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大川貴史『視聴率ゼロ! 弱小テレビ局の帯番組『5時に夢中!』の過激で自由な挑戦』(新潮社)
『5時に夢中!』プロデューサーが「タブーと戦わない」発言! 過激がウリの番組が大手芸能プロの言いなりになっていく過程とは
http://lite-ra.com/2016/11/post-2690.html
2016.11.11. あの『5時に夢中!』がタブーに屈服 リテラ
キー局には絶対に制作不可能なタブーなき番組づくりで人気を集めてきたワイドショー『5時に夢中!』(TOKYO MX)。マツコ・デラックスやミッツ・マングローブといったタレントを発掘した番組としても知られている。
小さなローカルテレビ局制作の同番組がブレイクした当初から人気を集めていたのは、岩井志麻子をはじめとしたコメンテーターによる夕方の番組とは思えない生々しいコメント(主に下ネタ)。しかし、『5時に夢中!』の魅力はそれだけではない。『5時に夢中!』は現在のキー局では発言を許されないであろう、政権に対するブラックジョークも許される数少ない番組でもある。
当サイトでもマツコ・デラックスが、リオ五輪閉会式の「安倍マリオ」に対して「突き抜けてない」「ヒゲもないし中途半端」と吐き捨てた件や、都知事選で小池百合子が選ばれた翌日に同じくマツコが「小池都知事をこの番組のゲストに呼ぶなら自分の出ていない曜日にしてほしい」と「共演NG」を叩きつけた放送を取り上げてきた。
そんな『5時に夢中!』を2005年4月に立ち上げた番組プロデューサーである大川貴史氏が、これまでの同番組の歩みを振り返った著書『視聴率ゼロ! 弱小テレビ局の帯番組『5時に夢中!』の過激で自由な挑戦』(新潮社)を出版した。
1時間の放送につきたった40万円しか会社から予算がつかず、芸能プロダクションとのコネもない。キー局と比較すると圧倒的不利な体制のなか、だからこそ他局のワイドショーが扱わないような三面記事的なネタを扱ったり、よその番組が起用しないような異色のコメンテーターを揃えるという、ある種ゲリラ的な手法で戦ってきた歴史が本書のなかでは語られている。
そうした番組づくりのなかで大川氏が大事にしていると語っているのが、圧倒的なコメント力を誇る個性豊かなレギュラーコメンテーター陣だ。番組を始めた当初は、TOKYO MXという局自体に芸能プロダクションとのパイプがほとんどなく、しかも満足なギャラを払う予算もないためブッキングには苦労し、コメンテーター各々の好意に頼るようなかたちで番組制作が進められていたという。だからこそ芽生えた思いを大川氏は前掲書のなかでこう綴っている。
〈レギュラーコメンテーターやMC、ゲスト出演者に対して、常に「出ていただいてありがとうございます」という気持ちを持っています。他人から卑屈に見えるくらい、その気持ちは強いです。なぜなら、僕が番組を持ち始めた頃は、本当に、もうビックリするくらい、誰にも相手にされませんでしたから……〉
〈『5時に夢中!』は、出演者の魅力に寄りかかった“演者頼み”の番組。だからこそ、スタッフには「出ていただいている」という気持ちを忘れず、出演者の魅力を引き出す努力をする「義務」があるのです〉
しかし、ここまで読んでふと頭をよぎったのが、今年の5月に世間を騒がせた岡本夏生の番組降板とMCを務めるふかわりょうとの確執報道である。この降板劇は、大手芸能プロダクションの意向に寄り添うもので、出演者に対しての「出ていただいてありがとうございます」の気持ちなど微塵もないものだったからだ。
岡本の降板は今年3月8日の放送に、インフルエンザに感染したあと診断書もないまま出演し批判を浴びた件の責任をとるかたちで、謝罪とともに発表された。確かに岡本の行ったことは社会的常識に欠ける行動ではあるが、番組を降りなくてはならないほど問題のあるものとは思えない。事実、本人はこの状況に対し憤りを覚えていたようで、翌月に行われたふかわとのイベントでは直前になって失踪。ワイドショーを騒がせた。結局、岡本はイベントに姿を現したものの、ふかわと大ゲンカ。これもまた大々的にマスコミに報道されたのだった。
テレビのワイドショーでは、お騒がせタレントである岡本が演じるいつものひとり相撲として軽く扱われていたが、この問題には根深い問題があった。インフルエンザはあくまで口実であって、本当に岡本が番組を降りざるを得なくなったのは芸能プロからの圧力があったからなのだ。
前述の通り、『5時に夢中!』は出演者からの過激なコメントがウリである。岡本もまさしくその番組コンセプト通りに仕事をしてきた。しかし、それが時として問題を起こす。たとえば有名なのが、「FRIDAY」(講談社)に掲載された香里奈の「エッチ後の股開きベッド写真」を14年3月25日の放送で取り上げた際の騒動だ。このとき、岡本はこんな衝撃発言をして、周囲を凍りつかせた。
「彼氏は横で寝ているわけですよね。ということは、ここに(写真を撮った)第三者がいた、乱交パーティでもしたんじゃないの?」
『5時に夢中!』らしいコメントだが、ここで問題となったのは、香里奈が「芸能界のドン」率いるバーニングプロダクション傘下の芸能事務所であるテンカラットに所属していたことだ。番組内容を知ったバーニング幹部は、芸能関係者を通じ、同番組に「調子に乗ってると、芸能界で生きていけない」と暗に恫喝をかけたとも言われている。また、以前から岡本は、名指しはしないものの「バーニングに目をつけられている」というような発言もしていたことから、『5時に夢中!』だけではなく芸能界追放さえも取り沙汰されたのだ。
岡本はどこの芸能プロにも所属せずフリーで活動している。こういった場合に後ろ盾になってくれる人が彼女にはいないわけだが、このときは番組側もふかわをはじめとした関係者も岡本を守る方向で動き、圧力に屈することはなかった。
しかし、こういった問題が頻発するにつれ、ふかわの所属するワタナベエンターテインメントが事情を重く見るようになっていく。岡本が何か問題発言をするたびにふかわが謝罪することになり、このままでは、ふかわが巻き添えになりかねないと、ナベプロサイドが番組プロデューサーに対して、「岡本をなんとかしろ」と働きかけたという噂も流れていた。
その結果、インフルエンザを口実とした降板劇につながっていく。事実、前述した降板後のふかわとのイベントでは「過激発言を求められてやってたのに、裏でお荷物扱いされて心外」というニュアンスのことを言った岡本に対して、ふかわは「圧力はなかった」「あなたが好き勝手に言えたのは、周りのみんなが尻拭いしていたからだ」「あなたはウソをついている!」と罵倒したという。そして、岡本が反論すると、ふかわは「芸能界には定められた枠ってものがあるんですよ!」と開き直ったとされている。
この顛末を見る限り、番組制作サイドから、自由な言論を大事にし出演者には「出ていただいている」という思いは微塵も見えてこない。ただただ、テレビ業界そこかしこにまん延する「大手芸能プロに忖度する態度」が見えてくるだけだ。
同番組にまつわるイザコザといえば、昨年1月に起こった中村うさぎの降板宣言も記憶に新しい。ことの発端は、中村が昨年1月30日のブログに「二度とあの番組には出ない」と降板を表明したことだった。その理由は、共演していた美保純に対する「ポルノ女優のくせに」との差別的な発言だったとされている。これに対し、番組プロデューサーから謝罪を求められた中村は「絶対にそんな発言はしていない!」と猛反発。美保とプロデューサーに「陰でいろいろ言われてた」ことに怒りをあらわにした。実際、美保が中村について陰でスタッフと相談していたことをふかわもブログで明かしている。しかし、プロデューサーは結局「芸能人」である美保の主張を優先したといわれている。
先ほど説明した通り、番組スタート当初は芸能界や大手事務所といったしがらみのない人たちがコメンテーターに名を連ねていた。それはそういった人たちしかブッキングできなかったという事情があったわけだが、それゆえにマツコ・デラックスなどのスターを輩出する登竜門にもなった。
しかし、番組がブレイクするにつれ状況は変化。ふかわや彼と同じナベプロ系の中尾ミエや女優の美保純などといった著名芸能人を起用するようになっていく。番組の影響力の増大と同時に、芸能界の力学から無縁でいられなくなったのである。
番組まわりの状況が変わるにつれ、大川プロデューサー自身の気持ちにも変化が起きたのかもしれない。前掲書を読むと変遷を如実に表す一文が書き記されていた。
〈最近は、SNSやメールで一部の熱狂的な皆さんから、「言論の自由をうたうなら、芸能界のタブーにもっと斬り込め!」「社会の巨悪と戦え!」「過激とは名ばかりか!」など、熱いご指摘をいただくこともあります。ご意見としては非常にありがたいのですが……別に、『5時に夢中!』は、表現の自由を勝ち取るために戦っているわけではありません。
第一、夕方からそんな戦いを見せられても楽しくないと思いませんか?
「タブーと戦う」「悪と戦う」みたいな、わかりやすい「過激」ではなく、どの角度からどんな意見が飛び出すか分からない方が、よほど「過激」です。プロデューサーとしては、そんな、多様な意見が飛び出す「過激で自由な空間」を楽しんでもらえると嬉しいです〉
『5時に夢中!』はこのままどんどん、悪い意味で「普通」のワイドショーになってしまうのだろうか。日増しに言いたいことが言えなくなっている現在のテレビ。せめてこの番組ぐらいは解放区のままでいてほしいと思うのだが……。
(新田 樹)
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