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画期的ながん治療薬、費用は1人年間3500万円!驚愕の高価格になる製薬業界の異常な慣習
http://biz-journal.jp/2016/07/post_15901.html
2016.07.15 文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士 Business Journal
日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで命を落とすといわれています。日本人の死因トップであるがんの治療は、主に3大治療といわれる外科的手術、放射線治療、そして化学療法(抗がん剤治療)によって行われています。
しかし、今、このがん治療が大きく変わる可能性が出てきたのです。日本の医療体系を覆してしまうかもしれない薬の名前は「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)です。がん細胞によって活動を制御されていた免疫細胞のブレーキを解除し、自分の免疫力を使ってがん細胞を攻撃する新たな免疫治療薬「チェックポイント阻害薬」として、オプジーボが承認されたのです。世界に先駆けてこの薬を実用化したのは、関西の中堅製薬会社、小野薬品工業です。
今回はオプジーボの驚愕の価格について解説していきます。
■薬剤費は1年間で3458万円!
オプジーボは、その効果のみならず、医療費の問題でも注目を集めています。このオプジーボを肺がん患者が使うと、一体いくらかかるのでしょうか。その薬剤費がどれくらいになるのか実際に計算してみたいと思います。
たとえば、体重60kgの患者の場合で検証してみます。オプジーボを肺がん治療に使用する場合、2週間に1回点滴をしますが、その投与量は体重1kg当たり3mgと決められているため、1回の点滴で投与する量は3mg/kg×60kg=180mgとなります。
オプジーボの薬価は、20mg入りが15万200円、100mg入りは72万9849円です。180mg投与するためには、100mg1本と20mg4本が必要となり、総額133万649円です。
およそ133万円として、1カ月平均2.5回と考えると332万5000円です。1年間継続すれば26回ほどの投与となり、3458万円に上ります。
この例は体重60kgとして計算しましたが、体重50kgの場合は1回約110万円、体重80kgの場合は1回176万円になります。
もちろん、この薬剤費については、患者が全額負担するわけではありません。日本には国民全員が加入する公的保険(国民皆保険)があり、医療費の自己負担を所得に応じて一定額に抑える「高額療養費制度」があります。所得によって開きはありますが、患者の自己負担は一般的に月額8万7000円ほどで済みます。残りは国費や保険料で賄うことになります。
上記の試算では1年間の投与で3458万円となりましたが、オプジーボはどれくらいの期間使うかの見極めが難しいようです。
オプジーボは、がん細胞そのものをたたくのではなく、がん細胞によって活動が制御されていた免疫細胞を活性化させる薬剤なので、効果の発現がすぐには出てこないこともあります。また、腫瘍が縮小すれば効果が出たことが明らかですが、免疫に働きかける薬では、効果が現れる前に腫瘍が大きくなることもまれにあるようなのです。つまり、投与後にがんが大きくなった場合でも、「効果がない」とすぐに判断するのは難しいのです。
オプジーボがどんなタイプの患者に効くのか、その指標となる分子を見つける研究も盛んに行われているようですが、最低でも半年間は使って様子をみるというのが現状のようです。
■不透明な薬価決定のプロセス
ところで、100mg瓶1本で72万9849円という驚愕の値段がついてしまったのは、なぜなのでしょうか。それを考察するために、薬の値段の決め方について説明いたします。
医師が処方する医薬品の公定価格は、「薬価」といいます。薬価の決め方は、2つの方式に大別されます。ひとつは、製造コストや研究開発費、営業利益などを積み上げて計算する「原価計算方式」。もうひとつは、効能が似た既存の薬と比較して決定する「類似薬効比較方式」です。
原価方式では、製造コストや研究開発費を行政が検証することは難しく、メーカーの申告を信じるしかないという現実があります。つまり、経費の妥当性はメーカーまかせで、薬価は「言い値」となっているのです。
7月10日付本連載記事『最も高い「がん消失」率のがん治療薬誕生!抗がん剤よりはるかに効く!根治切除不能でも治療』で詳述しましたが、1992年に本庶佑(ほんじょたすく)京都大学客員教授が「PD-1」分子を見つけてから、医薬品として承認されるまで20年以上の歳月と莫大な研究費を費やしてオプジーボが生まれました。それなりの高い薬価になるのは当然といえるかもしれません。
類似薬効比較方式で考えてみても、オプジーボは、がん細胞が免疫細胞にかけているブレーキを解除するという今までの抗がん剤では類を見ない、まったく新しいタイプの薬です。類似薬がないということは、その薬の価値をさらに跳ね上げさせます。
また、これから類似薬が出てきた場合も「原価方式」で高く設定された薬を基準にするので、類似薬効比較方式では、製造コストが大幅に低くなった後でも薬価は高めに設定されることにもなります。
■がん治療薬が高額になるワケ
一方、製薬会社にしてみると、微生物や細胞を培養してつくる高コストな「生物製剤」が増えていること、大規模な臨床試験などで研究開発費が膨らむことなど、「適正な価格」が認められなければ先進的な新薬開発は難しいと主張しています。
厚生労働大臣の諮問機関で、2年に1回診療報酬を決める中央社会保険医療協議会(中医協)のなかに、事実上薬価を決める「薬価算定組織」の会議がありますが、これは非公開で行われます。非公開の理由について、厚労省は「企業秘密が絡むため」としていますが、客観的に正当に薬価が決められたのかどうか、私たちにはまったく見えてこないのです。
オプジーボの場合、2014年に薬価を決定する際には、最初に承認されたメラノーマ(悪性黒色腫)の対象患者数を470人と見込んでいました。これだけの患者数の使用でも開発費を回収できるよう、その薬価は極めて高く設定されたのだと思います。
しかし、昨年12月に「非小細胞肺がん」にも適用が拡大され、その対象者は数万人に膨らんだのです。販売元の小野薬品工業の16年度の売り上げ予想は1260億円で、当初メラノーマで承認申請した際の予想の40倍にもなっています。対象患者数が増えたからといって、すぐに薬価を見直す仕組みはありません。
ちなみに、オプジーボは胃や食道、肝臓などのがんに対しても治験が進められており、腎臓のがんについては年内に承認される見込みとなっています。また、ほかの製薬会社でも同様の仕組みの薬で、申請や治験を進めています。
製薬会社としてはそれほど大きくない小野薬品工業が、世界のメガファーマと呼ばれる売り上げ3兆円以上の製薬会社に先駆けてチェックポイント阻害薬を開発し、その市場においてトップに躍り出たことは画期的なことです。株式市場でもオプジーボは高く評価されており、小野薬品の株価は上がり続けて現在は1年前の倍以上となっています。
さらに、薬価が高くなる理由として、抗がん剤市場の規模があります。実は、抗がん剤の市場は降圧剤などと比べて大きいわけではないのです。
たとえば、高血圧の患者は日本中に1000万人いるともいわれていますが、継続的な治療を受けているがん患者は150万人程度です。高血圧の患者が全員薬を飲んでいるわけではありませんが、一度降圧剤を使い始めると、ほとんどの方は亡くなるまで薬を飲み続けます。つまり、10年も20年も服薬が続くのです。
しかし、抗がん剤では多くの場合、がんの消失または患者の死亡によって使用が終わります。抗がん剤は、その毒性により重篤な副作用も多く出現するので、5年も10年も抗がん剤を使用することはほとんどありません。
つまり、少ない対象者、短い使用期間でも経費を回収できるだけの価格をつけなければならないために、薬価はおのずと高くなってしまうのです。
このような理由から、オプジーボは100mg瓶1本で72万9849円という高額な薬価となったのです。次回は、オプジーボが今後、日本社会に及ぼす影響について考察します。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)
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