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[風見鶏]G7影の主役、習氏の悩み
野生馬がのんびり草をはむ日本で最も日の入りが遅い与那国島に出現した巨大な5本の塔――。今の日中関係を如実に示す風景だ。陸上自衛隊のレーダー基地は150キロ北の尖閣諸島(沖縄県石垣市)をにらむ。約160人の陸自隊員が3月末から駐屯している。
2012年、中国での反日デモで日本企業が被害を受け、尖閣諸島の領海への中国公船の侵入が常態化する。翌年、中国は東シナ海に防空識別圏を設置した。
レーダー基地は太平洋への道を開きたい中国には邪魔だ。当然、外交、国防当局が猛烈に反発するかと思いきや、おとなしい。中国公船の侵入は同じだが、中国メディアも海外報道の引用で中国当局の不快感を示すにとどめた。不可解だ。
謎は間もなく解けた。「まず南だ。東は焦点ではない。日本への善意でもある」。中国の安全保障関係者から漏れ伝わる声だ。南シナ海問題での主張を親中の国々に発信する防戦で手がいっぱいとの意味である。
南シナ海の「航行の自由」を訴えるオバマ米大統領はベトナムを訪れ、武器輸出解禁を決めた。日本での記者会見では南シナ海問題解決について「中国次第だ」と突き放した。ベトナムはカムラン軍港に海上自衛隊艦船の寄港も認めた。
呼応するように主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は首脳宣言で海洋安全保障を巡り「力や威力を用いない」「紛争解決には仲裁手続きを含む平和的手段を追求すべきだ」とした。中国を名指しこそしない。だがフィリピンが訴える国際司法裁判所の判断が近く下るのを意識している。
中国の反応は過剰だった。王毅外相はあえてサミットの初日に当てて、北京で記者会見を開いた。秋に中国で開催する20カ国・地域(G20)首脳会議の意義を訴え、G7に経済論議への特化を要求した。中国メディアも連日「G7は中国、インドなど主要新興国がいない時代遅れの金持ちクラブ」と批判した。
サミットに習近平中国国家主席の姿はない。とはいえ影の主役は習氏、その人。議論した世界経済の減速、パナマ文書に絡む課税逃れ防止は中国も主役だ。G20のテーマでもある。
習氏には今、悩みがある。昨秋、北朝鮮、日本、台湾との関係改善へ相次ぎ特使を送った。中国包囲網を緩めるための秋波だった。
結果は芳しくない。北朝鮮は核実験という恩をあだで返す挙に出た。蜜月関係だった韓国も、中国の反対を無視して米軍の高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)導入に動く。北朝鮮のせいだ。台湾とは歴史的な中台首脳会談にこぎ着けたが、逆効果になり、総統選で大勝した独立志向の民進党政権が発足した。
対日関係は膠着状態だ。中国は南シナ海での日本の動きが気に入らない。それでも習氏は安倍晋三首相と本気でケンカするリスクはとりにくい。東シナ海にも緊張が広がれば、南シナ海との「二正面作戦」を強いられ、中国には不利だ。
もう一つ要因がある。中国の内政だ。「反腐敗」運動を武器に権力を固めたはずの習氏の周辺から不協和音が聞こえる。強権手法、個人崇拝への反発を機に面従腹背の傾向が見える。経済の司令塔、李克強首相と、習氏の経済ブレーンの関係も微妙だ。まさに「内憂外患」の様相である。
安倍政権はこんな事情も頭の片隅に置きつつ、実務的に対中関係を動かす努力をすべきだ。中国はとんがった発言をする半面、国際力学を踏まえて現実的に対処する国でもある。まず懸案の日本での日中ハイレベル経済対話(閣僚級)を早期に実現する必要がある。
(編集委員 中沢克二)
[日経新聞5月29日朝刊P.2]
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