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英ロンドンの首相官邸前で演説するテリーザ・メイ新首相(2016年7月13日撮影)。(c)AFP/Adrian DENNIS〔AFPBB News〕
メイ新首相はブレグジットを長引かせよ 避けられなかった不幸な結末、時間稼ぎはEUにとっても得策
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47383
2016.7.19 Financial Times :JBpress
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年7月15日付)
デビッド・キャメロン氏に取って代わろうとしたライバルたちの正体が、1人ずつ明かされた。ボリス・ジョンソン氏は、学生時代にラテン語をかじることは戦略や原則の立派な代わりになると思っている、危ない橋を渡る男だった*1。マイケル・ゴーブ氏は、大学生が授業で書くリポートのようなマニフェストを手に持つ政治的ソシオパス(社会病質者)だ。
またアンドレア・レッドソム氏は、労働党で言えば選挙で勝てそうにない極左党首のジェレミー・コービン氏に相当する、やはり選挙で勝てそうにない右派強硬派だった。
戦いに勝った後、主立った欧州連合(EU)離脱派は平和を失った。そんなときにテリーザ・メイ氏が首相官邸のあるダウニング街にぶらぶらとやってきたことは、英国はまだ完全にはおかしくなっていないという希望をいくらかもたらしてくれた。
政治は常に失敗して終わるという格言がある。キャメロン氏の場合、その失敗は自ら招いたものだった。同氏は常に戦略よりも戦術を好んだ。自分には難局を切り抜ける能力があるとの慢心も加わり、不幸せな結末は避けられなかった。取るべき戦術から大きく外れ、保守党内のEU懐疑派をなだめるために国民投票の実施を約束したことで、キャメロン氏と連合王国はレンガの壁にたたきつけられてしまった。
キャメロン氏をダウニング街10番地(首相官邸)から唐突に追い立てたことは、個人的には品のあることだとはあまり思えなかったが、ブレグジット(英国のEU離脱)は結局、第2次世界大戦後の英国における政治・外交政策の最大の失敗だ。これに比べれば、1956年のスエズ動乱の際の失敗などでも、道路の小さなでこぼこに過ぎない。
英国をEUから離脱させ、その結果として連合王国を解体(そうなる可能性はそれなりにある)させた首相――こんな文句が墓に彫り込まれることになったら、やはりうれしくはないだろう。
そのキャメロン氏の後継候補の中では、メイ氏は最善の選択だった。彼女は親EU側だったが、国民投票に向けた運動期間中は目立たないようにしていた。鉄のように冷酷で有能な内相という評判は大げさだ。難しい決断を回避したし、国境警備や移民受け入れルールの運用の統率にも失敗している。成功したのは、一般に政治家の墓場として知られる役所で生き残ったことくらいだ。
*1=ラテン語学習は論理的な考え方を育てるのに役立つというのがジョンソン氏の持論
ただ、現実的な考え方をすると言われており、芝居がかった行動は取らないようにしている。そのため、政治のやり方はこれまでより形式に則ったものになるだろうし、その点ではよくなる。気質については、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とあまり違わない。
国民投票でEU離脱が決まったために生じた政策の空白はこれまで、希望的観測によって埋められてきた。
親EU派の側では、悲鳴が響き渡った後、国民投票の結果が最終的な判断になるとは限らないとの主張が展開されている。何人もの弁護士が雇われて、過去の判例が調べられている。欧州大陸に別れを告げることができるのなら、途中で考えを変える権利もあるのではないか、というわけだ。最終的には、景気が後退局面に向かうにつれて後悔が募ってくるかもしれない。
EU離脱派の間には、さっさとやろう、離脱なんて明後日にでもできるさという傲慢な見方がある。離脱交渉では有利な取引ができるだろう、何といってもドイツは車を売り続けたいと思っているし、フランスもワインを売り続けたいのだから。
エリザベス朝時代の考え方をする人は、いずれにしても欧州の波立つ海の向こうにこそ征服すべき世界は広がっていると気勢を上げている。英国経済が沈む? そんなの親EU派のプロパガンダだ――彼らは自分だけの事実を作ってしまう人々なのだ。
もちろん、英国が結局はEUにとどまる決断を下すこともあり得るだろうし、準加盟国というような残留に近い立場を選択することもあり得るだろう。我々がここ数週間の出来事から何かを学んだとするなら、それは、政治は180度ひっくり返ることもあり得るということだ。
新しい首相が誕生しても、たくさんある「離脱」の選択肢のどれかについて幅広い層から政治的同意を取り付けるのは困難だという現実は変わらない。その一方で、スピーディーかつ穏やかに交渉を進めれば、英国は比較的好ましい条件で離脱できるかもしれない、と見ることも可能ではある。
政治家は、夢物語ではなく事実と確率を相手にしなければならない。40年かけて紡がれた政治・経済の関係を解きほぐす作業は複雑で、コストがかかり、うんざりしてしまうことも多々あるだろう。離脱した英国は以前よりも経済面で弱くなり、国際的な影響力も小さくなる。
「ブレグジットだと言ったらブレグジットだ」というフレーズをメイ氏は好む。この言葉には、メイ氏は本当に離脱に取り組んでくれるのかと心配している保守党内の離脱派を安心させる狙いがある。
しかしその一方で、ブレグジット後の関係がどんなものになるのかをこの言葉は一切語っていない。単一市場へのアクセスと移民政策の国家管理とのバランスをどの辺りで取りたいかについて、新首相は手の内を見せることを避けてきた。
このことは、2つの交渉過程で問題になるだろう。1つは、企業の利益が「リトル・イングランド」のイデオロギーと衝突する保守党内での交渉。もう1つは、ほかのEU加盟国(27カ国)との交渉だ。難しいのは後者ではなく、むしろ前者かもしれない。
メイ氏は今後、離脱派から、交渉をさっさと始めよと迫られるだろう。自分の立場を明確にし、リスボン条約第50条を発動し、交渉をできるだけ早くまとめて不確実性を解消せよと求められるだろう。しかし、首相はこの誓願を無視すべきだ。無理筋の仕事に取り組む首相にとって唯一望みが持てる戦法は、交渉を長引かせることなのだ。
我々は政治の面でも経済の面でも大混乱の時代を生きている。その点は英国も、欧州大陸諸国も同じだ。メイ氏が期待しなければならないのは、時間がたてば政治的に不可能なことも可能になるということ。今日では受け入れられない妥協も1、2年後には常識とみなされるということだ。
なぜEUはそんなに待ってくれそうなのだろうか。メルケル氏の言葉に耳を傾けてみよう。メルケル首相は、EUは慌てふためいて英国の要求を受け入れたりはしないという正論を述べている。しかし同氏は、急いで決断を下すことよりも熟慮する方を好む人でもある。壊れてしまっていても回収できるものは回収した方が、そして公正な条件で英国との関係を築いた方が欧州の利益になることを、メルケル氏は理解しているのだ。
また、メルケル氏は来年、選挙を控えている。フランスのフランソワ・オランド大統領も同様だ。こうしてみると、EU全域で移民のルールを改正する方が魅力的に思われるかもしれない。一休みする方が、全員にとって都合がよいのかもしれないのだ。
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