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トランプ大統領誕生なら「Gゼロ」がさらに進行 トランプ流「メディア戦略」米国政治選挙Q&A 映画が雄弁に語る米国大統領選
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 6 月 16 日 10:55:15: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

2016年6月16日 週刊ダイヤモンド編集部
トランプ大統領誕生なら「Gゼロ」がさらに進行
イアン・ブレマー(ユーラシア・グループ社長)
世界の地政学リスク分析を専門とする米国のコンサルティング会社、ユーラシア・グループを率いるイアン・ブレマー氏に、米大統領選が日本や米国、世界にもたらすリスクについて聞いた。


Ian Bremmer/米スタンフォード大学にて博士号を取得後、世界的なシンクタンクであるフーバー研究所のナショナル・フェローに最年少の25歳で就任。その後、28歳で調査研究・コンサルティング会社のユーラシア・グループを設立。主な著書に『スーパーパワー』(日本経済新聞出版社)など。Photo:Kazutoshi Sumitomo
──ここまでの大統領選をどう見ていますか。

 民主党の候補はヒラリーで決まりでしょう。ただ、サンダースの躍進でヒラリーの人気のなさが露呈してしまいましたが。

 一方共和党は、トランプがずっとフロントランナーであるという想定外の出来事が起きている。それには四つの理由があります。

 第一に、貿易自由化などのグローバル化が、収入が少なく教育が不十分な人々や多くのマイノリティーに何のメリットももたらさなかったこと。仕事を海外に奪われ、賃金も上がらない。トランプはそうした人々に訴えたのです。

 第二は、米国民の変化です。若い人々は多文化的で、宗教的ではなく、同性愛など社会的課題に対してリベラルです。それに対して古いタイプの人々、教育が不十分で経済的に恵まれていない人々は、政府が自分たちの声をもはや聞いていないと感じている。トランプの“Make America great again”というキャッチフレーズは、時間を巻き戻して、米国を好きだったかつての姿に戻そうという、リアクション的なムーブメントなんです。

 第三は、ソーシャルメディアの影響力です。ほとんどの米国人は、ソーシャルメディアでメッセージやニュースを見ていて、トランプはそれをうまく使っている。700万人のフォロワーがいるトランプと比べて、クルーズはその10分の1しかいません。

 最後に、従来メディアが経営悪化で視聴率稼ぎに躍起になっていることです。トランプの攻撃的な発言は視聴者の注目を集める。だから、他の候補者の10倍も取材され放映されているわけです。

 今後の可能性は二つしかありません。トランプが勝つか、もしくは党大会でブローカー・コンベンションになるか。確率は6対4か5対5でしょう。過去10回のブローカー・コンベンションのうち7回は予備選1位ではなかった人が候補になっている。アイゼンハワーやリンカーンもそうでした。

 本選がトランプ対ヒラリーとなった場合は、今までよりもすごく汚い(言葉が飛び交う)選挙になる。最終的にはたぶんヒラリーが勝つでしょうが、それでもヒラリーも共和党も相当なダメージを受けるでしょう。

 ただ、トランプにも20%くらいはチャンスがあるかもしれない。「トランプ大統領」もあり得ない話ではないということです。

 どちらが勝つにせよ、国内に広がった「憎しみの政治」は続きます。世論調査では、オハイオ州やフロリダ州では6割以上の共和党員がイスラム系の人の入国を禁じることに賛同しています。明らかに憲法違反で、ばかげたことです。しかしそういう感情がどんどん大きくなってきています。

次期大統領の優先課題は社会的な分断の修復

──大統領交代で、世界にはどのようなリスクがありますか。

 もしもトランプ大統領が誕生すれば、テールリスク(発生確率は低いが甚大な損失をもたらすリスク)は高まるでしょう。世界で深刻な対立の火種がある中で、中国との軍事的な衝突すらあるかもしれない。米国の世界への影響力や、これまで米国が築いてきた秩序が破壊されて、取り返しがつかなくなるかもしれません。トランプ政権の下では、米国は一方的に相手に責任をなすり付ける国になり、同盟は弱くなる。Gゼロ(リーダーシップなき世界)の状態がさらに進むことになるでしょう。

 日米同盟にとってもトランプは脅威となります。貿易協定で日本に責任を押し付ける一方、防衛面でのコミットメントはあいまいになる。日本にとっては最悪です。

 一方、ヒラリー大統領なら、現在とあまり変わらないと思います。共和党のブローカー・コンベンションでポール・ライアンが選ばれ大統領になったとしても、ドラマチックな変化はないでしょう。

──あなたは著書の中で、「独立するアメリカ」を提唱し、米国は国益を優先して国外の問題解決に手を出すべきではないと主張しています。トランプ氏の「一方的なアメリカ」とどこが違うのですか。

 非常にいい質問です。私の言う「独立するアメリカ」とは、国内の課題解決に集中することで米国が統一された状態となり、米国が世界の国々の模範、言い換えれば目指すべき灯台となるべきだということ。「独立するアメリカ」においては、もっと移民を受け入れるべきで、そうやって米国は歴史的にも強くなってきたのです。

 一方トランプの「一方的なアメリカ」は、対外的には一方的なことを主張して関係を悪化させ、国内的には国を分断しかねない。彼は「一方的なアメリカ」の都合のいい側面だけを強調し、それに必要なコストを払いたくないのです。

──次の大統領にどんなことを期待しますか。


 これからは、米国にとってよりチャレンジングな世界になる。ヒラリーやライアンのような経験のある人物が、イデオロギーとは距離を置いて議会と仕事をすることが必要だと思います。オバマにはそれができなかった。国際的な経験があり、手堅い仕事をする人物が必要なのです。

 次期大統領の外交政策での最優先課題は、同盟国との信頼関係の再構築です。順番としてはまず欧州、その次が日本。カナダやメキシコがそれに続きます。

 内政では、大統領選でのダメージを修復することです。選挙戦を通じて、国内に対立構造が出来上がってしまった。社会的な分断を修復し、人々を団結させる必要があると思います。
http://diamond.jp/articles/-/92418


トランプ流「メディア戦略」
旋風に加担する米メディア
渡辺将人(北海道大学大学院准教授)
候補者が報道番組に出演する「無料メディア」偏重のトランプ氏。クリントン氏はネットも駆使し「即時返答」態勢を強化。元上院選クリントン陣営本部の筆者が、現地調査を交えて分析する。

 米国の選挙では、1970年代以降テレビ広告による「空中戦」が主流化したが、2000年代から戸別訪問など「地上戦」が見直され、過渡期にある。バラク・オバマ陣営が体系化したソーシャルメディア利用と「地上戦」融合の時代の中、ドナルド・トランプ氏の選挙戦は、一見すると旧世代の「空中戦」一本やりに思える。


米ニュース専門局の朝の人気番組に出演するトランプ氏。生出演で放送局の編集を牽制 Photo:REUTERS/AFLO
 だが、そのメディア戦略は、意外に個性的だ。資金の掛かるテレビ広告(有料メディア)よりも、対視聴者の説得効果が高い報道番組への出演(無料メディア)を優先している。トランプ氏は、以下に述べるメディアの「特性」を知り尽くしている。

 第一に、争い事を好む特性。トランプ氏はあえて「仮想敵」を用いる。共和党主流派、イスラム教徒、メキシコ、中国、日本。対立軸や火種にメディアは飛び付きやすい。

 第二に、短く分かりやすい言葉を好む特性。トランプ氏は平易に自説を表現する。ヒラリー・クリントン氏との経済政策の違いを問われれば、自分が認めた国とは貿易協定を結ぶが、TPP(環太平洋経済連携協定)は多国間協定だからダメだと政策を極度に単純化して語る。

 第三に、ニュースを「落とす」ことに過敏である特性。トランプ氏の勝利演説はノーカットで中継されやすい。これは依怙贔屓(えこひいき)ではなく、いつ爆弾発言をするか分からないからだ。トランプ氏もそれを承知の上で「ネタ」を分散させ、終盤まで引っ張る。結果、予定調和の感謝の辞しか述べない他候補よりも、長時間放送される。質疑応答も「ショー」だ。

 第四に、イベントの「予定」で取材と放送が決まる特性。昨年夏、アイオワ州のカーニバルにトランプ氏がヘリコプターで飛来した。クリントン氏の遊説先と時間にあえて重ねる行為だ。トランプ氏は各局に飛来予定時刻を告知し、ぶら下がりをセットさせ、少し遅刻して放送を独占。「現れるぞ」と予告して取材させるサイクルで、他候補の「枠」を奪う。

 討論会を直前にキャンセルするのも、翌日の見出しを「トランプ不在の中」にしてしまう狙いからだ。

 第五に、各社が「独占」に弱い特性だ。3月11日にシカゴの集会で抗議者の騒ぎが起きた際も、すかさずFOXニュースに独占出演。自分の言いたいことだけを延々と語った。

 米主流メディアはトランプ氏という格好の「ネタ」で、大統領選挙報道を盛り上げて利益を得てきた。ある種の「共犯関係」にあったことは否めない。これまで煽ってきた経緯からも「トランプ氏でいいのか」という報道姿勢が偽善的なことは明らかだが、トランプ陣営が「候補者が会見を行う」と叫べば、中継に切り替えざるを得ないジレンマがある。

 一方、民主党のクリントン陣営は、無料メディアの利用ではトランプ氏の勢いによって霞んでいるように見えるが、「ラピッド・レスポンス(即時返答)」という新概念を取り入れて応戦の構えだ。クリントン氏についての誹謗中傷を報道やソーシャルメディアなどから探し出し、それに対して「事実無根」として細かい訂正を行うシステムだ。従来のような番組や紙面を利用した報道担当による反論では遅過ぎるため、即時にソーシャルメディアで反論を出す。

 筆者は、同陣営本部とクリントン氏を支持するスーパーPACの双方でこの様子を特別に視察させてもらったが、「即時返答」作戦への人とカネの掛け方は半端ではない。予測される批判への対抗「エビデンス」の準備にかけては、歴史上最も優れた陣容となっている。それが効果的にデリバーされるか、有権者が納得するかは未知数の部分もある。

 候補者個人の露出で勝負するトランプ氏。組織力で勝負するクリントン氏。本選の動向も要注視である。

http://diamond.jp/articles/-/92385

2016年6月16日 週刊ダイヤモンド編集部
そうだったのか!
米国政治&選挙 Q&A
米国の政治や選挙の仕組みは日本とは大きく違う。ジョージ・ワシントン初代大統領が、分かりやすく解説する。

Q 大統領ってとても偉いんでしょう?


A 米国の大統領というと、「世界一の権力者」というイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし、経験者として言わせてもらえば、実はそれほど大きな権限を持っているわけではない。

 わが国は連邦国家であるから、各州の権限を守るため、大統領に強い力を与え過ぎないように制度が設計されている。幾つか例を挙げよう。まず、大統領は法案や予算案を議会に提出することはできない。米国では議員が全ての法案を提出し、予算案も議会で作成される。

 大統領は後述するように間接選挙によって国民から選ばれる。日本のように議会で多数を占める党から選ばれるのではないため、議会の上院と下院が共に野党で占められることもある。私から数えて44代目のバラク・オバマ大統領は、上下院が野党・共和党で占められているため、なかなか法案が通らず苦労しているようだ。また、日本の首相のように議会を解散させることはできないが、議会には弾劾裁判によって大統領を罷免する権限がある。

 愚痴ばかり並べてしまったが、われわれ大統領にも大きな権限がある。行政権だ。次官補クラス以上の4000人近くの政府高官をわれわれ大統領が任命できる(閣僚の人事は上院の承認が必要)。だから、大統領が交代すると、首都ワシントンD.C.では4000人規模の異動が行われることになるのだ。

 もう一つ、大統領に与えられている権限として拒否権がある。議会を通過した法案への署名を拒否する権利だ。ただし、上下院でそれぞれ3分の2以上の多数で再可決することで議会は法案を成立させることができる。大統領と議会はこのようにしてけん制し合っている。

 ところで、大統領の年収を知っているか? オバマ氏が40万ドル(約4480万円)程度といわれている。大企業の社長と比べれば安いものではないか。ただ、引退後は年間約20万ドル(約2240万円)の年金をもらえるほか、ビル・クリントン氏のように、自伝の執筆で1500万ドル(約16億8000万円)を超える巨額の収入を得ている元大統領もいる。

Q 二大政党の民主党と共和党の違いは?


A 大ざっぱに言えば、民主党はリベラルで、共和は保守(反リベラル)ということになる。社会福祉の充実など政府は大きな役割を果たすべきだと主張する民主に対し、共和は国民の自主・自立を重視し、政府による介入をできるだけ小さくする「小さな政府」を志向している(下表参照)。


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 ただし、これらの主義・主張は参考程度と考えてくれ。両党とも党内に保守派とリベラル派がいて意見が対立することもある。また、日本の政党と違って米国の政党には党議拘束(採決の際に党の方針に党員を従わせること)などない。議員が所属する党の政策に対して反対票を投じることも珍しくないのだ。

 ちなみに、両党のシンボルマークのゾウとロバは、19世紀に描かれた風刺画が基になっている。

Q 大統領はどうやって選ばれるの?


A ちょうど今、米国は大統領選挙の真っ最中だ。投票所で有権者が投票するのを見ると、大統領は直接選挙で選ばれているように思えるだろう。しかし実際には、有権者は「大統領を選ぶ人」を選んでいる。つまり間接選挙によって大統領は選ばれるのだ。

 下図のように、大統領選は大きく二つの段階に分かれる。各党の大統領候補を決める予備選挙と、各党の候補者から大統領を選ぶ本選挙だ。


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 今年2月からすでに始まっている予備選では、有権者は自分が推したい候補への投票を表明している「代議員」に投票する。ただし代議員の中には、選挙結果に関係なく自由に投票できる「スーパー代議員」がいて、予備選では大きな影響力を持つ。今回の予備選で民主のヒラリー・クリントン氏が優位に立っているのは圧倒的多数のスーパー代議員から支持を得ているからだ。

 7月に各党が開く全国党大会までに、過半数の代議員を獲得した候補が、党の候補者に内定する。

 ただし、予備選でいずれの候補も過半数を取れなかった場合、党大会の初回投票は支持を表明した候補にしか投票できないので過半数を取れない可能性が高い。その場合、代議員は2回目以降自由に投票することができるようになる。そうなると、党内で過半数を確保すべくさまざまな駆け引きが飛び交うブローカー・コンベンション(取引集会)に突入する。誰かが過半数を獲得するまで続けられる。

 こうして選ばれた候補者が党を代表して本選に進む。本選は、有権者が「選挙人」(大統領を選ぶ人)を選ぶ一般投票と、選ばれた選挙人が大統領を選ぶ選挙人投票に分かれる。一般投票で538人の選挙人の過半数270人以上を獲得した候補者が、晴れて次期大統領に内定し、選挙人投票を経て、新大統領となるのだ。

 ところで、予備選が集中する3月の火曜日を「スーパーチューズデー」(今年は3月1日)と呼び、本選の一般投票も今年は11月8日の火曜日に行われる。なぜ大統領選の投票日が火曜日に集中するのか、知っているかね?

 日本では投票日は日曜日と決まっているが、米国では日曜日は安息日なので無理。月曜日にすると日曜日に準備をしなければならなくなるのでこれも無理。それで火曜日に落ち着いた、という説もあるし、現代のように車がない時代は、投票するために遠方から馬車でやって来る有権者もいた。安息日の翌日の月曜日に出発した場合、その移動時間を考慮して火曜日を投票日とした、という説もあるようだ。

Q 民主党と共和党はどっちが強いの?


A 8月から本格化する本選では、民主と共和のどちらが強いのだろうか。実は、民主・共和ともに支持基盤が強固でほぼ確実に取れる州を抱えており、勝敗は、どちらに転ぶか分からない接戦州(スイングステート。左右に振れる州の意)を取れるかどうかで決まる。

 下図は、1992年以降の6回の大統領選の結果を基に作成した民主と共和の勢力図だ。民主が優位に立つブルーステート(同党のシンボルカラーにちなむ)は16州(ワシントンD.C.を含む)で代議員数は198人。対する共和優位のレッドステート(同上)は23州で代議員数は191人となっており拮抗している。


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 従って本選の勝敗は、残り12のスイングステートの149人の代議員をどれだけ取れるかで決まる。特に、選挙人の配分が多いスイングステートであるフロリダ州が鍵となる。ただし、両党が抱える優位州は時代とともに変化する。南部はかつて民主の牙城だったが、今は共和が強い。優位州だからといって安心はできないのだ。

Q 今後の大統領選の見どころは?


A 私も長年、大統領選を見てきたが、今回ほど先が読めない選挙は記憶にない。

 予備選における見どころは大きく三つ。第一に、リベラル気質のニューヨーク州とカリフォルニア州で、ドナルド・トランプ氏が勝てるかどうかだ(下図参照)。両州とも大票田なので、ここで勝利できれば党大会までに過半数の代議員を獲得できる可能性が高まる。


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 第二に、7月の党大会がブローカー・コンベンションに突入するかどうかである。そして第三に、もしもブローカー・コンベンションに突入した場合、共和党内でどのような駆け引きが行われるのかだ。もしも、予備選を1位通過するであろうトランプ氏が、党内の駆け引きで他の候補に敗れた場合、トランプ氏は第3の候補として本選に出馬する可能性もある。

 そうなると、クリントン氏と共和党候補、トランプ氏の三つどもえの戦いとなる。3人のいずれも本選で過半数を取れない場合、同時に行われている議会選挙で選ばれた下院が次期大統領を選出する。

 下院は共和党優勢なので、トランプ氏ではない共和党候補が大統領に選ばれることになるかもしれない。つまり、予備選、本選で1位ではない候補が大統領になる可能性もあるわけだ。私の記憶では、こんな事例は第6代大統領になったジョン・アダムズ氏しかない。

 ちなみに、日本で選挙制度への導入が検討されている「アダムズ方式」とは、このアダムズ氏が提唱したものなのだ。

 「選挙に奇跡はない。しかしサプライズはある」

 日本の選挙プランナーの第一人者でアスク社長の三浦博史氏の言葉だ。前回の本選では、10月末にニュージャージー州をハリケーンが直撃。急きょ選挙活動を中止して対応に当たったオバマ氏が接戦を制し、「オクトーバーサプライズ」と呼ばれた。果たして今回の選挙もサプライズはあるだろうか。

Illustration by Tadayuki Sakakibara


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http://diamond.jp/articles/-/92378

虚構の
藤原帰一(東京大学法学政治学研究科教授)
アメリカには大統領や大統領選挙を題材とした映画が多い。映画はフィクションだが、そこには政治や選挙の本質が含まれている。映画を見れば、大統領選がもっと理解できるようになる。

 アメリカの選挙は、有権者に夢を伝える競争である。しかし候補者が訴える夢のほとんどは、実現する可能性がないものだ。おかげで、事実に基づいた報道をフォローしても、実体はよく分からない。逆に、事実とは無縁の虚構にすぎない映画の方が、選挙の現実を知る上で役に立つ。映画を通してアメリカの選挙を考えてみよう。

 まず選挙コンサルタントが重要だ。アメリカの選挙は、候補者個人の考えや資質ではなく、それをどのように飾り立て、振り付けるかが重要である。有権者の受け入れやすいように候補者の政策を組み立て、この人は信用できるというビジュアルなイメージをつくり出し、その陰では対立候補が人でなしだという噂を振りまく。これら全ての役割を担うのが選挙コンサルタントである。


 選挙コンサルタントに焦点を当てた映画としては、古いもので「候補者ビル・マッケイ」(1972年)が挙げられるだろう。ロバート・レッドフォード演じる上院議員候補マッケイが選挙参謀の指図によって容姿を整え、政策を変え、有力候補に変身する。マッケイは選挙に勝つが、自分は誰だか分からなくなってしまうというお話だ。

 リチャード・ギアが選挙コンサルタントを演じた「キングの報酬」(86年)では、さらに話がエスカレートして、有力なコンサルタントさえいればどんなに弱い候補でも当選するかのようだ。大統領選挙の裏方を追いかけた「スーパー・チューズデー −正義を売った日」(2011年)は、選挙コンサルタントものとも呼ぶべき長い伝統の継承者であるといってよい。

 この視点から見ると、08年大統領選挙のバラク・オバマ、あるいは今回の大統領選挙の共和党候補であったマルコ・ルビオがよく分かる。隙のない衣装やキメ台詞で塗り固めたような演説は、すべてが有権者向けの振り付けだといってよい。

 しかし、これでは、ドナルド・トランプは分からない。選挙コンサルタントの振り付けを無視するかのように暴言を繰り返し、それによって支持を固めているからである。

 だが映画では、トランプのような「本音の政治家」が珍しくない。49年の「オール・ザ・キングスメン」、さらにそれをリメークした06年の同名作品では、政治家の言葉とは思えない口汚い罵りによって、ルイジアナ州知事に当選するウィリー・スタークが登場する。ウォーレン・ビーティ主演の「ブルワース」では、黒人のラップに乗せて政界のタブーを平然と口にする政治家が圧倒的な人気を獲得する。どれを見ても、トランプの先祖と呼びたいような存在だ。

 選挙コンサルタントのつくり出した衛生無害な候補と、野卑な言動によって世論を左右する暴漢は、まるで正反対のように見えるが、実はそうではない。世論に見放されるのを恐れて政治家が衛生無害になればなるほど、野卑な言動に魅力が生まれるわけで、実はこの両極ともに、大衆社会における民主政治の標本だからである。

 「オール・ザ・キングスメン」のモデルは、ヒューイ・ロングというポピュリストの知事だった。トランプが大統領になったとき、アメリカは一体どうなってしまうのか、「オール・ザ・キングスメン」が不気味な示唆を与えてくれるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/92380
 

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