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英国のEU離脱が決定。勝利宣言をする英国独立党のファラージ党首(Press Association/アフロ)
イギリス離脱決定で深まる「EU崩壊」の危機 EU主要国に「離脱の連鎖」が広がる懸念
http://toyokeizai.net/articles/-/124202
2016年06月24日 窪田 真之 :楽天証券経済研究所長兼チーフ・ストラテジスト 東洋経済
世界が注目していた英国民投票の大勢が判明、英国のEU(欧州連合)離脱が濃厚となった。
■英国民の反EU感情は予想以上に強かった
「EUが国家を超えた国家としてイギリスに君臨するのを許すな」「EU残留を可決することは、EU官僚に対し無条件降伏を表明するのと同じ」など、離脱派は最後まで激しい言葉でEUを非難していた。その言葉が、英国民の心に積もった反EU感情をあらわしていた。
キャメロン英首相は、離脱が決定すれば、EUと離脱の条件交渉を進めることになる。難しい交渉が求められる。EUに加盟していたことで得られていた特典がすべてなくなると、英国経済へのダメ−ジはきわめて大きくなる。
2年間は特典が維持されるが、その間に離脱後の条件交渉を行うことになる。離脱後の条件が英国にとって有利に決まるように交渉しなければならない。
とは言っても、英国民の反EU感情の強さが予想以上であることがわかってしまった今、EUに対して、英国の国益を前面に押し出した交渉を行うことが求められる。
■英国のEU離脱は、主要国に連鎖を起こしかねない
一方、EUサイドでも、英国離脱の条件交渉は難問だ。EU離脱後の英国に、EUに留まっていたときと同じ特典を、やすやすと与えるわけには行かない。それを許すと、EU主要国に、EUからの離脱連鎖を起こすことになりかねないからだ。
そうは言っても、英国とEUが、重要な貿易パートナーである事実は変わらない。EUと英国の経済的なつながりが薄くなると、ダメージを受けるのは、英国だけではない。EUも同じだ。英国を特別待遇していると見られない範囲で、なるべく現在の英国との経済関係が変わらないような条件を決めなければならない。
反EU運動が勢いを増しつつあるのは、英国だけでない。フランス・イタリア・スペインなどEUを支える主要国にEUへの反感が広がりつつある。英国のEU離脱が決まれば、主要国に離脱連鎖が起こりかねない。
その影響がどう表れるか。最初に、注目されるのが6月26日に実施されるスペイン総選挙の結果だ。EUに押し付けられている緊縮財政に反発する急伸左派のポデモスが議席を伸ばすことが予想されている。国民党が過半数を取れず、ポデモスが第2党に浮上すると、スペインでも反EU機運が高まり、スペインの財政規律が緩む可能性もある。
フランスでは、反移民、反EUを掲げる極右政党、国民戦線(FN)が勢力を伸ばしている。FNのルペン党首は、「政権を取ればEU離脱を問う国民投票を実施する」と約束している。
イタリアではEUに懐疑的な新興勢力「五つ星」が台頭している。6月19日に実施された統一地方選で、ローマ市長とトリノ市長に、五つ星に所属する女性候補が当選して話題となった。
英国・フランス・イタリア・スペインに共通するEUへの不満は、EUからさまざまな規制を押し付けられること、EU域内から流入する移民を規制できないことにある。彼らは批判の矛先は、EUを主導しているドイツに向けられている。ただし、そのドイツ国民にも、反EU感情はある。
EUに最大の拠出金を提供し、EUの財政を支えているのはドイツである。ドイツは、2014年のEU総予算1329億ユーロ(約15.7兆円)の21.9%(約3.4兆円)を拠出している。ドイツ人は「我々の税金を使ってなぜギリシャや東欧諸国を支援しなければならないのか」とフラストレーションを積もらせている。移民増加への警戒もあり、反移民を掲げる民族主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を広げている。
ドイツに次いで、2014年のEUへの拠出金の負担比率が大きいのは、フランス15.8%(約2.5兆円)、イタリア11.9%(約1.9兆円)、英国10.6%(約1.7兆円)、スペイン8.4%(約1.3兆円)である。EUには28カ国が加盟しているが、拠出額の大きい上位5カ国で、68.6%を負担していることになる。
もし、EUから英国が抜けると、残ってEUを支える主要国の負担はさらに重くなる。そうなると、EU主要国に、離脱の連鎖が起こる恐れもある。EUは、経済力の強い国が弱い国を支える構造になっているが、負担金が大きい国には、それに対する不満が蓄積している。
■援助してもらっているのに反EU・反ドイツという皮肉
EUという仕組みの致命的な問題は、支援金をもらって支えられているギリシャのような国にも、反EU・反ドイツ感情が広がっているところにある。
2015年1月にギリシャに誕生した急進左派連合チプラス政権は緊縮財政を求めるEUの盟主ドイツに公然と攻撃的発言を繰り返した。債務まみれのギリシャを支援し続けているEU、その中核にあって資金を出し続けているのがドイツであるにもかかわらず、緊縮財政を迫るEUとドイツを非難することで、チプラス政権は選挙に勝ち、政権を握った。「ギリシャ人の誇りを守るために(EUが押し付ける)緊縮策を放棄する」を公約としていた。
EUが「緊縮策を受け入れなければ支援を継続しない」と態度を硬化させたため、チプラス首相は最終的には公約違反であることを認めつつ、緊縮策の受け入れを決定した。それで、ギリシャ支援は続けられ、ギリシャの財政問題は、小康状態を保っている。ただし、ギリシャ人の心の中には、EU・ドイツへの反感が深く刻まれることになった。
英国のEU離脱は、氷山の一角でしかない。EUを支える国にもEUに支えられる国にも、反EU感情が広がりつつあるので、EU崩壊の危機は、これから深まっていくと言わざるを得ない。
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