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たばこが原因の「3大疾患」、平均余命10年短縮や手足切断も
https://diamond.jp/articles/-/171299
2018.5.31 阿保義久:北青山Dクリニック院長 ダイヤモンド・オンライン
喫煙によって起こる恐ろしい病気とは?
5月31日は「世界禁煙デー」。日本では、5月31日から6月6日までが禁煙週間となっている。近年、喫煙による健康への被害が立証されるとともに喫煙者は減少しつつあるが、それでも喫煙をやめられない人は少なくない。では、喫煙を止めないことは、体にどれほど重大な疾患をもたらす可能性があるのか。今回はたばこが原因になっている「3大疾患」に着目して、北青山Dクリニック院長・阿保義久医師が解説する。
外科医はヘビースモーカー?
皆さんの健康管理をつかさどるべき医師が「ヘビースモーカー」というのは、けしからん話だと思われる方が多いかもしれません。私は大学卒業後、自身の専門科として外科を専攻しましたが、多くの外科医師が喫煙常習者であることに当初、違和感を覚えました。
ご存じのように外科は手術を担当する科です。私が所属した外科の医局は、当時、胃がん、食道がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がんなど、主たるがんの手術と、血管の手術を担当していました。
早朝のカンファレンスでは、手術予定患者さんの検査や治療方針に関して毎回真剣なディスカッションが交わされる中、カンファレンス室はいつもたばこの煙で充満されていました。各臓器チームのリーダー格の医師たちは決まってヘビースモーカーでした。
また、大学の医局を一時離れて都市部の機能病院で連日手術を担当することになった時も、手術の合間の休憩室では先輩外科医のほとんどがたばこを吸っていました。がんや大血管の手術という大きなプレッシャーを日々受けながら診療を担当する外科医は、そのストレス解消のためにたばこは手放せないのだろう、と当時は妙に納得していたものです。
言うまでもなく、たばこが、がんや血管病の発症リスクを大きくすることはどの医師も重々承知しており、日常診療で患者さんには禁煙を説いているのに自らは日常的に喫煙しているという、矛盾に満ちた状況でした。
ヘビースモーカーの医師たちが
一斉に禁煙をはじめた理由は?
ところが、いつの間にか、大学病院はもちろん、市中病院においても、カンファレンスルームはおろか公共の場で喫煙ができるスペースはあっという間になくなってしまいました。あのヘビースモーカーだった医師たちも、右にならうように皆一切たばこを吸わなくなっていました。その理由として、国際的に禁煙が求められる風潮にあったことも挙げられるでしょうが、何よりも、喫煙があらゆる医学的観点において、重大な健康被害を生むことを示す科学的論拠が日に日に耳に入ってくるようになったことが大きいと言えます。
喫煙が健康上、プラスになる点を無理に探しても一つも見つかりません。脳を活性化させる、イライラを止める、という側面がたばこにはあると言われますが、そのためにたばこを続けていると、認知症や精神疾患の発症が大幅に増えてしまうという客観的事実が次々と示されるようになりました。
そして、何よりも、喫煙者の周囲の人が吸うはめになる副流煙が健康を著しく害することが示されるようになったことも、医師の喫煙を止める大きな理由であったでしょう。喫煙者自らが吸う主流煙よりも、周囲の人が吸いこむ副流煙の方が、ニコチン・タール・一酸化炭素などの有害物質が3〜4倍多いということが示されたのです。
喫煙により自分だけが体調を崩すのであれば、医者の不養生で片付けられるかもしれませんが、人の病を治し健康を管理する医師が、自ら周囲の方の健康被害を作り出しているとしたら、それは職業上の背信行為でもあります。受動喫煙による弊害が広く認知されるようになったことで、医師の禁煙が一斉に進んだと考えられます。
たばこの毒性、受動喫煙による病気は深刻
副流煙の方が主流煙よりも毒性物質の量が多い
たばこの煙には200種類上の有害物質が含まれ、発がん性物質は50種類以上にも及びます。有害物質として有名なのは、ニコチン、タール、一酸化炭素で、それぞれ、血圧を上げ、発がん性があり、血液中の酸素の運搬能を低下させます。その他にも、アセトン、ヒ素、トルエン、カドミウムなどの有害物質が含まれます。ニコチンはご存じのように依存症が強く、禁断症状の強さや離脱の難しさは麻薬以上とも考えられています。
先に述べた受動喫煙の被害は、本来はたばこを吸いたくない、吸う必要のない人が、自分勝手に吸っている人の何倍もの有害物質を取ってしまうことで引き起こされます。妊婦さんや乳幼児などたばこの害に対して脆弱な人たちが犠牲になりやすいことも問題視されます。
受動喫煙により吸うはめになる副流煙により、大人が被る重篤な疾患は、脳卒中・心筋梗塞・肺がん・慢性閉塞性呼吸障害・早産・低体重児出産など、子どもが被るのは、肺炎・喘息・中耳炎・乳幼児突然死症候群など軽視できないものばかりです。
繰り返しますが、主流煙よりも副流煙の方が毒性物質の量が極めて多く、たばこを吸っている人は、自分が被る健康被害の何倍ものダメージを周囲の人に与えていることになります。
さて、ここからは、そんなたばこが発症に強く関与する代表的な疾患を見ていきましょう。
平均余命が5〜10年も縮む
喫煙者の2割が発症の「慢性閉塞性肺疾患」
口から吸いこまれた有害物質だらけのたばこの煙は、気道を通ってまず肺に到達します。なので、たばこの害が肺で多く発生することは容易に想像できます。たばこにより気道や肺の防御機能が弱まるので、細菌やウイルスの侵入を防ぐことができず、肺炎が発生しやすくなります。気管・気管支への炎症も誘発することから、気管支喘息の発症も増えます。
たばこによる肺への弊害は多々ありますが、ここではたばこの煙が最大の原因となる重篤な肺疾患の一つ、「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」について触れたいと思います。これは、慢性気管支炎や、肺気腫といった慢性炎症性疾患の総称です。
喫煙者の20%程度が発症すると言われ、炎症の持続により咳や痰が絶え間なく発生し呼吸困難に陥ることがしばしばあります。たばこなどの有害物質が肺胞という空気を取り込む袋状の構造物を破壊すると、酸素の取り込みや二酸化炭素の排泄ができなくなり、体全体に様々な不調症状が表れます。そして、COPDを発症すると、どんなに治療をしても元に戻ることはありません。
COPDになると平均余命が5〜10年短くなることがわかっています。ただし、寿命が縮まる以上にCOPDに陥った方が悲惨なのは、COPDを発症したのに喫煙を続けると症状が急激に悪化していき、一気に重症化してしまうことがあります。そうなると四六時中呼吸苦を感じるようになります。
生きるために人は呼吸を止めることはできません。呼吸が止まるということは死を意味します。溺れたときのように息ができなくなる苦しさがどんなに辛いか想像に難くないでしょう。COPDは、少し歩いただけで息切れや溺れた時のような呼吸苦を感じ、重症化すると安静にしていても酸素吸入しないと苦しくて我慢できない状態に陥ります。吐くのも吸うのもつらくなり、窒息しているような状態が常に続くことになります。
どんなに激しい痛みよりも、窒息するほどの呼吸苦は、人にとっては拷問です。たばこをずっと吸い続けているとCOPDに陥る可能性は高まるばかりです。COPDは発症すると治りません。重症化すると、まさに生き地獄の日々を過ごすことになるのです。
手足の冷えから始まり、痛みから壊死へ
血管の病気「バージャー病」では手足の切断も
たばこは動脈硬化の危険因子であることはよく知られています。「動脈硬化」が進むと心筋梗塞や脳卒中の発症に繋がることも皆さんご存じでしょう。心筋梗塞や脳卒中の発症リスクに関して喫煙者と非喫煙者を比べると、圧倒的に喫煙者の方が発症リスクの高いことが疫学的に示されています。
例えば、非喫煙者に対して喫煙者は、心筋梗塞の発症リスクが男性は約4倍、女性は約3倍になります。毎日20本以上たばこを吸うと、脳卒中による死亡リスクは、男性では2.2倍、女性は約4倍にもなります。しかし、喫煙者であっても10年以上禁煙すれば、これらのリスクはほぼ非喫煙者と同等になることもわかっています。
さて、血管の病気の中で特にたばこに関連する疾患として「バージャー病」があります。バージャー病という疾患名は皆さんあまり聞き慣れないと思いますが、最近の調査では全国で約1万人の患者さんがいると推計されています。男女比は9対1と圧倒的に男性に多く、発症年齢は40歳代が中心で青壮年層に多く発症します。動脈硬化症と同様に血流を悪化させますが、動脈硬化に比べるとより末梢の細い動脈の血行を傷害します。背景に慢性の血管炎があり、その発症には喫煙が密接に関係していると言われています。
バージャー病の症状は、手足の冷え、しびれ、色調の悪化に始まって、進行すると痛みによる歩行障害が発生するようになり、しまいには安静時にも手足が激しく傷むようになり皮膚が崩れて潰瘍や壊死を来すことがあります。動脈だけでなく手足の静脈にも痛みを発症することもある難治性の疾患です。
治療の基本は、禁煙です。治療として高圧酸素療法や交感神経節切除手術の他に、昨今は遺伝子治療なども行われるようになってきましたが、コントロールが困難なことが多く、壊死が進行すると手足の指の切断やさらには四肢の切断が必要になることがあります。
禁煙ができずにだらだらしているうちに徐々に病状が進展して、手足を失うことになる怖い病気です。ただし、早期に禁煙を厳守して適切な治療を施せば重症化を防ぐことができ、発症前の仕事や日常生活への復帰が可能です。
「がん」の発症リスクも喫煙でアップ
難治がんの「膵臓がん」対策は禁煙こそ近道に
非喫煙者に比べて喫煙者は、全ての「がん」の発症率が大きいという報告をしばしば目にします。たばこを吸っている人がなりやすいがんとして、科学的に明らかなものだと、厚労省が発表したものは以下のがんです。
鼻腔・副鼻腔がん、口腔・咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肺がん、胃がん、肝臓がん、膵臓がん、膀胱がん、子宮頸がん
他にも、大腸がん、乳がんも、たばこにより発症リスクが相当に大きくなることがわかっています。
がんは早期発見により根治が可能なものが増えてきました。しかし、早期発見が難しく、一旦発症すると進行が速いがんは「難治がん」と呼ばれ、現代医療においてもコントロールすることが困難です。その難治がんの代表的なものが「膵臓がん」です。
早期発見できたとしても5年生存率は40%程度、多くは進行がんで発見されるため、平均5年生存率は20%以下という非常に悩ましい疾患です。予防こそが膵臓がんの発症をコントロールする極めて大切な方法と言えます。極めて厄介ながんの代表格である膵臓がんを予防するための方法として、「禁煙すること」は大いに意味があるでしょう。
現代医療をもってしても
たばこによる病気は治せない
以上、たばこによって引き起こされる代表的な病気を見てきました。取り上げた疾患以外にも、たばこは、骨粗鬆症、糖尿病、甲状腺疾患、うつ病など様々な疾患の原因になります。脳を覚醒させるためにたばこを吸っていたら認知症が進んだ、精神的不安を取り除くための喫煙がうつ病を発症し、さらなる喫煙によりうつ症状が悪化するという悪循環に陥ってしまった、などのことを改めて考えると、喫煙はやはり「百害あって一利なし」とうことになるでしょう。
愛煙家が注目しているという、電子たばこや加熱式たばこは、従来のたばこに比べて健康被害が小さいと期待の声が上がっていますが、それも喫煙ありきの立場からのもので、科学的な論拠は乏しいものです。また、その発生する微粒子が健康被害を生むリスクも危ぶまれています。
たばこが医学的に体に悪いと知っていながら、ヘビースモーカーだった医師たちがきっぱりと禁煙した理由を改めて思い起こしましょう。たばこを吸うことは、自身にとっても毒ですが、被害を受けるいわれのない周囲の非喫煙者や家族、自分の大切な方々に毒を盛るようなものです。昨今は分煙化が図られているとは言え、周囲に全く害がないとは言えません。ぜひ、周囲の家族の健康のためにも、禁煙に取り組んでいただきたいと思います。
(北青山Dクリニック院長 阿保義久)
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