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(回答先: アジア投資銀が共同融資 中国、賢い協調重視 投稿者 あっしら 日時 2016 年 3 月 27 日 03:14:50)
アジア投資銀 参加検討を
域内経済発展に必要 進藤栄一 筑波大学名誉教授
アジア太平洋地域で、2つの地域協力メカニズムが動き始めている。米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)と中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)だ。前者は昨年10月の大筋合意を受け、今年2月に12カ国が調印し、各国の議会承認を待って発効する。後者は昨年末に57カ国で正式発足した。
ただ前者の協定発効には不確定要因が出始めた。米大統領選挙で、民主・共和両党の主要候補がTPP批判を強めている。米上院共和党のマコネル院内総務は「TPPの議会承認は大統領選後」との見方を示した。再交渉の可能性が浮上し、TPP再漂流の恐れさえ出てきた。
後者のAIIBは、欧州諸国などの協力下にアジアから欧州に至る経済圏構想「一帯一路(新シルクロード)」を動かし始めた。昨年末発足の東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体も、AIIBの支援を受けて統合の果実を享受しようとしている。
TPP交渉の陰に隠れていたアジア太平洋地域第3の協力メカニズムである東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も、年内合意形成に向けて外交交渉を再稼働させる。ASEAN10カ国と日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドが参加する。全経済分野で障壁撤廃を目指すTPPと違って、国内事情を加味した機能的な経済連携協定(EPA)網と社会経済文化協力の制度化を目指す。
また日中韓自由貿易協定(FTA)交渉も動き始めた。いずれも、いわゆる東アジア地域統合に連なる構想だ。
これら一連の動きは、日本のアジア外交の選択肢として改めてTPP以外に、RCEPの推進やAIIB参加の再検討を求める。日本のAIIB参加は、RCEP推進要因にもなる。こうした観点からAIIB設立の原点に立ち返って、今後の日本の道を展望してみる。
もともとAIIB構想は2000年代以降、中国側から提案されていた。例えば域内各国の代表研究機関連合が地域統合推進に向けた共通政策を提言する「東アジアシンクタンクネットワーク(NEAT)」の場で表明されていた。そして世界金融危機と福島原発事故を機に地域金融協力機関の必要性が明確になった。
国際通貨基金(IMF)やアジア開発銀行(ADB)が金融危機や防災インフラ強化に十分対応できない中で、地域金融メカニズムの改革もしくは新設が必要とされた。またアジアで地域協力を制度化していくには、単に自由貿易圏をつくるのではなく、域内の貧困を減らし格差を縮めるためにもインフラ整備強化に投資する必要が強調された。
こうした目的達成のためには、環境、資源、防災、農業などの諸領域で連結性(コネクティビティー)を強めなくてはならない。そこで中国はモノとカネ、ヒトと情報の障壁を除去しながら、インフラに重点投資してアジア内需を拡大させ、持続可能な発展による「シームレス(継ぎ目のない)アジア新発展戦略」を描き始めた。
脱国家的な持続可能発展モデルへの転換である。そのための多国間金融協力機関としてAIIB構想を位置づけ直した。構想の背景には、アジアインフラを巡る3つのギャップがある。
第1にインフラ需要と資金調達のギャップだ。インフラ整備が遅れているアジアには膨大な需要があるのに、対応できる資金が不足している。ADBによれば、10〜20年の域内インフラ需要は輸送、電力、エネルギー、電信電話など、総額で8兆ドルを超える。
ASEANだけでも、20年までに毎年600億ドルの資金調達を必要としているのに、対応できる融資メカニズムがない。ADBとASEANが共同で設立した「ASEANインフラ基金」による20年までの契約総額は36億ドルで、域内インフラ整備に必要な投資額にはるかに及ばない。
第2に既存機関による地域間ギャップだ。1991年以来、1兆7300億ドルが世界途上国地域のクロスボーダー(国境を越えた)インフラ開発計画に投じられたが、アジア太平洋地域の融資総額はその18.5%にすぎない。加えてインフラ投資の場合、民間融資だけではなく公的機関の融資比率も低い。インフラ計画融資総額に占める公的融資比率は世界平均の35〜40%に対し、アジアは20%だ。
IMFやADBが堅持する融資条件の財政規律維持原則もアジアインフラを巡る資金調達を難しくしている。
第3に、貯蓄・投資間ギャップだ。高成長下のアジア諸国には十分な外貨準備高と、高い貯蓄率による膨大な民間資金が眠っているのに、域内需要に対応できずに金融市場で滞留し続けている。東アジア域内の外貨準備保有高は5兆6千億ドルを超える。また、アジアには貯蓄の国内総生産(GDP)比率が40%を上回る国も多い(表参照)。AIIBの本格稼働により膨大な外貨準備と貯蓄を有効活用できる。
日本がAIIBに参加することで、内側から透明性とガバナンス(統治)を高められる。だがそうしたメリットにもかかわらず日本は消極姿勢を崩していない。AIIBは以下の3つの潜在性を持つ。
第1にアジアの広大な空間が持つ潜在性だ。インフラ投資の強化により、ユーラシア大陸から太平洋にかけ、発展促進要因として巨大な「空間ボーナス」を享受できる。
アジアの広大な地域空間は山岳や砂漠、海洋で分断され、これまで発展を阻害するとして低開発と貧困の原因とされてきた。しかし情報技術革命は、分断された自然空間を相互に結び付けることを容易にした。広大な空間は広域市場をつくり、連結したインフラ整備により投資と開発の好循環を可能にした。空間オーナス(重荷)から空間ボーナスへの転換は、広域アジアの富と繁栄に寄与していく。
習近平政権下の「一帯一路」構想はその具現化だ。インドネシアの新海洋国家戦略や、中国と周辺諸国とのガスパイプライン開発と結びあう。
第2に政治外交の安定をもたらす抑止力としての潜在性だ。国境を越えた広域インフラ投資は、巨額の資本と高度な技術とともに、国境をまたぐ共同開発管理体制を必要とする。そのため、海洋や大陸におけるエネルギー資源共同開発や、鉄道輸送路や情報通信網の整備建設における脱国家的な協力関係が不可欠だ。
しかも関係国は共同開発に関与しあうことで、対外的協力下での拘束を受け、領土や領海の一方的な単独進出・伸長の試みを相互に抑制せざるを得なくなる。外側からの拘束が、中国の潜在的な「膨張主義」をそぐ抑止要因となる。
多国間協力を構築することが、参加国のウィンウィン関係をもたらし、地域内抑止力に寄与する「協働安全保障」戦略の仕組みだ。その先例を、欧州連合(EU)の源である欧州石炭鉄鋼共同体や、中断中の東シナ海ガス田共同開発にみることができる。
第3に日本経済の再活性化をもたらす潜在性だ。日本が狭い列島内にダムや高速道路網をつくることで繁栄できる時代は終わった。一国内のインフラ投資は限界に来ている。今とるべき戦略はアジア太平洋地域へのインフラ投資を進め、開発と管理に共同参画することである。一国繁栄主義から21世紀型の「連亜連欧」への道といってよい。
ポイント
○既存機関はアジア資金需要に応えられず
○日本のAIIB参加は統治向上にプラス
○広域アジア生かす「空間ボーナス」着目を
しんどう・えいいち 39年生まれ。京都大卒、法学博士。専門は国際政治経済学
[日経新聞3月25日朝刊P.33]
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