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[ニュース複眼]パナマ文書が暴いた世界
中米パナマの法律事務所から流出した「パナマ文書」で、世界の首脳らによるタックスヘイブン(租税回避地)の利用実態が暴露された。タックスヘイブンの仕組みや取引の実態はどんなものか。国際課税や各国の税制のあり方はどう考えるべきか。
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タックスヘイブン、資金洗浄の温床で捜査困難 元カナダ連邦警察 ビル・マージャー氏
2002年、米マイアミでの隠密捜査のとき、パナマの法律事務所の弁護士と会ったことがある。架空の麻薬カルテルの代理人のふりをしていた私に、弁護士は「パナマに基金をつくれば、7%の手数料率で資金洗浄できる」と持ちかけてきた。
数多くのマネーロンダリング(資金洗浄)の捜査に関わった立場から言うと、多くの著名人の名前が出たことを除き、パナマ文書に目新しい話はない。
なぜタックスヘイブンが資金洗浄に使われるのか。複数のタックスヘイブンを組み合わせると、捜査当局による犯罪の証拠集めや資産の凍結が非常に難しくなるからだ。
例えば、私が日本の犯罪者だとしよう。詐欺や麻薬売買でもうけた汚い金を日本の銀行口座に置いておけば、日本の警察が見つけるのはとても簡単だ。
だがタックスヘイブンに設けたペーパーカンパニーの口座に資金を移せば、日本の警察は刑事共助条約に基づいて現地の警察に捜査依頼を送らなければならない。半年以上たって「そのペーパーカンパニーの持ち株会社は別のタックスヘイブンにある」という回答があれば、今度は別の警察に捜査依頼を再び送る必要がある。あっという間に1〜2年かかる。犯罪者が捜査の動きに気づけば、警察よりも常に一歩先に金を動かせる。
国境を越えた警察の協力はハードルが高い。各国で犯罪の定義や捜査の進め方が異なる。プライバシー保護の観点からも情報共有が難しくなった。解決策の一つは、オフショア企業の実質的なオーナーや利用者がわかる中央登録機関を作らない限りタックスヘイブンの企業の商業利用は認めない、という国内法を先進国が整備することだ。だが実現は容易ではないだろう。
カナダでは四大会計事務所の一つが超富裕層向けに課税逃れの仕組みを提供していたが、税務当局は刑事責任の追及を見送った。会計事務所のロビイストが政治家に働きかけたためだ。
タックスヘイブンの利用は違法ではないが、公正さや常識的な感覚に反する。個人の納税漏れは厳しく追及するのに、富裕層はおとがめなしという「二重基準」に世界中の人々が飽き飽きしている。だが既得権益として現状維持を望む権力者も多い。捜査当局は過去20年以上、政府に注意を促してきたが、何も変わらなかった。パナマ文書でも状況を大きく変えるのは難しいのではないか。
(聞き手は香港=粟井康夫)
Bill Majcher カナダ連邦警察(RCMP)で金融犯罪や麻薬取引の捜査を担当した。現在は香港でサイバーセキュリティー対策会社EMIDRを率いる。53歳。
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合法的な節税、今後も拡大 作家 橘玲氏
金融市場はグローバルで1つだが、税制は国ごとに異なる。課税ルールを一体にしない限り、タックスヘイブンの利用はなくならない。米国の株式会社では株主のために合法的に節税できるのに、それをしない経営者は責任放棄となる。最も安全に金をもうける方法として節税ビジネスは今後も広がる可能性がある。
日本の大企業はタックスヘイブン法人を資産流動化などに使うが、基本的に合法だろう。むしろ合法的な節税対策は遅れているくらいだ。脱税に使うのは中小企業のオーナーや自営業者が多い。よくあるのは代理人名義で現地法人をつくり、日本法人に資金を貸す手口。日本法人は利子を払い、その分が税務上の損金となり税を逃れる。元の資金が日本法人から出ているのかどうか、現地法人の登記情報だけだと分からない。
この対策としては銀行口座情報を自動交換することが効果的だ。経済協力開発機構(OECD)は情報交換に非協力的な国の基準を設ける方針だ。非協力国は“ブラック国”との認定を受け、実質的にグローバル金融市場から排除されるだろう。
プライベートバンク(PB)などのタックスヘイブン・ビジネスの顧客は先進国から新興国に移っている。パナマ文書にはプーチン・ロシア大統領の周辺、習近平・中国国家主席の義兄の名前があった。こうした国では身の危険から蓄えた資産を海外に移すニーズが高い。
先進国で問題になったのはアイスランドの首相、キャメロン英首相の亡父で、ほかに大物政治家は出ていない。先進国では納税を求める政治家が脱税疑惑を持たれるデメリットは大きい。
パナマ文書の内容は基本的にタックスヘイブンの会社の登記情報だ。社名と株主名、資本移動などで、見ただけでは脱税かどうかは判断できない。ポイントは顧客の代理として口座をつくったPBやコンサルタントの名前が出たことだ。代理人が分かれば、その国に調査を求める圧力がかかる。
こうした秘密文書は1970年代までは紙だった。PBの創業者一族の社長が重要顧客を担当し、情報は漏れようがなかった。80〜90年代のIT(情報技術)化ですべてデータベースにするようになった。もはや情報セキュリティーは保てず、どんな情報が出てもおかしくない。
(聞き手は福士譲)
たちばな・あきら 2002年に経済小説「マネーロンダリング」で作家デビュー。「永遠の旅行者」「タックスヘイヴン」など投資や税に関する著書多数。57歳。
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課税逃れ、国際協調で抜け穴ふさぐ 財務官 浅川雅嗣氏
タックスヘイブンを通じた租税回避、そうした場を経由した非合法の脱税、そして資金洗浄という3つを区別すべきだ。誤解もあるようだが、タックスヘイブンを通じた租税回避はよくあることで合法だ。パナマ文書で暴かれたとしても、びっくりするような事柄ではない。
日本を含む各国はいわゆるタックスヘイブン税制を備えている。日本企業が法人税率の低い国につくった子会社に合理的ではない理由で利益を留保すれば、日本で課税できる。ただ租税回避目的かどうかは個別に判断するので当局と納税者の間で意識の差が生じやすい。
もう少し根本から租税回避をやめさせようとするのが、経済協力開発機構(OECD)が昨秋まとめた国際課税の新ルールだ。多国籍企業や個人は様々な技法を駆使して税負担が軽い国に利益を移そうとする。正当な経済活動があった場所で正当な額の税金が払われるよう課税の抜け穴をふさぐ。この新ルールには44カ国が参加した。
税金の軽い国に所得を隠すのはこれとは質の違う話で脱税だ。各国の税務当局が情報交換の対象を広げて対応する。従来は怪しい人物の銀行口座の情報は各国の当局に要請して取り寄せていた。今後は各国が租税条約に基づいて自動的に交換する方向で、要請は不要になる。日本は2018年に始まる。
これには98カ国・地域の賛意を得ていてパナマとバーレーンを除く大多数のタックスヘイブンが含まれる。参加を拒めば、よからぬことをしていると疑われる。各国の姿勢は全く同じではないが、グローバルな流れはできつつある。パナマ文書はこれを加速させそうだ。
ワシントンで先週開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議ではパナマ文書をきっかけに議論を交わした。パナマとバーレーンに国際的な枠組みに早く参加するよう促す文言を共同声明に盛り込んだ。非協力的な国を列挙する仕組みづくりでも合意した。“ブラックリスト”入りを避けようと改心するのを促す圧力になる。
世界の国の税率がどこも同じならば租税回避は起こらないだろう。現実には国家主権に基づいて税率を下げる国がある。税率の違いから国際的な資金の流れがゆがむのは所与の事実として受け入れざるを得ない。その上でOECDルールのような対策を打ってきた。今までと違う処方箋が必要になったとは思わない。
(聞き手は上杉素直)
あさかわ・まさつぐ 財務官として財務省の国際政策を総括する。2011年から国際課税ルールを決めるOECD租税委員会の議長を務める。58歳。
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法人税改革との両輪で ユーラシア・グループ会長 クリフ・カプチャン氏
世界の政治家や著名人の節税の実態を明らかにしたパナマ文書は「情報は力だ」ということを示した。
今回の情報リークは特定の政治家や政府を狙ったのではなく、透明性や正義のためにやったのだろうが、一部の政治リーダーは退任を余儀なくされた。今後起きる情報漏洩は政治的な暴露になる可能性がある。
パナマ文書で英国のキャメロン首相の地位が大きく低下したとはいえ、強固な民主主義国家では政権そのものは揺るがない。ロシアや中国など独裁的国家も政府は耐えうる。ベネズエラのような弱い独裁政権が攻撃されやすいターゲットになる。
政治的な動きでは米国で法人税改革が起こるだろう。米企業が国外に利益を持ち出すことを防ぐため法人税率を低くするはずだ。米国の政治家は減税に向けて動く必要がある。
一方、脱税は難しい問題だ。資金洗浄やテロ資金対策に取り組む国際組織「金融活動作業部会(FATF)」があるが、参加は三十数カ国・地域で加盟は任意だ。世界のリーダーにはよりいっそうの相互協力や情報共有、透明性の強化が求められる。
パナマ文書による経済面への影響では、銀行や企業に対する規制が強まり、短期的には緩やかなマイナスの影響が出るだろう。特に銀行業界には逆風が吹く。だが2〜4年たてば透明化が進み、ビジネスは効率的になってプラスに働く。脱税への懲罰も強化されるだろう。結果としてビジネス環境は改善するはずだ。
租税回避を試みる企業も減るだろう。企業はペーパーカンパニーに利益や事業を移すことを考え直すことになるのではないか。企業はこうしたメカニズムを利用することを恐れ、懸念するようになると思う。
世界的な経済の低成長や格差の問題は政治への膨大な要求を生み、課税逃れ問題でも政治リーダーに何とかしろという圧力をかけるはずだ。企業の行動の透明化や法人税改革を求める声も広がるとみている。
(聞き手はニューヨーク=高橋里奈)
Cliff Kupchan 世界経済やロシアの外交・政治、イランの核開発問題などが専門。米国務省などを経て、政治リスクの調査会社の会長。60歳。
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[アンカー] グローバル時代、税のあり方問う
納税をお願いする立場の政治リーダーやその関係者が資産を外国に置いて節税に励んでいた。パナマ文書が投げかけた最初の問題は政治家の倫理だ。近年は税逃れ対策が主要国首脳会議(サミット)のテーマだっただけに、世間の失望や怒りは大きくなった。所得隠しの脱税や資金洗浄はもちろん許されない。
もっともタックスヘイブンを利用した富裕層や企業の節税の多くは合法であり、国際ルールに沿っている。軽い税金を求める行動は合理的だからこそ、主要国は法人税率を競うように下げてきた。国際的な連携と透明性をいかに高めるか。パナマ文書は人も企業もグローバルに活動する時代の税制のあり方を問い直す契機でもある。
(上杉素直)
[日経新聞4月21日朝刊P.9]
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