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米インディアナ州の共和党予備選で勝利したことを受けて、米ニューヨークで演説するドナルド・トランプ氏(2016年5月3日撮影)。(c)AFP/Jewel SAMAD〔AFPBB News〕
トランプはパックス・アメリカーナを引き裂く 各国政府の最悪の悪夢をも超えるシナリオ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46794
2016.5.10 Financial Times :JBpress
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年5月6日付)
世界中の国の首都で、米国について2つのことを聞かされる。1つ目は、米国はもはや、かつてのような超大国ではないということ。2つ目は、各国政府は米国の大統領選挙の結果を見届けるまで、重要なことをすべて保留しているということだ。
さて、ここに3つ目を加えるといい。ドナルド・トランプ氏が大統領になることは、自分たちの最悪の悪夢をも超える惨事だ、ということだ。
米国の衰退主義はかねて誇張されていた。米国は今も唯一の超大国であり、世界中ほぼどこでも介入する力を持った唯一の国だ。米国は強大な同盟システムの頂点に立っている。過去10年ほどで変わったことは、今では一定の抑制が働く点だ。国際的にはパワーバランスが、国内では政治的なムードが変わっているからだ。
それでも米国に匹敵する国は存在しない。仮にあるとしても、中国が米国の軍事的なリーチや技術的な力と肩を並べるようになるまでには数十年の歳月がかかるだろう。米国は欠くことのできない世界秩序の守護者だ。だから、そう、誰にホワイトハウスの主になってほしいかを決めるのは米国人だが、その選択は米国人以外のすべての人にとっても、とてつもなく重要な意味を持つ。
トランプ氏が推定上の共和党候補になった今では、その重要度はいまだかつてないほど大きい。予備選での同氏の勝利については多くのことが言える。エイブラハム・リンカーンの「グランド・オールド・パーティー(GOP、共和党の呼称)」が自己破壊をもたらす張本人になったこと。不動産デベロッパーからリアリティーテレビのスターに転じた人物が、多くの米国人にとってグローバル化の物語と化した生活水準の低迷と文化的な疎外感に対する不安と怒りの高まりを利用したこと。そして悲しいかな、メディアがトランプ氏のことをおいしい興行的エンターテインメントとして扱うことで、そのプロセスに半ば加担したこと――。
また、民主主義世界全体で、右派、左派双方のポピュリスト的政治家が、似たような旋律を奏でていることも事実だ。フランス国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首はトランプ氏と同じイスラム嫌悪を推進している。ドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も同様だ。英国では、「ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)」陣営が自分たちの大陸から自国を引きはがすために、政界エリートに対する国民の敵意を当てにしている。
政治はさまざまな出来事に適応する傾向がある。今、衝動に駆られるのは、「実際にはそれほどひどい事態にはならないかもしれない」と言うことだ。大統領候補というものは、予備選の間は支持基盤に向けてアピールするが、その後は中道に進路を戻すのが常で、トランプ氏も何ら変わらない、というわけだ。
だが、問題は、この候補はほかと違うことだ。推定候補のトランプ氏は保守主義者ではないし、共和党員ですらない。同氏の政策要綱は、左派の経済ポピュリズムと異様なほど醜い右翼ナショナリズムを織り交ぜている。トランプ氏の外交政策として通るものは、好戦的な孤立主義と表現するのが最も適切だ。メキシコを壁で囲み、イスラム教徒の米国入国を禁じる――このような政策は、簡単に取り消せるものではない。
ああ、共和党の守旧派がこれに応じ、「トランプ氏は11月に勝てない」と言う声が聞こえてくる。同氏は女性の70%、それ以上に高い割合のヒスパニック系、アフリカ系米国人を敵に回した。彼個人の不支持率は計り知れないほどだ。だから、基本的な算数に従えば、トランプ氏は敗北を余儀なくされる。
共和党のエスタブリッシュメント(支配階級)が本当に心配しているのは、トランプ氏が党を道連れにすることだ。民主党はすでに、上院の主導権を取り返す見込みがある。トランプ氏は下院を明け渡すことになりかねない。
確かに、共和党がトランプ氏を指名候補に選ぶことと、米国人が同氏をホワイトハウスの主に据えることは、まるで別の話だ。しかし、だ。もし予備選から得られる教訓がもう1つあったとすれば、それは敵対勢力が一貫してトランプ氏を過小評価した、ということだ。
また、もう1つ目を引くのは、共和党――トランプ氏に最も当惑させられている人々――が民主党のライバルよりも、トランプ氏が大統領選に向かう途中で自滅することを確信しているように見えることだ。ヒラリー・クリントン氏は、十分な資質を持った大統領になるだろう。だが民主党は、それでクリントン氏が良い候補になるわけではないことを知っている。
さて、トランプ氏の外交政策に戻ろう。そのうたい文句は、米国を再び偉大にすることがすべてだとされている。米国はもう、煮え切らないことはしない。米国の敵、特に「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」は、何に襲われたのか分からないほど瞬時に大きな打撃を受けるという。トランプ氏の本では、予測不能性は強さだ。
だが、トランプ氏は何より、昔ながらの孤立主義に悪びれもしないナショナリズムを添えることになる。同氏は、欧州とアジアの米国の同盟国に費用を払わせたいと思っており、払わないなら、米国が軍隊を母国に引き揚げるのを見るしかないという。また、日本や韓国といった国々が東アジアの不安定さに対応し、自ら原子力爆弾を建造しても構わないと思っている。
トランプ氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の称賛者だ。米国の企業と雇用に損害を与えていると見なされる貿易協定――これは、ほぼすべての貿易協定を意味する――は破棄され、中国からの輸入品には新たな関税が課される。
これをすべて足し併せると、トランプ氏は事実上、第2次世界大戦の終わりに米国によって築かれたグローバルな建造物の解体を提案している。その根底をなす前提は、「パックス・アメリカーナ(米国による平和)」は完全に利他的な冒険であり、寛大な米国が恩知らずの世界に贈った国際秩序だった、ということだ。
厳然たる現実は、もちろん、こうした規則と制度機構は、米国の国益を国際システムに埋め込んだということだ。米国の繁栄と安全は、圧倒的な世界的大国であることと切り離すことができない。だからこそ、中国とその他の台頭する国家は今、システムの管理に対してもっと強い発言権を求めているのだ。
荷物をまとめて自国に帰ることで、これをすべてひっくり返せば、米国の力を大いに衰えさせるだろう。その決断は米国人の手中にあるが、そのような選択はすべての人に悪い結果をもたらすことになる。
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