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[風見鶏]その夜、交わされた本音
自らもグラスを傾けながら、みなにワインを振る舞う安倍晋三首相。円卓には、地元でとれたアワビのポワレや伊勢エビ、松阪牛のヒレ肉が並ぶ。供宴が進むにつれ、首脳の会話は熱を帯びた。
5月26日。主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の夕食会での光景だ。長野県産のワインや地元の日本酒を、何杯もおかわりした首脳もいた。
サミットでは誰が、どんな発言をしたのかは公表しない。だが、検証すると、首脳たちはかなり“ぶっちゃけた”会話を交わしていた。特に大激論になったのがロシアへの対応だ。
ウクライナ内戦の責任を負うプーチン政権に、どう向き合うか。強硬な米国と、ロシアとの対話を探る日欧がぶつかる構図だが、予想外の一幕があった。対ロ政策では一枚岩のはずの欧州同士でも、激しい口論になったのだという。
「もっと、プーチン大統領と話し合えばいいじゃないか」。ある首脳がこう口火を切ると、ロシアに詳しい欧州首脳が色をなし、「プーチン氏をよく知らないのに、軽々しく言わないでほしい」とかみつき、応酬になった。
こうした不協和音が生まれるのは、硬軟交えたプーチン氏の揺さぶり戦略に、日米欧が翻弄されていることが一因だ。
ウクライナ問題で強気を貫く一方で、米欧が手を焼くシリア内戦では、停戦に協力するそぶりをみせる。こんなロシアのしたたかさに、米国防総省ブレーンも思わず舌をまく。
「彼らは人口が減り、国力は衰えている。だが、ぬけ目ない戦略は相変わらず、天下一品だ」
これと対照的に、いつになく首脳の足並みがそろったのが、中国の南シナ海問題だ。昨年のサミットではアジアから遠い欧州と日米のズレがのぞいたが、今年の光景はちがった。
「海洋の国際ルールへの違反者には、厳しくのぞむべきだ。強いメッセージを発したい」。議長の安倍氏がこう提案すると、異論が出るどころか、中国にどう国際ルールを守らせるか、熱弁を振るう首脳が相次いだという。
欧州側からは、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても「加盟してみたものの、全然、うまくいっていない」との不満がもれた。
日本が議長国だったから、例年より中国の議論に時間を割きやすかった面はある。だが、対中ビジネスに前のめりだった欧州の対中観が、少し冷めてきたことも事実のようだ。
先行指標になるのが、フランスの動きだ。仏のルドリアン国防相は6月上旬、欧州連合(EU)各国が南シナ海に海軍艦船を定期派遣し、そろって警戒にあたるよう呼びかけた。近く、具体策を提案する。
英国と異なり、仏はいまでも南太平洋に海軍基地を残し、艦隊を置く。中国海軍がインド洋に進出し、アフリカ東部のジブチにまで初の海外基地を建設していることが、ついに仏の神経を刺激した。同国の安保当局者は力説する。
「わが国の太平洋艦隊は南シナ海や東シナ海を航行し、アジア各国との共同訓練もしている。中国が海洋ルールを破れば、他人事ではすまない」
フランスの後を追うように、英国もアジアへの軍事関与を探る。今秋に初めて戦闘機を日本に送り、自衛隊と共同訓練する。
遠く離れた日米と欧州が、アジア戦略で組むことは簡単ではない。それでも、対中政策をめぐる「断層」が少しでも縮まるとすれば、アジア太平洋の地政学図は変わる。
(編集委員 秋田浩之)
[日経新聞6月19日朝刊P.2]
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