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ノーベル賞を利用する「インチキがん治療」に騙されるな 本庶教授に失礼な「医療」もある
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57849
2018.10.06 及川 夕子 ライター 現代ビジネス
10月1日、本庶佑・京都大特別教授のノーベル生理学・医学賞受賞が決まり、本庶氏の発見から開発された「免疫チェックポイント阻害剤」が、早速脚光を浴びている。これを受けて、テレビのワイドショーなどでは、「夢の治療法がついに登場!」「劇的な治療効果」といった前のめりな報道も見受けられ、熱量は最高潮だ。
一方で、「免疫療法」とうたう治療法の中には、根拠のないいわゆる“インチキ療法”もあり、SNSなどでは「混同しないで」と、専門家が警鐘を鳴らしている。
また、最近は樹木希林さんをはじめ、さくらももこさん、山本KID徳郎さんなど有名人ががんで亡くなるニュースが相次ぎ、そのたびに治療法の選択に注目が集まるが、ワイドショーやネットで流れるメディアの情報が必ずしもがん情報を正確に伝えているとは言い難く、注意が必要だ。
改めて、私たちはがん情報とどう向き合うべきなのか。気をつけるべきポイントを、がん治療に詳しい日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授で腫瘍内科医の勝俣範之医師に聞いた。
インチキな免疫療法がノーベル賞を利用し始めた
まず知っておいてほしいことは、がんになると、通常は “標準治療”をベースに医師と治療法を選択し、治療がスタートするということだ。標準治療とは、医学的に認められた最善の治療のことである。がんの標準治療には、「手術」、抗がん剤治療などの「薬物療法」、「放射線治療」の3本柱があり、これらを組み合わせて行われるのががん治療の基本となる。
ノーベル賞受賞で話題の「オプジーボ(ニボルマブ)」は、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる分子標的薬(抗体薬)で、“抗がん剤の仲間”。がん細胞によってかけられたブレーキを外すことで免疫細胞の働きを回復し、がん細胞を攻撃できるようにする。これは、標準治療であり、臨床試験で効果が証明されたの治療法だ。現在、日本では6剤が承認されている。
問題は、臨床試験で効果が証明された免疫チェック阻害剤とは別に、「免疫療法」とうたいエビデンスのない治療法が、一部のクリニックで提供されていることだ。
「日本では、医師なら誰でも抗がん剤を扱えます。そのため、免疫という名前をつけ、効果のない治療法を高額な自由診療で提供するクリニックが存在し、野放しです。今回の本庶先生のノーベル賞受賞も、インチキな免疫療法の宣伝のために利用しているクリニックが、すでに登場しています」
「優しい治療」「がんが消えた」の宣伝文句は怪しい
勝俣医師は、この問題をメディアやネットで何度も指摘してきたが、そうしたインチキクリニックへ駆け込む患者は、後を立たない。
「免疫が上がると聞くと、がんが治りそうなイメージを持ってしまいがち。ですが、“免疫療法”とネットで検索すると、まともな情報以上に怪しい情報で溢れています。例えば、免疫細胞を採取し、培養して体内に戻すという免疫細胞治療=Bこれは高額な上に、臨床試験が行われていない治療法。効果が実証されていないものなので、注意を」と勝俣医師。
インチキながん治療を見分けるコツとして、勝俣医師は以下をあげる。
1 保険が効かない高額な自由診療であること
2 「がんが消えた、治った」「副作用がない」など根拠のないうたい文句を使う
3 効果のあった患者の体験談を売りにしている
今回のノーベル賞受賞に乗じて、自由診療で独自の免疫療法を勧めるクリニックは、PRを強化し、ネットなどで情報を配信する可能性も高い。
「ほかの抗がん剤やホルモン療法などと併用した治療法を提示しているケースもよくあります。また、免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)を少量だけブレンドして免疫療法と言っているところもあります。“独自開発の治療法”と提示してあると、素晴らしい治療法に思う人もいるようですが、簡単にいえば、効果も副作用も何の実証もないアブナイ治療法といえるわけです」
やはり上記の3つの項目に当てはまるようなら、疑って慎重に検討すべきなのだ。
また、報道が過熱しているときこそ冷静な視点も重要だと勝俣医師は言う。画期的とされる免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボ)でさえも、“夢の治療”とまでは言えない。万人に有効というわけではなく、治療対象は限られていて、治療を受けられたとしても、効果が出ないが人いることも知っておきたい。
なお「先進医療」というと、より良い治療法に聞こえがちだ。あくまでも研究段階のもの。「標準治療」というと、「先進医療」より劣るように感じる人も多いようだが、“世界的にもっとも認められスタンダードな治療”という意味なのだ。言葉の持つイメージに引きずられることなく、「がん治療のベースは医学的に根拠のある標準治療」であることを忘れないでおこう。
樹木さんでも語られた、アンチ抗がん剤報道
ご存知だろうか。抗がん剤は危険なもの、と多くの人が恐れるが、抗がん剤が「標準治療」として認められているまでの道のりはとても長く慎重だ。
「いくつもの候補の中から、膨大な基礎研究の結果と有効性が期待できるものを選び、”臨床試験”として患者さんに試されます。臨床試験になっても、厳しい基準のもとで、何百人の患者さんに繰り返し複数の検証試験が行われ、最終的に、”有効”と認められたものだけが、治療薬として承認される。現在、標準治療で使用されている薬は、気の遠くなるほどたくさんの薬の中から勝ち残り選ばれた、いわば“ひと握りのチャンピオン”なわけです。抗がん剤といえば、副作用が強いだけで、効果もない、と単純に言えるものではありません」
先日、がんで亡くなった樹木希林さんのニュース報道でも、アンチ抗がん剤なコメントが目立った。樹木さんは、2004年に乳がんが発覚、乳房の摘出施術を受けたのち、「全身がんを患い、四次元ピンポイント照射療法という、放射線治療の一種を選択した」と伝えられた。あるテレビ番組では、医師でもなく、医療の専門家でもないコメンテーターが「抗がん剤をやらなかったから最後まで元気だった」「四次元ピンポイント照射をやったことがQOLをあげた」とコメント。憶測での安易なコメントには、呆れるばかりだ。
そもそも、今回話題となった樹木さんの「全身がん」という言葉だが、これは正式な医学用語ではない。再発がんのことを言っているのであって、進行がんや遠隔転移のあるがんと呼ばれる状態のことを指した表現だ。
「一般的に、遠隔転移したがんに放射線治療は通常は適応になりません。全身にがんが転移した状態とは、がん細胞が血液やリンパ管に入り込んで、全身に周ってしまった状況なのです。表面に見えているがんは一部に過ぎず、その部分だけに放射線を当てても、全身に転移したがんを治療したことにはなりません。したがって、全身転移がんの場合、放射線治療ではなく、通常は、まず、抗がん剤を使ってがんを抑えることになります。放射線を使うのは、痛みを抑えるなど、部分的に症状を改善したい場合になります」と勝俣医師。
また、「すべてのがん=死に直結するという病気ではありません。進行が早いものもあれば、積極的治療を行わずに経過観察で何年も生きられるゆっくりながんもある。特に乳がんの場合は様々なタイプがあり、ホルモン受容体陽性のがんであれば、比較的進行がゆっくりで、長生きできる場合があります。
ただ、一人一人患者さんの病状は異なるので、個別の病歴や画像診断など詳細な情報がなければ、専門の医師でも個別の治療方針に関して正確なことはいえません。個別の情報がわからないのに、個人の患者の治療の良し悪しをコメントしている人は、無責任極まりないとしか言えませんね」と断言する。
医師とメディアに問われる、がん情報のリテラシー
誤った医療情報は患者の命に関わる問題だ。にもかかわらず、注目度が高いからという理由で、有名人のがんの情報を、ろくに検証もしないまま取り上げるメディアは多い。医師の監修すらなく、コメンテーターが憶測で持論を語る医療情報は、信じない方がいい。医師といっても、がんの臨床経験のない、肩書きだけの医師がコメントすることもある。残念であり反省するところだが、日本のメディアの医療に対する意識は、それぐらい低い、という認識も持っていたほうがいいのだ。
さくらももこさん、樹木希林さん、山本“KID”徳郁さんと訃報が続き、最近では、高須克弥院長、三遊亭円楽さんのがん公表も話題を呼んでいる。そのたび、メディアでは闘病体験が、その人の生き方や作品などとともにドラマチックに語られる。確かにそれはとても感動的ではある。しかし、それに心酔してしまうと、自分ががんになったとき誤った選択をしかねない。
「冷静さを失い、怪しい情報を信じてしまうのは、多くの人が、がん=すぐ死ぬ病気で怖いものと思っているからだと思います。ましてや、がんの治療もつらいし、副作用も怖いし、『副作用も少なく、体に優しくがんを治す治療があるよ』といわれると、人の心は簡単に動いてしまう。有名人を始め、サイトなどに掲載される体験談は興味をひかれるかも知れませんが、自分に当てはまるかはわかりません。
がんにはいくつものタイプがあり、病状も1人1人違います。誰かがAという治療法で症状がよくなったとしても、自分にはそれは合わないことも多いのです。体験談を全否定するわけではありませんが、どう治療するかは医師としっかりと相談すべきであるとことが大前提です」
勝俣医師は、ここ数年、「信頼できるがん情報」についてさまざまなメディアや自分のtwitterでも配信し続けている。しかし、それでもインチキ医療は増え、メディアのがん報道の質もなかなか向上しないと嘆く。
「こういう話をすると、国民・患者も、もっとリテラシーを身につけなくてはいけない、という結論になります。もちろん、リテラシーをもったほうがいいですが、それより改善すべきは、情報を発信する側のメディアや医療者だと思います。メディアも医学報道をするなら少しは医学を学んでほしい。そして、私たち医師も、『インチキ医療は許さない、正しい医療を』という情報発信をもっとしていくべきと思います」
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