米国での自殺率が過去15年間で大幅に上昇したことが、22日に公表された米疾病対策センター（CDC）の報告書で分かった。薬物使用の増加や経済的な格差などが国民の健康と幸福度に与える影響をめぐり、新たな懸念が浮かび上がった。

　自殺は米国の死因の10位だ。2014年には心臓疾患やがんなどのより一般的な死因による死亡者数は減少する一方で、自殺による死者数は増加した。CDCの報告書によると、自殺率は1999〜2014年に24％上昇した。それまで15年間は低下していた。また、1999〜2006年の年間の自殺増加率は約1％だったが、06年以降には年平均2％に加速した。

　別のCDCのデータによると、15年上半期も自殺率が引き続き上昇した。

　1999〜2014年の自殺件数は男性のほうが女性より多かったが、自殺率の上昇ペースは女性のほうが高かった。

　中高年男女の自殺が大幅に増加した。22日に公表された別のCDC報告書によると、1999〜2014年に45〜64歳の白人女性の自殺率は80％上昇、同年代の白人男性では59％上昇した。

上のグラフ：年齢層別の10万人当たりの自殺者数（左が男性、右が女性）、下のグラフ：自殺の手段別の割合（左から銃、毒物、窒息、その他） ENLARGE
上のグラフ：年齢層別の10万人当たりの自殺者数（左が男性、右が女性）、下のグラフ：自殺の手段別の割合（左から銃、毒物、窒息、その他）
　75歳以上を除き、男女ともにすべての年齢層で自殺率が上昇した。5〜14歳の女子の自殺率は3倍に増えた。CDC下部組織の国立衛生統計センター（NCHS）の統計学者で、今回の報告書の執筆者であるサリー・カーティン氏は、この年齢層の女子の自殺数自体は引き続き少ないものの、「この年齢層は多くの変化を経験する時期で、非常にもろい」と述べた。

　研究者たちによると、自殺の理由は複雑なことが多く、現在の自殺率上昇の原因は完全には理解できていない。女性の自殺が増えている原因もよく分からないという。CDC暴力防止部門監視オフィスの責任者アレックス・クロスビー氏は「何が主に影響しているのか、その答えはまだ全部は分かっていない。通常は複数の行動の相互作用によるものだ」と述べた。

　少なくとも2つの説明が可能だとクロスビー氏は話す。1つは景気低迷。歴史的に見ても、雇用の見通しが落ち込む景気低迷期に自殺率が上昇している。同氏によると、CDCは数年前の住宅差し押さえや立ち退きを自殺の増加と関連づけている。

　2つ目としては、処方箋鎮痛剤やヘロイン、他の致死薬剤の乱用も過去15年間に増加しているという。CDCによると、処方箋鎮痛剤やヘロインを含むオピオイド（麻薬系鎮痛剤）の過剰摂取による死亡率は2000〜14年に3倍に増えた。こうした死亡数には自殺も含まれている。

　他に考えられる要因としては、以前に自殺を図った経験がある人でも、精神衛生サービスを求めたり容易にアクセスできる人が多くないということだ。ロチェスター大学メディカルセンターにある自殺防止のための調査センターのディレクター、エリック・ケイン氏によると、家庭内暴力や社会的混乱、慢性疾患といったものが引き金となるケースもあるという。

　一部の研究者たちの間では、中高年層の自殺増加という実態は、若いころに自殺が多いことで知られたベビーブーマー世代が中高年に差し掛かり、新たな問題に対して慣れたやり方で反応している結果ではないかとの見方もある。自殺関連の研究に資金を提供している全米自殺防止財団の医務部長、クリスティーン・ムーチェ氏は「その世代が高齢化し中高年になるにつれ、恐らくコホート効果（訳注：同世代効果＝同じ時期に生まれた人たちがある現象に対して時代を超えて同様の傾向を示すこと）が出ているようだ」と述べた。

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景気後退が作った「専業主夫」、大半が職場復帰
By BEN LEUBSDORF
2016 年 4 月 23 日 06:09 JST

　専業主夫として育児や家事に専念する父親の数はリセッション（景気後退）下で急増したが、雇用市場の改善を受けてこの多くが再び職を手にしている。

　米労働省が22日発表した統計によると、2015年の専業主夫世帯は全体の5.3％（14年は5.6％）。5年連続で低下し、2007?09年のリセッションで見られた増加分の大半を打ち消した。専業主夫世帯は18歳未満の子供を持つ世帯で、母親が働き、父親が失業中か労働力から外れている世帯を指す。

　ピュー・リサーチ・センターの上級研究者グレッチェン・リビングストン氏は「明らかに経済的要因が大きな影響を及ぼしていようだ」と述べた。

　とはいえ、父親が専業主夫となる慣行はここ数十年に広がっており、社会的な役割の変化と経済的要因を映し出している。

　米労働省のデータによると、専業主夫世帯の比率は2007?09年のリセッション下で上昇し、05年と06年の4.8％から09年と10年には7.4％に達した。昨年の比率は、1994年以降の長期平均（5.3％）に並んだ。

　だが、景気が悪化する直前の水準は依然として上回っており、01年のリセッション後の動向に追随している。リビングストン氏は低下が継続するか、リセッション前をやや上回る水準で安定するかが注目されると指摘した。

　同氏は「経済サイクルの局面にかかわらず、明らかに専業主夫の数は長期的に増加している」との認識を示した。

　一方、長きにわたり低下を続けていた専業主婦世帯の比率も1990年代以降に上昇に転じている。結婚して子供がおり、父親が働いて母親が育児・家事に専念する世帯は昨年時点で全体の30.8％と、14年から変わらずだが95年の28.5％からは上昇した。

　共働き世帯は60.6％で、前年の60.2％からわずかに上昇したが、08年の62.1％は依然として大幅に下回った。これには両親がフルタイムないしパートタイムで働く世帯が含まれる。

　米労働市場の改善は、多くの世帯にとって景気情勢を明るくしている。3月の失業率は5％で、労働参加率もこの6ヵ月に上昇し、雇用も安定して増加している。失業者を含む世帯は全体の6.9％と、14年の8％から低下した。

　しかし、内訳をみると人種別で大きな開きがある。黒人世帯で失業者を含む世帯は12％と、白人世帯の6％の2倍に上った。ヒスパニック系では9.7％、アジア系は5.7％だった。
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米高卒「ニート率」、男性の苦悩際立つ
金融危機前の水準を回復できず
閉そく感に包まれたニートの数は金融危機前よりもはるかに多い ENLARGE
閉そく感に包まれたニートの数は金融危機前よりもはるかに多い PHOTO: MARK FELIX/ASSOCIATED PRESS
By JOSH ZUMBRUN
2016 年 4 月 22 日 16:15 JST

　大半の米国人は高校を卒業すれば就職するか大学に進学する。

　だが最近は、高校生の約6人に1人が卒業後に何もしなくなる。つまり大学に入らず就職もしない17歳から20歳の若者が140万人いるのだ。これを失業率と呼ぶ代わりに「ニート率（ idleness rate）」と呼んでみよう。

　この数字は、米経済政策研究所（EPI）が発表した労働市場の見通しについての最新リポート「2016年卒業組」から抜き出したものだ。EPIは左寄りのシンクタンクで、若い労働者に対するセーフティーネット（安全網）の拡大を支持。リポート内の数字は米労働省のデータから引用されている。

　高校卒業後に何もしない人の数は、経済全体の健全性と密接に関わっている。景気が良い時でさえ一部の人はすぐに就職したり進学したりしないが、この人数は不況期に膨れあがる。米国のニートの数は1990〜91年のリセッション（景気後退）後に増え、2001年の景気後退の最中にも増加した。その後の景気回復期にはニートの数は減少した。

進学も就職もしない17歳から20歳の高卒者の割合の推移（12カ月移動平均）
進学も就職もしない17歳から20歳の高卒者の割合の推移（12カ月移動平均）
　米国全体の失業率は5％まで低下し、金融危機前の水準に近づいたものの、閉そく感に包まれた高卒者の数は危機前よりもはるかに多い。ニートの数は高止まりしたままで、これは米国経済が完全回復からほど遠いことを示唆している。

　ニート率の上昇が若い男性をますます悩ませるようになってきた。2007年12月からの景気後退で、男性のニート率は19％以上まで急伸した。対照的に、それより前の2回の景気後退で男性ニート率は14％ほどまで上昇したが、これは現在の割合（16.2％）を下回る。

　言い換えれば、過去6年間、高校卒業後に何もしない若い男性の割合は、金融危機より前の2回の景気後退期におけるどの月よりも大きかったのだ。

　これは女性には当てはまらない。この景気サイクルの中で、女性のニート率は1990年代初めほど上昇しなかった。ここには、若い男性よりも女性の方が大学に入学して卒業する可能性がはるかに高くなったという事実が部分的に反映されている。

人種別ニート率の推移（12カ月移動平均、緑は黒人、オレンジはヒスパニック系、青は白人）
人種別ニート率の推移（12カ月移動平均、緑は黒人、オレンジはヒスパニック系、青は白人）
　人種別に見ると、ニート率は白人よりも黒人やヒスパニック系の方が高い。ただ、黒人のニート率はかつての非常に高い水準から下落基調を示している。1990年代初めには30％以上の若い黒人高卒者が就職もせず進学もしなかった。現在、その割合は21％まで低下し、比較可能なデータの中で最低水準に近づいている。若いヒスパニック系高卒者のニート率は現在17％と、こちらも最低水準に近い。

　この中では若い白人のニート率が最も低いが、基調は逆方向に向かっている。現在の割合である13.6％は、2009年より前のどの時点よりも高い水準だ。

　若いニートたちは求人に応募するか大学進学に挑戦してうまく行かなかった可能性がある。あるいは親や家族を当てにしているのかもしれない。

　明らかなのは、大卒者と比べて高卒者がはるかに厳しい状況に置かれていることだ。

　リポートの執筆者の1人、エリース・グールド氏は「若い労働者は不況時にひどい打撃を受け、その状態から抜け出せずにいる」と語った。

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