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健康に暮らす人類史からひもとく
糖質制限食コレステロール 悪者扱いの“偏見”
2017年3月18日江部康二 / 高雄病院理事長 コレステロールと糖質制限食【1】
人体は、たんぱく質、脂質、ミネラル、水分などの成分により構成されています。男女で比べると、一般に女性の方がやや脂肪の割合が多くなりますが、おおよその体組成は、水分=55〜65%、たんぱく質=14〜18%、脂肪=15〜30%、ミネラル=5〜6%、そして糖質は1%以下となります。
脳の4分の1はコレステロールでできている
つまり糖質は人体の構成成分としては極微量なのです。例えば脳は脂質に富んでおり、ヒト脳の乾燥重量の65%が脂質です。その脳脂質の半分がリン脂質、コレステロールが4分の1、糖脂質が4分の1という組成です。
“悪者”扱いされることの多いコレステロールですが、生体のあらゆる細胞膜の構築に必須の物質であり、肝臓で合成し腸肝循環(肝臓で作られ胆汁に含まれて十二指腸に分泌された物質が、腸管から再吸収されて肝臓に戻り再び胆汁に含まれるというサイクル)によって制御・調節されています。コレステロールはまた男性ホルモン、女性ホルモンなどの原料でもあり、悪者どころか人体に必要不可欠な大切な物質なのです。もちろんヒトだけではなくさまざまな動物において、生命現象の根幹をなす細胞膜などの原料として一貫して利用されてきたのです。
コレステロール摂取値の上限撤廃
このように重要な物質ですから、摂取した食物に含まれるコレステロールが少ない場合は肝臓で合成される量が増え、摂取コレステロールが多い場合は肝臓での合成が徐々に減少するという仕組みが生体にはあります。これによって血液中のコレステロールの量(血清コレステロール値)を一定に保つよう、調整しています。
2015年2月、米国農務省は「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素ではない」として、摂取量を1日300mg未満に抑えていた従来の食事指針を撤回しました。同様に日本の厚生労働省も、5年おきに改定する「日本人の食事摂取基準」2015年版で、科学的根拠が得られないとしてコレステロールの摂取の目標量算定をやめました。
これらの動きは見方を変えれば、日米共に、コレステロールの摂取基準を設定して摂取制限を推奨してきたことが、無意味だったと認めたということでしょう。米国ではずっと「1日あたりのコレスレテロール摂取量上限は300mg。棒状のバター1本、または小さい卵2個、ステーキ300gに含まれる量」を推奨し続けていましたが、すべて撤廃です。日本の厚労省も以前は「18歳以上の男性は1日当たり750mg未満、女性は600mg未満」を目標量としていましたが、これも撤廃です。厚労省は「日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会」報告書の中で、「体内でコレステロール量を調整する仕組み」について解説し、「コレステロール摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない」と明言しています。
こんなことは、医学的にはとっくに分かっていたことで、「いまさら」ではあるのですが、厚労省がお墨付きを出してくれたのはよいことです。卵や肉類、炒めもの、揚げものなど、コレステロールの多い食材を日々食べても大丈夫ということで、糖質制限食には大きな追い風となりました。
善玉、悪玉という間違ったレッテル
一般にLDLコレステロールは「悪玉」で、HDLコレステロールは「善玉」という言い方をしますね。しかし、これは正確ではありません。コレステロールは脂質のため水に溶けず、そのままではうまく血液中を流れません。そのため、周りを水と親和性のあるたんぱく質で覆って血液中に溶け込みやすい構造になっています。この脂質をたんぱく質で覆った構造をリポたんぱく質といい、いわばコレステロールを乗せて血液中を移動する乗り物のようなものです。
そしてたんぱく質の密度の違いで、LDL(低密度<Low Density>リポたんぱく質)とHDL(高密度<High Density>リポたんぱく質)に区別されます。通常のLDLコレステロールは、全体の約40%をコレステロールが占め、コレステロールを肝臓から末梢(まっしょう)組織に運ぶ真っ当な役割を果たしています。逆にHDLコレステロールは、末梢組織の細胞で細胞膜の原料として使用されたあと、余ったコレステロールを回収して肝臓に運ぶのが仕事です。両方とも人体に必要なものであり、日々よい仕事をしており、少なすぎると困るのです。
危険な「小粒子LDL」とは
一方、真の悪玉が存在します。それが「酸化LDLコレステロール」です。LDLコレステロールが活性酸素と結びついたもので、もはやコレステロールとはまったく別の「異物」と言っていいでしょう。これが血管を詰まらせる「プラーク」の原因となります。そしてもう一つ、危険な悪玉があります。「小粒子LDLコレステロール」と言い、その名の通り、粒が小さく密度の高いLDLコレステロールのことです。これは酸化LDLコレステロールに変化しやすいという点で、危険な存在です。
日本人の場合、心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患を発症した人でも、LDLコレステロール値が正常範囲という人が結構な数います。そういう人のLDLコレステロールを調べてみると小粒子LDLコレステロールが多いことが分かりました。通常のLDLコレステロール粒子は平均直径25.5nm以上なのに対し、小粒子LDLコレステロールは平均直径25.5nm未満で、より密度が高くなります。
また通常のLDLコレステロールは作られてから約2日間で肝臓に再取り込みされますが、小粒子LDLコレステロールの場合は約5日間血液中に滞留します。長時間、血管内にとどまるため血管内皮に影響を与える頻度が高い▽サイズが小さいため血管内皮の傷に侵入しやすい▽元々、抗酸化物質をあまり含んでいない特徴を持つ−−などの理由で、酸化LDLコレステロールに変化しやすいと言われています。一方、酸化していない普通のLDLコレステロールは、生体にとって異物ではないので血管内皮にほとんど障害を起こしません。
糖質制限食でコレステロール値が上がっても大丈夫
小粒子LDLコレステロールは、血液検査で「中性脂肪が多く、HDLコレステロールが少ない」という人に多く見られると言われています。逆に「中性脂肪が少なく、HDLコレステロールが多い」人は、小粒子LDLコレステロールも、酸化LDLコレステロールも少ないのです。糖質制限食実践者は血液検査では後者のパターンになります。つまり糖質制限食実践中であれば、少々LDLコレステロールが高値でも問題ありません。
でも糖質制限食を実践中にLDLコレステロール値が上昇すると、驚きますね。でもそれは、「食事由来のコレステロールが増加したが、並行して起こる肝臓でのコレステロール合成量の低下が追いついていない」状態だと考えられます。また「糖質制限食により小粒子LDLコレステロールが減り、通常の大きさのLDLコレステロールが増えたために、LDLコレステロール全体の量が増えた」状態でもあります。いずれも、最悪の酸化LDL、小粒子LDLコレステロールが減少して、よいLDLコレステロールが増えたことで起きる現象なので心配無用です。
次回はコレステロールが関連する「病気」やコレステロールを下げる薬(スタチン系薬剤)の是非について、私の考えを紹介したいと思います。
× × ×
新著「外食でやせる!」3月27日発売
江部康二先生の新著「外食でやせる!『糖質オフ』で食べても飲んでも太らない体を手に入れる」が、2017年3月27日、毎日新聞出版から発売されます。日々の食事はほぼ外食、というビジネスパーソン向けに、コンビニ弁当やファミリーレストラン、ファストフード店、居酒屋、デパートの持ち帰り惣菜などのメニューを活用して、糖質制限食を実践する方法を解説しています。具体的な商品名も多数記載し、意外なほど手軽に健康的でスリムな体を手に入れられるノウハウが満載です。書店等でご一読ください。
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江部康二
高雄病院理事長
えべ・こうじ 1950年生まれ。京都大学医学部卒業。京都大学胸部疾患研究所(現京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学)などを経て、78年より医局長として一般財団法人高雄病院(京都市)に勤務。2000年理事長に就任。内科医、漢方医。糖尿病治療の研究に取り組み、「糖質制限食」の体系を確立したパイオニア。自身も02年に糖尿病であることが発覚し、実践して糖尿病と肥満を克服する。これまで高雄病院などで3000人を超える症例を通じて、糖尿病や肥満、生活習慣病、アレルギーなどに対する糖質制限食の画期的な治療効果を証明し、数々のベストセラーを上梓している。
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