http://www.asyura2.com/16/kokusai13/msg/352.html
Tweet |
「パナマ文書」について一面で報じる南ドイツ新聞の紙面。ドイツ人風刺画家のピーター・M・ホフマン氏が描いた各国首脳の似顔絵が掲載されている(2016年4月7日撮影)〔AFPBB News〕
パナマ文書にプーチンの名前がない本当の理由 圧倒的に少ない米国人・・・、そこにある政治的意図とは
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46575
2016.4.14 杉浦 史和 JBpress
「パナマ文書」の一部が報道され、内外で大きな話題となっている。アイスランドでは資産隠しに関与していたとして現役首相の辞任に進展したほか、米国をはじめ多くの国で捜査当局による本件に関わる調査が着手された。
一方、習近平氏の肉親が関わったとの指摘があった中国では本件に関する報道は厳しく規制され、またウラジーミル・プーチン大統領の親友がリスト上にあがったロシアでは大統領報道官が、これは西側によるプーチン大統領失墜のための攻撃の一環であるとして、報道内容をあからさまに否定した。
事実がどうかを調査することもなく報道を規制したり、報道内容を否定したりする中国やロシアのやり方は、国際世論に対する彼らの姿勢の一端を示しており、大変興味深いところだ。
各種報道によれば、「パナマ文書」とはパナマの法律コンサルティング会社モサック・フォンセカから内部告発者によって漏洩した過去40年にわたる膨大なデータであり、これを南ドイツ新聞が入手し、国際報道調査ジャーナリスト連合(ICIJ)に参加する多くのジャーナリストらが分析した。
■西側が仕かけた情報戦争
4月初旬に公表された報道によれば、プーチン氏の古くからの友人であるチェリストのセルゲイ・ロルドゥギン氏が、西側の制裁対象となっているロシア銀行からの融資を得てオフショア市場で20億ドルに上る取引を行ったという。
それらの取引はプーチン大統領個人の資産秘匿を巧妙に隠蔽した工作の一環であったのではないかとの指摘がなされている。
現時点では、大量に漏洩した「パナマ文書」のほんの一部が公開されただけであり、今後全容の解明とさらなる調査結果の公表が待たれるが、本稿ではロシア側が主張する西側の「情報戦争」による攻撃だとの指摘の是非について考察したい。
我々はICIJと聞くと、一般に世界的に著名な報道機関の有志連合であり、真実を追い求めるジャーナリストたちの公平無私な組織ように思われるかもしれないが(我が国からは朝日新聞社が参加)、そこにはある種のバイアスがないわけではない。
ICIJはもともと米国のNPOである公共倫理センター(Center for Public Integrity)のプロジェクトで設立されたが、このNPOは米国CBSの著名な報道番組「60 minutes」の元プロデューサー、チャールズ・ルイス氏が1989年に創設した。調査報道の充実を図るのが目的だったと言われている。
その後同センターにより設立されたICIJは「越境犯罪、汚職や権力の説明責任」などの問題に焦点を当てて調査を行っている。このICIJに資金を提供している機関(財団)はHP上で公表されており、それらは以下の通りである。
アデシウム財団(オランダ)、ジーグリド・ラウシング信託(英国)、ウォータールー財団(英国)、フリット・オルド財団(ノルウェー)、危機報道ピューリッツァー・センター(米国)、フォード財団(米国)、デービッド=ルシル・パッカード財団(米国)、ピュー慈善信託(米国)、並びにオープン・ソサイエティー財団(米国)。
西側の財団が軒並み名を連ねていることが分かるが、このうち特に注目されるのは最後のオープン・ソサイエティー財団である。
よく知られているように、同財団は国際的な金融家であるジョージ・ソロス氏が旧社会主義国における体制転換を助け、「民主化」のプロセスを根づかせようとして設立されたものだ。
ソロス氏はプーチン大統領による「非民主的」なやり方を全く受け入れておらず、各種の手段を用いて旧ソ連・東欧地域における「民主化」支援を行っている。一説には旧ソ連地域の「カラー革命」に資金提供を行ったとも言われている。
■米国関係者が圧倒的に少ない理由
現時点で、問題視されている取引に関与した政府関係者としては、英国首相デービッド・キャメロン氏の亡父に関するものを除けば、ロシア、ウクライナ、アイスランド、ブラジル、中国、サウジアラビアなど、言ってみれば国際的な世論形成における傍流地域の関係者がやり玉に挙がっているようだ。
特に米国関係の情報は少ないように見える。大量の資料を渉猟する際に、まずはインパクトの強い部分、優先度の高い分野から調査すると考えれば、この公表第1弾の内容にこそ、ICIJの意図が見て取れるのではなかろうか。
ウクライナのポロシェンコ大統領もやり玉に挙がったのは、もっとしっかりと「汚職撲滅」並びに「民主化」を行わないと大統領自身が失職するぞという「脅し」のようにも見える。
そのうえ、プーチン氏の幼なじみが関与したという事実の一端から想像力を働かせて推論を加え、プーチン大統領自身の不正が明らかになったと主張するのは、ICIJ、ないしそこへの資金提供者の意図が反映されたのではないかと勘繰りたくもなる。
古くからの親友の1人が不正に携わっていた「事実」から、プーチン氏のダミーとして個人的な蓄財の抜け道が示されたとの報道は、牽強付会に受け取られる部分もあろう。ましてクリミア問題などを含め、西側との対決姿勢を示しているプーチン氏に対する「情報戦争」の新たな攻撃だとするのもうなずけないわけではない。
しかし一方で、これまでの報道から、ロシアに関してはプーチン大統領自身の名前がリストにないことをもって、プーチン大統領はクリーンだというのもまた難しいように思われる。
なぜなら、今回の報道はプーチン大統領個人の蓄財や不正の有無ではなく、プーチン氏を中心としたロシアの支配体制そのものの機能様式が示されているからである。
かつてプーチン氏が大統領三選禁止の憲法の規定に従って後任をドミトリー・メドベージェフ氏に譲り、自らは首相に収まったとき、なぜプーチン氏は政治の舞台から去れないかが議論された。
そこで言われたのは、プーチン氏は様々に対立する利権集団に対する政治権力の差配を担当しており、彼がいなければ異なる利権集団間の内輪揉めが起こってロシアがうまく統治されないからだとの有力な説明がなされた。
事実、プーチン氏の後継が決まらない不安定な期間に、シロヴィキと呼ばれるグループ内の権力闘争が表面化したことがあった。
■プーチン大統領の重要な役割
従って、ロシアにおける統治のシステムはプーチン大統領との個人的なコネクションが重要になる。
シロヴィキと呼ばれるグループが強い存在感があるのは、プーチン氏がKGBにバックグラウンドを持つためというのは有名だし、サンクトペテルブルク市で対外経済関係の副市長だったことからサンクトペテルブルク出身者との関係も重要だ。
今回明らかになったロルドゥギン氏のように幼なじみで古くからの友人というのもプーチン大統領との個人的な距離感を示していることはいくら強調してもし過ぎることではない。
そのほかにもプーチン大統領を取り巻く種々の人脈があり、その距離が政治権力を蓄財に替えるメルクマールとなっているのであろう。
ロシアでは政治権力の差配は、実際には検察機関や税務機構などいわゆる「力の省庁」が担当するから首相など国家機関を動かす立場でないと実行は難しい。政治の表舞台から去りヤミ将軍としてロシアを仕切ることはできないのだ。
従って巷間言われているようにプーチン氏は何でもできる全能の独裁者なのではなく、多様な政治集団を調整し統率する国家機関の表の顔にすぎないのである。
このように見てくると、プーチン氏個人の名前がリストに出てこないのは至極当然のことのように思われる。
なぜなら、彼は不正を通じて資金そのものを蓄積しようと欲しているわけではないからだ。彼にとってもっと重要なのは、当事者間で分配されるべき権力の源泉を掌握していることなのであり、それは大統領なり、首相なりと言った国家機関の地位そのものだからである。
それさえあれば、権力の差配を通じて必要であれば資金を生み出すこともできるだろうが、それは副次的な意味しかないだろう。
従って、大統領報道官が言う「プーチン氏を失墜させるための個人攻撃」という表現は実は正しくない。
彼はプーチン氏に対する個人攻撃ではなく、プーチン体制に対する攻撃と言うべきだ。今回の報道はプーチン氏を中心とする政治体制の権力の差配による統治システムの一端を明るみしたからこそ、プーチン体制そのものを揺るがしかねない「情報戦争」の攻撃なのだから。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。