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米ニュージャージー州ローレンスビルで開かれた選挙集会で演説するドナルド・トランプ氏(2016年5月19日撮影)。(c)AFP/EDUARDO MUNOZ ALVAREZ〔AFPBB News〕
右派ポピュリズムを打破する方法 トランプ氏の台頭を招いたエリート層の失敗
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46972
2016.5.31 Financial Times :JBpress
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年5月25日付)
先週の本欄(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46916)で論じたように、ドナルド・トランプ氏の台頭はエリート、特に(ただし、これに限られるわけではないが)共和党のエリートが失敗を重ねてきたことの表れだ。
トランプ氏は、人々の攻撃性や怒りがほとばしる道を作ることに成功している。これは特に目新しい戦術ではない。これまでにも数々のデマゴーグ(扇動者)がこの方法で権力を握ってきた。しかし、デマゴーグは問題の答えを示さない。それどころか、事態をさらに悪化させてしまう。
事態はこれ以上悪化しようがないと思っている人が多いようだが、それは間違いだ。米国だけでなく世界中で、事態は今よりもっとひどくなり得る。トランプ氏が危険なのはそのためだ。同氏は米国の成功の礎(いしずえ)が何であるか、全く理解していないのだ。
トランプ氏は右派のポピュリストだ。ポピュリストは制度を軽んじ、専門的な技術や知識を退け、その代わりにカリスマと無知を持ち込む。右派のポピュリストは外国人も非難する。トランプ氏はその上に「ディール(取引)」というゼロサム的なものの見方も持ち込んでいる。
どの国においても、ポピュリズムの妄想が広まることには不安がつきまとう。例えばイタリアでは、間違った考えを持った人たちに笛吹きの役目を果たす能力をシルビオ・ベルルスコーニ氏が持っていたために、改革の20年間が失われてしまった。しかし、米国のほうが問題は深刻だ。なぜなら米国は、法的拘束力のある関与に立脚した永続的な制度を広めることにより、今日ある世界を形作ってきた国だからだ。
これは米国が超党派で成し遂げたことであり、それによる結果には特に顕著なものが2つある。
第1の結果は、米国が強力な同盟国を有していることだ。中国にもロシアにもそのような同盟国はない。この2カ国はお互いを信頼し合ってもいない。米国に同盟国があるのは米国が非常に強いからでもあるが、それ以上に重要なのは、米国が信頼できる国だからだ。
第2の結果は、米国が永続的な関与を受け入れていることだ。その明らかな事例は、米国の貿易促進の取り組みに見受けられる。米国が貿易を促進してこなければ、ここ数十年における多くの新興国の進歩は起こり得なかっただろう。
世界を商取引の枠組みで考えるトランプ氏が米国の大統領になったら、同盟関係も制度も切り捨ててしまう恐れがある。もしそんなことになれば、今日の経済・政治の秩序は打撃を受けるだろう。下手をすれば崩壊するかもしれない。
トランプ氏やその支持者たちは、米国がこれまでの取り組みや約束を反故にしても無傷で逃げおおせると思っているのかもしれないが、それは間違っている。米国の言うことなど聞くだけムダだということになってしまったら、何もかもが、それも悪い方向に変わってしまうことだろう。
米国の信頼性に対するトランプ氏の無関心はこれにはとどまらない。米国は世界で最も重要な金融資産、すなわち米国債の供給者だ。米国の財政状況は悪化しているため、注意が必要になっている。そんな状況にあって、緊縮財政指向だと思われている党の大統領候補になりそうな人物は果たして何を提案しているのだろうか。
税政策センター(TPC)の試算によると、トランプ氏の(非常に逆累進的な)税制の提案が実行に移されれば、連邦政府の債務は基本的な予測に対して対国内総生産(GDP)比で39%増加するという。これについては大規模な歳出削減が1つの対応策になるかもしれないが、トランプ氏は、だまされやすい支持者たちにそのことは説明していない。
あるいは米国債のデフォルト(債務不履行)が選択されるかもしれない。何しろ、債務を「もてあそぶのが好き」だと公言している人物だ。米国債を割引価格で買い戻すことさえ考えている。だが、そうした「あそび」は、米国がアレクサンダー・ハミルトン初代財務長官以来築き上げてきた信用を台無しにし、世界金融市場を壊滅させてしまうだろう。
トランプ氏は、米国の信用や世界の安定を破壊する政策だと分かっていながら、それを公約にするふりをしている――との説もある。しかし、もしそこまで不誠実な人物だとしたら、彼の限界はどこにあるのだろうか。愚かさなのか、それとも冷笑なのか。そのどちらかだとしたら、どちらの方が悪いだろうか。
決して確実ではないが、トランプ氏が本選挙で敗れる可能性はまだかなりある。そうなるかどうかは、民主党のバーニー・サンダース氏が独立系候補としての出馬を決断するか否かに左右されるかもしれない。しかし、トランプ氏が本選挙で敗れれば、この問題はすべて片がつくのだろうか。議論の余地はあるものの、答えは恐らくノーだろう。
確かに、ポピュリストの盛り上がりはひとまず収束するかもしれない。だが、収束しない可能性もある。無理からぬことだが、世界経済で米国が果たしている役割の正統性は、米国内では損なわれてしまったからだ。
それは世界金融危機のせいでもあるが、多くの米国人の暮らし向きがここ数十年良くなっていないためでもある。これは米国だけの問題ではない。ブランコ・ミラノヴィッチ氏は近著「Global Inequality(グローバルな不平等)」で、アッパーミドル・クラス――高所得国の中間層と低所得層がその大半を占める――はここ数十年、暮らし向きが比較的芳しくないと指摘している。
またプリンストン大学のアン・ケース教授とアンガス・ディートン教授によれば、米国では白人の中年男性の死亡率や罹患(りかん)率が自殺、薬物依存、アルコール依存などのために相対的に悪化している。これは間違いなく、白人の中年男性というグループの人々が自暴自棄になっていることの反映だ。
個人の成功が尊ばれる文化において失敗するのはつらいことだ。このグループの人々がトランプ氏を支持するとしたら、それは自棄になっていることの表れであるに違いない。トランプ氏は彼らのリーダーとして、成功の象徴となっている。筋の通った解決策は一切提供しないが、スケープゴートはちゃんと用意している。
右派のポピュリズムを打倒しようというのであれば、それに代わるものを用意しなければならない。ダートマス大学のダグラス・アーウィン氏によれば、貿易保護主義はニセ薬だ。2000年から2010年にかけて製造業で失われた雇用の85%超は、生産性の向上が原因で失われたものだという。
効き目のある政策としては、最低賃金の引き上げとともに、勤労所得に対する気前の良い税額控除の導入が挙げられるだろう。英国での実績を見る限り、この2つを組み合わせて実施するとかなり高い効果が得られる可能性がある。不法移民に対する怒りも理解できる。これについては、密入国した労働者の雇い主を確実に厳しく罰するべきだろう。
米国の銀行はこれまでに2000億ドルを超える罰金を支払ってきた。しかし、銀行の経営者や従業員が懲役刑を受けた例はほとんどいない。この事実と、(必要だった)金融業界救済とが相まって、この世のシステムは不正直なインサイダーによって搾取されているとの見方が生まれ、世間に広まっている。
もっと根本的なことを言うなら、高所得国において、グローバル化とハイテク化で富を得た勝ち組は負け組に対して責任を感じていないように見受けられる。減税だけですべてが解決するはずはない。何と言っても、システムの正統性はエリートの働き次第であり、そのエリートの働きぶりがお粗末なのだ。
米国が制度と同盟の両方に関与してきたことは正しかった。開放的でダイナミックな世界経済と、大体において協力的な大国間関係とを生み出したことは、今なお偉大な功績だ。しかしエリートたちの強欲さ、無能さ、無責任さのために、ポピュリストが大変な勢いを得てしまった。
トランプ氏の台頭はいわば病気の一症状であり、同氏がこの病気をさらに悪化させることは疑いようがない。もし手遅れでないのであれば、この病気のもっと効果的な治療法を見つけなければならない。
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