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アメリカ社会を襲っている地殻変動……その震源にいるこの男は、そもそもなぜ大統領を目指すのか?〔photo〕gettyimages
そもそもトランプはなぜ大統領を目指すのか? 背筋がゾッとする、著名な心理学者の分析結果 並外れた攻撃性を持つナルシスト
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48837
2016年06月08日(水) 笠原敏彦 現代ビジネス
■アメリカ国民の「原点回帰」!?
アメリカ大統領選で共和党候補指名を確実にしたドナルド・トランプ氏。米政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が集計した各種世論調査の平均支持率(5月22日時点)では、トランプ氏(43・4%)が民主党のヒラリー・クリントン氏(43・2%)をついに上回った。
さらに、共和党の事実上のリーダーであるライアン下院議長が2日にトランプ氏支持を表明するなど、トランプ氏は本選に向けて弾みをつけている。
当初の泡沫候補扱いからすると、目を疑うような展開である。
黒人など人種的マイノリティや女性の投票行動の予測から、本選でのクリントン氏優位は動かないと見る専門家が多いものの、こうした見立てがことごとく外れているのが今回の大統領選だ。
アメリカ社会の動向は、大手メデイアを含むあらゆる「エスタブリュシュメント的存在」への反乱のように映る。
筆者は新聞社のワシントン特派員として2005年から3年間、アメリカの政治・外交をカバーした。その経験から、今回の大統領選は、民主党支持者が多い非白人人口の急増という人口動態的な分析を越えたところで進んでいるように思えてならない。
トランプ氏が、旧来の共和党支持者以外の票を掘り起こし、多くの有権者を引きつけていることはその証左ではないだろうか。
背景には、「アリカ人とは何者か」と問う有権者の原点回帰があるように思える。建国以来、世界各地から移民を引きつけながら形成されてきた、将来の夢と楽観主義を大切にするアメリカ人気質。そのDNAが、支持者を拡大し続ける「トランプ現象」の駆動装置ではないか、ということだ。
■要はこういうことだ。
オバマ路線を基本的に受け継ぐクリントン氏のイメージは「継続」である。中間層の縮小や格差拡大という閉塞感がアメリカ社会を覆い、世界を見渡せば中露などの強権主義国家が存在感を高めるという混迷の時代において、トランプ氏とクリントン氏の二者択一になった場合、アメリカ人は果たしてどちらを選ぶだろうか、ということである。
タブロイド紙「ニューヨークポスト」は4月にトランプ支持を表明しているが、その理由はこうである。
「トランプ氏は不完全だが、可能性に満ちている。政治家たちに裏切られたと感じている全ての米国民に希望を与える」
この主張は、反エスタブリシュメント旋風が吹き荒れる大統領選の行方を占う上で、一つの重要な視点を提供しているように思えてならない。
■トランプの「生きがい」
トランプ現象を対岸のリアリティ・ショーとして面白がっている時はとっくに過ぎている。
とは言っても、政策に関する発言をコロコロ変えるトランプ氏は、アメリカでも「ホンネが見えない」としてつかみ所がない人物である。そもそも、筆者には、トランプ氏がアメリカの政治、外交を仕切りたいからホワイトハウスを目指しているようにはとても思えない。
トランプ氏が自らの人生哲学を記した著書「THINK BIG―MAKE IT HAPPEN IN BISINESS AND LIFE(大きく考えろ ビジネスと人生で夢を実現するんだ)」(2007年)で、彼は自らの生きがいについてこんな風に語っている。
“私の最大の情熱の一つは、取引(ディール)を成立させることだ。大きく得点を稼ぐのが好きなんだ。相手をこてんぱんに打ちのめし、利益を得ることに大きな喜びを感じる。なぜかって? それ以上に素晴らしいことはないからさ。私にとっては、セックスよりいいんだ。取引が自分に有利に傾くときの感覚は最高さ。
多くの人が素晴らしい取引とはウィン・ウィンの結果だ、というのを聞いたことがあるだろう。クソくらえだ。素晴らしい取引とは勝つことだ。私は取引で完璧に勝つことが好きだ”
トランプ氏については史上最も大統領選を楽しんでいる候補との評価も出ているが、この発想を知れば、その理由がよく分かるだろう。
おそらく、彼にとっては大統領選に勝つこと自体が最大の目的なのだろう。共和党候補指名争いで本命視された候補らを野卑な言葉で罵って次々と葬り去り、民主党候補指名を確実にしたヒラリー・クリントン氏を本選でいかに叩き潰すかの戦術を凝らす。
彼は今、人生最大のディールを楽しんでいるのだろう。
トランプ氏のこの人生哲学と彼が施政方針として掲げる「アメリカ第一主義」は見事に共鳴する。もっと言うなら、彼の生き様を施政方針に昇華させたものが「我々はもう他国から巻き上げられることはしない」というアメリカ第一主義なのである。
そうであるなら、このスローガンは、アメリカの国益を最優先にするという生易しいものではなさそうだ。トランプ氏が理想とするのは、あらゆる取引(交渉)で、相手国を完膚なきまでに打ちのめし、完全勝利を目指すアメリカの姿ではないだろうか。
勝つことに徹底的にこだわるトランプ氏。その彼の敗れたときのモットーが「やられたらそれ以上にやり返せ」という人生訓であることも、超大国を率いる大統領の人格としては不気味なところである。
■なぜ大統領を目指すのか〜ある心理学者の分析
しかし、問題はそれ以前の話である。トランプ氏に国家や世界の在り方について一貫した理念があるとは思えない。そのトランプ氏が、巨額の私財を投じてまでなぜ大統領を目指すのかということだ。
この点こそ今回大統領選の最大の謎であり、仮にトランプ大統領が実現した場合、彼がいかなる大統領になるのかを方向づける重要なポイントのように思える。
そんな疑問を覚える中で、米評論誌「アトランティック(The Atlantic)」6月号に非常に興味深い長文の論文が載った。その表題は、「ドナルド・トランプの精神――ナルシズム、非同調性、仰々しさ トランプ氏の並外れた個性はいかなる大統領を形作るか、ある心理学者による考察」。
著者は、ジョージW・ブッシュ(息子)大統領の政策を彼の性格から分析した実績のあるダン・マクアダムズ(Dan P. McAdams)という心理学者である。
この論文によると、アメリカでは心理学者と歴史家との協同プロジェクトにより、初代ワシントンから現職のオバマ氏まで全ての大統領の個性を分析した研究成果があるそうだ。
その評価基準に照らし合わせると、トランプ氏は「並外れた外向性(攻撃性)と類を見ないほど低い同調性」が特徴であり、過去にはいない大統領のタイプという。そして、トランプ氏の個性の根底にあるのは「怒り」だと指摘している。
その個性はいかに形成されたのか。論文は、子どもの頃のあるエピソードに注目している。
■適者生存という世界観
トランプ氏は5人兄弟の4番目で、父フレッド氏はニューヨークのクィーンズ地区を拠点にした不動産開発業者でアパートの所有、管理も行っていた。そのエピソードを要約すると次のようなものだ。
父親は週末に子どもたちを仕事の現場へ連れて行った。父親は家賃の回収も自分でやっており、部屋のベルを押すと、ドアの横に身を隠す習慣があった。ある時、治安の良くない地区へ連れ立ったトランプ氏は父に聞いた。“どうしていつもドアの横に立つの?”
すると、父はこう答えたという。“奴らはいきなりドア越しに銃を撃つことがあるからさ” 父親は自らの経験から絶えず用心深く、獰猛でなければビジネスで生き残れないということを学び、息子たちをタフな競争者になるよう仕込んだのだという。
トランプ氏は自叙伝で「クィーンズで育ち、俺は相当にタフな子どもだった」「俺は近所でもっともタフな子どもでありたかった」と書いているという。
父親は兄弟の中でもトランプ氏のタフさを見込んで、「killer(難物)」になることを求め、13歳のときに彼を軍隊式教育で知られる全寮制男子校「ニューヨーク・ミリタリー・アカデミー」に送り込み、トランプ氏のタフさは筋金入りになったという。
トランプ氏は1981年にセレブ誌「People」のインタビューでこう語っている。
“人間はあらゆる動物の中で最も非道な存在である。そして、人生とは勝利か敗北かのどちらかで終わる戦いの連続なのだ”
トランプ・ワールドとは、適者生存、強者のみが生き残るダーウィン主義の世界なのである。
論文は、トランプ氏のもう一つの個性として「並外れたナルシスト(自己陶酔者)」の側面を挙げている。
その性格を象徴するエピソードとして、父フレッドさんの葬儀(1999年)でのトランプの振る舞いを紹介。他の参列者がフレッドさんの思い出を語る中、トランプ氏はあいさつで、父親の最大の功績は優秀で名声を得た自分を育て上げたことだと話し続けたのだという。
■大統領の座は人生最大の「戦利品」?
マクアダムズ氏の論文は、こうしたトランプ氏の性向を「戦士のメンタリティ」だと指摘し、このことが「一部の有権者にトランプ氏がアメリカを再び偉大にしてくれると信じさせているのだろう」と説明している。
そして、トランプ氏が大統領を目指す理由についてこう結んでいる。
“ドナルド・トランプとは一体何者なのか。役者の仮面の下に何があるのか。私には、自己陶酔的な動機と、いかなる犠牲を払っても勝利することを美徳としている以外には何も見えてこない。
トランプ氏は、自らの社会的地位を高めることにエネルギーを使い過ぎて、人生や国家について意味のあるストーリーを見出せていないように思える。ドナルド・トランプは常にドナルド・トランプを演じ続け、勝つために戦っている。なぜ自分がそうしているのかを決して知ることもなく”
トランプ氏がホワイトハウスを目指す最大の理由は、自らの人生の履歴を完璧に近づけることでしかないのか。
「不動産王」として成功したトランプ氏が、政治への熱意もなく人生最大の「戦利品」として大統領の椅子を狙っているとしたら、アメリカだけでなく、世界にとって不幸なことである
先月開かれた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でもトランプ氏は大きな関心を集めたようだ。オバマ米大統領は記者会見で「他国の首脳はトランプ氏について困惑しているようだ」と語っている。大統領選本番に向け、世界のざわめきはますます高まりそうである。
笠原敏彦(かさはら・としひこ)
1959年福井市生まれ。東京外国語大学卒業。1985年毎日新聞社入社。京都支局、大阪本社特別報道部などを経て外信部へ。ロンドン特派員 (1997~2002年)として欧州情勢のほか、アフガニスタン戦争やユーゴ紛争などを長期取材。ワシントン特派員(2005~2008年)としてホワイ トハウス、国務省を担当し、ブッシュ大統領(当時)外遊に同行して20ヵ国を訪問。2009~2012年欧州総局長。滞英8年。現在、編集委員・紙面審査 委員。著書に『ふしぎなイギリス』がある。
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