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「週刊プレイボーイ」(集英社)16年10月24日号
誕生から10年、「草食男子」生みの親が真逆の使われ方に怒りの告白! 流行語を保守的に誤用するメディア
http://lite-ra.com/2016/10/post-2645.html
2016.10.25. 「草食男子」生みの親が誤用に怒り! リテラ
草食男子──現在ではごく当たり前に使われているこの言葉が生まれてから実は今月で10年になる。「草食男子」なる言葉が初めて使われたのは、2006年10月13日、ウェブサイト「日経ビジネスオンライン」の連載コラム「U35男子マーケティング図鑑」のなかでコラムニストの深澤真紀氏が用いたのが初出となる。
「週刊プレイボーイ」(集英社)16年10月24日号では、「草食男子」誕生10周年を記念して深澤氏にインタビューを行っているのだが、そこで彼女から発せられたのは、本来の意味を誤解されて「草食男子」という言葉が広まってしまったことに対する悔恨と怒りだった。深澤氏はこう語る。
「戻れるなら10年前に戻ってあの原稿を破りたい。『草食男子』と呼ばれている人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいです」
というのも、現在広く使われている「草食男子」は、その言葉をつくった彼女がもともともたせていた意味とはかけ離れたものになってしまっているからだ。
深澤氏がもともと「草食男子」という言葉にもたせていたのは、家父長的で女性を見下す割には家事や栄養管理のスキルをもたず、麻雀やゴルフぐらいしか余暇にやることがなくてひとりっきりでも充実した人生を送っていけるような趣味ももたない、団塊・バブル世代のオヤジとは真逆の感性をもった若者たちを讃える意味だった。
「当時39歳だった私は、バブル世代や団塊世代のオヤジから否定されていた20、30代の男性たちを肯定するためにあの言葉をつくったんです。
“草食”という言葉も、日本人に根づく仏教マインド(不殺生など)に基づいてポジティブな意味合いで採用したものでした。
(中略)
モテることを自分の価値として、女性をトロフィー扱いするような団塊・バブル世代のオヤジたちに対して、女性をリスペクトでき、人間として対等に付き合える新しい世代の男性たちのことを正しく理解させたかったというだけなんですよ」
しかし、この言葉はその後、180度真逆に転換。ネガティブな意味を付けられていくわけだが、その変化には二つの段階があった。一つは、「草食男子」という言葉が生まれた翌年、07年に起きる。
「ネガティブな意味合いで世に認知され始めたきっかけは、2007年に『non-no』や『an・an』といった女性ファッション誌が『私たちがモテないのは草食男子のせい』といった趣旨の特集を組んだこと。
『男子のせいじゃなくて、あなたたちももっと頑張れよ!』と思ってはいましたが、女性ファッション誌での流行語が一般に広まることはあまりないですし、ただのキャッチーな言葉として消費されて終わるはずだと思っていました」
しかし、この次に起きることに比べれば女性ファッション誌による誤解はまだ小さいものといえる。二つ目の変化は、08年のリーマン・ショックをきっかけにして起こる。深刻な不況に突入していくなかで、「草食男子」という言葉は、批判していた当の団塊・バブル世代のオヤジたちによって「イマドキの若者たちはけしからん」論に矮小化されてしまったのだ。
「2008年のリーマン・ショックで景気が悪化したことが大きかったですね。
『車が売れなくなったのは草食男子が増えたからだ』と新聞・テレビが取り上げたんです。Wikipediaに私が名づけ親だと書かれるようになり、取材も増えたので、責任感から『違います、褒め言葉ですよ!!』と慌てて火消しを始めましたが、間に合わず、燃え広がる一方でした」
オヤジ世代による若者への説教の道具と変化した結果、「草食男子」という言葉は、09年に「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に選ばれるが、実はこのときから深澤氏は明らかな誤用が広まっていることに警鐘を鳴らし続けている。この「流行語大賞」の表彰式でも彼女は「草食男子は、この難しい時代を、“よりよく”よりも“ほどよく”生きていこうとする『古くて新しい男らしさ』を持っています。彼らは面白い、素敵な存在です」とスピーチしていた。
その後、深澤氏は「草食男子」という誤用された言葉を盾に若者を揶揄するオヤジたちの論調に対し反論を開始する。
「CREA」(文藝春秋)12年7月号では、「いまの若者は留学をしないので内向き」という巷間言われている論評に対し、1985年には1万5000人強しかいなかった留学生は、リーマン・ショックの影響で留学生が減った2008年ですら6万7000人弱もいるとデータを示しつつ、そのような報道が出る理由として、かつては留学先にアメリカを選ぶ生徒が75%もいたのに対し、現在では50%ほどに減っているからではないかと推察。そういったことを考慮すると、アメリカ以外の国にも目を向けるようになった現在のほうがよほどグローバルではないかと看破している。
また、「THE 21」(PHP研究所)12年10月号では、「現在の若者は恋愛しない。だから、少子化も止まらない」という意見に対しても疑問を呈している。そういった報道が出る論拠として提示されているのは厚生労働省が発表した「出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」にある「異性の交際相手がいるか」というアンケートに対する回答の比較なのだが、そのデータを仔細に見ると、ある疑問点が出ると深澤氏は語る。「友人として交際している異性がいる」という、現在の若者にとっては意味のよく分からない質問が入っているのだ。
1987年の数字を見ると、「婚約者がいる」3%、「恋人として交際している異性がいる」19%、「交際している異性がいない」49%、「友人として交際している異性がいる」24%となっている。
一方、2010年のデータでは、「婚約者がいる」2%、「恋人として交際している異性がいる」23%と、これらは1980年代の数字と大して変わらない。そして、確かに「交際している異性がいない」は61%と跳ね上がっているのだが、「友人として交際している異性がいる」の数字は9%と激減している。この数字を挙げて深澤氏は、いまの若者にとって「友人として交際している」は単なる「友人」なのだから、「交際相手」を聞くこのアンケートでわざわざカウントしないのではないかと主張している。
事実、同じ調査で「性体験の有無」を聞いた項では、男性は53%から60%に、女性は30%から55%に増えており、若者が本当に恋愛しなくなっているのかどうか疑問が残る。先のアンケートで「交際している異性がいない」の数字が上昇したのは、20年前なら「友人として交際している異性がいる」に入れていたであろう人たちが「交際している異性がいない」に入れたという、感性の変化なのではないかと言うのだ。
またこういった問題は抜きにしても、そもそも、少子化は恋愛云々とは何の関係もない。前出「週刊プレイボーイ」で深澤氏はこのように語っている。
「ギリシャ人は日本人の2.5倍セックスをしているというデータがありますが、少子化は進んでいます。結局、結婚や子づくりは経済面に強く関わることなので、できるかできないかは社会に影響される部分が大きい。個人の思想の変化なんかで解決される問題じゃないんですよ」
以上のように、深澤氏は「草食男子」という言葉の誤用と、その誤用を裏付けるためにマスコミが流した情報の誤りを指摘し続けているのだが、このようにメディアによって誤って解釈されて広まり、その言葉の生みの親を困惑させるケースは多い。
その典型例として最近話題となったのが、昨年「流行語大賞」にエントリーされた「プロ彼女」だ。この言葉はもともと、エッセイストの能町みね子氏が「週刊文春」(文藝春秋)の連載コラムのなかで、ロンドンブーツ1号2号・田村淳の結婚相手について〈「彼女は一般女性というよりはプロの女性だろう」みたいに書いた〉(能町氏のツイッターより)ことがきっかけで生まれた。「夫に尽くす従順な妻」というイメージで報じられた田村淳の妻を、男に召し使いのごとくかしずくことで有名人の妻の座を射止める女性を旧来的な女性像として批判した言葉だった。
しかし、この言葉も「草食男子」同様、意味が180度真逆に変化していく。男の要求をすべて飲み込んで尽くす女は最上級の女性、だから「プロ彼女」なのだとカテゴライズし直され、能町氏が批判したタイプの女性を賞讃する意味に転倒してしまった。
女性ファッション誌「ViVi」(講談社)15年4月号の特集「なれるものなら“プロ彼女”!!」は、まさしくその典型で、〈今、モテ男性有名人が続々結婚している相手として話題の“プロ彼女”。男性の要求をすべて飲みとことん尽くすのが特徴。なるのは大変そうだけど、なれば一流の男をGETできる!?〉などと煽られていた。
能町氏はこのことに激怒。「週刊文春」のコラム上で「ViVi」から取材依頼があったことを明かしつつ、わざと意味を歪めようとしているのだと主張した。
〈私はこの単語を褒め言葉として広める気はないので(取材依頼を)断ったのです。だから、あとで私に文句を言われないようにやたら定義が丁寧に書いてあるんでしょう〉
〈言うまでもないけど、私は皮肉で言ってたのです。今どき召し使いに徹して芸能人の妻という名誉や財産を手にするなんて「プロ」の女だ、と〉
〈皮肉な言葉が褒め言葉として使われているのが悔しい。(中略)これでは私の生み出した言葉が古すぎる価値観の女を再生産することになってしまう〉
時代に先んじた意味をもっていたはずの言葉が意味をねじ曲げられ、保守的な意味合いに矮小化される。現在の世の中の風潮を見る限り、今後も「草食男子」「プロ彼女」と同じ運命をたどる新語が生まれ続けるのではないかと考えると、暗澹とした気分になってしまうのである。
(新田 樹)
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