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幹細胞研究 世界の最前線
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投稿者 あっしら 日時 2017 年 8 月 31 日 02:21:20: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


〈幹細胞研究 世界の最前線〉

(上)万能細胞、実用化競う 再生医療で治験続々
ES・iPS問わず ゲノム編集活用へ

 再生医療や創薬で革新を起こそうと、体の様々な組織になる幹細胞の活用に世界が大きく動き出した。幹細胞の中でも万能細胞と呼ばれるiPS細胞を京都大学の山中伸弥教授が開発してから10年余り。医療現場は「使えるか」という期待を超え、「どう使いこなすか」を考える時代に入った。遺伝子を自在に改変する「ゲノム編集」などバイオ技術の急速な進歩も追い風になっている。

 「細胞がしっかり定着し、異常もない」。6月中旬、米ボストンで開かれた国際幹細胞学会。イスラエル・ヘブライ大学のベンジャミン・ルビノフ教授の表情は自信に満ちあふれていた。

 胚性幹細胞(ES細胞)から作った網膜の細胞を「加齢黄斑変性」という目の病気の患者に移植する臨床試験(治験)に取り組む。

 再生医療の先駆けとしてES細胞を使う治験は、既に米国や英国、韓国など世界各国で始まっている。米国はiPS細胞でも米国立眼科研究所のカピル・バーティ主任研究員らが2018年夏をめどに治験を始める。

 日本では14年、理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーらが患者のiPS細胞から作った網膜の細胞を目に移植する世界初の臨床研究を実施した。日本で再生医療への応用といえば、世界とは逆にiPS細胞が先行する。

 ES細胞とiPS細胞は幹細胞の中でも万能細胞と呼ばれ、体のほとんど全ての細胞に育つ。

 同じ万能細胞でも、受精卵から生み出すES細胞は生命倫理上の問題があると日本では受け止められた。そこに皮膚や血液の細胞からでも作れるiPS細胞が日本で誕生した。政府はiPS細胞に支援を集中し、ES細胞の研究は停滞した。

 この間にも海外では、不妊治療でいらなくなった受精卵をES細胞研究に生かし、データを着実に積み上げた。世界は「再生医療に使うなら、ES細胞とiPS細胞に大差はない」(英ケンブリッジ大学のルドビック・バリエ教授)との考えが大半だ。万能細胞をいかに使いこなすかに研究の焦点が移っている。

 ES細胞かiPS細胞かという二者択一の議論よりは、「再生医療に使うにはどうすべきか」という発想が行き渡る。患者への応用はまだ先だが、将来を見すえた考えができるのは、再生医療研究が最新のバイオ技術と次々に結びついているからだ。

 米ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授は「この2年間、(再生医療に相当する)細胞治療に、遺伝子操作を応用する研究の増加はすさまじい」と話す。

 期待がかかる技術の一つがゲノム編集だ。万能細胞は様々な細胞に変わり、望まない細胞ができてしまう問題がある。ハーバード大学のダグラス・メルトン教授はゲノム編集の技術を応用し、必要な細胞だけに育つ「デザイナー細胞」の開発を目指している。

 糖尿病の治療にインスリンを分泌する膵臓(すいぞう)のベータ細胞を作ろうとしている。ベータ細胞とは違う細胞に変える遺伝子をゲノム編集で壊し「ベータ細胞だけが強制的にできるように設計する」という。

 日本では京都大学の斉藤博英教授らが人工合成したRNA(リボ核酸)を細胞内に入れ、「スイッチ」のように使って細胞の種類を効率よく選別する手法を開発した。

 人工RNAのオン・オフを切り替え、それぞれの臓器や組織にふさわしい細胞を仕分ける。心筋細胞では95%以上の割合で作れた。

 移植した細胞を患者の免疫が異物とみなす拒絶反応の問題も新技術で乗り越えようとする。

 米ワシントン大学のデイビッド・ラッセル教授らは、万能細胞の免疫型を決める遺伝子を改変し、誰に移植しても拒絶反応を起こしにくい「ユニバーサルドナー細胞」を開発する。免疫型に関わる「HLA」というたんぱく質の組み合わせを変え、免疫細胞の攻撃を免れる。

 再生医療を多くの患者が利用するまでには、多くの難題が待ち受ける。世界の最前線では、様々な技術の融合に活路を見いだす動きが広がっている。

[日経新聞8月14日朝刊P.9]


(中)「患者の分身」創薬に貢献

 日本でiPS細胞の応用といえば、再生医療の印象が強い。世界的には創薬こそ産業の裾野が広く、実用化も早い本命と考える研究者が多い。iPS細胞をはじめとする幹細胞の研究最前線は創薬にも役立っている。


国際幹細胞学会では「ミニ臓器」の研究に注目が集まった(6月、米ボストン)

 「iPS細胞は希少疾患の研究を一変させた」。米国立心臓肺血液研究所のマンフレッド・ボーエム上席研究員は話す。iPS細胞が病気の仕組みや治療薬の研究に生かせる利点を強調する。

 動脈が石灰化して硬くなる難病などの患者の血液から作ったiPS細胞を血管などの細胞に育て、病気を再現。他の病気の薬として使われる化合物で効くものがないか網羅的に調べている。「患者の血液という最小限の試料から、大きな機会を生み出すことができる」とボーエム氏は語る。

 今月1日、京都大学iPS細胞研究所の戸口田淳也教授は、筋肉などの組織に骨ができる難病の治療薬候補を見つけ、臨床試験(治験)を始めると発表した。世界に先駆けて計画を公表したが、水面下では国内外の製薬企業などがiPS細胞の活用でしのぎを削る。

 研究はiPS細胞以外の幹細胞でも進む。同じく万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)のほか、腸など体の組織にある幹細胞を培養し、臓器のミニチュア版を作る技術が発展している。

 臓器そのものの再現は再生医療につながるが、ミニ臓器(オルガノイド)は病気の発症過程をより正確に再現でき、創薬への貢献も大きい。

 米ボストンで6月に開かれた国際幹細胞学会でもミニ臓器の創薬応用が注目を集めた。シンガポールゲノム研究所は人のES細胞から立体的なミニ中脳を作った。細胞に色素ができる過程を再現でき、手足などが震える難病のパーキンソン病研究に役立つという。

 腸の幹細胞からミニ腸を作ったオランダ・ヒュブレヒト研究所のハンス・クレバース教授は「ミニ臓器は患者の分身のようなものだ」と話す。

 一緒に研究を進めた慶応義塾大学の佐藤俊朗准教授は大腸がんをミニ腸の形で培養し、がん細胞のもとになる「がん幹細胞」ができる仕組みやがんの転移などの研究に役立てている。現在は攻撃が難しいがん幹細胞を効果的にたたく薬の開発などにつなげたい考えだ。

 ミニ臓器と、遺伝子を自在に改変できる「ゲノム編集」との融合も始まった。この新技術は患者の細胞の遺伝子異常を修復したり、正常細胞に異常を起こしたりと、簡単に遺伝子を操れる。iPS細胞だけでなく、ES細胞でも一部の病気を再現できるようになった。

 米ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の森実隆司主任研究員は遺伝性の腎臓病の治療薬をミニ腎臓で研究する。「多発性のう胞腎」という病気の原因になる遺伝子異常をゲノム編集で再現し、病気のミニ腎臓を作製した。

 日本はミニ臓器研究が活発だが、海外では大規模な連携の動きもある。米国立がん研究所など米欧の4研究機関は昨年、約1000例のがんのミニ臓器バンクを作る計画を発表した。創薬を効率化する狙いだ。

 このプロジェクトに加わるオランダのクレバース教授は「様々ながんのDNAを調べ、患者ごとに最適な薬を予測する技術を開発したい」と語る。

[日経新聞8月21日朝刊P.11]


(下) 医療への応用どう目指す

iPSで眼の難病治療 米国立眼科研究所主任研究員カピル・バーティ氏

 京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞を開発してから10年あまり。iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)をはじめとする幹細胞の研究は世界で活発だ。再生医療や創薬への応用を目指す米国立眼科研究所カピル・バーティ主任研究員と英ケンブリッジ大学のルドビック・バリエ教授に現状や展望を聞いた。

(聞き手は越川智瑛)

 ――iPS細胞の臨床応用をどう進めますか。

 「加齢黄斑変性という目の難病で臨床試験(治験)を計画している。患者本人から作ったiPS細胞を網膜の細胞に育て、目に移植する。早ければ2018年夏に1人目に移植する。2〜3年間で10〜12人で実施する計画だ」

 ――同じ万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)ではなくiPS細胞を選んだ理由は。

 「米国でも、日本と同じように、拒絶反応が起きにくい特殊な免疫型を持つ他人のiPS細胞を備蓄する取り組みが進む。患者本人のiPS細胞と併用することであらゆる体質の患者に対応できる」

 ――実用化には企業との連携も重要です。

 「第1相の治験では、富士フイルム傘下の米セルラー・ダイナミクス・インターナショナル(CDI)がiPS細胞を作製する。ただ、第2相以降の相手は決まっておらず、複数の企業と交渉している。今後5〜10年の間に、私たち以外にも数多くのグループが治験を始めるだろう」

 ――日本の状況をどうみていますか。

 「研究を率いる理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーはこの分野の先頭を走り、画期的な仕事をなし遂げた。私たちの研究と共通する部分も多いが、網膜細胞の移植の方法などが違う。細胞の向きをそろえることで、移植した細胞が機能しやすくなると考えている」

ミニ胆管使い病気解明 英ケンブリッジ大教授 ルドビック・バリエ氏

 ――ミニ臓器を作る研究の進捗状況は。

 「私たちは肝臓が作る消化液の通り道になる胆管の病気の治療を目指している。患者の胆管細胞やiPS細胞からミニ胆管を作り、病気を試験管の中で再現する。まず、分子レベルで病気の仕組みを解明し、治療効果のある新薬候補となる化合物を網羅的に調べる研究を手がける。将来は、ミニ臓器を患者に移植する再生医療に応用できるかもしれない」

 ――臨床応用する場合、iPS細胞と胚性幹細胞(ES細胞)に差はあるのでしょうか。

 「ES細胞とiPS細胞の性質は非常によく似ている。ES細胞は特徴や安全性などの研究が蓄積し、臨床応用が先行している。iPS細胞の応用研究も急速に進んでおり、いずれ追いつくだろう。倫理的な面から受精卵を使うES細胞を避け、iPS細胞を利用したい研究者もいる」

 ――日本では、iPS細胞の応用研究が進んでいます。英国の状況は。

 「英国でも幹細胞の臨床応用に対し、政府の大きな後押しがある。だが基礎研究の蓄積がなければ、臨床応用は発展しない。発生生物学の研究者が肝臓ができる仕組みの基礎的な知見を積み上げてきたからこそ、私たちはミニ胆管を作る手法を開発できた」

 「山中教授も基礎科学の成果からiPS細胞を生み出した。日本は優秀な基礎科学の研究者を多く抱えており、支援を続けるべきだ」

[日経新聞8月28日朝刊P.9]


 

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コメント
1. 2021年4月17日 19:21:17 : 4lKFU5rXKY : d2pReTFwRnFwbUU=[11] 報告
ヒト幹細胞をサルの胚に入れ培養 倫理面で問題視も
https://news.livedoor.com/article/detail/20042072/

ヘレン・ブリッグス、科学担当編集委員

ヒトの細胞を含んだサルの胚が、研究施設でつくられた。15日付の米科学誌セルで発表された。これを受け、生命倫理をめぐる新たな議論が沸き起こっている。

この研究はアメリカと中国の合同チームが取り組んだ。米ソーク研究所のホアン・カルロス・イズピスア・ベルモンテ教授がチームを率いた。

科学者らは、ヒトの幹細胞をサルの胚に注入。成長を続ける胚を20日間研究した。幹細胞は、体のさまざまな部位に分化する能力をもつ。

異種の遺伝子型の細胞が混在している「キメラ」と呼ばれる胚は、これまでもつくられてきた。2017年にはベルモンテ教授も関わり、ヒトとブタのキメラ胚が世界で初めてつくられた。ヒツジの胚にヒトの細胞を加えた例もあった。

同教授によると、そうした研究は、移植用臓器の深刻な不足を改善する可能性がある。また、人間の初期段階の成長や、病気の進行、老化について理解を深めることにもつながるという。

「キメラの研究は、生命の最初期だけでなく最終期における生物医学研究を前進させるのにも、とても有用だ」

ベルモンテ教授は、研究は倫理的および法的なガイドラインに沿ったものだと話す。

「究極的には、私たちは人間の健康を理解し増進させるために、こうした研究をやっている」

倫理的な懸念
科学者の中には、今回の実験に懸念を表明する人もいる。今回つくられた胚は20日で破壊したが、それ以上研究を進めようとする人が出てくる可能性もあると訴えている。

また、ヒトとそれ以外のキメラをつくることの影響について、社会的な議論が必要だと主張している。

英イースト・アングリア大学医学部で生物医学倫理を教え、研究もしているアナ・スメイダー博士は、今回の実験が「重要な倫理的、法的問題」を突きつけていると話す。

「この研究に関わった科学者たちは、『特定の実験は人間でできない』と言って、キメラ胚が新たな機会を提供すると主張している。しかし、それらの胚がヒトなのか、そうではないのかは考えるべき問題だ」

パンドラの箱を開ける
オックスフォード大学のジュリアン・サヴレスキュー教授は、今回の研究が「ヒトとヒト以外のキメラというパンドラの箱を開ける」ものだと述べた。

「今回の胚は成長20日目に破壊されたが、ヒトとヒト以外のキメラが開発されるのは時間の問題だ。おそらく移植用臓器をつくる目的で実行されるだろう。それがこの研究の長期的目標の1つになっている」

遺伝子科学の推進などに取り組む英プログレス・エデュケーショナル・トラストのディレクター、サラ・ノークロス氏は、胚と幹細胞の研究で前進がみられているとした一方で、「倫理と規制の面で難しい問題があり、社会的議論が必要なのは明らかだ」と述べた。

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