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ネタニヤフと“エネルギー・チェス”をするプーチン
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2016年5月12日 マスコミに載らない海外記事
F. William Engdahl
2016年5月4日
NEO
4月21日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との非公開会談のため、モスクワを訪問した。マスコミは、会談は、軍事衝突の可能性を避けるべく、モスクワが設けたある種の定期的ホットライン対話の主題、シリアにおける状況を巡るものだったと報じた。ところが、両者は、東地中海にあるイスラエルの巨大なレビヤタン海洋ガス田開発へのロシア参加の可能性という全く別の話題を話あったように見える。もし両国の合意がまとまれば、中東における、プーチンと、ロシアの戦略的な役割にとっても、地域におけるアメリカの影響力の将来にとっても、その地政学的含意は桁外れなものとなりうる。
イスラエルのマスコミは、ネタニヤフ-プーチン会談は、“戦争で疲弊したシリア上空での両国空軍の調整と、ゴラン高原の状態…”に関するものだと報じている
ところが、ロシアの国営報道機関の記事によると、更にネタニヤフとプーチンは、世界最大の天然ガス生産者で、販売業者でもあるロシア国営ガスプロムが、イスラエルのレビヤタン天然ガス田における利害関係者としての役割の可能性を話し合った。ロシアがこう着状態のイスラエル・ガス開発に参加すれば、海洋ガス田操業における、イスラエルの財政リスクを引き下げ、レバノンのヒズボラやイランなどのロシアの同盟者は、ロシアの合弁事業を標的にしようとはしないだろうから、ガス田の安全保障も高めることになる。
もしロシアの報道が正確であれば、これは、プーチンの中東におけるエネルギー地政学にとって、世界の石油とガスの中心地を支配しようという益々不手際な動きの中で、アメリカ政府が大敗北をあじあわせる新たな大きな一歩となりうる。
ロシアの関心
多くの外部の観測筋は、プーチンが長年にわたるアメリカ同盟者ネタニヤフと、そのような対話をするのに驚くだろう。この背後には非常に多くの要素がある。一つは、ネタニヤフ政権閣僚を含め、イスラエルに在住する100万人以上のロシア人が存在しているおかげで、ロシア大統領が持っている影響力だ。より重要なのは、2015年、猛烈なネタニヤフの抗議にもかかわらず、オバマ政権がイランとの核協定を進めて以来、アメリカ政府とイスラエル政府の関係は、控えめに言っても、冷却したことだ。
状況はプーチンとロシアによって巧妙に作り上げられた。
アメリカ政府は、トルコのレビヤタンからの大型購買契約、イスラエル海洋ガスの大手顧客になる契約を含め、ネタニヤフと、トルコのエルドアン間の政治的和解を強制したがっている。アメリカ政府にとって、それは、現在60%以上ものトルコのロシア・ガス輸入に対する依存を引き下げる。見返りに、イスラエルは、アメリカ政府の承認を得て、トルコに、先進的イスラエル軍装備品を輸出することに同意するというものだ。
ところがトルコとイスラエル間の二国間会談は、多数の差異を巡って、行き詰まっていると言われている。そこで、ロシアが参入するチャンスが現れたのだ。
シリアから軍の一部を撤退させるという驚きのロシア決断後、3月16日に、プーチンが、イスラエルのルーベン・リブリン大統領をモスクワに会談に招いた。重要なのは、この訪問が、個人的には、大統領と意見が食い違うことが多いネタニヤフによる承認を得ていた点だ。目的の一つは、明らかに、ネタニヤフのモスクワ訪問を根回しすることだ。
ゴラン、レビヤタン、トルコ
全中東と、さらにそれを越える地域にとって、いちかばちかの地政学的賭けとなる、プーチンと、ネタニヤフとの間の複雑な現実政治の交渉が行われているのだ。
現在、見える要素の中には、イスラエルの巨大海洋レビヤタン・ガス田の天然ガス開発と、マーケティングに対するガスプロムの提携と投資の可能性がある。ロシアとイスラエルとの間での、イランが支援するヒズボラや、ゴラン高原からのシリア軍からの攻撃に対する、ある種のイスラエル安全保障の約束も含んでいる。アメリカ政府が希望している、エルドアンのトルコに対する、ガスと武器の輸出、つまり、ガスプロムと、トルコに対するロシアの影響力を弱体化するはずの取り引きを、イスラエルが撤回するという取り引きも含まれている。
イスラエルのレビヤタン
まずはレビヤタンだ。2010年末、イスラエルが、排他的経済水域(EEZ)だと宣言する場所で、素晴らしい“超巨大”海洋ガス田発見を発表した。地質学者が、それはレバント、あるいは、レバント海盆と呼ぶ場所にある。発見されたものは、ハイファ港の西、約134キロ、深さ4.8キロにある。彼らはそれに、聖書に出てくる海の怪獣にちなんで、レビヤタンという名をつけた。デレク・エナジーが率いる、イスラエル・エネルギー企業三社が、テキサス州ヒューストンのノーブル・エナジーと協力して、ガス田は、16兆立方フィートを埋蔵しているという最初の推計を発表したが、これはこの十年の間に発見されたものの中では、世界最大の深海ガス田だ。イスラエルが 1948年に、建国されて以来初めて、イスラエルはエネルギーを自給自足でき、主要ガス輸出国になる可能性がでてきたのだ。
約5年、ないしそれ以上の昔から、現在まで、早送りしてみれば、世界と、主要エネルギー地政学の当事者としてのイスラエル参入は、全く違って見える。2014年末以来、石油と天然ガスの世界価格は劇的に崩壊し、本格的回復の兆しはほとんどない。
イスラエルの内政が、更に、レビヤタン開発に対する規制当局の承認を阻止してる。 3月28日、イスラエル最高裁判所は、海洋ガス田開発を遅らせる恐れがある天然ガス業界の規制変更を凍結するというネタニヤフ政権の提案を阻止した。裁判所は、10年間は、規制の大きな変更を妨げるはずの“安定性”条項提案に反対したのだ。承認された政府の枠組みが無いことで、レビヤタン開発は遅延した。ノーブルと、イスラエルのパートナー、デレク・グループ社は、レビヤタンの二大主要利害関係者だ。
2012年の、かつてのロシアによるレビヤタン参加の試み以降、変わったのは ネタニヤフ政権とオバマ政権が、イランや他の様々な問題を巡って、良好な関係とは到底言えないという事実だ。世界の石油とガス市場も不況で、イスラエルには、レビヤタンを開発するための主要外部投資家が早急に必要になった。
現在、テキサス州ヒューストンの企業、ノーブル・エナジーは、長年の最悪な石油業界不況のさなか、過去二年間のエネルギー価格崩壊による悪影響を感じて、難局を切り抜けるため、様々な国際プロジェクトの株売却を検討している。
2015年10月、イスラエル情報筋が、ウラジーミル・プーチンが、イスラエルで始まったばかりの海洋ガス開発へのガスプロムの参加を再提案したと報じた。有力なイスラエル人ジャーナリスト、イュード・ヤーリによれば、プーチンは、巨大で金のかかるレビヤタン・プロジェクト合弁事業の株を保有し、ガスプロムが、イスラエルの天然ガス部門に参入するというロシアの関心が復活したことを表明した。イスラエル・中東政治に精通している人物と見なされているヤーリは、前回2012年、ガスプロムとの取り引きに反対したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は現在2012年の姿勢を考え直しているとも述べた。
2012年 ガスプロムは、レビヤタン株の30%を買うのに一番札を入れた。レビヤタンのノーブル・エナジーのデレク・エナジーが率いるイスラエル側パートナーは、当時、必要な資金、ノウハウ、そして、ガス貯留層の潜在能力をできるだけ早急に全面活用するためのコネが足りないので、戦略的パートナーを迎え入れることに決めていた。
天然ガス液化(LNG)工場建設を含む、発見されたガス田開発の費用だけでも、100-150億ドルと推計されている。当時、レビヤタン・ブロック所有者たちの間で意見が割れていた。イスラエル億万長者イツハク・ツューヴァのデレク・グループは、同社の地政学的な力や、世界的なマーケティング力を考慮して、ガスプロムと取り引きをすることに熱心だった。アメリカを本拠とするノーブル・エナジーは反対したが、アメリカ政府にそうするよう勧められた可能性が高い。ガスプロムはこの入札では負けた。
2015年10月、ロシアのシリア軍事介入が始まってから一カ月後、シドニーを本拠とする新聞オーストラリアンに、プーチンが、最近、ネタニヤフに、レビヤタン取り引きと引き換えに、“ヒズボラやハマースの挑発行為による、[イスラエル]ガス田に対する挑発が決して行われないようにするつもりだ”と語ったとヤーリは述べた。シリアにおける、ロシアの最近の軍事的な役割を考えれば、これは明らかに、空約束ではない。
トルコとイスラエル
ロシアとイスラエル間のエネルギーと安全保障に関する極めて重要な取り引きとなる可能性があるものの、もう一つの要素は、ガスプロムからのレビヤタン投資と、イスラエルの海洋エネルギー・プロジェクトに対するロシアの安全保障を選択して、アメリカが支持するトルコのエルドアンとの交渉をやめるという、イスラエルの同意だ。
今年3月始め、アメリカ政府のネオコンが、特別な利権や協定を欲しがっている地域に現れる不気味なコツを持っているアメリカのジョー・バイデン副大統領が、ネタニヤフと会談するため、テルアビブに出現した。両者の非公開会談後、イスラエルの主要日刊紙ハアレツによると、バイデン、ネタニヤフに、ガスプロムのガスを置き換えるべく、イスラエルのレビヤタンのガスをトルコに送ることになる契約をエルドアンとまとめるよう圧力をかけた。バイデンは、NATO加盟国トルコに先進的兵器を輸出するよう、イスラエルに圧力をかけた。
以来、イスラエルとトルコ間で継続中の秘密会談では、具体的な成功はない。イスラエル・マスコミに、ここ数週間、イスラエルとトルコの間のいかなる緊張緩和の前提条件として、イスラエルに対するテロ活動の命令を出しているとイスラエルが主張しているトルコのハマース指揮所を、エルドアンが閉鎖するよう、イスラエル軍が何度も要求していると、イスラエル国防大臣モーシェ・ヤアロンはイスラエル軍を代表してのべた。トルコは同意していない。イスラエル軍は、気まぐれなエルドアンとのいかなる協定より、ロシアとの軍事協力を維持する方を好んでいると報じられている。
ネタニヤフとバイデン会談のわずか数日後、プーチンが、直接ネタニヤフではなく、より外交的に、イスラエルのリブリン大統領に招待状を送ったのが決して偶然でないことは明白だ。
リブリンは、両国間の外交関係修復25周年の式典という口実で、モスクワに招かれた。レビヤタンへの、ガスプロム参加と、諮問委員会にディック・チェイニーや、ロスチャイルド男爵などの名前がある、疑わしいほど良いコネを持ったアメリカのエネルギー企業ジェニー・エナジーが、イスラエルの子会社経由で巨大な油田を発見したと主張するイスラエルが占領しているゴラン高原の将来を主要な話題とする、最近のモスクワでのプーチン-ネタニヤフ会談を準備する慎重な裏ルートとして、彼が動いていたのは明らかだ。
イスラエルのゴラン高原永久占領に対する、アメリカのオバマ大統領の支持を得るという最近のネタニヤフの努力は、無視されたと報じられている。オバマとの会談時、アメリカを本拠とするジェニー・エナジーのイスラエル子会社による、膨大な石油油田発見の報告を、ネタニヤフが心の底に持っていた可能性が高い。
モスクワでの会談で、リブリン大統領は、イスラエルは、ヒズボラや他のイランの支援を受けた組織が、戦争で疲弊したシリア国内の混乱と、ゴラン高原での力の空白につけこんで、国境近くに対イスラエル攻撃の為の基地をつくることが決してできないようにするよう願っているので、イスラエルとシリア間に、ゴラン高原で、国連兵力引き離し監視軍の駐留の復旧を支援して欲しいとプーチンに要請した。最近の戦闘で、国連は撤退を強いられていた。
明らかなのは、モスクワ、テルアビブ、アンカラ、アメリカ政府、アメリカのエネルギー企業、イスラエル・エネルギー企業や、ロシアのガスプロムの全員にとっては、究極的な地政学的な利害関係は膨大ということだ…
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著書で、オンライン誌“New Eastern Outlook”に独占的に寄稿している。
記事原文のurl:http://journal-neo.org/2016/05/04/putin-plays-energy-chess-with-netanyahu/
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