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英国がEUを離脱すると大打撃を被るドイツのメルケル首相。ベルリンで4月20日撮影(写真: ロイター/Hannibal Hanschke)
ドイツが英国のEU残留を切望するワケ 政治・経済の両面で失うものが多すぎる
http://toyokeizai.net/articles/-/117308
2016年05月14日 クレメンス・フュースト :独IFO経済研究所所長 東洋経済
原文はこちらhttp://toyokeizai.net/articles/-/114928
6月23日、英国で欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が行われる。仮に離脱となれば、政治および経済への影響はEU全域に及ぶだろう。
欧州一の大国ドイツにとっての影響は特に深刻だ。現在英国のEU離脱に対するドイツの世論は分かれている。仮に離脱すればEUのリベラルさが衰退すると懸念する人もいれば、自国にだけ特別なEU加盟の形態を認めるべきとする英国の生意気さに腹を立て、離脱を望む人もいる。だが経済的影響に話を絞れば、ドイツが失うものは多く、得るものはほとんどない。
理由は大きく三つある。第一に、英国が離脱すれば多国籍企業による投資の流れに変化が起き、ドイツも影響を免れないためだ。英国に拠点を持つ外国企業は、EUにおける拠点を維持しようと英国から撤退するだろう。英国からの撤退企業は、必ずしもドイツに向かうわけではない。むしろ多くの米国企業は隣国のアイルランドに移るはずだ。
■離脱しても英独の証取合併は進む
一方、英国はEU内に拠点を必要としない投資を引き付けようと、規制緩和や減税を自由に行うことができる。こうした動きにより、企業や投資家にとってのドイツの魅力はさらに弱まるだろう。
第二に、英国がEUから離脱すれば、金融センターとしてのフランクフルトの重要性が揺らぐからだ。英国はユーロ加盟国ではないが、ロンドンは今、欧州における金融センターの座を確固たるものにしている。フランクフルトに欧州中央銀行(ECB)があっても、それが必ずしも金融業の発展に不可欠な要素ではないことを示している。
ロンドンから金融業務を奪うため、EUに対しては何らかの規制措置を講じるよう圧力が強まるだろう。が、それが奏功するかは不透明だ。すでにドイツ取引所とロンドン証券取引所は、英国の国民投票の結果にかかわらず、計画中の取引所合併を進めると発表している。
仮に金融センターとしてのロンドンの重要性が低下しても、ロンドンの金融業務の一部はニューヨークや香港など、欧州以外の金融センターに移るだろう。それがEU内に移ったとしても、パリのようなフランクフルトのライバルにさらわれる可能性もある。そうなるとドイツにとっての打撃は変わらない。
英国のEU離脱がドイツ経済にマイナスの影響を与える第三の理由は、輸出業者が打撃を受けるからだ。2015年にドイツの対英貿易黒字は570億ドルを超え、輸出額は約890億ドル、国内総生産(GDP)の約3%に上った。ほかに対ドイツが貿易黒字となっている国は、フランスと米国だけだ。英独の2国間貿易に何らかの支障が生じれば、影響はドイツ産業全般に及ぶ。
実際には貿易や資本の流れがどう影響を受けるかは、EUと英国が交渉している離脱協定次第といえる。仮に英国がノルウェーやアイスランドのように欧州の域内市場の一部にとどまれば、経済的な打撃は限定的となろう。しかし残念ながら、そうなる公算は小さい。
■政治面でも自由貿易推進に逆風
英国のEU離脱は経済だけでなく、当然ながら政治的影響も大きい。欧州統合にとって大きな後退となるからだ。残された加盟国が安全保障および外交上の政策に関して合意することは容易になるかもしれないが、自由貿易を推進するドイツとしては、逆風にさらされる。
現在EUには、自由貿易に好意的な見方を持つ陣営が、ドイツを除くと欧州理事会の32%の票を握る。可決のラインとなるのは35%であり、8%の票を持つドイツの判断が重視される。しかし英国が離脱すれば、ドイツを合わせても34%にとどまるため、ドイツの政治的影響力が低下することになるのだ。
ドイツにとっては自国の影響力を左右する事柄だけに、英国の判断に関心が集まっているのである。
(週刊東洋経済5月14日号)
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