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英国の特異性とは?ロンドンのビッグベン(資料写真)
EU離脱の英国、やはり普通の国ではなかった 先進国の中で特異な政治、経済、社会
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47230
2016.7.1 茂木 寿 JBpress
EU脱退の可否を決める英国の国民投票において、脱退が過半数を占める結果となったことに世界中が衝撃を受けた。
EUは、2度の世界大戦で主戦場となった欧州において戦争からの永遠の離別を目的に発足し、加盟国が増加している。そのEUから脱退するとの英国民の判断に、世界が驚愕した。
一方、実は英国という国は先進国の中でも非常に特異な国であると言える。英国の政治、経済、社会、それぞれの面での特異性についてまとめてみたい。
■全世界の陸地の4分の1を占めた大英帝国
英国は、歴史的にはイングランドを中心とする王国が、スコットランド、アイルランドの他、大陸の諸王国との間で、数多くの戦争を経験し、その過程で王室の課税権などに対する制限を貴族、議会等が持ちながら発展した国である。
16世紀以降は海洋国家として海外進出・領土獲得を進め、最盛期の19世紀後半から20世紀初頭には、植民地・海外領土は全世界の陸地面積の4分の1に達したとされる。そのため、大英帝国は「太陽の没するところのない国」と言われた。
17世紀半ばに清教徒革命が発生し、一時共和制となったが、その後、王政復古がなされている。また、名誉革命が発生しているが、王政が途絶えたのは一時的であり、その間でも貴族は没落していないという特殊な歴史を持っている。18世紀後半には産業革命が英国で発生し中流階級が生まれたとされているが、貴族等の上流階級はそのまま存続した。
19世紀後半以降、米国、ドイツなどの新興国が台頭すると、英国の地位は相対的に下降することとなった。また第2次世界大戦後は、英国の豊かさの基礎になっていたインドなどの植民地が相次いで独立する。現状ではケイマン諸島、ヴァージン諸島、バミューダ諸島等のカリブ海、大西洋の島々、フォークランド諸島、ジブラルタルなどを海外領土として保有しているに過ぎない。
■イングランドが中核をなす連合王国
英国の正式名称は「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」であり、国際的な略称は「United Kingdom」(連合王国)である。
英国は主権国家としての国であるが、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドのそれぞれが政府を有しており、これもある意味、国と見なされている。FIFA(国際サッカー連盟)が英国の地域代表としてこの4つを認めているのは周知の通りだ。なお、1801年に現在の連合王国が成立しているが、国旗のユニオンジャックはイングランド、スコットランド、アイルランド国旗を重ねたものである。
英国(連合王国)は、イングランドがその中核をなしている。他の3地域はイングランドに対して、歴史的に対抗意識を持っており、全ての面で従属する姿勢とはなっていない。例えば、スコットランドでは2014年9月18日、英国からの独立の是非を問う住民投票が行われた。結果は反対が55.3%で、辛くも否決されたことは記憶に新しい。
政治体制は英国王室を頂点とする立憲君主制である。国王の助言・諮問機関として枢密院(Privy Council)があり、形式的にはこの枢密院が行政上の最高機関となる。しかしながら、実際には、定数650の「庶民院」(House of Commons)の与党から首相が選出される議院内閣制となっている。
また、議会は庶民院の他に、定数、選挙・改選がない任期が終身の「貴族院」(House of Lords)がある。貴族院の政治的権限は庶民院と比べ、非常に限定的である。なお、貴族院は世襲貴族、一代貴族(元首相、元閣僚等)、聖職者などから構成されており、現在約800人の貴族院議員がいるとされている。
■未曾有の経済不振から回復
英国の経済規模は、世界第5位である。今回の英国の離脱派のスローガンにも「世界第5位の経済大国で、英連邦(Commonwealth of Nations)を率いる英国が、なぜベルギー、フランス、ポーランドなどに指図されなければならないのか」というものがあった。ただし、世界に占める割合は4%にも満たず、世界第3位の日本、4位のドイツには遠く及ばない存在である。
英国は18世紀後半に産業革命が起きた国であるが、その後の2度の大戦、戦後の社会保障制度の拡充、基幹産業の国有化などに伴い、未曾有の経済不振に陥った。だが、1979年のサッチャー政権の誕生以降、国有企業の民営化、金融サービスを中心としたサービス立国化の政策により、経済的な回復を図ることができた。
そのため、現状の経済構造も独特で、GDPに占める第3次産業(サービス業)の割合が79.6%に達し、産業別の労働人口も83.5%を占めており、先進国の中でも突出している。
特に、金融業がその大部分を占めている。例えば、英国の金融関係のサービス輸出は2014年に2200億ポンドに達し、輸出全体の43%を占めている。この数値も、先進国の中では突出している。ちなみに、基幹産業が金融業であるという大国は、世界で英国のみである。
■自分の階級を明確に意識している英国人
社会的に見た場合も、英国は先進国の中で特異な存在となっている。
貴族院が存在していることから分かる通り、貴族などの特権階級が存在し、現在でも大きな影響力を持っている。20世紀初頭の一時期、相続税・財産税が高い税率となった際には、一部の貴族の所領経営が困難な時期もあったが、多くの貴族は、その困難を乗り越え、現在でも存続している。
例えば、第6代ウェストミンスター公爵のジェラルド・グローヴナー氏は、ロンドン市内のメイフェア地区(米国大使館、日本大使館、高級ホテル、高級住宅などのある地域で、東京で言えば銀座のような地域)のほとんどの土地・建物を所有している。その賃貸収入により、所得番付では常に上位である。同氏の総資産は日本円で1兆円以上とも言われている。
このように、貴族は現在でも膨大な土地を有しており、経済的な影響力も絶大である。英国では土地、建物等の賃貸借契約において、現在でも家主の権利が非常に強いが、この背景には、貴族等の特権階級が存続してきた歴史が色濃く反映されていると言われる。
また、英国社会は「クラス」(階級制度)社会であるとも言われる。正式な定義はないが、一般的には、王室、貴族、地主、資産家などが「アッパークラス」(上流階級)で、パブリックスクールからオックスフォード大学、ケンブリッジブリッジ大学に進学するのが一般的とされている。その次が「ミドルクラス」(中流階級)であり、一般的なホワイトカラーに属するクラスである。大学に進学するのは、一般的にこの階級以上に属する人達が多いと言われる(ミドルクラスをさら3つに分ける場合もある)。
最後が「ワーキングクラス」(労働者階級)で、ブルーカラーに属する階級である。義務教育を終えるとすぐに社会に出るのが一般的で、大学に進学するのは稀だとされている。
筆者がかつて英国に駐在した際、英国人のスタッフが「自分はワーキングクラス(労働者階級)の出身である」「自分はアッパーミドルクラス(上位中流階級)の出身である」といったことを当然のように話しているを聞き、自分が社会のどの階級に属しているかを明確に意識していることに驚いた経験がある。
また、英国人の間では、話す英語を聞くと、大体どの階級かを知ることができるとも言われる。映画「マイ・フェア・レディ」で、労働者階級がよく使うコックニー(Cockney)訛りの女性に、上流階級の英語、マナーを身につけさせるという物語の背景を初めて理解できた。
上流階級と労働者階級では教育水準に大きな違いがあり、それに伴う所得格差も発生している。英国では「労働者階級出身者が成功するためには、サッカー選手かミュージシャンになるしかない」とまことしやかなジョークが言われる程である。
■英国内の「対立」の結果なのか?
今回の国民投票に関して各種報道機関が行った分析では、以下のような結果が報じられている。
・地域的には、イングランド以外で残留支持が過半数を占めた。ロンドン以外のイングランドでは離脱支持が多数を占めた。
・年代的には、若い世代で残留支持が多数を占めた。一方、40代後半以上の世代は離脱を選択した。
・所得別では、高所得者が残留を選択したのに対し、低所得者になればなるほど離脱を選択した。
・学歴別では、高学歴者は残留を選択した。一方、義務教育のみの人は離脱を選択した。
・投票率は、ロンドン以外のイングランドが高くなり、年齢別では60歳以上が非常に高い投票率となった。
今回の国民投票を、地域間、世代間、階級間などの対立の結果であるとする専門家もいる。だが実態は、そのような対立の問題よりも、社会的に不満を持つ一般市民に離脱派が上手く訴えかけた結果であると言えるだろう。
(本文中の意見に関する事項については筆者の私見であり、筆者の属する法人等の公式な見解ではありません)
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