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メキシコの首都メキシコ市で行われた「イースター(復活祭)」前の「聖週間」の行事で火を付けられたドナルド・トランプ氏の張り子人形(2016年3月26日撮影)〔AFPBB News〕
「トランプの壁」に騙される哀れな米国人 口から出まかせは明らか、でも信じたい気持ちからトランプ支持
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46847
2016.5.16 堀田 佳男 JBpress
共和党ドナルド・トランプ氏(以下トランプ)が11月の本選挙で勝ったとしたら――。
トランプは、日米同盟を再考して日本から米軍を撤退する選択肢をほのめかしている。さらに日韓両国の核兵器保有の可能性にも言及している。
しかしこれまでの日米関係を多角的に眺めると、トランプ政権が誕生したとしても、日米関係が本質的に変化するとは考えにくい。
先日、フジテレビの朝の番組で私と同席した自民党の下村博文・前文科相は、「トランプ氏が大統領になったら、いま発言しているようなことは起こらない。そんなに簡単に変わらない」と政治家としての経験を踏まえた考えを口にしていた。
■あまりにも低い実現可能性
過去の米大統領の言動を選挙前と選挙後で比較すると、選挙前の発言は「選挙に勝つため」と理解した方がいい。政権発足後、トーンダウンしたり、公約に手をつけなかったりすることがあるのだ。
日米間には実務レベルで、軍事、外交、貿易面において密接な関係が築かれており、大統領が交代したからといって、すぐに大きな変化が訪れるとは限らない。むしろ、大統領の補佐官たちがブリーフィングを繰り返し、大統領の独走にブレーキをかけることの方が多い。
それでも昨年からトランプが断言調に繰り返し述べている公約がある。その1つが「トランプ・ウォール(トランプの壁)」の建設だ。中南米諸国からの不法移民の流入を防ぐため、メキシコ国境に巨大な壁を築くという。
壁の建設は技術的には難しいわけではなく、堅牢な壁を建造できると豪語する。
トランプは子供の頃から、不動産業に携わった父親に建設現場に連れていかれ、多くの建築物を見ている。それだけに壁の建設という観点だけからは問題がないと考えているようだ。
ただトランプ・ウォールの建設の現実性を調べていくと、可能性は極めて低いという結論に行きつく。
まず、米国とメキシコとの境界は1951マイル(3141キロ)もあり、約半分にあたる1000マイル(約1600キロ)に壁を建設するにしても、途方もない事業である。半分の長さであっても万里の長城と比較できるほどの建築物になる。
大統領が新しいコトを始めるとき、米国には大統領令(エクゼクティブ・オーダー)という行政命令がある。行政府の長である大統領が持つ特権だ。リンカーン大統領が出した奴隷解放令はその1つだ。
しかし、トランプ・ウォールの建設は大統領令で済まされるレベルではない。莫大な国家事業になるため、連邦上下両院で法案として成立させる必要がある。
ホワイトハウスは法案を議会に提出できない決まりがあるため、トランプ・ウォール建設に賛同する議員が法案を出すことになる。
■壁の高さ1つ決められない
トランプがこうした基本的事実を知っているかどうかは定かではない。仮に上下両院の共和党議員が法案を提出したとしても、成立する保証はない。
というのも、トランプは建設費をメキシコ政府に捻出させると繰り返し述べており、コスト面でのハードルが大きい。メキシコ政府はもちろん費用を負担するつもりはないと明言している。
トランプ自身による建設費の見積もり額(今年2月)は80億ドル(約8700億円)。「メキシコ政府に50億ドルから100億ドルの1回払いで負担させる。大した金額ではない」と豪語している。
トランプがいくら交渉に長けていても、メキシコ政府が「イエス」という返事をする可能性はほぼゼロに近い。メキシコにとって米国は最大の貿易相手国だが、望まない建築物のコストを押しつけてくるほど国家主権を蹂躙した身勝手な言い分はない。
トランプはまた「トランプ・ウォール建設計画」の青写真がいまだに描けていない。選挙期間中、壁についての言及は一貫しているように思えるが、実は二転三転している。
例えば、壁の高さがが定まっていない。昨年8月、トランプ・ウォールの高さは「30フィート(9メートル)」と言った。だが今年2月9日、「40フィート(12メートル)」に変更し、2月12日には「50フィート(15メートル)」と段階的に高くなっている。
そしてスーパーチューズデー直前の2月25日には「80フィート(24メートル)」にまで跳ね上がった。
数字の変化を見るだけで、トランプがいかに感覚的に発言しているかが分かる。ちなみに、24メートルという高さは一般的なビルの9階から10階に相当する。
それだけ高い壁を国境に建設するとなると、法案を作成・審議する過程で関係省庁との現実的な折衝が不可欠となる。
■ブッシュ政権でフェンス敷設は始めたが・・・
実際に建設の指揮をとることになる国防総省(ペンタゴン)陸軍工兵司令部との連携はもちろん、税関・国境警備局との協力は不可欠だ。さらに国土安全保障省、労働省、運輸省、農務省とも協力体制をとる必要がある。
また高い壁だけに、環境保護庁が国境付近の生態系への影響を憂慮して反対してくるだろう。
実は2006年、ジョージ・W・ブッシュ政権時代、壁ではなくフェンスを国境に造る法案が連邦上下両院で通過した(Secure Fence Act of 2006)。この時は上下両院の多数党が共和党で、しかも超党派で法案は可決された。
しかしフェンスの建設工事が始まっても、完成はしなかった。というのも、当初予算は12億ドル(約1300億円)だったが、実際は約5倍のコストが必要であることが判明したからだ。
トランプが造ろうとしているのはフェンスではなく厚い壁である。80億ドルではたぶん済まないだろう。
実は国境の一部で、フェンスはできている。しかし本気で米国に入国するつもりの不法移民は別ルートを探したり、長いトンネルを掘ったり、何らかの方法で入国を果たすことが多い。
そのため物理的に長城を築いたとしても、「壁の向こう側に行く」意志が強ければ思いは達成できるということである。こうした点を考慮すると、トランプ・ウォールの意義はかなり低下する。
米国でトランプを取材している時、「トランプ・ウォールの実現可能性が低いことを彼は知っている」と感じた。というのも、4月26日の予備選が終わってトランプが共和党の代表候補になることがほぼ決まった時、ニュース番組に出演して言ったのだ。
「(過激な発言を繰り返していなかったら)、いま私はここにはいなかった」
コメントの意味は大きい。既存の政治家のように有権者に好感の持たれる発言だけでは他候補との違いを示せなかったばかりか、暴言が選挙用のレトリックであることを自ら認めた瞬間だった。
トランプ・ウォールを本気で造るつもりはないのかもしれない。何しろ、トランプにとって過去の発言を撤回することなど何でもないのだから。
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