帝国に奪われたことへのこだわりを持つ、という双方の問題が存在することを認めながら、それらが両者の関係を阻害するには至っていないと結論付ける。
しかし、例えばウラジオストクがかつては中国の町であり、それがいつかは必ず中国に戻って来ると信じる向きが中国にはまだ多い、などとメディアが思い出したように書けば、それが気にならない方がおかしい。
この点を意識してか、中国社会科学院ロシア・東欧・中央アジア研究所の李勇泉(Li
Yongquan)教授は、極東での中国の拡張をロシアが懸念する限り投資流入はあり得ないと指摘する。ロシアが懸念するような材料など、実際にはない、がその趣旨だろう。
中国の大学で働くロシアの女性学者は、「中国人の知るロシアとは、プーチン大統領とロシア美人だけ」とコメントしている。
無知や無関心は、それはそれで問題だろうが、中国人の中にいれば、少なくとも彼らがロシアから目を離さず、近いうちに押しかけてきてその領土を持って行ってしまう、というわけでもない、と分かってくる。
あれやこれやで露中両国民の相互理解がまだ十分ではなく、それが少なからず経済実務に支障を与えていることは、どうやら間違いないようだ。しかし、それは露中間に限った話でも別段なく、双方が付き合いの経験値を積んでいく中で、やがて時が解決してくれる部分もあると考えれば、悲観ばかりに暮れる必要もないのだろう。
大局観と抽象化が十八番のロシア
経済外交の分野で東進政策や対中接近が必ずしも円滑に進んでいないなら、何がロシアの根本問題なのかをロシアの論者は突き詰める。この種の大局観にあふれ、そして時には抽象化が独り歩きする分析はロシア人の十八番だ。
ガブーエフは、東進=対中接近が、が単に反西側の反射なのか、それともそれ自体に意味があるものなのか、についてロシアが結論を出せていないことが問題だと述べる(腰が座っていないという意味では、ロシアが本気で東に向かうのかに半信半疑の中国も同様)。
似たような趣旨を、外交雑誌編集長のF.ルキヤーノフも述べている(参照1、2)。
●ソ連崩壊以降の世界の状況は、崩壊前後のソ連・ロシアの指導層の誰もが考えもしなかった形で進んでおり、ロシアはその中で一種の自己喪失(Identity crisis)に陥っている。
●「絹の道」への中国の膨大なインフラ投資はロシアへの挑戦でもあるが、同時にロシアに参画の機会も与えるはず。だが、その中でどう自分を位置付けるかがまだ決まっていない。
●ロシアは西側への従属を拒絶するが、だからといって東方で諸々での指導的立場に立てるわけでもない。従って、その存在を発揮することも叶わないという中途半端な状態に置かれている。
トレーニンも、ロシアにアジアに向けた戦略と呼べるものはなく、あるのは「de facto」戦略、すなわち国ごとの個別の関係だけ、と切って捨てる。プーチンの次元で、ロシアを世界的な存在とすることや、東シベリア/極東の経済を発展させ、アジア・太平洋地域での主要プレーヤーとなることが目標となってはいても、それに見合った戦略に落とし込まれてはいないということになる。
要は何が理由であろうと、戦略不在ということなのだ。そうさせているのは、自分はこうだと他国に自信をもって主張できる何かがロシアに欠けているからなのだろう。
その欠けているものとは恐らく、まずは経済力、そしてさらには自国への自信そのものの礎となるはずの国の一体性ではないのか。プーチンがある日突然いなくなってしまったならロシアは空中分解か、などと怯えるようでは一体性も何もあったものではない。
だから多くの論者は、経済外交をやるならとにもかくにも自国の経済状況を改善せよ、相手が中国であろうとなかろうと、ロシアの投資環境を改善せよ、と主張する。
また、ガブーエフやルキヤーノフは、ロシアの思考回路での問題点を以下のように衝く(参照1、2)
●偉大なロシアがアジアで単なる原料供給国であってはならない、といったロシアの確信(命題)が物事の進展を阻害している。
●経済力で中国の弟分になりたくはない、と言うが、中国がもし1970年代以降の対米関係で弟分に成り下がることを単なる感情論で拒んでいたなら、今の中国経済の奇蹟はなかっただろう。
●欧州もロシアに比べてはるかに経済規模は大きいが、彼らに弟分とはみなされてはいないではないか。
■同盟関係には程遠い
トレーニンの“地政学的”な分野に立ち返ると、露中が将来的に同盟関係にまで進むかどうかが議論される。
彼の論に従えば、2014年からロシアの東進政策と対中接近が喧伝されたものの、これまでのその実態は、トップ同士の相互理解進展、中国企業のロシアの資源へアクセス拡大、ロシアによる人民解放軍への最新兵器供与、中国と欧州を結ぶ交通路確立でのロシア内インフラの利用、といった程度に終わっており、同盟関係には程遠い。
彼や他の多くの論者が述べるように同盟関係が成り立っていないとなれば、それはなぜか、となる。その答えには、両者間に信頼が欠如しているから、といった厳しい発言(前駐露大使・李輝(Li Hui))や両者の経済力格差、それに中国がロシアを基本的にはアジアではなく欧州の国家とみなし、それゆえに自分がコントロールできる相手でもないと思っているから、などが出されている。
李勇泉は、どうやらロシアが本気で東に向かっているとはあまり信じられないようで、その東進政策の意味は、せいぜいが中国の存在によるロシアのエネルギー資源輸出多岐化の実現、と述べている。これに対して、欧州国家であることが理由でロシアとの距離があると中国が見るなら、中国はGeo-economic playerではあっても、まだGeo-political playerではない、とトレーニンは評する。
傅瑩もそうだが、ロシア外交評議会・アジア太平洋地域プログラム担当のL.ヴィクトローノヴァは、必要がないから同盟関係に立たないだけで、もしその必要が生じるなら2001年締結の「露中善隣協力条約」で対処可能と説く(同条約第9条 では、一方が第三国から脅威を受けた際の協議条項が規定されている)。
できないのではなくその必要がないから、とは、俗世間でも負け惜しみで使われることが多い説明のような気もするが、自分を犠牲にしても相手のために、が国際政治の場では夢物語にすらならない現実を踏まえれば、露中間で同盟が成るかどうか、という問いは、当の露中よりも、この2カ国に同盟を組まれたなら不都合と思う他国の詮索の産物なのかもしれない。
それでも、対米・対西側への出方でのこれまでの両国の差が、鉄の同盟には至らない理由であったことも事実だろう。中国が主として経済でのつながりの面から、ロシアほどには米国や西側との対立を求めてはいない、とは多くのロシアの論者も認めてきた。
米露間の冷戦思考継続に中国は驚くのみ、と書く傅瑩は、ウクライナ問題で中国は、旧ソ連内でのロシアと他国との歴史的な関係を考慮しても、同国の独立・主権・領土の一体を尊重すべき、しかし、西側の教唆で発生したカラー革命やNATO(北大西洋条約機構)の東進には疑問を呈さざるを得ない、という中国の姿勢を鮮明に述べている。
国内にウイグルや民主化といった問題を抱える以上、それらを後押しするような動きや概念は、それが米露にどう関わる話であろうと片っ端から否定していくしかない。
EUやTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への対応でも両者に差が見られる。そして、中国が「一帯一路」や「絹の道」構想を推し進める中央アジアも、露中関係が微妙な地域ということになる。
ロシアは「絹の道」への参画に2014年までは前向きではなかったし、これに安全保障問題にも関係する上海機構が絡んでくると、即座に中国と手に手を取って、というわけにはいかなくなる。
■度重なる首脳会談
そのため、この6月にウズベキスタンで行われた上海機構首脳会議が「絹の道」と上海機構の連結という点では大した成果を挙げなかったことに、ロシアは内心では安堵していると、オスロの国際平和研究所上級研究員・P.バーエフは分析している。
こうした第三国への対応で、露中は今後接近していけるのだろうか。
プーチンはこの6月にタシケント、北京と場所を変えて2度も続けて習近平と会談した。それにしては具体的な大型契約の新たな締結発表などがなく、ロシア側の失望も買ったのだが、今回はどうやら習近平の方がプーチンを無理矢理にでも北京に呼び込んだようだ。
WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)は、中国が南シナ海関連でロシアを味方にせねばならない立場に追い込まれたとして、ウクライナ問題で中国が取った対応(制裁に加わらず、批判せず)と同じようにロシアが南シナ海問題で行動することを習近平が強く期待している、との観測を報じる。
南シナ海を巡る対米・対隣国の関係が緊張する中で、仲間は1人でも多い方がいい。そして9月の杭州でのG20サミットでは、中国の株を上げるためにプーチンにも一役買ってもらわねばならない・・・。最近開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議での中国外相のなりふり構わぬ動きを見れば、習近平がそう考えていることも容易に察しが付く
ロシア外務省は、公式には南シナ海での問題に対し中立の姿勢を崩してはいないが、従来に比べれば中国の肩を持つ姿勢が目立つようになる。ならば、これが首脳会談で中国側が得た最大の成果だろう。
トレーニンは、露中間の経済関係は実利主義に基づき政治は絡まない、と断じているが、バーエフは、ロシアの南シナ海問題での協力への見返りに、ヤマールLNGへの中国からの融資120億ドルを習近平が認めた、と見る。これが“プーチンの案件”だからである。
大西洋評議会の上級研究員・S.ブランクはつとに、「露中関係がしょせんは便宜的関係に終わる」という米国に多い見方が、中国がロシアを引き留めるために譲歩したり、ロシアも対中関係維持のために第三国との関係悪化も辞さない行動に出ている、といった最近の露中接近を見逃している、と指摘している。
物事は既成概念を超えて動き出しているのかもしれない。そして、それが南シナ海の問題のみならず、千島列島でのロシア軍基地建設や、韓国へのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備にまでつながっているのなら、日本にとっても露中関係は他人事ではなくなる。
もっとも、ロシアでは外交政策で指導層の意見がまとまり切っているわけでもなく、中国も対米で今のところは手一杯の状態、そして何より米国の次期大統領がどのような外交政策に乗り出してくるのか予断を許さない以上、露中関係に当面は大きな変化はないだろう − そうロシア科学アカデミー・極東研究所のV.カーシンは予測する。
動きがない、に越したことはない。それが米国の新政権が発足する来年の1月までの話でしかなくとも。
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