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(回答先: ゲノム編集で肉厚マダイ、クエは大量養殖 近畿大水産研(朝日新聞) 投稿者 肝話窮題 日時 2019 年 7 月 25 日 23:06:25)
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2019年6月23日
安倍政府はゲノム編集をイノベーション戦略の核となる技術の一つと位置づけており、3月には厚労省がゲノム編集食品の安全審査を原則不要にする報告書を承認した。これによってこの夏からゲノム編集食品が食卓に出回ることが予想される。そうするとどうなるのか? こういう問題意識から、科学ジャーナリストが著した本書を興味深く読んだ。
ゲノム編集とは何か? 遺伝子組み換えとどう違うのか? ゲノムはある生物の全遺伝情報、遺伝子はそのうちタンパク質に翻訳される情報のことで、どちらもその本体はDNAだ。だからゲノム編集も遺伝子組み換えも、基本的には生物のDNAを切り貼りして編集する操作のことである。
人間は何十兆個もの細胞からできている。その細胞の一つ一つに、人間を人間に形づくるための遺伝情報が詰め込まれている。この遺伝情報を担うのがDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる分子で、延ばすと全長2bにもなるDNAが、ヒストンという物質に巻き付いた形で細胞のなかに畳み込まれ、染色体を形づくっている。
遺伝子とは、私たちの生命維持に欠かせないタンパク質づくりを指令するひとまとまりの遺伝暗号をいう。髪の毛の色や肌の色、血液型、ある病気へのかかりやすさまで、遺伝子が左右している。
一方ゲノムとは、人間を人間とするために、あるいは生物をその生物とするために必要な全遺伝情報のことをいう。私たちの細胞の核の中には同じ役目を持つ染色体が2セットずつ(1セットを母親、もう1セットを父親から)入っており、人間の全遺伝情報はこの染色体が担う遺伝情報に相当する。遺伝子はゲノム全体の数%にすぎない。
ゲノム編集は、遺伝子組み換え技術を革新し、生命科学に革命をもたらすものとして登場した。というのも、遺伝子組み換えは予測不可能な位置でしかDNAを操作できないが、ゲノム編集は狙ったDNAを効率良く、正確に、思い通りに切り貼りできる技術だからだ。それを可能にしたのがクリスパーという手法で、もともとは細菌がウイルスの攻撃から身を守るために備えている自然界の仕組みだが、これをうまく利用して、生物の設計図ともいえるゲノムを自由自在に編集する手段となった。そのやり方は本書に詳しいが、要するに標的とするDNAの配列を探し出し、ばっさりと切断し、切断された末端同士をつなぎあわせたり、そこに望みの遺伝子を挿入したりするものだ。
この新技術は、医学への応用で期待が大きい。まだ研究途上とはいうものの、実際にエイズや白血病、がん、筋ジストロフィーなど難病の治療に導入され始めた。そのこと自体は科学技術の進歩として歓迎したい。
ところが、このゲノム編集による遺伝子改変の技術が農水産物にものすごい勢いで応用され始め、各国で消費者からの強い反発を招いている。それは変色しないマッシュルーム、角のない乳牛、肉付きのよいマダイ、通常より収量の多いイネ、芽に毒がないジャガイモ、受粉しなくても大きくなるナスなど目白押しだという。
ゲノム編集農水産物は現時点で安全性は未知数で、EUや中国では遺伝子組み換え食品と同じく厳しい規制をかけている。ところが野放しなのがアメリカで、すでにレストランなどでの流通が始まっている。それはモンサント社やデュポン社がゲノム編集関連特許の大半をおさえており、利潤追求の手段にしているからだ。
また、昨年末、「中国の研究者がゲノム編集した受精卵から双子の女の赤ちゃんを誕生させた(エイズウイルスの感染にかかわる遺伝子を改変)」というニュースが世界を驚愕させた。人間の受精卵の遺伝子改変はしないという世界的合意が崩れたからだ。倫理性にもとるとともに、子どもに思わぬ障害が出る恐れがおおいにあり、しかもその影響は世代をこえて伝わっていく。アメリカの幹細胞研究者は、クリスパーを受精卵に使い、頭がよくて美しく運動能力も高い「デザイナーベビー」をつくる構想すら打ち出している。
さらに、ゲノム編集を軍事に転用する動きまであるというから驚く。大陸間弾道弾やステルス戦闘機を開発してきた米国防高等研究計画局(DARPA)が、マラリアの病原菌を媒介するハマダラカという種類の蚊に不妊遺伝子を挿入して絶滅させる研究に注目。それをバイオテロから兵士を守る方策の立案や、攻撃的な生物兵器の開発・製造につなげようとしているという。
本書を読むと、いかに多くの研究者たちが試行錯誤をくり返しつつ、一歩一歩自然界の謎を解く歩みを進めてきたかがわかる。と同時に、その科学技術が大多数の人間を幸福にするために使われるのでなく、一握りのグローバル企業のもうけのために使われたとき、とりかえしのつかない災厄を生むことを考えないわけにはいかない。
かつて遺伝子組み換え技術が誕生した1970年代、それが毒をつくる組み換え微生物を生むなど、思いもよらぬ危険な生物がつくり出されるかもしれない懸念から、学問・研究の自由を重んじる世界の主要な研究者たちが音頭をとり、みずから実験のモラトリアムを呼びかけたことがあった。そのような科学技術に対する研究者の立場を問う問題でもあると思う。
(ちくま新書、234ページ、定価800円+税)
https://www.chosyu-journal.jp/review/12015
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