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アメリカに社会主義は実現可能か?
ニューヨーク決戦の舞台裏
2016年04月25日(月)海野素央 (明治大学教授、心理学博士)
投票日当日のエンパイアステートビルは民主党と共和党のカラーである青と赤でライトアップされた
今回のテーマは、「クリントン支持者VS.サンダース支持者」です。民主・共和両党の候補指名争いにおけるニューヨーク決戦はヒラリー・クリントン候補と不動産王ドナルド・トランプ候補が、それぞれ勝利を収めました。クリントン候補は100万票以上を獲得し、その数はトランプ候補を含めた3人の共和党候補の合計の得票数を上回ったのです。クリントン候補は、ニューヨーク州のように民主党員のみが投票できる州では強さを発揮しますが、サンダース支持者が多い無党派層が参加する州になると苦戦を強いられます。
本稿では、第1に、ニューヨーク市マンハッタン区におけるクリントン陣営の戸別訪問について説明します。第2に、戸別訪問から得た有権者の声の一部を紹介します。第3に、ニューヨーク州民主党候補指名争いの結果から見えたクリントン陣営の課題について述べ、そのうえでどのようにしてそれを解決できるのかについて議論していきます。
NYCマンハッタン区における
クリントン陣営の「戸別訪問」
8番街で戸別訪問を実施する筆者(@ニューヨーク市マンハッタン区チェルシー)
クリントン陣営は、ニューヨーク市マンハッタン区に戸別訪問の拠点を5つ設け、地上戦に力を入れていました。その内、2拠点は米国国際サービス従業員労働組合(SEIU)と米国教員連盟(AFT)の建物の中にあり、労働組合員と協力して戸別訪問を実施したのです。
周知の通り、マンハッタン区には高層ビル及びアパートが数多く林立し、入口がオートロックになっているために暗証番号を入力しないと建物の中に入って戸別訪問を行うことがでません。そこで、クリントン陣営では、従来の戸別訪問ではなく、街頭で有権者に声をかけてクリントン支持者を発見し、パンフレットを配布するという作業を行ったのです。同陣営ではこれを「戸別訪問」と呼んでいました。
前述しましたように、ニューヨーク州民主党予備選挙では登録した民主党員のみが投票できます。まず、「あなたは民主党員ですか」と声をかけ、歩行者の中から民主党員を探し出します。次に、クリントン陣営のパンフレットを民主党員に見せて、「あなたの票に頼ってもいいですか」と質問をします。「はい」と回答したクリントン支持者にはパンフレットを配布し、決めかねている有権者に対しては説得を行います。バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州)の支持者の中には、筆者を説得しようとする若者がいました。もちろん、サンダース支持者にはパンフレットを配布しません。
筆者はニューヨーク市マンハッタン区8番街とウエスト25ストリート及び26ストリートの角に3日間立ち、戸別訪問を実施しました。この地域は「チェルシー」と呼ばれ、リベラルな有権者、中間所得者層並びに同性愛者が多く住んでいます。以下で、戸別訪問で得た有権者の声の一部を紹介しましょう。
ニューヨーカーの声
現実VS.非現実 クリントン支持者
ニューヨーク州予備選挙前日のヒラリー・クリントン候補と筆者(@ニューヨーク市ヒルトンミッドタウン)
・「サンダースは非現実的です。共和党が議会を支配しているので彼が主張している法案は通過しません。ヒラリーの方が、議会と取引ができると思います」
・「サンダースは空想の世界に生きています。公立大学の授業料無償化は非現実的です。彼はたくさん約束をしますが、どうやって遂行するのか説明をしていません。単に有権者が聞きたいことを語っているのです」
・「サンダースには政策を遂行する具体的な計画がありません」
・「サンダースはあまりにも理想的です」
ニューヨーク市マンハッタン区チェルシーにある投票所ナンバー33(筆者撮影@ニューヨーク市マンハッタン区チェルシー)
繰り返し述べてきましたように(「トランプとサンダース ポピュリスト旋風は続かない 」)、サンダース上院議員とトランプ候補には、種々の共通点が存在します。たとえば、同上院議員と同候補は、職業政治家、エスタブリッシュメント(既存の支配層)及びワシントンにいる連邦上下院議員や知事といったインサイダーを攻撃します。北米自由貿易協定(NAFTA)並びに環太平洋経済連携協定(TPP)に反対の立場をとっている点も類似しています。筆者の戸別訪問によれば、同上院議員と同候補は無党派層から支持を得ており、彼らが投票できる州では選挙を有利に戦います。
投票を済ませた有権者がつけるシール(筆者撮影@ニューヨーク市マンハッタン区チェルシー)
それらに加えて、サンダース上院議員とトランプ候補には具体的な計画がなく、政策が非現実的なのです。クリントン支持者には、サンダース上院議員の目玉政策である公立大学授業料の無償化及び、トランプ候補が提案している国境の壁並びにイスラム教徒米国入国全面禁止は、実現不可能な政策であるという認識が強いです。
ウォール街VS.反ウォール街 サンダース支持者
サンダース支持の看板とエンパイアステートビル(筆者撮影@ニューヨーク市マンハッタン区)
・「私はウォール街の大手金融機関解体に賛成です。ゴールドマン・サックスからもらったヒラリーの1回の講演料は、22万5000ドル(約2450万円)です」
・「政府は大企業に乗っ取られています。バーニーはそれを変えようとしています」
・「ヒラリーは石油業界から献金を受けています。しかも彼女はバーニーよりもタカ派です。あなた(筆者)は誰を応援するべきか、よく考えてみなさい」
・「ヒラリーは製薬会社や金融機関から大口献金を受けています。私はサンダース陣営に25ドルの献金を2回しました。サンダース陣営の献金の平均は27ドルです」
戦争反対のサンダース支持者(筆者撮影@ニューヨーク市マンハッタン区チェルシー)
・「サンダースか、クリントンか、私にはとても難しい選択でした。私は女性ですが、サンダースに投票してきました。大手金融機関解体に賛成だからです。大手金融機関や製薬会社はパワーをもっています。私は大企業に反対です。サンダースに投票することによって大企業にメッセージを送りました」
・「ヒラリーは、ウォール街から大口献金を受けています。彼女は大企業の味方です。バーニーは、一般の人から小口献金を受けています」
サンダース上院議員は、演説や討論会でクリントン候補の講演料及びウォール街の金融機関からの献金について繰り返し言及してきました。その狙いは明らかです。クリントン候補と中間所得者層を切り離すことにあるのです。
資本主義VS.社会主義
投票所ナンバー33の傍で、100ドル紙幣が印刷された服を着てクリントン候補とウォール街の関係を批判する女性
○クリントン支持者
・「サンダースは社会主義者です。社会主義はもう過去の話です」
○サンダース支持者
・「サンダースは全ての人のために戦っています。公立大学の授業料を無償化するためなら、私はもっと税金を払っても構いません。社会主義は問題ありません」
・「公立大学の授業料無償化に賛成です。国民皆保険も必要です。富裕層から貧困層まですべての人が保険を持つべきです。最低賃金15ドル値上げにももちろん賛成です。ヒラリーは資本主義者です。私は、民主社会主義者です」
・「私は資本主義と社会主義のハイブリッドに賛成です」
サンダース上院議員を支持する若者は、社会主義に対して抵抗が少なく、肯定的に解釈します。一方、クリントン候補の支持者は冷戦時代を経験した高齢者の女性が多く、社会主義には否定的な固定観念を持っている傾向があります。この相違が、民主党内で世代間の溝を深めているのです。
リベラルVS.中道
○サンダース支持者
・「バーニーがヒラリーを中道からリベラルな方向に引っ張っていったのです。ヒラリーは右寄りでビル(クリントン元大統領)と似ています。ビルは共和党の立場に賛成しました。たとえば、北米自由貿易協定に署名し、犯罪には厳しい立場をとりました。それによって、共和党と民主党の対立の構図が明確でなくなってしまったのです。私はビルとヒラリーに強い不満を持っています」
・「バーニーは高い目標を掲げており、ヒラリーよりも進歩的です。たとえば、最低賃金を15ドルに値上げしようとしています。実際に目標を達成できるのか分かりませんが、私は高い目標を掲げているバーニーを支持します」
・「ヒラリーはまるで共和党候補のようです。私にはかなり右寄りに見えます。それに対してバーニーはリベラルです」
リベラル色の強いサンダース支持者には、クリントン候補は右寄りでタカ派に映っています。ニューヨーク州民主党予備選挙で、サンダース上院議員はクリントン候補に大敗したものの、米CNNテレビの出口調査によれば「非常にリベラル」な有権者においては同候補に12ポイントの差をつけました。
ただ、チェルシーで実施したヒアリング調査によれば、仮にクリントン候補が民主党の指名を獲得した場合、大抵のリベラルな有権者は本選で同候補に投票をすると語っていました。というのは、サンダース支持者は、トランプ候補及びテッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州)はかなり右寄りであると強く認識しているからです。トランプ候補かクルーズ上院議員のどちらかが共和党候補指名争いを勝ち抜くと、クリントン陣営とサンダース陣営に対して共通の敵が出現することになります。それが、両陣営を統一する要因になる可能性が高いと言えます。
文化的多様性VS.単一性
ニューヨーク州で配布したクリントン陣営のパンフレット。アフリカ系の女性の若者を標的にしている(筆者撮影)
○クリントン支持者
・「私はヒラリーに投票してきました。ヒラリーは異人種間の関係を重視しています」
・「ニューヨークは異人種の街です。トランプはニューヨークに住んでいるのに、アングロサクソンを重視しています。彼はメキシコ系を標的にしているのです。メキシコ系は標的にしやすいからです。私の職場には、ヨーロッパ系の不法移民がいます。彼らは白人です。トランプは白人を標的にしないのです」
○トランプ支持者
・「トランプは不法移民のみに反対している。合法の移民には反対していないぞ。私の子供は教育費を払い、学資ローンの返済をしている。不法移民の子供が無料で教育を受けるのは、不公平だ。アメリカとメキシコの国境に壁を作る提案にもちろん賛成だ」
トランプ支持者は、トランプ候補にアイデンティティーを持っており、筆者がクリントン支持者だと分かると怒りながら、まるで同候補のように主張するのです。クリントン候補は、ニューヨーク州予備選挙投票日前日にニューヨーク市マンハッタン区で集会を開き、「私は移民に誇りを持っている」と述べ、ニューヨークの価値観である文化的多様性と包含を強調しています。
副大統領候補のカードと若者
クリントン選対で支持要請の電話を入れるボランティア(筆者撮影@ニューヨーク市マンハッタン区)
確かに、クリントン候補は大票田のニューヨーク州で勝ち、その結果、指名獲得に必要な代議員数1237人が視野に入ってきました。しかし、依然として解決されていない課題も明らかになりました。ニューヨーク州民主党予備選挙においても、クリントン候補は若者層(18−29歳)の票を獲得できなかったのです。米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、出口調査でサンダース候補は若者層の約7割を獲得し、クリントン候補に大差をつけています。
テキサス州、ミシガン州及びフロリダ州と同様、クリントン選対では地上戦における若者の不足を労働組合員で補ってきました。率直に言ってしまえば、女性、アフリカ系、ヒスパニック系(中南米系)、若者及び同性愛者で構成される「異文化連合軍」の支持を得て勝つというクリントン陣営の選挙戦略が、予備選挙後半に入っても確立できていないのです。
クリントン陣営における若者の不足は、6月7日のカリフォルニア州等で行われる予備選挙まで続くと筆者はみています。この問題を解決できる唯一の方法は、「副大統領候補のカード」を切ることです。若者と未婚の女性を引きつけ、エキサイティングと情熱をクリントン陣営にもたらし、しかも「非常にリベラル」な有権者と統一が図れる副大統領候補が、同陣営には不可欠なのです。以上の条件を満たす副大統領候補は、エルザべス・ウォーレン上院議員(民主党・マサチューセッツ州)でしょう。
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だた、副大統領候補にウォーレン上院議員を選択した場合、女性(大統領候補)と女性(副大統領候補)の組み合わせとなりリスクを伴うのも事実です。さらに、ウォーレン上院議員はまだクリントン候補に対して支持表明をしていません。2人の間にラポール(親密な関係)があるのか、相性が良いのかも非常に重要な要素になります(図表)。そうは言っても、現在クリントン陣営が直面している課題の解決を最優先するならば、同上院議員はかなり魅力的な副大統領候補であることは間違いありません。
次の民主党候補指名争いは、コネチカット州、デラウエア州、メリーランド州、ペンシルべニア州及びロードアイランド州の5州で行われます。これらの州の内、ロードアイランド州のみで無党派層が投票できます。民主党員のみが投票する4州でクリントン候補は、サンダース上院議員に対して有利な戦いを進め、指名獲得に必要な代議員数2383人にさらに近づいていくでしょう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6643
トランプ・クリントン両氏の不人気で、副大統領候補への関心浮上
[ワシントン 22日 ロイター] - 11月8日の米大統領選に向けた指名争いで、民主党のヒラリー・クリントン氏と共和党のドナルド・トランプ氏が先頭を走っているものの、ともに異例の不人気で、副大統領候補が誰になるのかに早くも関心が高まっている。
ヒスパニック系人権団体は、ヒスパニックの副大統領候補を推奨。民主党の将来のスターと目されるフリアン・カストロ住宅都市開発長官の名前が最もしばしば挙がっているが、リベラル派の活動家らは、長官がウォール街企業寄りの姿勢を取っているとして反対している。
ペレス労働長官の名前も挙がっているが、クリントン氏の意向ははっきりしていない。
このほか、ティム・ケイン上院議員(バージニア州)、コリー・ブッカー上院議員(ニュージャージー州)、シェロッド・ブラウン上院議員(オハイオ州)、エリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州)も名前が挙がっているが、いずれのコメントも得られていない。
一方トランプ氏は、ベテラン政治家の候補を希望。スコット・ウォーカー・ウィスコンシン州知事、マルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州)、ジョン・ケーシック・オハイオ州知事の名前を挙げている。
しかし、ウォーカー知事の態度はあいまい、ルビオ氏は繰り返し拒否、ケーシック氏は先週、副大統領になる可能性はゼロと発言している。
ほかには、クリス・クリスティー・ニュージャージー州知事、リック・スコット・フロリダ州知事、ルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長、ジェフ・セッションズ上院議員(アラバマ州)、候補指名争いから撤退した元神経外科医のベン・カーソン氏などの名前がささやかれている。
http://jp.reuters.com/article/usa-election-vicepresident-idJPKCN0XM0RU
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