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EUの盟主ドイツで「イギリス離脱」はどう報じられたか〜これって「イジメ」じゃない? 結論が出て、ますます混迷深まる
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49054
2016年07月01日(金) 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」 現代ビジネス
■イギリス人は、ソレが我慢できなかった
6月23日の国民投票で、イギリスはEU残留か、離脱かについて決めたはずなのに、投票が終わって一週間、その行方は、さらにわからなくなってしまった。
イギリスとEUは、元々それほど相性が良いわけではない。EUの前身はEEC(欧州経済共同体)、そしてEC(欧州共同体)だが、1960年代以来、イギリスは長い間、この共同体に加盟するか否かですったもんだを続けた。
その挙句、イギリスがようやく加盟を申し込めば、ド・ゴール将軍に徹底的に妨害され、その後、ド・ゴール将軍が引退し、イギリスの加盟が決まれば決まったで、イギリス人はその決定が正しかったかどうか、再び深く悩んだのである。
結局、イギリスは、EC加盟のわずか2年後の1975年に、初めての国民投票を行って、もう一度その是非を国民に問うている(結果は67%で加盟を是認)。しかしその後も、イギリスはユーロを導入せずに独自の通貨を使い続けたし、シェンゲン協定にも入らず、好きなように国境検査をしていた。
また、EUへの拠出金は大幅にまけてもらっていたし(1984年のサッチャー首相の「I want my money back」以来、今日まで)、EUで決まったことも、幾つかの分野では必ずしも守らなくても良いという特別待遇まで認められていた。
だから、イギリス人がEUから離脱したいと言い出したときには、ドイツ人もフランス人も、「イギリスの大陸嫌いが、また出てきたか」と思うだけだった。
投票前にドイツで流れていたニュースは、右派の“ポピュリストたち”が反イスラム、反移民で国民を焚きつけ、イギリスを誤った方向に導こうとしているというものばかりだったが、何もポピュリストたちが焚きつけなくても、この国にEU懐疑派が伝統的に存在することは皆が知っていた。
そもそも、反EUであろうが、なかろうが、イギリス人が一番嫌っていたのは、移民でもイスラムでもなく、EUという構造の中で、自国の主権を次第にEUに譲り渡していかなければならないことだった。
EUに加盟している限り、EU憲法に従わなくてはならない。そして、EU憲法は、すでに各国の最高裁の判決を覆す力を持っていた。イギリス人は、それが我慢できなかったのだ。
とはいえ彼らは、まさか自分たちが本当にEUを離脱するとは思っていなかったはずだ。これを契機に、EUの権力の増大を牽制し、EUの構造改革を促し、望むらくは自国の権利や主張を強めたい、というあたりが狙い目ではなかったか。
ヨーロッパの統合は、経済のみで十分だと彼らは思っていた。もちろん、金融大国イギリスが、ちゃんとEUから恩恵を受けていることも知っていた。すっぱり抜けたいと本気で思っていた人は、はたしてどれだけいただろう。
■ドイツメディアは「Brexit」をどう報じたか
ところが、24日の朝、目覚めると、EUは大変なことになっていた。イギリス人は、自分たちがEUの傘の外に放り出されてしまったことに気づいた。それも、よく考えてみれば、自分たちの意思で!
しかも、残留派と離脱派の数はそれほどカツカツではなかった。離脱派が120万票以上多かったのだから、皆、頭の中がかなり混乱したことと思う。
このあとのドイツでの報道は、たいへん興味深かった。
まず、すぐに書かれたのが、イギリスで突然、「Brexit(「Britain」+「exit」)」の検索が爆発的に増えたということ。今頃、検索しているということは、彼らはEU離脱の意味を理解しないまま投票したにちがいない、という揶揄である。イギリス人をバカにしている。
●“Nach Abstimmung: Briten googeln, was der Brexit bedeutet” SPIEGEL-ONLINE, 24.06.2016
また、若い人の7割は残留に投票したという記事もすぐ出た。にもかかわらず年寄りのノスタルジーが勝ってしまい、その結果、かわいそうな若者たちは、これから死ぬまで哀れなイギリスで生きていかなければならないという趣旨だ。
しかし、無記名投票である限り、何歳の人が何に投票したかなどということが、翌日正確にわかるはずはない。変なニュースだと思い、ここにリンクを貼るつもりだったが、なぜかもう、この記事は見つからなかった。
さらにシュピーゲルの記事「宴の後(二日酔いという言葉で表してある・訳注)〜BrexitのあとにはBregretが」というのも、相当示唆的だった。
●“Katerstimmung bei den Briten: Auf #Brexit folgt #Bregret” SPIEGEL-ONLINE, 25.06.2016
「Bregret」というのは、「Britain」+「regret(後悔)」で、実にうまく新語を作るものだと感心してしまうが、これによれば、イギリス人は今、自分たちの愚かさに気づき、深い後悔にさいなまれているという。
さらに第一テレビのオンラインページでは、「イギリスEU離脱決定後の雰囲気〜どんな地獄が待っている?」
●“Was zur Hölle passiert jetzt?” ARD.de, 25.06.2016
どのニュースも意地悪なニュアンスに満ち溢れ、イギリス人に同情しているようでいながら、しかし、「それ見たことか」と囃し立てるような書き方だ。
EUサミットで顔を合わせたキャメロン英首相とユンカーEU大統領〔PHOTO〕gettyimages
■「ヨーロッパ」から放り出されて…
EUの政治の動きも注目に値する。
EU議会の議長はマーティン・シュルツというドイツ人で、ゴリゴリの社会主義者であるが、彼がイギリスに向かって、「出て行くなら、いっときも早く出て行け」と言い出した。
その結果、混乱を防ぐため、なるべくスムーズに離脱の手続きを進めようということで、一時は、「火曜日(6月28日)までにEUに離脱の願書を出せ」という声まで上がった。
EU離脱などという、前例もなければ規則も定まらない一大事を進めるとき、本当に混乱を防ぎたいなら、当然、慎重に、ゆっくり進めなければならないはずだ。シュルツ氏を先頭とした一部のEU政治家(主に社民党)の言動は、イギリス人に対するいじめではないか。
ユンカーEU大統領も、28日の議会のスピーチで、出席していた英UKIPの党首ファラージュを、「EUからの離脱に全力を投入していたくせに、何しにここへきた?」と、名指しで激しく攻撃。
メルケル首相は最初、イギリスを急がせてはいけないなどと言って優しいところを見せたが、やはり28日、態度を変え、ドイツの連邦議会で突然、「いいとこ取りは許されない!」などと厳しい言葉を放った。それに対して、議員の間で大きな拍手が起こったのが、ちょっと怖かった。
今、EUの株式市場は混乱し、ポンドもユーロも下がっている。ドイツの報道によれば、さらにこれからは、イギリスの雇用が失われ、輸出が落ち込み、大不景気になるのだそうだ。
挙げ句の果て、大衆紙では、イギリスで働いている外国人はどうなるかとか、スコッチウイスキーは買えるのかとか、あたかも、イギリスとEUの国交が断絶するかのようだ。
そうするうちに28日、イギリスはサッカーのヨーロッパ選手権で超小国アイスランドに負け、一週間のうちに、二度も「ヨーロッパ」から放り出されてしまった。
■国民投票のやり直しも
もちろん、離脱を唱えていた政治家たちへの攻撃も凄まじい。昨今、あちこちで反EUの狼煙が上がっていたので、EU擁護派は、この際、イギリスの事象をうまく活用し、反EU勢力をコテンパンにやっつけようとしている。
特にドイツの政治家とメディアはEU擁護の最先鋒なので、イギリス人を血祭りにあげて、EUを離れれば、どんな不幸なことになるかを見せつけるつもりだろう。皆が、「イギリスの真似をしては大変!」と肝に銘じれば、願ったり叶ったり。
だから、第2テレビのオンラインページはズバリ、「バイバイ、ブリテン〜スコットランドはEU残留希望」
●“Bye bye Britain: Schottland will in der EU bleiben” ZDF.de, 25.06.2016
スコットランドは、EU残留派が多かったので、ここだけ独立させてEUに残そうという話だ。本当にそうなると、大ブリテンは消滅し、イギリスはただのイングランドになってしまう。イギリス人はますます“Bregret”になるだろう。
しかし、そもそも、国民投票の結果が気に入らないからといって、国の一部が独立し、それをEUが両手を広げて歓迎するというのは、正しいことなのか?
メルケル首相と話し合うキャメロン首相〔PHOTO〕gettyimages
いずれにしても、これからEUの勢力図は変わってくる。EUで2番目に大きかったイギリスが抜ければ、さらに力を増すのがドイツであることは間違いなく、他のEU国はそれを嫌う。
一方で、ドイツがこれからも厳しい金融引き締め政策を推し進めようとするなら、今まで味方をしてくれていたイギリスが欠けるので、経済破綻の南欧同盟(?)に押し切られる可能性も出てきた。
ただ、本当にイギリスがEUから抜けるかどうか、それが今、どうもわからない。散々脅された結果、イギリス人は、もう一度国民投票をやり直したいと希望しているという。
わざわざ国民投票で民意を問うたのだからやり直しは変だが、イギリスで力(生産手段、情報、金融、政治etc.)を握っているエスタブリッシュメントは強硬なEU残留派であるし、エスタブリッシュメントの集合体であるイギリス議会も、もちろんEU派が大多数を占める。
つまり、「変なこと」がいつの間にか「正しいこと」に変わる可能性はじゅうぶんある。
そもそも議会制民主主義を否定し、政治の素人である国民を巻き込んで、直接民主主義(国民投票)など行ったのが大間違いだったのではないか。そのうち、キャメロン首相の断行した国民投票自体が「違法」であったというような話になるかもしれない。
■民主主義とはいったい何か
さて、今回の残留派と離脱派の対立の本質はどこにあるのか? 真の問題はそこだ。
スロベニア出身の哲学者スラヴォイ・ジジェクはシュピーゲルに寄稿して、グローバルな自由主義経済を代表するグループ(中絶や移民や同性愛者などに寛容)と、ポピュリストのグループ(反移民で人種差別的、ネオファシスト的)の対立であると書いている。
●“Gedanken zum Brexit: Unordnung unter dem Himmel” SPIEGEL-ONLINE,25.06.2016
しかし私は、グローバリズムで利益を得ている既存の支配層グループ(つまり前述の、生産手段、情報、金融、政治などを握っている富裕層)と、グローバリズムで割りを食ってしまったと感じている民衆(どちらかというと低学歴、低所得)の対立、つまり「貧富の対立」だと見ている。
その証拠に、国によっては、反EU勢力は、ネオファシストでも何でもなく、社会党など左派の政党として伸びている(ギリシャ、スペインなど)。
グローバリストは、国境も、国の規制も、少なければ少ないほど自由にお金儲けができるから、当然EU派である。それに対して、今の状況が不平等だと感じている人たちは、別に右でも左でもなく、要するに既存の体制に反発したいがためEU離脱に流れた。
今、EUのあちこちで反EUに火がついていることだって、グローバリズムによって拡大した貧富の格差に対する抗議という観点から見ていけば、すっきりと説明がつく。
反移民や、反イスラムという考えは、現状に不満を持っている人たちをさらに煽るため、反EU派の政治家が後でくっつけた理由のような気がしてならない。
そして、現状を不公平だと感じている貧困層の受け皿になり、グローバリズムに反旗を翻すとポピュリストと呼ばれて、悪い政治家となる。しかし、富裕層を保護する政治家はあくまでも民主主義者で、別段悪くは言われない。
「民主主義とはいったい何だろう」という根源的な疑問が、ここ数年来、常に私の頭に付きまとっている。
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