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大学病院と医学学会が、日本の医療と若い医師を破壊し始め…新専門医制度という愚策
http://biz-journal.jp/2016/08/post_16261.html
2016.08.12 文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長 Business Journal
新専門医制度が揉めている――。
7月20日、一般社団法人日本専門医機構は、新制度の開始を2018年4月とし、1年間延期することを決めた。
従来、専門医資格は内科や外科などの学会が独自に認定してきたが、新制度では第三者機関である日本専門医機構が統一的な基準を設け、専門医の質を評価することになる。日本専門医機構の素案では、専門医を目指す医師は大学病院を中核とする拠点病院を中心に、地域の協力病院と連携して経験を積まねばならない。内科や外科では、循環器内科や心臓外科などの専門医になるため、数年間、内科や外科全般を研修することが義務づけられる。
専門医資格の取得条件として、幅広い知識と豊富な経験を求め、第三者がその質を検証する。お題目は立派だ。ただ、この制度は重大な問題を抱え、多くの関係者が批判している。
特に、指導・研修のために医師が都市部の大病院に集中し、地方の医師不足が加速する可能性が高いことは、重大な懸念材料だ。日本専門医機構は、朝日新聞の取材に対し「都市部の大病院で専門医の研修を受ける医師らが集中しすぎないように、施設ごとの定数を学会と調整する」と回答しているが、実効性に疑問が残る。
南相馬市立総合病院の森田麻里子医師(28)は「研修プログラムの要件緩和や、地域を回る期間を少し長くするといった付け焼き刃的な修正で、済ませてほしくない」と批判する。
私も同感だ。この問題は根が深い。高齢化が進むわが国で、どのような専門医が必要か、それを育成するにはどうすればいいか、多くの専門家や国民を巻き込んだ議論が必要だ。日本専門医機構という任意団体の理事会で決めるべき話ではない。
■専門医資格と大学病院
専門医制度を議論するうえで大切なことは、これからの専門医に求められることは何か、じっくりと考えることだ。
これまで、専門医は大学病院を中心に育成され、教授たちが仕切る「学会」が認定してきた。今回の専門医制度の見直しも、教授たちが主導した。日本専門医機構の幹部の大部分が教授か教授経験者だ(最近、理事に数名の一般人を追加した)。
ところが、肝心の大学病院の競争力が低下している。たとえば、朝日新聞出版社の調査によれば、13年度に胃がんの手術数が多い病院は、がん研有明病院(1417件)、静岡県立静岡がんセンター(1348件)、国立がん研究センター中央病院(1310件)、国立がん研究センター東病院(867件)と続く。
大学病院でもっとも手術数が多かったのは、埼玉医科大学国際医療センター(204件)で全国7位だ。ちなみに、私の母校である東大の付属病院は611件で16位である。
この傾向はがん治療だけではない。循環器、眼科、産科、小児科などの領域でも専門病院の優位は歴然としている。診療分野を絞り、経営資源を集中させたほうが高い医療水準を維持できる。ハイレベルの医療を受けることができるのだから、患者が集中する。この状況は若き医師にとってもありがたい。短期間に、多くの症例を経験できるため、腕があがるからだ。このように考えれば、専門病院に患者と医師が集まるのは自然な流れだ。
この状況は流通業界と似ている。かつて、三越・そごうなどの総合百貨店は、わが国の流通業界をリードしてきた。しかしながら、1990年代以降、総合百貨店は衰退する。ピークの91年に12兆円であった年間売上は、いまや7兆円だ。
総合百貨店が衰退したのは、「洋服の青山」などの紳士服専門店、「ビックカメラ」などの家電量販店が台頭したからだ。専門店が、顧客のニーズに合う多様な商品を提供したのに対し、総合百貨店はどの店も同じような商品が並ぶ「同質化」に陥ったと、大西洋・三越伊勢丹ホールディングス社長は指摘している。医療であれ、流通であれ、生き残るには「選択と集中」が欠かせない。「総合」であることが大きなハンディキャップとなる。
ここで注意すべきは、都市部の病院では、選択と集中がほぼ完了していることだ。いくつかの「勝ち組」が決まっており、今から新規参入は難しい。このような病院には多くの若手医師が殺到し、病院経営者は医師確保に苦労することはない。つまり、「勝ち組」の専門病院の医師はすでに充足している。若手医師の待遇は悪いし、専門病院で「修業」して「専門医資格」をとっても、その病院に就職するのは難しい。
通常の病院に就職する際に必要なスキルは、一般診療だ。内視鏡や心臓カテーテルの技術は求められるが、大学病院や高度専門病院が得意とする心臓や脳の手術、あるいは移植医療のスキルは求められない。苦労して、身につけた技術は活用できない。この意味で、大学病院や都市部の専門病院で「修業」する費用対効果は低い。
■今後、成長が期待される分野
では、医療界では今後、どのような分野が成長するのだろう。それは、ニーズが高まる領域だ。この点でも、流通業界の経験が参考になる。流通業界では、国民の多様化したニーズに併せて、コンビニエンスストアや宅配サービスが発達した。
たとえば、コンビニ業界の年間売上は、91年から現在までに約4倍に増えた。総合百貨店とは対照的だ。同じ事態が医療界でも起こるはずだ。すでに萌芽は認められる
前者の代表は、立川・川崎・新宿の駅ナカで営業するナビタスクリニックだ。私も毎週月曜日に新宿で診察している。このクリニックは、平日は午後8時まで、土日は午後2時まで受け付けている。会社帰りの会社員、さらに新宿の駅ナカで働く人たちが受診する。平日昼間に病院へ通えない人たちだ。
彼らは「名医」や「丁寧なサービス」以上に「便利さ」を追求する。ナビタスクリニックは、このニーズを捉えている。患者数は3つのクリニックを合計して、1000人を超える日も珍しくない。ナビタスクリニックを率いるのは久住英二医師だ。もとは骨髄移植の専門家だった。先端医療から転身したことになる。
便利さを追求するのは、わが国に限った話ではない。米国では昨年、薬局やスーパーに併設されるリテール・クリニックが900%も成長した。オバマケアにより中間層が医療にアクセスしやすくなったからだ。
宅配サービスは、改めていうまでもない。在宅診療が代表例だ。在宅診療に求められるのは、プライマリーケアのスキルだ。大学病院や専門病院が得意とする領域でない。今後、この領域は成長する。アマゾンやクロネコヤマト、ドローン、さらにITを用いた遠隔診療とも連携することになるはずだ。わが国でエッジの効いたサービスを確立すれば、経済成長著しいアジアに進出することになるだろう。
筆者の東大医学部の3年後輩の武藤真祐医師が、その先駆者だ。彼も循環器内科の専門医から転身した。これまで東京都内と宮城県石巻市で在宅診療を行っていたが、最近、シンガポールにも進出した。今後、香港などアジアでの展開を考えているという。
繰り返すが、大学病院は高度医療に重点を置いてきた。一方、医療界に求められるのは、患者の価値観に合わせて、多様なサービス提供方法を確立することだ。久住医師や武藤医師は、このような時代の変化にうまく対応した。従来型の「専門医」と比較して、今後、彼らのような「専門医」のニーズが高まる。若手医師は、どのようなキャリアを選択するか、自分の頭で考えたほうがいい。
■厚生労働省の問題
新専門医制度が迷走した理由は、大学病院の競争力低下だけが理由ではない。本当の理由は別にある。それは「利権」だ。
ポイントは、専門医の質を保証するため、特定の病院(特に大学病院)で研修することを義務づけたことだ。どの病院も若手医師が欲しい。安い給料で長時間働き、病院に収益をもたらすからだ。新専門医制度ができれば、無条件で研修施設に認定される大学病院は有利な立場に立つ。学会を仕切っているのは大学教授だから、我田引水である。
この方針を厚労省も支持した。自らのホームページで「日本専門医機構」の活動を紹介している。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000078482.html
また、専門医認定支援事業として、2014年度は3億4313万円を計上している。厚労省がお墨付きを与え、金も出している。日本専門医機構は一般社団法人であり、あくまで民間の任意団体だ。厚労省が、この組織を特別扱いする理由はない。両者の連携は、多くの国民が想像もできない利権をもたらす。たとえば、専門医資格と処方権の連動だ。
イレッサ薬害事件以降、厚労省は一部の薬剤の処方を学会が認定する専門医に限定してきた。たとえば、話題の抗がん剤オプジーボが処方できるのは、皮膚悪性腫瘍指導専門医やがん薬物療法専門医が在籍する施設だけだ。7月21日には、日本経済新聞が一面トップで『高額薬適正投与へ指針 厚労省病院や医師に要件』という記事を掲載した。厚労省のリークだ。
大きな批判がなければ、高額薬の処方は学会の認定する専門医に限定されそうだ。オプジーボの薬剤費は年間3000万円を超えることもある。病院に大きな利益をもたらすため、病院経営者は専門医資格を有する医師を雇用せざるを得なくなる。
もし、高額な医薬品が問題になるなら、値段を下げるべきだ。処方できる医師を、大学や専門病院に限定すれば、地方の患者が憂き目を見る。ただ、学会からも厚労省からも、そのような声は聞こえてこない。今後、特定の診療行為を専門医に限定する規制はますます強化されるだろう。厚労省、学会のいずれにも都合がいいからだ。
厚労省にとっては、医療統制に使える手段が増える。学会にとっては、新たな利権の創出だ。専門医資格の有無が病院収入に直結するため、若い医師が就職する際には専門医資格が必須となる。学会は何もしなくても会員が増え、会費収入が入ってくる。
■若手医師の人権
日本は法治国家だ。メチャクチャなことは法的にできないようになっている。厚労省と日本専門医機構は、法律を無視して横車を押している。
また、直接、労働契約を結ばない日本専門医機構がカリキュラムを通じて、若手医師の職場や居住地域を決めてしまう。憲法違反の可能性が高い。新専門医制度は、労働者派遣法にも違反する。日本専門医機構は人材派遣業者ではない。それなのに、新専門医制度では、若手医師を拠点病院・連携病院などに強制的に異動させる。
もし、合法的にやろうとすれば、すべての若手医師を基幹病院が雇用し、協力病院には「研修」の名目で派遣するしかない。その場合、人件費・保険・年金は基幹病院が負担する。経営難に喘ぐ大学病院の経営戦略上、これでいいのだろうか。
かくのごとく、新専門医制度をめぐる議論は杜撰だ。
■学会と専門医の関係
学会と専門医資格の関係は難しい。自己規律がなければ、容易に腐敗するからだ。米国の専門医制度に詳しい岩田健太郎・神戸大学教授は「諸外国では専門医制度は学会から独立している」と指摘する。
たとえば、米国で内科専門医資格を認定するのは、「アメリカ内科専門医機構(ABIM)」だ。米国医師会と米国内科学会が共同で設立した。注目すべきは、ABIMが、学会や政府から独立していることを明言していることだ。そして、このことを行動を通じて、構成員や社会に訴えてきた。
たとえば、ABIMは専門医のレベルを維持するため「MOC」というプログラムを導入した。ところが、「あまりに手間がかかるために患者ケアの質まで落としてしまう」(岩田教授)と現場から批判を受けた。権威ある医学誌である「ニューイングランド医学誌」や「アメリカ医師会誌」でも問題点が指摘された。これはABIMにとって、痛手だったろう。
ただ、彼らはこの批判に対して、真摯に対応した。まず、ABIMは内科医たちに批判内容を紹介したメールを送り、そしてMOC制度を中断したのだ。ABIMと医療現場の間には、いい意味での緊張関係があり、これがABIMの信頼性をうみだしている。この姿勢は、厚労省の権威にすがる日本専門医機構とは対照的だ。
残念なことだが、日本の医学界は腐敗しているといわざるを得ない。ノバルティスファーマが、販売する降圧剤をめぐる臨床研究不正事件では頬被りを決め込んだ。ロハス・メディカル編集発行人である川口恭氏は、「『あの程度は大した事案でない』と医療界の多くの人が考えているのでしょう」と言う。
http://medg.jp/mt/?p=6896
臨床研究不正事件の舞台のひとつとなった千葉大学で研究の責任者を務めた小室一成氏(現東大教授)は、今年6月から、日本循環器学会の代表理事に就任した。日本循環器学会は、内科学会を構成する主要な団体だ。同学会幹部の常識を疑う。問題は内科学会だけではない。オピニオン誌「選択」は6月号に『日本外科学会 医療を腐らせる「黒い利権装置」』という記事を掲載した。
このなかで、日本外科学会の財務諸表が紹介されているが、内訳がひどい。総収入は約10億円。賃借料1億3211万円、旅費交通費6783万円、そして交際費3588万円。学術交流団体なのに、なぜこんなに金がかかるのだろう。この連中が中心になって運用する新専門医制度が、現場の医師から信頼されないのはやむを得ない。
前出の岩田教授は手厳しい。日本の専門医資格のことを、「学会にお金を払い、御褒美のように専門医資格をもらえる」(岩田教授)と批判する。彼が所属する日本感染症学会は、専門医の更新の際に自らが発行する「感染症学会誌」に論文発表した場合には10点、それ以外では5点を付与する。「ランセット」や「ニューイングランド医学誌」などの一流誌より自前の学会誌のほうが評価が高いらしい。
今こそ学会は、その本義に立ち返って議論したらどうだろう。学会の本来の目的は会員の交流だ。近年、IT技術が進化して会員の交流は容易になった。学術誌も増えた。論文を発表する際にも、わざわざインパクトファクターの低い日本の学会誌に投稿する必要はない。従来型の日本の学会モデルが通用しなくなっている。学会は変わらねばならない。ところが、彼らがとった対応は不誠実だった。専門医資格で若者を縛り付けようとした。医療現場への統制を強めたい医系技官と思惑が一致し、事態はこじれた。
新専門医制度は、「大学教授」という特権階級が、厚労省に「天下り」や「博士号」などを提供し、また彼らの政策を「擁護」する見返りに、診療報酬や補助金などの「保護」を求めているように見える。
こんなことをしていたら、日本の学会に将来はない。どうすれば、会員の情報交換を活発にできるかを考えるべきだ。おそらく、徹底した情報開示と、権威勾配のない自由な議論の場の提供だ。新専門医制度は、抜本的に見直さなければならない。
(文=上昌広/特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長)
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