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「相次ぐ大規模テロ ISの逆襲」(キャッチ!ワールドアイ)2016年07月07日 (木)
出川 展恒 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/900/248605.html
先週以来、トルコのイスタンブール、バングラデシュのダッカ、そして、イラクのバグダッドなど各地で、過激派組織IS・イスラミックステートによると見られる大規模テロが立て続けに起きています。
いずれも外国人や市民が大勢集まる場所を狙ったテロで、おびただしい数の犠牲者が出ました。
ISはイラクとシリアで支配地域を大幅に失うなど劣勢に立たされ、戦略を転換しているのではないかと見られています。相次ぐ大規模テロの背景と、対IS作戦の課題を考えます。
(キャスター)
Q1:
スタジオには、出川展恒解説委員です。
先週以来、各地で、ISによると見られる大規模なテロがありました。
これをどう分析していますか。
(出川)
A1:
ISが、イラクとシリアにまたがる地域で、一方的に「国家」の樹立を宣言し、2年になりますが、今、起きている一連のテロは、ISの支配地域の外で起きています。
次に、一般市民や外国人が集まる場所を襲い、一度に大勢殺害しています。
世界に組織の力を誇示し、恐怖を与える狙いがあると見られます。
ダッカの事件では、犠牲になった日本人7人を含め、イスラム教徒でない外国人は問答無用に殺されました。
また、イスタンブールの国際空港は、中東・ヨーロッパのハブ空港でもあり、ビジネスマンや観光客の移動など
トルコと地域の経済に大きな打撃となります。
さらに、いわゆる「一匹狼的」な犯行ではなく、組織的、かつ、周到に計画されたテロという特徴もあります。
Q2:
ISに何か変化があったのでしょうか。
また、この時期に集中しているのは理由があるのですか。
A2:
ISによる戦略や戦術の転換と言えると思います。
ISは、去年以降、イラクとシリアでの支配地域を大幅に失い、軍事的に劣勢に立たされています。
全盛期と比べて、明らかに力が落ちています。
以前は、支持者に対し、「イスラム国の領土に集まれ」と号令をかけていたのをやめて、支配地域以外の場所や外国の大都市で、なりふり構わず反撃を企てているものと見られます。
ISが今年5月に出した声明に注目する必要があります。
「イスラム教の断食の月ラマダンに合わせて、自分が今いる場所で敵を攻撃せよ」というもので、これに呼応する形で、各地でテロが起きています。
今年のラマダン中に起きた主なテロをまとめた図です。
イスタンブール、ダッカ、バグダッド、シリアの首都ダマスカスのほか、アメリカのフロリダ州、マレーシア、サウジアラビアなどで起きています。
サウジアラビアでは、4日、イスラム教の極めて重要な聖地であるメディナのモスクで自爆テロが起きたほか、ジッダにあるアメリカ総領事館、東部のカディフでも自爆テロが起きるなど、極めて異例の事態となっています。
Q3:
ISは、イラクではファルージャを失い、シリアでも、有志連合の攻勢を受け、本拠地では劣勢なんですね。
A3:
はい。
こちらは、ISが支配、または、活動している地域を示したものです。
アメリカが主導する「有志連合」によりますと、これまでの軍事作戦で、ISは、去年以降、イラクでは支配地域のおよそ45%を、シリアではおよそ20%を失ったということです。
「有志連合」は、ISが支配する石油施設や現金の保管施設を空爆で破壊したため、ISの資金力も大幅に低下しました。
イラクとシリアに新たに入ってくる外国人戦闘員は、1年前と比べ7分の1以下に減ったということです。
そして、イラク政府軍は、先月26日、ISが重要な拠点としてきたバグダッド近郊の町ファルージャをISから奪還しました。
Q4:
3日にバグダッドで起きた爆弾テロは、ファルージャの報復ということですか。
A4:
そう見てよいでしょう。
バグダッドのイスラム教シーア派の住民が多く暮らす地区を狙ったもので、繁華街に停めた車に仕掛けられた爆弾が爆発し、およそ250人が犠牲になりました。
ISは犯行声明を出し、「今後もシーア派への攻撃を続ける」としています。
事件現場を訪れたアバディ首相は、住民から物を投げつけられたほか、テロを防げなかった責任をとって内相が辞表を提出しました。
実は、アバディ首相は、宗派対立を解消し、挙国一致の体制をつくろうと、この春、大規模な内閣改造に着手したのですが、各政治勢力が猛反発し、政府も議会も混乱状態に陥って、ほとんど機能していません。
内閣改造も白紙に戻されました。
アバディ首相は、ファルージャを奪還し、求心力の回復を図ったと見られますが、ますます窮地に追い込まれた形です。
Q5:
今後、大規模なテロを防ぐ、手だてはあるんでしょうか。
ISに賛同する個人を特定するだけでも難しいと思いますが。
A5:
まず、ISによるテロは、世界のどこで起きても不思議でない状態です。
一国だけで対策を立てても、テロを防ぐことはできません。
たとえば、トルコのイスタンブールの空港で起きたテロでは、実行犯らは、旧ソビエト諸国の出身とみられています。
各国がISの動向や声明を詳しく分析するとともに、その情報を共有し、国境を越えた警備態勢やテロ対策を立てる必要があります。
また、日本人が、海外でビジネスや旅行をする場合も、安全な滞在先はもはや存在しないという前提に立ち、できるだけリスクを減らすよう、個別に対策を立てる必要があるでしょう。
Q6:
ISを封じ込めるには、何がポイントになるでしょう。
A6:
軍事面と政治面の課題があります。
まず、軍事面から見ますと、ファルージャを奪還した今、作戦の焦点は、イラク第2の都市モスルと、ISが「首都」と位置づけるシリアのラッカに移ります。
しかし、いずれも非常に難しい作戦になるでしょう。
ISが、支配地域の住民を、いわゆる「人間の盾」にして抵抗することが予想されますし、「化学兵器」を使用する恐れもあります。
次に政治面ですが、ISが、シリアの内戦とイラクの政治の混乱に乗じて支配地域を拡げたことを考えれば、内戦を終わらせ、政治秩序を回復しなければ、ISを壊滅させることはできません。
イラクでは、どのようにして、政治の混乱を収拾し、アバディ政権を立て直すかが緊急の課題です。
シリアでは、アサド政権と反政府勢力との間で合意された停戦が壊れ、和平協議が中断したままです。
両者の話し合いで、暫定政権を発足させ、共通の敵であるISに立ち向かう態勢をつくらなければなりません。
しかし、どちらも解決に向かう兆しは見えません。
政治面の課題克服が、軍事作戦を成功させるうえでも重要なカギとなります。
国際社会も、そういう視点から、対IS戦略を立て直し、結束して支援する必要があると思います。
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