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VW事件にみるドイツの「不都合な真実」〜ユーロ圏最悪の格差社会はこうして出来上がった ここでも下流老人が急増中
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48501
2016年04月22日(金) 川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信 現代ビジネス
■排ガス不正問題はどうなったのか
VW(フォルクスワーゲン)社の不正ソフト事件が明るみに出てから7ヵ月が過ぎようとしている。ところが未だに社内で犯人の見当さえ付かないらしい。
監査役会(取締役会を監督する機関)が、真相究明のために依頼したのは、アメリカの「ジョーンズ・デイ」(全米最大の法律事務所)だが、彼らにもまだ不正の全貌が見えず、特定の課やら何人かの社員を疑うところまでしか行っていないという。
VW社の不正ソフトとは、排ガス検査の時だけ、窒素化合物など有害物質の排出を少なくすることができるという優れものだ。これをVW社は7年以上も、自社のディーゼル車に搭載し続けた。
これによって排ガス検査は合格したものの、普通の走行時は、検査時の10倍から40倍もの有毒物質を排出したというのだから呆れた話だが、VW社はそうした車を「クリーン・ディーゼル」と銘打って、排ガス規制の厳しいアメリカで売りまくった。
化けの皮が剥がれたのは昨年の9月。11月になると、窒素化合物だけでなく、二酸化炭素についても不正が見つかり、今では、アメリカ当局への制裁金だけで5兆円を超すのではないかといわれている。
今年1月には、アメリカの司法省が、大気浄化法違反でVW社に対して民事訴訟を起こした。同省はそれと並行して刑事訴訟の準備も着々と進めている。また、2月には集団訴訟手続きも始まり、全米で約50万人の原告が損失補填を求める予定という。
一方、VW社の車の売り上げも落ちた。ドイツ国内での落ち込みはそれほどでもないものの、アメリカでの今年第一四半期の売り上げは、去年比でマイナス12.5%。南米とロシアは、それぞれマイナス31.3%、マイナス12.5%とやはり大きく落ち込んでいる。
頼みの綱は中国で、VW社が第一四半期に売った72万2800台の車両のうち、約半分が中国向け。まさに中国サマサマだが、この依存度は危険かもしれない。というわけで、VWの故郷、ドイツのニーダーザクセン州の空は黒雲に覆われたままで、陽の光はまだ見えない。従業員の間では、賃金カット、リストラの懸念が膨らんでいる。
ミュラーCEOの会見に集まったVW社の労働者たち〔PHOTO〕gettyimages
■報酬を死守したい経営陣とリストラに怯える労働者
だから、VWの役員たちも真摯に節約に励んでいるかと思ったら、とんでもない話だった。それどころか彼らは、自分たちのボーナスを守るために、大立ち回りをやっているらしい。
ドイツは、アメリカや他の西ヨーロッパの国と同じく、企業内の報酬の格差が大きい。VWなどという一流大企業になると、その差はとりわけ大きく、役員の年収は、日本円で言えば軽く億を超える。それも年収の約80パーセントがボーナスという形で支払われるという。
ちなみに、VWの役員の2014年分のボーナス額は、一人平均650万ユーロ(9億円近い)だったという。そこに、やはり億単位の正規のお給料が加算されたのが、彼らの年収だ。
不正事件が明るみに出たあと、VWの社長(CEO)は、ヴィンターコーン氏からミュラー氏に代わったが、この新社長が現在の会社の状況を鑑みて、ボーナスを少し返上しようと言い出した。当然のことだと、日本人なら思う。
そもそもミュラー新社長は、会社の汚れた体質を刷新するという目的で就任したのだから、このくらいは言わなければ格好がつかない。ところが、多くの役員はそれを拒否した。結局、すったもんだの末、少なくとも30%は返上しようというところまでは漕ぎ着けたのだが、舞台裏での戦いは続いているらしく、正式な発表はまだない。
しかしドイツでは、こういうことは今始まった話ではない。会社がどんなに困ろうが、従業員がリストラされようが、たいていの役員たちは、そんなことで報酬を一部たりとも返上しようなどとは考えない。
前社長のヴィンターコーン氏は、ドイツのCEOとしては、最高の報酬額を誇っていた。2014年の年収は、1,586万ユーロ。日本円にすれば20億を超える。そもそも、彼の経営の下で未曾有のスキャンダルが起こり、会社が傾き、その責任を取って辞任したはずだが、契約は2016年まで続いているので、今年もビッグな年収が保証されている。
いつ、首を切られるかとビクビクしている社員たちは、もちろん腹が立つ。しかし、契約がある限り、訴えたところで勝ち目はない。ドイツでは、こういうニュースが流れるたびに国民が憤慨する。しかし、ニュースはまもなく消え、当事者でない限り、皆すぐに忘れてしまうので、結局、金持ちは金持ちのまま。失業した人は運が悪かったということになる。
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■豊かな人がさらに豊かになるシステム
1月に日本で『ドイツ帝国の正体』という本が出た。ドイツ語からの翻訳だ。元のタイトルを直訳すると『ドイツ国は誰のものか?』。著者イエンス・ベルガーは、活躍中のジャーナリストである。
同書によると、ことあるごとに機会平等を唱えるドイツ人だが、実は中身は違っており、ユーロ国の中でドイツほど資産格差が大きい国はないという。しかも興味深いのは、それがいつ始まったかの説明だ。
戦後、徐々に縮まっていった貧富の差が、再び拡大し始めたのは2000年になってからだ。原因は、90年代の終わりにSPDシュレーダー政権(社民党政権)が行った構造改革だという。
東西ドイツ統一の負担と、行き過ぎた福祉とで、どうしようもないほど落ち込んでいた経済を活性化する目的で、「アジェンダ2010」という改革が行われた。これにより、国民の税負担が引き上げられ、一方、資産家のそれが減らされ、雇用者に有利な法律が決められ、さまざまな福祉は切り捨てられた。97年には、政府は資産税の徴収まで投げ出した。
以降、企業の利益は増え、次第に経済は上向き、いまやEUではドイツ一人勝ち状態だが、その代わり貧富の差は猛烈に拡大したという。現在のドイツ人の資産は労働所得や貯金ではなく、「遺産」であるというのがベルガーの主張だ。豊かな人がさらに豊かになるシステムが、しっかりと構築されてしまった。
そうこうするうちに、今、突然、ドイツの政治論議の場で、「年寄りの貧困問題」が持ち上がった。実は、前述の構造改革のとき、年金制度の一部が民営化され、いわゆる従来の公的年金と、国民が自分でお金を積み立てる保険との二階建てに変わったのだが、今になって、これがうまく機能しないことが明らかになったという。
すでに現在、年金生活者が怒涛のように「貧困層」に陥り始めている。年金が、最小限の生活を営むのに足らない場合は、生活保護が支給されるが、それを受けている老人の数は、2003年は25万8000人だったのが、2014年には倍増して51万2000人になった。さらに、2025年には、100万人を超えるという予想だ。そして、2030年、年金生活者の半分が貧困になるとか。
年金の算出法について抗議する旧東ドイツ市民〔PHOTO〕gettyimages
■総選挙の目玉は「年金問題」か
40年間も働き、年金を支払ってきて、その挙句、質素な老後さえ送れないというのは不公平だが、だからと言って、若い世代にこれ以上負担をかけるのも考えものだ。
少子高齢化社会の弊害といえばそれまでだが、しかし、一方で、大金持ちが増えているとなると、すべてを人口問題のせいにするわけにもいかないだろう。年金崩壊は、来年の総選挙の大きな争点になるはずだ。
今月13日、巨大ドラッグストア、シュレッカー社が、横領、粉飾倒産などで訴えられた。同社は同族会社で、かつてドイツだけではなくヨーロッパ中に9000の店舗と5万人の従業員を持つ大会社だったが、次第に経営が悪化し、2012年に倒産した。2万5000人の従業員が路頭に迷い、かなりの社会問題になった。
ところが、このファミリーが倒産前に、日本円にして何十億(何百億?)もの資産を、兄弟や子供や孫で山分けにしていたという容疑が固まっている。
VWの役員たちもそうだが、ドイツのお金持ちのモラルには、どうも日本人には付いていけない激しさがあるようだ。
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