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抗がん剤、年間738億円分も廃棄…風邪薬の処方、世界的に廃止の動き
http://biz-journal.jp/2018/04/post_23058.html
2018.04.19 文=富家孝/医師、ジャーナリスト Business Journal
昨年11月、国立がんセンターと慶應義塾大学大学院の岩本隆特任教授の調査で、抗がん剤が年間に約738億円分も廃棄されていると発表され、大きな反響を巻き起こした。
「まさか、こんなに無駄にされているなんて。本当にもったいない」というものから、「残薬を捨てずにほかの患者さんに回すことはできないのか」など、一般の反応はさまざまだが、いずれも額の大きさに驚いたものである。ほかのクスリを合わせれば、薬全体では莫大な額が無駄になっているのだ。
今回の調査は、昨年7月から今年6月までに販売された100種類の抗がん剤の廃棄率などのデータが元になっている。それによると、全国で1年間に廃棄される抗がん剤の割合は、患者に投与された量全体の9.8%に達していて、その額がおよそ738億円なのだという。
そして、このうちの約8割にあたる601億円は、病床数が200床以上の病院(いわゆる大学病院などの大病院)で廃棄されたという。岩本教授は「安全性を確保すれば、残薬を使うことで国の医療費を年間で500億円ほど削減できるのではないか」と述べている。
じつは、厚生労働省はすでに「オプジーボ」など高額な抗がん剤使用の無駄を減らすための調査、改善策の検討に入っている。今回の発表はその一環といっていい。
現在、抗がん剤はこれまでの「細胞無差別攻撃式」のものから、オプジーボのような「免疫チェックポイント式」のものへの転換期にある。前者はほとんど効果がないと考えられたが、後者は効果が認められ、これからのがん治療には欠かせないものになりつつある。ただし、開発に莫大な金額が投入されていて、高額である。これらを保険適用していけば、国の医療費はパンクしてしまう。
たとえば、液状の抗がん剤は「バイアル」というガラスの瓶に入っており、オプジーボの場合は1瓶100ミリグラムで約36万5000円もする。これを患者さんの状況に応じて使用量を調整して使うわけだが、使用後3分の1残ったとしたら、それは廃棄されることになる。メーカーが開封後は細菌汚染の恐れがあるとしているからだ。とすると、3分の1廃棄すれば、10万円以上が無駄になる。
こうした実態をどう改善し、残薬再使用のガイドライン(たとえばバイアル薬の場合は使用した量だけ請求できるようにするなど)をどのようにつくるかが今後の課題になる。
■残薬は年間1000億円以上か
では、抗がん剤以外の薬はどうだろうか。
正確な統計はないが、現在、年間の残薬は1000億円を軽く超えているとみられている。とくに、降圧剤、コレステロール降下剤、血糖降下薬など、高齢者が飲み残す薬の額は年間500億円以上になるという。処方された全量の半分が無駄になっているともいわれている。
この原因の多くは、日本独特の診療報酬システムである国民皆保険制度と、医者と製薬会社の癒着にある。また、多くの患者が薬を欲しがることにも起因している。
巨大製薬会社は新薬を開発すると、資金力にものを言わせて宣伝する。そして、MR(医薬情報担当者)が医者に「この薬を使ってほしい」と宣伝・接待に回る。そうすると、多くの医者は使ってみようかなとなる。しかし、その効果のほどは実はよくわからないのである。そして、新薬になればなるほど価格は高くなるのだ。
だいたいにおいて、薬は効かない。それほど重くない高血圧や糖尿病などでは、薬の効果は一時的であり、それよりも食事、運動などにより生活習慣を変えていくほうがよほど効果がある。しかし、医者はリピーター患者が欲しいので、常に薬を出す。薬が切れればまた通院してくれるからだ。
一方、患者さんのほうも健康保険で1〜3割負担だから、薬の値段をあまり気にしない。さらに、薬が出ないと不安になるという心理を抱えている。たとえば、いったん認知症の気があると診断されて薬を処方されると、飲み続けなければ不安になる。ところが、実際には薬をやめると症状が改善されたという例もある。
■Choosing Wisely
最近の患者さんは賢くなり、5種類以上も薬を出されると、その医者を疑ってかかり、飲み残すことが多い。たとえば、糖尿病の血糖降下薬は本当に血糖値を下げてくれるが、逆に効き過ぎて低血糖を招くケースがある。そうなると、めまいや動悸をきたす。また、ほかの薬と飲み合わせると副作用が出たりするので、服用をやめてしまうことがある。
そのような薬以外、ごく一般的な風邪薬や胃腸薬は、症状が治まればすぐに服用をやめる人が多い。その結果、家庭に多くの薬が死蔵されている。こうして、残薬は増える一方になっている。
現在、風邪薬は保険適用をやめて、病院で処方するのをやめる方向になっている。これは世界的な傾向で、アメリカの「Choosing Wisely」という無駄な医療をなくす運動では、風邪に対してはあらゆる薬の処方は不要としている。風邪には薬が要らないというのは、いまや世界の常識となっている。日本感染症学会や日本化学療法学会はガイドラインで、風邪はほぼすべてウイルスを原因とするもので、抗菌薬は効かないとしている。
すでに、ビタミン剤の単純な栄養目的としての処方は保険適用外となっている。また、うがい薬の単独の処方も保険適用外になっている。こうした風潮をふまえて、私たちは薬に対してもう少し賢くなるべきだ。
また、薬が残った場合、それを返品すればお金が戻ってくるというような「リファンド制度」などを導入すべきだろう。
(文=富家孝/医師、ジャーナリスト)
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