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がんの5年生存率が伸び続ける裏に一点の懸念
http://diamond.jp/articles/-/98996
2016年8月17日 本川 裕 [統計データ分析家] ダイヤモンド・オンライン
■がんの5年生存率の算出には
「がん登録」が必要
がんについて重視されるデータは、診療上も統計上も「5年生存率」である。
これは、がんに罹患してから、おおむね、5年目までの生存率の低下がそれ以降と比べて大きいからだ。もちろん、がんの種類によっては、生存率の年次ごとの低下カーブは、早く横ばいになるものもあれば低下し続けるものもあるので5年はあくまで目安に過ぎない。
「生存率」は、「罹患」、「死亡」と並ぶがん統計の三本柱の一つと見なされている。「罹患」(新規患者数)は既存患者数を調べている患者調査(厚生労働省)で類推がきき、「死亡」は人口動態統計(同)で全数把握されているが、「生存率」は、それぞれのがん患者について、がんの罹患を医療機関からの報告で確認し、また罹患後の生死の状況を医療機関からの報告や場合によっては住民票等によって確認する「がん登録事業」によるほかはない。
先進的な地域ではかなり以前から、「罹患」の毎年の全数把握(患者調査は5年おきの抽出調査なので地域統計として限界がある)と「生存率」の算出のため、「地域がん登録事業」が実施されてきた。県レベルでは大阪府や宮城県が先進地域として知られる。
その後、地域がん登録事業の実施地域は増加してきたが、全国レベルでのがん登録が課題として意識されるようになり、2013年の末に成立した法律に基づいて、2016年1月より全国がん登録が開始された。5年生存率の算出には、診断後、5年を経過する必要があるので、正確な生存確認に基づく5年生存率が全国がん登録により算出されるのはこれから5年後以降となる。
もっとも、すでに多くの都道府県で地域がん登録事業が実施されてきており、得られている各地域のデータ品質を評価して合算集計が可能だと判定された21府県約64万人の集計値が全国データとして国立がん研究センターから7月に公表され、新聞等でも報道された。
今回は、新聞等の報道では知りたい情報として物足りない部分があったと思われるので、公表されたデータからもう少し詳しくポイントを分かりやすいグラフにして読者に提供することとする。今回はいつもの連載記事とは異なり、意外なデータの紹介というより、事実の確認の側面が強いことを了承されたい。
最初に、発表されたすべての種類(部位)のがんについて、5年生存率をグラフにした。ここでの5年生存率とは、がんの影響のみを見るため、実測生存率から性・年齢ごとにがん以外の一般的な死因による影響を取り除く計算をした相対生存率である。また5年生存率の出発点となる観察開始日については、治療効果の判定の場合は治療開始日を取るが、地域がん登録の場合は診断日としている。ここで集計されているのは2006〜08年に診断されたがんである。
◆図1 がんの治療成績(全国、2006-08年診断)
全部位の5年生存率は62.1%であるが、部位による違いは大きい。前立腺の5年生存率が97.5%と最も高く、甲状腺が93.7%で続いている。この他、皮膚がんや乳がんでも9割を超えている。他方、低い方は、膵臓(すい臓)が7.7%と最も低く、胆のう・胆管が22.5%で続いている。その他、食道、肝臓、肺、脳・中枢神経系のがんや多発性骨髄腫、白血病が4割未満の低い値となっている。
男女別では全体としては女性の方が男性より生存率が高い。男女の差が大きい部位のがんについては男女の値も点グラフで加えた。男女差の大きいものは肺がんや膀胱がんであり、肺がんは女性より喫煙率の高い男性で生存率が低く、膀胱がんは男性より発見が遅れがちな女性で生存率が低いのが目立っている。
■診断された時の進行度によって
大きく異なる5年生存率
がんの5年生存率は診断でがんが発見された時のがんの進行度で大きく異なる。全部位では最初に発見された臓器にがんが止まっている場合(限局)は、90.4%の生存率であるのに対して、リンパ節に転移、あるいは隣接臓器に浸潤していた場合(領域)、55.1%、遠隔臓器に転移していた場合13.6%となっている。診断時にがんの進行度が進んでいればいるほど生存率は高くなっており、早期発見がいかに重要かがうかがわれる。
◆図2 がんの各部位の進行度別5年生存率(全国、2006-08年診断)
◆表1 がんの進行度(ステージ)
部位ごとに進行度別の5年生存率を見ると、どの部位でも進行度が初期なほど(転移が拡大していないほど)生存率が高く、やはり早期発見の効果は高いことがうかがわれる。限局と領域の差は、乳房や前立腺ではあまり違いがなく、大腸(結腸、直腸)、子宮(子宮頚部、子宮体部)ではやや差が開き、胃、肝臓、肺では限局から領域に移るとかなり生存率が低下する。遠隔の場合は、いずれも生存率が大きく低下するが、乳房や前立腺の場合は、それぞれ、約3分の1、約5割と生存率が他のがんと比べて相対的に高くなっている。
■早期発見されているがんほど
5年生存率は高い
がんの種類によって、早期発見が技術的に容易かどうかが異なり、また、コスト、体制整備などの影響でがん検診率に高低があるため、限局で発見される比率に差があり、これが5年生存率にも大きく影響している。
◆図3 がん診断時の進行度と5年生存率との相関
がんと診断されたときに限局だった割合と診断後5年生存率の相関図を掲げた。限局で見つかる割合の高いがんほど5年生存率が高くなっている様子がはっきりとうかがえる。もっとも肝臓や脳・中枢神経系のように限局で見つかる割合がそう低くない場合でも5年生存率は低いケースもある。
■がんの5年生存率は
一貫して上昇してきた
これまで紹介してきたデータは、2006〜8年にがんと診断された患者の5年生存率である。現在は、これ以降10年近くを経過しており、いま、がんと診断されたとき同じ生存率ではありえない。5年後にならないと統計上の生存率が分からないというのでは困る。現在を予測するためには過去からの推移を見て見通しを得るしかない。
このためには、5年生存率の推移を振り返るしかないが、がん登録は最近になって広がってきているだけなので全国レベルの一定程度長い時系列データは得られない。そこで、長くがん登録事業を続けている大阪府の時系列データを次に掲げた。
◆図4 主要ながんの治療成績の推移(大阪府)
がん全体(全部位)では1976前後3カ年(以下1976年と略す)に診断・発見されたがんについて5年生存率は30.7%であったが、30年以上経過した2008〜09年診断のがんについては60.3%と大いに向上している。かつてがんは不治の病と見なされていた。政治家はがんと疑われただけで失脚した。今ではがんの手術を何回も行って快復した者が都知事選の有力候補となるということが実現するようになった。30%と60%という値の違いが持つ意味は大きいといえよう。
この図で、診断年が1991年までは大阪市を除く値であり、1994年以降は大阪府全体の値である。この間に時系列上の断層があるので注意が必要である。1994年の全部位だけについては大阪市を含んだ値と含まない値を両方掲げたおいたが、5%ポイントほど大阪市を含んだ方が成績が良いようである。全部位以外では点線で断層を示してある。
生存率が延びてきたテンポについても、ほぼ一貫して延び続けている印象がある。2000年から2009年までで51.3%から60.3%へと9%ポイントの延びであるので、このままのテンポで延びているとすると10年で10%ポイントほど上昇している可能性があると判断できよう。
ほとんど全ての部位のがんで値は上昇している。これは、診断技術の進歩や検診体制の充実により、がんが早期に発見される場合が増えたのとがんの治療技術が進歩したのと両方の理由によるものと考えられる。しかし、部位による差は大きい。前立腺は半分ぐらいだった生存率が100%に近づいているのに対して、膵臓は、なお10%未満で低迷している。
■診断技術の向上が
5年生存率の正確性を損なわせる矛盾
次に、早期発見の要因を取り除き、治療技術の進展だけを見るため、進行度別の5年生存率の動きが知りたくなるのが当然である。ところが、これについて、確かなことを知るのは難しい。というのは、進行度の診断は、画像診断技術の向上によって以前と今とでは同じ患者でも異なるからである。
大阪府のデータで進行度別に肺がんの5年生存率を追うと限局、領域、遠隔のいずれの進行度についても値が上昇しており、治療技術もこんなテンポで進展している証拠であると見たいところである。
ところで、肺がんの対象者数を見ると限局や領域より遠隔の対象者数が一層増加している。こうした肺がんの動きについては、早期発見が後退しているというより、CT機器の発達などによる診断技術の向上により、以前は見つからなかったような微小な転移が見つかるようになり、かつては限局と診断されていた患者が遠隔と診断されるケースが増えているためだと考えられる。こうした状況を"stage migration"と呼ぶ。
図5 進行度別の5年生存率と対象者数(大阪府、肺がん)
こういう場合、限局と領域のどちらも見かけ上、5年生存率が上昇することが知られている。なぜなら、限局と領域の対象者については、本当は遠隔だった患者がいなくなり、純粋の限局、領域の患者のみとなるため当然5年生存率は上昇する。また遠隔の患者には、明らかな進行がんの患者だけでなく、かつては限局と診断された患者も含まれるようになるため、これまた当然5年生存率は上昇するのである。
図に掲げた肺がんの進行度別の5年生存率の上昇には、こうした要因の側面も含まれていると考えざるを得ない。そして肺がんほど顕著ではなくとも肺がん以外でも同様な側面が存在すると思われる。
こうした"stage migration"の影響を取り除く統計処理の方法が見つかれば、各部位のがんの5年生存率の上昇を早期発見と治療技術とに要因分解したグラフが得られ、今後の展望やがん対策予算の配分の根拠ともなるはずなのだが、それが不可能なのは残念である。
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