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なぜ、そんなに早く乳がんが進行してしまったのか……(shutterstock.com)
タチのいいがん、タチの悪いがん〜海老蔵さんの妻・真央さんの乳がんに学ぶ
http://healthpress.jp/2016/07/post-2470.html
2016.07.04 ヘルスプレス
なぜ、そんなに早くがんが進行してしまったのか――。市川海老蔵さんが行った衝撃的な報告会見に、多くの人がそう思ったのではないだろうか。
先日、妻でフリーアナウンサーの小林麻央さん(33)の病状について、「深刻な乳がん」と発表した海老蔵さん。
会見で述べられたことを整理すると、「30代前半の女性が、1年8カ月前に乳がんが判明したにもかかわらず、手術を受けていない」ということになる。
メディアが報じた真央さんの近影は、昨年11月(発症1年目)。長男の勧玄君の「初お目見え」のときのことだ。体型は特に変わらず、頭髪はカツラでもなさそうで、眉毛も睫毛もしっかり生えていた――。
となると、抗がん剤による化学療法ではなく、約1年間の全身療法はホルモン治療だけだったのかもしれない。
現在、乳がんに用いられる有効な治療法のひとつに分子標的治療がある。分子標的治療薬が、がん細胞に特有の分子をねらい撃ちすることで、副作用がほとんどなくがんを抑える効果が期待されるものというものだ。
乳がんの分子標的治療薬は抗HER2薬(ハーセプチン)である。がん細胞がHER2陽性ならこの注射薬を使っていた可能性もあるが、この薬は抗がん剤との併用が原則であり、ホルモン療法とハーセプチンの併用はあまり効かないとされる。
手術前の化学療法(ネオアジュバント治療)は、がんを小さくして、手術できるようにすることが前提だ。通常、半年ほどで終えるため、手術を前提に2年近く化学療法を続けることはない。つまり、当初から、手術、すなわち根治を前提としない治療計画だったのだろう。
あるいは、ご本人や家族が化学療法や手術に対して難色を示したことがきっかけだったかもしれない。一般的にいわれているように、若い人のがん細胞は活発で増殖が早い場合が多い。治療効果があらわれる前に全身に進行してしまった可能性もある。
病理医として客観的に推測すると、わきの下のリンパ節以外に、すでに全身(骨や肺や肝臓)に転移したステージ4で、はじめから手術適応外だったのかもしれない可能性がある。
あらゆる治療を試みたがうまくいかなかったため、真央さんは、標準治療ではない医療を求めて、東京を離れて入院していた可能性もある。たとえば、女優の樹木希林さんのように、鹿児島のUMSオンコロジークリニックでの放射線治療など、その施設でしか受けられない治療法もあるからだ。
いずれにしても、いまは療養に専念されて、ご家族との大切な時間を過ごされていただきたい。海老蔵さんが会見の最後に「追いかけないで……」と求めたように、無骨な取材は慎むべきだ。
■あらためて学ぶべきは「がんはすべて同じではない」
今回の報道は、やはり「がんは恐ろしい」との印象を強くさせたに違いない。だが、私たちがあらためて学ぶべきは、がんはすべて同じではないということだ。
ステージの進行だけでなく、がんには「タチのいいがん」と「タチのわるいがん」があることを知っていただきたい。
がんの治りやすさや悪性度は、がんの進行度やがん細胞の種類のほか、生じる臓器によっても異なる。
最新のデータをみると、日本のがん患者の5年生存率は60.7%である(大阪府がん登録資料2007年版)。5年生存率はがんの「治癒率」とみなされている。がんと診断された人で命を落とすのは4割だけである。
一方、厚生労働省が毎年発表する死因統計(平成26年度人口動態統計)では、がん死が29.8%でトップである。
ちょっと簡単な計算をしてみよう。29.8%を、1-0.607=0.393で割ると75.3%になる。数字を単純に解釈すると、日本人の75%ががんにかかることになる。
もっとも、一度がんにかかった人は2つ目、3つ目のがんにかかりやすいので、その分を差し引いても、3人中2人程度はがんにかかるのが現状である。そう、がんはよくある病気、コモンディジーズなのだ。
■がんの起こる臓器によってタチが違う!
大阪府がん登録の2007年版データによると「部位と5年相対生存率(高い順)」では、前立腺96.5%、乳房91.0%、子宮77.5%、膀胱75.2%。男性の前立腺がんはめったに死なない。女性の乳がんや子宮がんは“タチのいいがん”の代表だ。
一方、膵臓がんは8.1%と、とてもタチが悪く、診断されて生き残るのは10人に1人もいない。
当然ながら、早期がんはよく治る一方、遠隔転移してしまったがんの予後は著しく悪い。を紹介しよう。
「限局」とは、がんが発生した場所にとどまっている場合で、早期がんが含まれる。「領域」とは、がん発生の周囲組織や近くのリンパ節に進展しているものの、まだ遠隔転移のないものをさす。「遠隔転移」は肝臓、肺や骨など遠くの臓器に転移した状態だ。
遠隔転移があっても、前立腺(限局:99.7%、領域:96.0%、遠隔転移:49.0%)や乳房(限局:98.2%、領域87.2%、遠隔転移:35.6%)では比較的高い5年生存率が期待できる。また、胃(94.6%)、大腸(95.4%)、乳房(98.2%)、子宮(94.5%)、前立腺(99.7%)の「限局」は驚くほど高い治癒率が認められる(大阪府がん登録の2007年版データ)。
逆に言えば、最近のがん患者の予後の改善の主役は、早期がんの発見率の高さを反映しているといえる。
■がん細胞の種類によってタチが違う
これは私たち病理医が顕微鏡で判断するがん細胞の性質・特徴からわかる。血管に入りやすいもの、リンパ管に入りやすいもの、腹膜や胸膜(肋膜)に広がりやすいものといった特徴が顕微鏡でわかる。
がんは「組織型」といわれるタイプに分けられ、「組織学的異型度」が判断される。同じ「病期」(進行度)でも、組織型や組織学的異型度でタチが異なるため、治療戦略も変わってくる。病理医の腕の見せ所だ。
がん細胞の生じた臓器、進行度、組織型や組織学的異型度に応じた治療戦略がある。たとえば、組織学的異型度の高い(タチの悪い)がん細胞ほど増殖が盛んなため、化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療によく反応する(ただし、再発もしやすい)。
悪性度の低いがんはめったに再発・転移しないが、いったん再発・転移すると治療反応性はきわめて悪いというジレンマがある。白血病などの小児がんや精巣がんや骨肉腫では、化学療法によく反応するため、5年生存率が著しく高い。
最近では、発がんのメカニズムがわかってきたために、発がん機構を直接押さえる「分子標的治療薬」が普及してきている。乳がん、肺がん、大腸がん、腎臓がん、悪性リンパ腫、白血病など多くの進行がんが驚くほどよく治るようになってきた。
分子標的治療が使えるかどうかを判断するための情報の多くは、病理医が提供する。ただし、分子標的治療薬の最大の欠点は驚くほど高価なことだ。
■タチのよくない乳がんとは
乳がんの治療の基本は手術だが、以前の標準だった乳房全摘は影を潜め、今では乳房温存手術が普及している。術前化学療法でがんを小さくしておいてから温存手術をする時代である。脇の下のリンパ節郭清も最小限にするための工夫も当然になってきた。
手術に加えて、ホルモン療法、放射線療法とハーセプチンによる分子標的治療が行われる。ホルモン療法ができるか、ハーセプチンが効くかの判断も病理医が情報提供する。
タチのよくない乳がんの代表は、ホルモン療法もハーセプチン治療も効かない「トリプルネガティブ乳がん(TNBC)」である。手術と化学療法が行われる。ただし、タチが悪いために化学療法がよく効いて、完治する例が増えてきている。
「炎症性乳がん」というタイプは、乳房の皮膚が赤く腫れあがるためにその名があるが、がん細胞がリンパ管の中にどんどん進入しているためだ。全身転移が避けられないいやなタイプである。「微小乳頭がん」という特殊な顕微鏡パターンを示すタイプも、リンパ管へ入りやすく厄介な「組織型」といえる。
遠隔転移してしまった乳がんでも、転移先が骨なら年余にわたる長期生存が可能だ。肺転移の数が少ないときは、手術で肺の一部をとることもある。肝臓への転移は厳しい場合が多い。
堤寛(つつみ・ゆたか)
藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。
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