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ロシアのアレクセイ・クドリン元財務相(2010年9月20日撮影)〔AFPBB News〕
ロシア経済再建へ、プーチンが放った絶妙手 「最良の財務大臣」との呼び声高いクドリン氏を経済アドバイザーに
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46941
2016.5.26 杉浦 史和 JBpress
2011年9月、ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領との感情的な対立を機に政権を去ったアレクセイ・クドリン氏が公式にウラジーミル・プーチン政権に帰ってきた。
同氏は、4月末、2000年にプーチン大統領の政策を策定したことで知られる戦略策定センターの代表になった。またその直後、プーチン大統領を経済政策の面から支える大統領経済諮問会議の次席となった(議長はプーチン氏)。
クドリン氏はこれらの立場を生かして、2030年までの経済政策を立案する責任者として指名されたのである。
今回は現時点でのクドリン氏の復帰がプーチン政権の経済政策の進路変更を意味することにつながるかどうかについて考えてみたい。
まずクドリン氏とはどんな人物なのか。
■プーチン大統領の「先輩」
クドリン氏はプーチン大統領とはサンクト・ペテルブルクの市庁舎で働いた同僚だった。細かい話だがプーチン氏の市庁舎入り前にクドリン氏は働いており、その意味でクドリン氏はプーチン大統領の先輩である。
またサンクト・ペテルブルクの市庁舎を辞めたプーチン氏がモスクワへ行く際にも、一足先にクドリン氏がモスクワに出ており、この点でもプーチン大統領の先輩だった。
こうしたことから、ロシア語で「Вы(ヴィ:二人称複数、敬意を示すときに使われる呼称)」ではなく「Ты(ティ:二人称単数、気のおけない仲間を呼ぶときの呼称)」と呼び合う中であり、プーチン大統領も一目置かざるを得ない仲間だ。
先述したメドベージェフ前大統領との感情的な行き違いも、事実上プーチン氏の手下である同大統領に偉そうに指示されることに耐え切れなかったことが要因の1つと言われている(その他に軍事費膨張など財政路線を巡る対立もあったとされる)。
いずれにせよ、クドリン氏のプーチン大統領との対等な関係が、誤った経済政策を諫める役割を果たしてくれるのではないかと期待されている。
同氏は2000年から財務大臣を務め、2007年からは副首相も兼務した。この時期はロシアが高い経済成長を記録した時期でもあり、その役割は高く評価されている。
その手腕についてはロシア国内と言うよりも、国外からの評価が多くを物語っている。
金融界の著名な業界紙であるザ・バンカー(The Bnaker)誌で「2005年の(最良の)財務大臣」、ユーロマネー(Euromoney)誌で「2010年の(最良の)財務大臣」に賞された。
これはロシア財政の黒字化に大きく寄与したほか、2004年の安定化基金の創設に関連してインフレの昂進を食い止め、将来の油価の下落を見越した予防的な政策を実行したことが評価された。
そのほか、対外債務の期限前倒し返済の実施、ソ連時代から続いていた社会保障の現物給付の現金化など、国際金融機関の支持してきた政策を着実に断行したことから、西側機関からの信認も厚い。
■反プーチン・デモでは街頭に立つが・・・
2011年に閣外に出てからは学界に戻るとともに在野の活動家として市民イニシアティブ委員会を創設し、プーチン政権の経済政策を批判してきた。安定化基金の使い方や軍事費の膨張に関する警告などである。
2012年の反プーチン・デモでは街頭に立ち批判を行ったものの、プーチン大統領との個人的な関係は断たれていなかったようだ。
もちろん、国内的にはクドリン氏の政策に対する批判も決して少なくない。例えば安定化基金に関する批判だ。批判者は次のように言う。
「ロシアの国民は一部を除きおしなべて貧しい。財政にはお金があり余っているのに、国民のために使われないばかりか、一部は外国に投資しているという。なぜ国内の貧しい人のために使わないのか」
これに対するクドリン氏の回答は以下になる。
「ロシア国民は貧しいかもしれない。でも今あるお金を皆にばらまいてしまえば、お金の必要なときに困ったことになる。第一、与えられたお金が有効に使われ、将来の潜在成長力を引き上げるかどうか分からない」
「有効な使い方をする人を探せば良いというかもしれないが、それでは一部の人のみにお金が与えられ、不公平になるし、彼らが本当に有効に使うかどうかも保証できない」
一方で今回の復帰が、必ずしも政権内への復帰とは言えない点にも注意が必要だ。
彼自身、かつてのように財務大臣となったわけではないし、今回策定されるはずの経済計画が政権内でどのように受け取られ、実行されるかについては全く未知数と言っていい。
その理由は現政権における主導的グループにクドリン氏がどこまで対抗できるか不確定要素が大きいからでもある。
■シロヴィキ対シヴィリキ
プーチン政権における権力中枢は奥の院と見なされる安全保障会議だが、経済諮問委員会のメンバーと言うだけではそこへのアクセス権はない。つまり場外からの対抗となるわけだ。
現状ではプーチン政権はシロヴィキと呼ばれる勢力に支配されていると言っていい。シロヴィキとは言わずと知れた「力の省庁」(軍や内務省など治安機関)に基盤を置く勢力だ。
KGBに所属していたプーチン氏を陰に陽に支えながら、内外の政策を主導してきた。その証拠となるのがウクライナ危機後のロシアが対外強攻策に打って出ている状況と言える。
西側の経済制裁に対して対抗制裁措置を科すというやり方は経済的に見れば合理性に乏しいように思われるが、経済合理性よりも安全保障の観点から国益を追求するシロヴィキらはこの政策を強く支持してきた。
また同時に国民経済に対する国・政府の強い関与を是としており、国家資本主義なる形態が出来上がっており、なかなか市場的な改革は難しい。
これに対して、クドリン氏らが属するのがシヴィリキといわれる勢力だ。
シヴィリキはプーチン氏がサンクト・ペテルブルクの市庁舎に勤務していた時代の文民官僚らで構成されるグループで、法曹関係者やリベラルな経済学者など市民派と呼ばれる勢力である(勢力としてのまとまりはシロヴィキとは比較にならないほど脆弱だとも言われる)。
彼らはロシアの対外強攻策は制裁措置などを通じて最終的にはロシア経済の成長を損なう恐れがあるとして、対外強攻策を回避すべしとの見解を持っていた。
もともとサンクト・ペテルブルクとはピョートル1世が後れたロシアを近代化させるために西側への窓口として築いた都であり、プーチン氏自身も市庁舎では対外経済関係を担当していたのだから、シヴィリキの要素を十分に持っているのではある。
クドリン氏はこの流れでリベラルな経済思想を持ち、健全財政の維持、市場競争の堅持を訴えている。
クドリン氏は今回の復帰を受けて、経済発展計画の策定に臨んでいるが、これは事実上、2018年からのプーチン第4期の政策綱領となるべきものだ。
■予想される激しい抵抗
実際にどこまで採用されるかはさておき、計画策定ではクドリン氏は次の点を考慮すると言っている。
2018年から2024年までの間に経済成長率を年率4%の水準にまで引き上げることを目指すが、そのために成長を妨げている様々な社会的環境の改善に取り組む。
具体的には行政制度や司法制度の改革を進めるべきであり、また投資優遇策をとることにも触れている。
行政制度や司法制度の改革は、シロヴィキの利権の源泉と見なされる部分であり、本気で改革を行えば大きな痛みを伴うものだから抵抗も相当大きなものになるだろう。
具体的に計画がどのような内容になり、どこまでが政権内で採択されるかは今後の動向を見てみないと分からないが、政権内部の多大な軋轢を生むことは間違いない。
それは最終決定権を握るプーチン大統領の覚悟、すなわち政治的意思にかかっていると言えよう。逆にクドリン氏を政権内に取り込むことの影響を見極めるために、現時点では政策アドバイザーという立場にとどめたのかもしれない。
それでもクドリンが政権に戻ってきたことは、西側の経済政策と資源価格の低迷という二重のダメージに苦しんでいる現在のプーチン政権にとって、何らかのプラス効果が期待される。
クドリン氏の復帰はシロヴィキとシヴィリキの力関係に何らかの変化をもたらすのか今後も注視していきたい。
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