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いま医学界で大問題! 「耐性菌」の急増でクスリが効かなくなっている 抗生物質「濫用」の果てに
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48799
2016年06月05日(日) 週刊現代 :現代ビジネス
20世紀に発明されて以来、人類を感染症から守ってきた抗生物質。だがその濫用の結果、クスリが効かない「耐性菌」が続々と発生……「悪夢の細菌」と呼ばれる新しい脅威が私たちに迫っている。
■院内感染で爆発的に広がる
「その患者さんは治療が長期化していて、免疫力も弱まっていたのでしょう。心臓手術の後、人工弁に耐性菌が増殖してしまった。隔離病棟に移して必死に治療しましたが、残念ながら亡くなりました。手術自体はうまくいったと思っていただけに、ショックは大きかったですね」
こう語るのは関西の大学病院に勤める心臓外科医だ。
耐性菌——その名前を聞いたことがあるだろうか。
20世紀初頭、抗生物質が発明され、これまで人類最大の脅威だった感染症は克服されたかに見えた。だが、安心できたのも束の間。抗生物質に耐性のある強い菌が生まれ、新たな脅威となりつつある。それが耐性菌である。
英国のある研究機関の報告書によると、'13年の耐性菌による死者は世界で70万人。だが、現在、耐性菌は猛烈な勢いで多様化し、増殖しており、2050年には年間の死者数が世界で1000万人に上ると推定されている。
このような事態を重く見たWHO(世界保健機関)は、各国に対策を呼びかけており、伊勢志摩サミットでも、耐性菌問題は主要な議題の一つとして取り上げられることになった。
4月16日にはこの問題を話し合うため、東京でアジア太平洋地域の閣僚級会合も開かれた。日本政府も抗生物質の使い過ぎを改めるなど、耐性菌拡大を防ぐための行動計画をまとめた。
いま、世界の医学界、保健機関が恐れおののいている耐性菌とは、どのようにして生まれたのか。
順天堂大学感染制御科学研究センター教授の平松啓一氏が解説する。
「1940年頃に抗生物質であるペニシリンを使用するようになって、現在にいたるまで、100種類以上の抗生物質が生まれました。それらの抗生物質は最初は効果があるのですが、次第に抗生物質に曝露されても死なない菌が出てきたのです」
耐性菌が体内で増殖すると肺炎や敗血症を起こしたり、関節や骨の内部に腫瘍ができたりする原因になる。健康な人の場合は免疫力があるので、そのような菌に接触しても問題にはならない。だが、手術をした患者や高齢者にとっては命取りになることも多い。
「帝京大学附属病院で'10年に起きた院内感染では、多剤耐性アシネトバクターが60人以上に感染して、その半数以上が死亡しました(菌と死亡の関連性が高い人は9人)。
病院では抗生物質を大量に使用しますし、患者さんたちも免疫力が落ちているので、油断しているとこのような問題が発生します」(前出の心臓外科医)
■日本の医者が悪い
耐性菌は抗生物質を大量に使用することで増え続けてきた。
言うまでもなく、抗生物質はコレラや結核といった脅威から人類を救ってきた効果の高いクスリ。だが、そのクスリの濫用が耐性菌という新しい脅威を生み出したのだ。感染症に詳しい山野医療専門学校副校長の中原英臣氏が語る。
「とりわけ日本という国では抗生物質が多量に使われてきました。
例えば、いまだに風邪をひいて病院に行ったとき、『抗生物質も出しておきますね』と言われることがあるでしょう。これは万が一、肺炎にならないようにという予防的措置ですが、クスリというのは本来病気になってから使うものです。
それを、不用意に服用していると、逆に細菌が耐性を持ってしまい、いざ抗生物質が必要だとなったときに、クスリが効かなくなってしまうのです。
『抗生物質は胃に悪いですから、とりあえず胃薬も出しましょう』という風に言われたこともあると思います。日本の医者は『とりあえず』で薬を出し過ぎなのです。
患者のほうも国民皆保険でクスリが安いので、無駄なクスリをもらうことをあまり意識していない。しかし、風邪をひいて肺炎になるなんてことは、よほど高齢で弱っている方でなければありえません」
風邪で病院に行ったときに、ちょっとした痛み止めだけ出されて「ゆっくり休養すれば治ります」とだけ医者に言われると、「なんだか物足りない」と感じる人は多いはずだ。せっかく医者にかかったんだから風邪のばい菌を殺してくれるクスリを出してほしい——そう思う人もいるだろうが、そこには大きな勘違いがある。
ほとんどの場合、風邪の原因は細菌ではなく、より小さな微生物のウイルスである。そして抗生物質は細菌には有効だが、ウイルスには無効なのだ。
欧米先進国では風邪に抗生物質は無効なので、無闇な投薬はひかえるようにという勧告が行われている。しかし、日本では「患者さんの気休めになるなら……」という安易な理由から抗生物質を投与する医者がゴマンといる。
クスリを多く出せば出すほど医者は儲かるわけだからなおさらだ。
■腸内で耐性菌が増殖
神戸大学教授で著書に『99・9%が誤用の抗生物質』がある岩田健太郎氏が語る。
「アメリカの研究機関が調査したところ、同国で処方された抗生物質のうち、3割程度が不適切なものだったということがわかりました。
一方、日本の状況はさらに深刻です。東日本大震災後に石巻の診療所のカルテを調査したことがあります。すると抗生物質の処方のうち、適切だといえるものは1割未満、ほとんどが無意味だったのです。
このような事態が生じているのは、日本の医学部で感染症の治療についてきちんとした教育が行われてこなかったためです。だから製薬会社の営業担当に言われるがままに、やっつけで抗生物質を使う医者が後を絶たないのです」
岩田氏は、「ほとんど日本でしか使用されていない特殊な抗生物質もある」と指摘する。メイアクトやフロモックスというクスリで、総称で「経口三世代セファロスポリン」系と呼ばれるものだ。
「メイアクトとフロモックスは世界における経口セファロスポリンの売り上げで1位と2位を占めます。共に、日本での消費量がダントツに多い。しかもほとんどが『風邪』のような、抗生物質が有効でない病気に処方されている。
メイアクトはMeiji Seikaファルマが出している抗菌薬ですが、年間販売額は数百億円規模になります。フロモックスは塩野義製薬が出しているクスリで、同社の医薬品売り上げの中でも5本の指に入るヒット薬。これらは経口薬ですが、口から飲んでも体内にほとんど吸収されません」
吸収されないだけならまだいいが、クスリは腸内で耐性菌を増殖させる。風邪のときに気休めでもらったクスリが、将来免疫力が弱ったときに感染症にかかるリスクを高めているということを知っている人はほとんどいないだろう。
実は医療現場以外にも、大量に抗生物質が使用されているところがある。畜産や魚の養殖の現場だ。
例えば豚は4畳ほどの狭い空間で10~12頭が折り重なるようにして飼育されることが多い。ストレスや非衛生的な環境のせいで肺炎にかかる豚が多いため、飼料の中に大量の抗生物質を混ぜることが常態化している。
■家畜から伝染する
加えてペニシリンは豚を早く太らせる効果もあるので、肺炎予防という目的とは別に成長剤として投与されている。食品と暮らしの安全基金代表の小若順一氏が解説する。
「ヨーロッパでは牛も豚も鶏も、一定の広さの中に決められた数の家畜しか飼ってはいけないという規制があります。一方、日本ではそうした規制はなく、例えば牛の約9割が生まれてから一度も外に出ることなく、牛舎の中のみで飼育されている。
このような劣悪な環境にあるため抗生物質を多用せざるをえないのです。以前、私が行った調査では、人に投与される倍の量の抗生物質が家畜や養殖魚に対して使用されていることがわかりました」
肉は加熱すれば耐性菌は死滅するが、包丁やまな板、手などについた菌がサラダ菜などに付着して人体に入ることはいくらでもある。畜産現場で生まれた強力な耐性菌が、知らず知らずのうちに自分の体に蓄積していくこともあるのだ。
抗生物質を使用すれば、新しい耐性菌が出現し、さらにその耐性菌を打ち負かすための強力な抗生物質が開発される。だが、やがてそれにも打ち勝つ「スーパー耐性菌」が生まれてくる。まさに医学の進歩と細菌とのイタチゴッコだ。
他のクスリが効かなくなった場合に用いる「最後の切り札」と言われる「カルバペネム系」と呼ばれる抗生物質がある。
しかし、最近では、そのクスリも効かない「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)」という新手のスーパー耐性菌が発生している。血液に入ると50%の確率で死亡するという調査結果もあり、「悪夢の耐性菌」とも呼ばれる。国内でも昨年、報告されただけで1600のCREの感染例が確認されている。
このような新たな耐性菌には、また新たな抗生物質を開発して対抗するしかない。だが、ここで新たな問題がある。製薬会社が抗生物質を作りたがらなくなっているのだ。前出の平松氏が語る。
「感染症を起こしても、抗生物質はせいぜい2週間くらいしか飲まれない。長期間飲み続ける血圧や糖尿病のクスリに比べて、消費量が少ないのです。製薬会社が新しい抗生物質を開発するのには1000億円ほどかかります。
しかし売り上げは、ベストセラー薬でも最初は10億円程度。増えても年に100億円くらいのもの。これでは商売にならないので、製薬会社は開発に積極的でなくなっているのです」
現在、人が亡くなる主な原因は、がんや心臓病、脳梗塞という病だ。だが、世界中で抗生物質が濫用され続け、スーパー耐性菌が続々と生まれる状況になれば、新しい抗生物質の開発が間に合わない可能性もある。
かつて人類の脅威だった結核やコレラは決して撲滅されたわけではない。抗生物質によって、いったんは鳴りをひそめているものの、いつの間にか耐性をつけ、スーパー結核・スーパーコレラとして人類に襲いかかるかもしれないのだ。そうなったとき、一番感染しやすいのは免疫力の衰えた高齢者である。
我々はいま、耐性菌の爆発的な増殖を防げるかどうかの瀬戸際に立たされている。
「週刊現代」2016年6月4日号より
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