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東京近郊、医師不足が深刻化…厚労省、無意味な制度推進で「医局」復活の時代錯誤
http://biz-journal.jp/2016/11/post_17179.html
2016.11.15 文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長 Business Journal
医師偏在の議論が進んでいる。厚労省は若手医師が保険医の資格を取るにあたり、医師不足地域での勤務を義務づけることを法制化する方向で調整を進めている。また、日本内科学会や日本外科学会などの医学系学会は、専門医教育のあり方を「改革」しようとしている。
この「新専門医制度」では、日本専門医機構という第三者機関が専門医資格のあり方を規制する。具体的には、地元の大学病院をトップに、関連病院を系列化する。地域の病院は大学病院から医師を派遣してもらうことになり、従来型の医局が復活する可能性が高い。時代錯誤な手法だが、厚労省はこの動きを応援してきた。
筆者は、このような動きをみて暗澹たる気持ちになる。なぜなら、このような施策は意味がないからだ。医師偏在の是正と若手医師の教育システムの改善は本来、別問題だ。両者を一緒に議論することは、思わぬ弊害を招く。冷静な議論が必要だ。まずやるべきは、現状を正確に把握することだ。そして、すぐにできることから始めるべきだ。
■被災地の産科医不足
日本の医師偏在には2つの側面がある。1つは都市と地方の問題だ。たとえば、筆者が活動している福島県では、まさにこの問題が深刻化している。医師は、福島県立医大が存在する福島市周辺に集中し、浜通りには少ない。
特に深刻なのが産婦人科だ(図1)。もともと産科医が少なかった地域に、2006年2月には福島県立大野病院産科医師逮捕事件、11年3月には東京電力福島第一原発事故が起こった。多くの若年女性が避難し、多くの診療所や病院が産科診療を停止した。
(図1)福島県内の産婦人科医の偏在
現在、相馬地方(相馬市・南相馬市など)で産科の入院患者を受け入れているのは、南相馬市立総合病院と1つの有床診療所だけだ。基幹施設である南相馬市立総合病院の常勤医師は1人である。いつ崩壊してもおかしくない。
現在でも、相馬地方には10万人を超える住民が生活している。相馬藩6万石の伝統ある城下町で、「限界集落」ではない。ところが、この地域の妊婦が急変した場合、南相馬市立総合病院で受け入れられなければ、阿武隈高地を越えて車で1時間以上かかる福島県立医大にまで運ばねばならない。冬場は雪が積もる。東京や大阪の住民には想像できない環境だ。
震災後、一時的に避難した若年女性が帰還し始めた。出産する人もいる。また、この地方出身の女性で、里帰り出産を希望する人もいる。ところが現状では、このようなニーズに応えることができない。知人の相馬市出身で、東京で働く女性は「現在、妊娠していますが、里帰り出産できる病院がなかったため、こちらで産むことなりそうです」という。
この問題に対して、すぐにやれる事がある。それは、福島県立医大が産婦人科医を派遣することだ。震災復興のため、巨額の税金が福島県立医大に投入されてきた。相馬地方への医師派遣は、福島県立医大にとって最優先事項のはずだ。
ところが、福島県立医大は、この問題に真剣に取り組んでこなかった。筆者には、むしろ被災地の病院を苛めてきた感すらある。ご興味のある方は、以下の文章をお読みいただきたい。
・10月11日付「JB PRESS」記事『厚労省、立派な大義名分の裏でせっせと利権作り 新専門医制度でさらに焼け太る福島県立医大』
・10月24日付「医療ガバナンス学会」メールマガジン『福島県立医大は専門医の育成機関として適格か』
この問題の解決は、福島県民が自立し、民主的に議論することだ。納税者として、福島県立医大の振る舞いを批判すればいい。福島県庁には、福島県立医大の「暴走」を許した管理体制について説明してもらえばいい。福島県立医大の「怠慢」を放置し、全国の若手医師を医師不足地域に強制的に派遣すべきではない。
余談だが、筆者たちの批判が効いたのだろうか、先だって、福島県立医大は南相馬市立総合病院に産科医の派遣を決めた。福島県立医大という「権力」が機能するためには、社会の監視・批判が欠かせないことを示している。
■医師偏在
医師偏在については、もうひとつ深刻な問題がある。それは日本国内での医師偏在だ。日本での医師数は西高東低である(図2)。
(図2)都道府県別の医師数
実は、日本で最も医師が少ないのは首都圏である。12年現在、人口10万人あたりの医師数は埼玉県148人、千葉県173人、神奈川県193人だ。京都府297人、徳島県296人の50%〜65%程度だ。
東京に医師が多いため、「病気になれば、東京の病院に通うから大丈夫」という意見を聞くことがあるが、これは誤解だ。首都圏を平均すれば、西日本との差は比べるべくもない。首都圏は東京の中心部に医師が偏在しているため、むしろ危険であるというほうが妥当だ。
(図3)地域別医師数
今後、首都圏は急速に高齢化する。医師不足は、ますます加速する。
(図4)首都圏の医師不足のシミュレーション
では、埼玉・千葉・神奈川の医師数を全国平均にするには、どの程度の医師が必要なのだろう。それは、埼玉県5600人、千葉県3300人、神奈川県2900人だ。
医学部の定員は全国で約9000人だ。毎年卒業生の5%を強制的にこの地域で勤務させるとして、12年時点の全国平均に追いつくのに26年かかる。焼け石に水だ。また、首都圏に医師を集めるというのは、政治的な調整に手間取るだろうから、現実的でない。
日本は医師の絶対数が不足している。資源の絶対量が少ない状況で、超法規的なやり方で若者を苦境に追いやるのは、戦時中の神風特攻隊と同じ思想である。官僚の自己満足に過ぎず、意味がない。
■対策
では、どうすればいいのだろう。いくつかの手段を合わせなければならない。
ひとつは、首都圏での医師養成数を増やすことだ。成田市に医学部が新設されるが、埼玉県や神奈川県での設置も検討すべきだ。幸い、戸田市や箱根町・鎌倉市のような財政力のある自治体がある。
医師不足に対する根本的な対応は、医師養成だ。ただ、これには時間がかかる。筆者は、時間がかかるのだから、すぐにやるべきだと思うが、当座の対症療法も必要だろう。
まず検討すべきなのは、国家公務員、あるいはそれに準ずる医師を緊急的に医師不足地域に派遣することだ。幸い厚労省には医師免許を持つ官僚がいる。彼らは、平素より医師であることを強調している。この際、働いてもらってはどうだろう。外科手術のような高度医療はできなくても、初期研修を終えているのだから、基本的な医療はできるはずだ。彼らは国家公務員なので、業務命令を出せばいい。これは法律や政省令を改正し、通知を出す必要はない。
国立病院機構やナショナルセンターに所属する医師も同じだ。このような施設には、平時より膨大な税金が運営費交付金として注ぎ込まれている。彼らがウェイトを置いている医学研究ももちろん重要だが、それ以上に医師不足による医療崩壊対策が喫緊の課題だろう。こちらも業務命令で対応できる。
■国立大学の医学部の移転
ほかにも検討すべきことがある。それは東京都内にある国立大学の医学部の移転だ。東京大、あるいは東京医科歯科大の移転を考えてはどうだろうか。この2つの大学には、大学院生まで含めれば1000人程度の医師がいるだろう。首都圏の医師不足を解決するための、即効性のある対策だ。
これは、医師不足にとどまらない「町興し」につながる可能性もある。成功モデルは筑波大だ。つくば地域の医師不足は緩和され、文京地域として評価は高まった。土地の値段は上がり、東京から鉄道が通じたくらいだ。国立大学の移転は政府ができることで、一考に値する。
できることは、これだけではない。病院経営者や中高年の医師にとって、もっともインセンティブが働くのは、埼玉県や千葉県の診療報酬を高くすることだ。財源に限界があるのであれば、医師が過剰な地域の診療報酬を下げればいい。幸い、日本の診療報酬は全国一律だ。コストが高い首都圏の診療報酬を上げ、コストが安い地方の診療報酬を下げることは理にかなっている。この対策に加え、首都圏の病床規制を緩和すれば、病院や医師は西日本から首都圏に移動するだろう。
ただ、この政策は、日本医師会や彼らが支援する国会議員から猛反発を喰らうだろう。全国一律の診療報酬こそ、彼らの利権だからだ。
医師偏在の問題を、本当に改善したければ、現状を正確に分析し、適切な手段をこうじるべきだ。専門医教育など、若手医師の教育を混同させるべきではない。
どんな病院経営者も、若手医師は喉から手が出るほど欲しい。安い給料で、よく働くからだ。
多くの若手医師は民間人だ。政府が勤務場所や居住地を指定することはできない。今回の厚労省の議論は、医師偏在是正の大義名分のもとに、自らは医療現場に行くことはない厚労官僚が、空理空論を弄んでいるようにしかみえない。医師偏在の問題を、官僚と業界団体に任せてはならない。国民視点で、オープンな議論が必要だ。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)
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