ダラス銃撃、高所から警官狙う 銃に習熟・目立つ計画性 ダラス=金成隆一、ニューヨーク=中井大助、真鍋弘樹2016年7月8日21時45分 米国テキサス州ダラスで7日夜に起きた警官狙撃事件で、現場で応戦するダラス市警。地元紙「ダラス・モーニングニュース」から=AP
米テキサス州ダラスで警察官が連続狙撃され、5人が死亡する凶行が起きた。警察官による黒人の射殺が相次いで問題となり、抗議デモが全米に広がる中での犯行。死亡した容疑者はこうした事件に怒り、「白人の警察官を殺したい」と語ったといい、警察は全容の解明を急いでいる。
射殺抗議のデモ隊近くで発砲、警官11人撃たれ5人死亡 狙撃事件が始まったのは7日午後9時前。デモが終わりに近づきつつあったといい、数百人がダラス中心部で行進を続けていた。 ツイッターに投稿された動画では、連続して銃声が何度も響く様子が映されている。デモに参加していたデバンテ・オドムさん(21)は地元紙のダラス・モーニングニュースに「皆が一斉に走り始めた」と語った。 しかし、容疑者たちの銃口はデモの参加者ではなく、警備をしていた警察官たちに向けられていた。ダラス市警のデビッド・ブラウン本部長は少なくとも2人の容疑者が高い場所から狙撃をしており、「なるべく多くの警察官を殺そうとしていたようだ」と話した。撃たれた人たちが逃げる方向を考慮し、狙撃場所を計画的に選んでいたとの見方も示した。 一方、現場近くのホテルにいた男性が撮影したビデオからは、容疑者とみられる人物がビルの柱の陰からライフル銃を発射したり、警察官に近づいて至近距離で撃ったりしたこともわかる。銃の扱いに慣れていた様子で、高い場所からの狙撃のほかにも、警官を狙った銃撃が続いたとみられる。 容疑者の1人はその後、ダラス中心部にあるビルの駐車場に立てこもって銃撃戦を続けた。ブラウン本部長によると、容疑者は立てこもっている間、「終末が近い」と語ってなるべく多くの警察官を殺害する意図を示し、「複数の爆弾を持っている」という趣旨の発言もしていた。市警は市内の捜索を続けているが、爆発物は見つかっていない。 ログイン前の続き市警は「容疑者たちは、デモのルートについての知識もあったようだ」としており、デモに合わせての事件だったとみている。 ただ、今回のデモは以前から計画されていたわけではなく、黒人が警察官に射殺される事件が5日と6日に起きたことを受けて急きょ実施されていた。これに対し、複数が関与した今回の狙撃事件は計画性が目立つ。米連邦捜査局(FBI)の元捜査官はCNNに対し「かなり以前から計画された攻撃ではないか」と語った。捜査当局は、警察官による射殺事件への報復の可能性も含めて捜査を進めているが、ブラウン本部長は動機について「あらゆる可能性を考慮している」と語るにとどめた。 ■黒人殺害、抗議デモ激化 狙撃事件が起きたときにダラス中心部で行われていたデモは、ルイジアナ、ミネソタ両州で黒人男性が警察官に射殺された事件に対する、抗議の行進だった。運動は「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」と呼ばれ、ダラスだけでなくニューヨークなど全米の主要都市でデモが起きていた。 ダラスの事件で死亡した容疑者は警察との交渉の中で、黒人男性が射殺されたことや、白人警察官への怒りに加え、「ブラック・ライブズ・マター」に対しても怒りを口にしたという。ブラウン本部長は「意味が通じない」と語り、殺人事件の動機としては理解しがたい様子だった。 ただ、警官の黒人殺害が引き金となり、各地で抗議デモが激化するというパターンはこの数年、ミズーリ州ファーガソン、メリーランド州ボルティモアなどで繰り返されている。 背景にあるのは、犯罪捜査の現場で人種によって明らかな対応の差があるという現実だ。ミネソタの事件を受けてオバマ大統領が「捜査当局に昨年撃たれた黒人の比率は白人の2倍以上だった」と指摘したように、ワシントン・ポスト紙によると今年に入って米国内で警察の発砲によって死んだ約500人のうち、黒人は約4人に1人を占め、人口比率の倍近い。 ネットの動画サイトやソーシャルメディアによって、警察官による黒人殺害の現場の様子が生々しく全米に広まり、人種対立が顕在化しやすいのも近年の特徴だ。今回も2州での現場の様子が携帯端末で撮影され、ネットで拡散した。 ミネソタの事件では、警察官に胸を撃たれた男性の車に同乗していた女性が「神様、どうか彼を死なせないで」と祈り、警官に対して「あなたが彼を4回撃った。彼はただ免許証を取り出そうとしていただけだ」と話す生々しい様子などが動画で公開されている。 こうしたなか、警察と市民の対立の深刻化も懸念されている。ブラウン本部長は8日の会見で「不和を止めなければならない」と訴えた。 ■銃社会、悲劇の連鎖 一連の事件は、銃規制の観点からも議論になりそうだ。米国では銃犯罪が多発する一方、武器所持の権利が憲法で認められていることもあり、銃規制の是非をめぐる議論は長く続いてきた。特に政治的に保守的なテキサス州では、自己防衛のために銃所持を認めるべきだという意見が強く、近年は銃規制を緩和する方向に動いてきた。 テキサスでは今年1月から、人に見える形で銃を携行する「オープンキャリー」を認める法律が施行された。全米ライフル協会(NRA)など銃規制に反対する団体が「市民の権利を守る」として推してきた内容だ。 現在も、学校ではオープンキャリーが禁じられ、バーなどでは拳銃の携行そのものが禁止されている。企業もオープンキャリーを認めない選択が認められているが、こうした規制も撤廃すべきだという意見もある。州議会で多数を占める共和党は州レベルの政策綱領で「憲法に基づいた携行」を主張しており、特定の場所への銃の持ち込みを禁止する法律にすべて反対する立場だ。 また、ライフル銃のように銃身が長い銃は拳銃と異なって隠すことが困難であるため、以前から公共の場で持ち歩くことが認められてきた。7日の事件の後で、ダラス市警はライフル銃を肩から下げ、迷彩色のTシャツを着てデモに参加する黒人男性の写真を公開して情報を求めたが、こうした形でのライフル銃の携行そのものは合法だ。この男性は結局、事件には関係なかったとみられ、警察に出頭した後に釈放された。 ダラスでの警官狙撃事件前に起きた、黒人男性が警官に射殺された二つの事件でも、被害者が銃を持っていたり、ポケットから取り出そうとしていると疑われたりしたことが、警官の発砲と関係しているとの見方もある。誰しもが容易に銃を持てる社会の中で、悲劇の連鎖が起きている。(ダラス=金成隆一、ニューヨーク=中井大助、真鍋弘樹) 関連ニュース 米で白人警察官、黒人を射殺 地面に押さえつけ撃つ動画 米警官、また黒人男性射殺 ネット中継で批判高まる http://digital.asahi.com/articles/ASJ784TGDJ78UHBI01J.html
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