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がん新薬、免疫細胞 覚醒  治療効果の予測研究も必要
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 11 月 12 日 05:07:32: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


がん新薬、免疫細胞 覚醒
治療効果の予測研究も必要

 「免疫チェックポイント阻害剤」という新薬が、がん治療を大きく変えるかもしれない。従来のようにがんを直接攻撃するのではなく、体内の異物を除く免疫の働きを利用する。他の治療法がない患者の一部でがんが縮小し、続けても効果が落ちないこともわかってきた。「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」をはじめ超高額な薬価ばかりが注目されるが、画期的な発見と評価する声は多い。


 「これまでの抗がん剤が効かない患者の一部で、完全にがんが治るケースもある」。京都大学の浜西潤三講師はオプジーボを使って治療した経験から、その効果について高く評価する。これまでの抗がん剤は使い続けると、がん細胞の遺伝子が変異して効かなくなる。しかし、オプジーボは従来の仕組みと大きく違うため、こうした耐性の問題が起こらないという。

 抗がん剤の開発はがん細胞を殺す物質を探す歴史だ。初期の抗がん剤は1950年ころ、毒ガスの研究から生まれた。その後、がん向けの抗生物質や白金製剤などが開発された。いずれもDNAの合成を邪魔することで、がん細胞を増殖できなくして殺す。だが、健康な細胞も傷つけるため副作用がつきまとう。

 21世紀に入り、大きな技術革新があった。まず、がんだけを狙い撃ちする分子標的薬の登場だ。がん細胞の表面に現れる増殖にかかわる分子の働きを抑えて殺す。副作用は少なくなり、治療成績は向上した。ただ、患者に特定の遺伝子異常がないと効果がないうえ、使ううちに効かなくなる耐性問題は残った。

 第二の革新がオプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤だ。免疫の力を生かしてがん細胞を排除する。従来も免疫の攻撃力を高めるがん治療法はあったが、有効性を証明できなかった。免疫チェックポイント阻害剤はがん細胞などによってブレーキがかかった免疫の攻撃力を回復させる。「従来の治療法とは逆転の発想だ」と、先駆者の京都大学の本庶佑客員教授は振り返る。オプジーボは同教授の発見を利用している。

 体内に異物が生じると、監視役の樹状細胞が見つけ、T細胞などの免疫細胞に指令を出して攻撃する。がん細胞は健康な人でも生じるが発症しないのは、免疫ががん細胞を排除するからだ。これに対して、がん細胞は免疫の攻撃にブレーキをかけようと働く。

 カギを握るのがT細胞の表面に現れる「免疫チェックポイント分子」と呼ぶたんぱく質だ。そのひとつが本庶客員教授が1992年に見つけた「PD―1」だ。がん細胞はある程度成長すると「PD―L1」と呼ぶたんぱく質が表面に現れる。これがPD―1に結合すると、T細胞はがんを攻撃しなくなる。オプジーボはこれらの結合を邪魔することでブレーキをはずし、T細胞は攻撃力を取り戻す。

 同様の働きをする分子に、米テキサス大学のジェームズ・アリソン教授らが90年代に機能を解明した「CTLA―4」がある。樹状細胞ががん細胞を攻撃する指令を出す際に誤ってCTLA―4に結合し、ブレーキをかけてしまう。2011年、米ブリストル・マイヤーズスクイブがCTLA―4の結合を邪魔する薬「ヤーボイ(同イピリムマブ)」を米国で発売した。

 オプジーボとヤーボイは皮膚のがんの一種で従来の抗がん剤が効きにくい悪性黒色腫(メラノーマ)で高い治療成績を上げている。いずれも、患者の2〜3割でがんが小さくなったという。オプジーボはさらに、肺がんや腎臓がんの一部でも、国内の承認を受けた。このほか、米メルクやスイスのロシュ、英アストラゼネカなども新たな免疫チェックポイント阻害剤の開発を進めている。

 分子標的薬はがん細胞の表面にある特定の分子を狙うため、がんの種類に応じて薬を使い分ける必要がある。免疫ががんを排除する仕組みはほぼ共通するため、免疫チェックポイント阻害剤は多くの種類のがんに効くという。本庶客員教授は「10年以内にがんを克服できるのではないか」と期待する。同氏とアリソン教授はノーベル生理学・医学賞の呼び声が高い。2人は登竜門とされる国際的な賞を相次いで受賞している。

 ただ、副作用は少ないとされるが、いったん現れると重症化しやすい。ブレーキをはずすことで免疫が暴走し、健康な組織や細胞を攻撃してしまうこともあるからだ。いずれの薬も治療費が数百万円以上になり、1千万円を超すこともある。効く患者だけに使ってムダな投薬を抑えるために、治療効果を予測する手法の研究も欠かせない。

(草塩拓郎)

[キーワード]がんの免疫療法、「第4の選択肢」浮上

 がんは正常な細胞の遺伝子が傷つくことでできる。健康な人でも毎日数千個の細胞ががん化するといわれる。体内では様々な免疫細胞ががん細胞を攻撃して死滅させ、大きくならないようにする。

 免疫の働きをがん治療に生かす取り組みは古くからあった。例えば、1970年代には結核予防ワクチンのBCGを使う治療法や丸山ワクチンが登場。その後、がんワクチンなど多くの手法が試みられたが、科学的に有効性が確かめられたものはほとんどない。

 免疫チェックポイント阻害剤の登場で、がんの免疫療法は手術や放射線治療、抗がん剤投与に続く「第4の選択肢」になったといわれる。

[日経新聞11月6日朝刊P.25]

 

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