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「中国PM2.5」と「放射能」、「安全」を巡る韓国のジレンマ
韓国でも広く使われている日本気象協会のPM2.5情報
2016年07月26日(火)崔 碩栄 (ジャーナリスト)
環境問題に関心が高まった韓国で近年話題になっているのが、韓国で「微細塵」と呼ばれている「PM2.5」だ。多くのマスコミで「微細塵」が健康に深刻な影響を与えると報じられ、最近は天気予報で必ず「微細塵」の数値やレベルが言及されるようになった。「微細塵」が予想される日には「外出を控えるように」、「マスクを着けて」と対策を勧めるなど「微細塵」の恐怖は日常の近くで感じられる。
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PM2.5の「元凶」は中国か、韓国か?
「マスコミ」と「政府」を信じない国民たち
多くの韓国国民がPM2.5の原因として考えているのは中国の大都市や工業地帯から流れてくる排気ガスだ。ところが、なぜか韓国マスコミと政府は中国ではなく、韓国をその主な原因と論じている。
国際自然保護団体グリーンピースのソウル事務所は、6月2日にホームぺージで「韓国に影響を与えている微細塵のほとんどが中国から発生していると思う人が多いが、その主な原因は韓国内の石炭火力発電所だ。中国の影響は30〜50%くらいに過ぎない。むしろ中国は石炭火力発電所の閉鎖を進めているため、大気汚染度は下がっている」と主張した。
この発表は韓国マスコミによりそのまま引用、報道され「大気汚染は中国より韓国内の火力発電やディーゼル車が原因」という記事がしばらく相次いだ。
しかし、国民はこれに納得しなかった。韓国内で発生する排気ガスも一因であることは間違いないが、朝鮮半島の衛星写真を見ても雲のような微細塵が中国から移動してくることが確認できるのにその主な原因を「韓国内の問題」にする報道に首を傾げたのだ。やがてグリーンピースソウル事務所の代表が中国人であることが明らかになり「政府やマスコミの発表に中国の息がかかっているのでは」という疑惑が広がった。
ところが、政府はこれに反発するかのような行動に出た。韓国内のディーゼル車と焼肉屋、鯖焼きの店で発生する煙が微細塵の主な原因であるから規制を強化すると発表したのだ。国民は原因が「中国」だと思っているのに、マスコミと政府はどうしても「韓国内」のせいにしたいらしい。
自国より日本の気象情報を信頼する韓国人
国民の不信は天気予報にまで及んだ。微細塵と思われる濃霧が何日も続いてもテレビの天気予報は大気汚染レベルを「普通」だと繰り返していたからだ。政府が中国に気を使って「中国のせい」とも言えず、数値もちゃんと伝えてないという不信の声があちらこちらから上がった。
政府(韓国気象庁)を不信する人たちが代わりに頼った情報源は「日本」だった。朝鮮半島と中国東北部の気象情報まで提供している日本気象協会のホームページ(tenki.jp)をみて情報を確認する人たちが増えたのだ。地図の上にPM2.5の分布を色で示している同サイトの情報は、日本語が分からない人でも利用できるという利便さが話題になり、韓国で流行るようになった。
韓国の一般紙、東亜日報が6月1日に伝えた主婦たちの声を見てみよう。記事に登場する主婦は「韓国では微細塵の濃度が<普通>の日も、日本気象協会は<危険>と警告することが多く、そっちをもっと信頼している。中国発の微細塵が韓国に及ぼす影響が分かるので日本の資料の方が信頼できる」と語っている。(但し、これはPM2.5の環境基準が異なるためだ。日本は1日平均35μg/㎥以上の場合注意、警告が出されるが、韓国は50μg/㎥以上が基準である)
健康と安全に敏感な主婦たちの過剰反応とも言えるかも知れないが、実は厳しい日本の安全基準と日本製品の安全性を信頼している韓国人は少なくない。実際インターネットショッピングモールで販売されている使い捨て用のマスクも「日本で売上No.1」「日本へ輸出する(韓国製)マスク」という文句で安全性をアピールをすることが多い。日本でよく売れる商品、日本の輸入基準をクリアした商品というキャッチコピーは「信頼」の証だからだ。
「安全の日本」というイメージ
しかし、日本の放射能基準を不信する理由は?
一方、日本産水産物の輸入禁止措置をとった韓国政府と日本産水産物に不安を感じている消費者たちがいることは日本でも知られた話であろう。韓国政府は福島原発爆発事故の後、2013年から福島、宮城、岩手、青森、群馬、栃木、茨城、千葉の8県からの全ての水産物について輸入を禁止した。日本産水産物は放射能汚染の恐れがあるとの理由だ。以来、日本からの水産物輸入は以前の半分以下に急減。宮城県では今まで韓国への輸出が多かったホヤ養殖が販路を失い、ホヤを大量廃棄したとのニュースは記憶に新しい。
日本側は輸入禁止の撤回と具体的な根拠の提示を求めているが、韓国政府は「国民の不安」という心理的な理由をあげるだけで、客観的根拠の提示はない。日本政府は韓国の措置が不公正だとWTO(世界貿易機関)に提訴したが、未だ輸入禁止措置は解除されてない。また、韓国国民の多くはこの件については政府の措置に賛成している。その措置が具体的な根拠に基づいてないにも関わらず疑問を持つ人はほとんどいない。
<中国発微細塵>については、韓国政府の発表より「安全に厳しい日本」を信頼しながらも、 <日本の放射能>については何の根拠も提示できない韓国政府を信頼する矛盾を見せているのだ。
韓国社会に内在するこの矛盾の最も大きな原因は「マスコミ」にある。韓国マスコミは日本水産物の危険性と恐怖を誇張し、政府の輸入禁止を正当化する報道を繰り返してきた。客観的な根拠がなくてもマスコミが談合し、情報をコントロールすればいくらでも国民世論を動かせるという例ともいえる。
しかし、危険性を強調する韓国政府とマスコミの主張にもかかわらず、日本の安全基準と水産物の安全性を直接証明してくれているのは他でもない韓国人たち自身だ。2010年以後、日本を訪問する外国人観光客の数は韓国がずっと1、2位を争うほど人気で、今年の夏も韓国人の海外旅行先として一番人気は「日本」だ。彼らは日本で寿司と刺身を満喫し、様々な魚料理を食べるだろう。韓国内では食べることができない日本の魚をわざわざ日本まで来て楽しんでいるのだ。
もし、日本産水産物が本当に危険ならば韓国政府とマスコミは、日本へ出かける韓国人や日本滞在中の韓国人にその危険性をはっきり警告すべきだ。しかし、そんなことはしない。それはなぜだろうか。それでは国民が納得するはずがないことを自覚しているからではないだろうか。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/7361
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