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青学の箱根駅伝3連覇を支えた疲労解消法とは?
[中野ジェームス修一]遠回りしない体メンテ術
ハードな運動後は寒い日でもしっかりアイシング
2017年2月22日(水)
松尾直俊=フィットネスライター
ビジネスで多忙を極める日本の30〜40代は体力の低下が著しく、40歳以上の5人中4人が将来寝たきりになる「ロコモティブ症候群(シンドローム)」の予備軍とされている。パワフルに働き、50代以上になっても健康的な生活を維持するには、正しい運動、食事、休養を行うことが大切だ。そのために日頃から体力づくりや健康のために、ジョギングやランニング、そしてジムトレーニングなどに励んでいるビジネスパーソンも多いことだろう。
そこで今回は、箱根駅伝3年連続優勝、加えて出雲、全日本と学生駅伝大会三冠を成し遂げた青山学院陸上部のトレーナーとしても活躍する中野ジェームズ修一氏に、青学が成し遂げた偉業の基礎となったトレーニングを参考に、一般人がやるべき運動後のケアについて語ってもらった。
2015年の箱根駅伝で驚異的なタイムで優勝を果たした青山学院陸上競技部は、その後も快進撃を続け、昨年、そして今年と三連覇。出雲、全日本学生も制し、三冠までも成し遂げた。この好成績は原晋監督の指導力、そして選手たちの努力が成し得たものだ。しかしその陰で彼らを支えたのが、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんをトップとする、スポーツモチベーションのトレーナーチームだった。
箱根駅伝3連覇を達成した青学大が徹底していたのは、練習後の疲労回復のための措置だった。(©PaylessImages-123RF)
青学駅伝チームの練習では疲労回復を重要視
「2016年の箱根駅伝後は、"練習やレース後の体のリカバリー"、つまり疲労回復に力を入れてきました。スタッフにもその指示を出し、うちのトレーナーたちが練習場に行けない時には、週に1回、研修を受けにやってくる青学陸上部のマネージャーたちが、選手たちに徹底して疲労回復のリカバリーを行わせていたのです」(中野さん)
練習やレースで負荷をかければ、筋肉は必ず小さな損傷を起こす。その傷が完全に回復しないうちにまた次の負荷をかけると、損傷が積み重なって大きなケガへと発展する。すると故障した選手は練習ができなくなり、競技能力の向上が遅れてしまう。チームとしても戦力ダウンだ。疲労回復のためのリカバリーは、ランナーにとって大切な練習の一部なのだ。
「若い選手は筋肉の回復が早いですが、年齢が高くなるほど回復が遅くなります。例えば、私が現役復帰のサポートをしたテニスの伊達公子選手は当時39歳。半年で20代の頃のような筋力まで戻せましたが、疲労回復に要する期間を短くするのは非常に困難でした。ですから一般ランナーの方も、走ることばかりに気を取られず、リカバリーをしっかり考えるようにしてください」(中野さん)
運動後の疲労を放置すると正常な細胞にも悪影響が
体を速やかに疲労から回復させるには、単に漠然と体を休めたり、静的ストレッチを行ったりといったことでなく、「運動生理学に裏付けされた方法で戦略的にリカバリーを行うことが大切」と中野さんは説く。ハードな練習を行ったら、翌日までにどれだけ回復できるかが重要だ。基本的には、練習やレースを行う前の状態までコンディションを戻すことが目標。そうすれば、翌日もまた同じ質の走りや練習ができ、ケガをする確率も低く抑えられる。
中野さんによると「練習やレースは、筋肉に普段以上の負荷をかけることになります。すると、多かれ少なかれ、細胞膜が破れて損傷を受ける部分ができ、細胞液が流れ出します。毛細血管も切れているので、流れ出た細胞液や血液が、まだ無事な周囲の細胞に浸透します。これが障害につながるのです」とのことだ。
正常な細胞の周りに流れ出した血液や細胞液の圧力で、周囲の毛細血管が圧迫されて血流が阻害される。すると正常な細胞に酸素や栄養が供給されにくくなり、機能が悪くなったり、死滅し始めたりといった"二次的低酸素障害"が拡大してしまうのだ。
「その拡大を防ぐのが"アイシング"です。一時的に冷却して血管を収縮させ、炎症や出血を抑えるのです。すると障害を軽減できます。また細胞の代謝レベルも下がりますから、細胞液の流出による周囲の正常な細胞への二次的低酸素障害の広がりを防ぐことになるのです。最近の青学の選手たちは、競技会場に最後まで残っていることで有名になりました。他のチームが帰っても、クールダウンのストレッチやアイシングを念入りにしているんですよ(笑)」(中野さん)
アイシングで細胞の損傷拡大を最低限に
アイシングというと、ケガをした時の応急処置といった印象を持っている人も多いかもしれない。それも正解だ。しかし、ケガ自体の発生リスクを低減させ、大きな障害に発展させないための予防的措置としても有効なのだ。例えばその昔、野球のピッチャーは「肩を冷やすな!」という理由で、水泳まで禁止されていた。しかし、現在のプロ選手は、投球後に必ず大きな氷嚢(ひょうのう)で肩やひじを冷やす。故障して投げられなくなることを防ぐためだ。
「アイシングは被害拡大を防ぎ、細胞の損傷を最小限に抑えるための手段です。壊れた細胞が少なければ少ないほど、回復が早くなります。何かのコマーシャルのコピーではないですが、“その日の疲れは、その日のうちに”(笑)という考え方を、一般ランナーの方々こそ取り入れて欲しいですね。趣味や健康増進のためのランニングでケガをしたり、走れなくなったりしたら本末転倒ですから。私自身も走ることが大好きで、月間100q以上走りますが、その後のアイシングは欠かしません。実際、青学もアイシングをはじめとしたリカバリーを徹底させることで、故障で走れない選手をゼロにできた月もありました」(中野さん)
「気温が低いから大丈夫」「冬は体を冷やしてしまうから」という理由で、走った後やトレーニングの後に違和感を覚える部分をアイシングでケアしなければ、それが積み重なって、走れない状態になることがある。真冬でもしっかりアイシングする必要があるのだ。
ましてや、専門のトレーナーから適切なアドバイスを受けることが少ない市民ランナーこそ、疲労回復のリカバリーに重点を置いたほうがいい。そうしなければ、ケガで仕事や日常生活にまで支障を来たすようになってしまう恐れがある。
アイシングは20分間、氷は細かく砕く
「走った後に膝や股関節、足首などをアイシングするのであれば、1回に20分が目安です。30分以上行うと、逆に血行が阻害され過ぎて悪化させる恐れがあります。もし、明確にケガをしたという状態であれば、その部位に対して2時間に1回、それぞれ20分のペースで継続的に24〜72時間(最低2日間)続けます。私はこれを『2・2・2の法則』と呼んでいます。加えて、アイスラップのようなもので圧迫し、患部を心臓よりも上にした(挙上)状態で休ませます」(中野さん)
これがいわゆる、スポーツ障害後の『Rest=安静、Ice=アイス、Compression=圧迫、Elevation=挙上』のRICE処置。ケガの予防のためであれば、20分1回だけでもいい。
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「氷の作り方にもコツがあります。あまり大きなブロックやキューブだと、患部に密着させることができません。できるだけ細かいクラッシュアイスにしてから氷嚢に入れて冷やします。氷嚢がなければビニール袋を二重や三重にして、利用してもいいでしょう。痛みや違和感がある時は、自分が思っているよりも広い範囲をアイシングする必要がありますから大量の氷が必要になります。ですから、青学は氷が大量に入手できない場所では基本的に合宿をしません。これだけは徹底しています」(中野さん)
大量の氷が入手できない場所では練習しない。一見、陸上競技とは全く関係ないようなことだが、実は選手たちが速く、強くなるためには大切なことなのだ。「どうしても氷が用意できなければ保冷剤でもいいですが、その場合、患部に密着させることが難しいので効果は低くなると思ってください。でも、全くやらないよりは良いでしょう。また、保冷剤は0度以下になることがあるので、皮膚に炎症を起こさないよう気をつけてください」と中野さん。アイシングは故障を減らして、健全な肉体を作り上げるためには、是非とも身につけたい習慣だ。
疲労度が高い場合はアイスバス、交代浴
また、青学の選手たちは究極まで体を追い込むような練習やレースをした後は、“アイスバス”という方法を使って、クールダウンをすることもあるという。
「水風呂で下半身を冷やすことで血管が収縮します。これで過度の炎症を抑制できるのです。また、冷やさないでいると、血液循環が高い状態、いわば体のアイドリング状態が続いて、それだけでエネルギーを消費します。つまり疲労が続いていくのです。それを防ぐために、一早くクールダウンさせる方法です。私たちが関わるようになった年には、合宿所にはアイスバスはなかったのですが、原監督に必要性を理解していただき、次の年には設置してもらいました。一般ランナーの方だと自宅にアイスバスを設置するのは大変ですから、大きめのバケツに水を入れて足を突っ込んだり、水のシャワーで冷やしたりといった方法で代用していいでしょう」(中野さん)
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以前、マラソンの取材をした時、優勝した国際的な選手がレース終了後に氷水の入ったポリバケツの中に足を入れて冷やしているのを見かけた。当時はそんなことをしても大丈夫なのだろうかと一瞬驚いたが、理にかなったリカバリー方法だったのだ。
そのほかにも、青学の選手たちは高強度の練習を行った時には、“交代浴”という方法でリカバリーを早めている。
「名前が表す通り、温浴と冷浴を繰り返すものです。血管の収縮と拡張を繰り返すことで、血液の循環を良くして疲労物質の排出を促すことができます。全身を40〜45度の温浴で温めた後、下半身のみを15〜20度のアイスバスで15〜30秒間冷やします。そして再度、温浴で30〜60秒ほど温めて1セットです。それを5〜10セットほど繰り返すのです」(中野さん)
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自宅で行うのは難しいが、レースを走った後や高強度のトレーニングにチャレンジしたのであれば、水風呂のある銭湯などで実施してみるのもいいだろう。
「家庭で行う場合は、下半身だけ水のシャワーをかける方法でもいいと思います。青学の選手たちも最初は半信半疑で、やらない選手もいました。でも、なぜこれが必要か、体の中ではどんな変化が起こっているのかという理論を説明していくと、実行することが当たり前になっていきました。新入生も、先輩たちがやっているので自然にリカバリーに対する意識ができています。逆に社会人になって、実業団に入った選手は、そこで実施されていないので、自分だけがやるのは気が引けるという選手もいるようですが(笑)」(中野さん)
ランニングやジョギング、それに筋肉や関節に負担をかけるウエイトトレーニングの後にも、アイシングをはじめとしたリカバリーは有用だ。健康的な体を維持するため、体力を向上させるためのトレーニングを続けている人、あるいはこれから始めようと思っている人も、ただ、体を鍛えるだけではなく、疲労を回復させることにも気を使うようにしよう。そうすれば、さらに効率良く健全な体づくりができるようになるのだ。
中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん
フィジカルトレーナー/米国スポーツ医学会認定運動生理学士
中野ジェームズ修一(なかの ジェームズ しゅういち)さん 1971年生まれ。日本では数少ない肉体面と精神面の両方を指導できるトレーナー。卓球の福原愛選手など日本のトップアスリートだけでなく、高齢の方の運動指導も行う「パーソナルトレーナー」として活躍。日本各地での講演も精力的に行っている。近著に「青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ」(徳間書店)、「世界一やせる走り方」(サンマーク出版)など多数。
このコラムについて
[中野ジェームス修一]遠回りしない体メンテ術
ビジネスで多忙を極める日本の30〜40代は体力の低下が著しく、5人中4人が将来寝たきりになる「ロコモティブシンドローム」の予備軍とされている。パワフルに働き、50代以上になっても健康的な生活を維持するには、正しい運動、食事、休養を行うことが大切だが、誤った健康術にまどわされ、成果が出ずにいやになってしまうケースも少なくない。一流アスリートから一般人まで、フィジカルトレーニングをサポートしている著名トレーナーの中野ジェームス氏が誤った健康常識を一刀両断。効率的で結果の出る、遠回りしないための健康術を紹介する。
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