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スマホアプリで不眠治療に挑む
トレンド・ボックス
入眠効果のある照明、振動を起こすベッドも
2016年12月16日(金)
杉原 淳一
精神疾患だけでなく、高血圧症や糖尿病のリスクを高めることでも知られる睡眠障害。睡眠薬に頼ることの多かった治療が今、薬に頼らない方法に変わろうとしている。研究が進むのが、スマホアプリを使った治療や振動ベッド、眠りをいざなう照明などだ。
(写真=Indeed/Getty Images)
9月下旬、東京都新宿区の晴和病院で不眠症治療を目的とした新しい“医療機器”の臨床試験(治験)が始まった。
診察室をのぞくと、そこに脳波を測定するような大型の機器はない。医師と治験参加者、そして医師の手に、1台のiPadがあるだけだ。
「これに専用のアプリケーション(アプリ)をダウンロードして、後はアプリの指示に従ってください」。参加者のこれまでの睡眠状況などを問診した後に医師がそう告げると、初回の治験は30分ほどであっけなく終了した。
この治験を実施しているのは、不眠症治療アプリを開発するベンチャーのサスメド(東京都文京区)だ。睡眠を助けることを狙うアプリは山ほどあるが、本格的な医療ツールはまだない。同社の上野太郎社長は診療活動をする現職の医師だ。開発中のアプリで医療機器の認可を受け、患者が保険の適用を受けられるようにすることを目指す。
通院の手間やコストを削減
●サスメドのビジネスモデルの概要
アプリ経由で認知行動療法を受けられるため、患者の身体・金銭的な負担を抑えられる(写真=北山 宏一)
不眠症は精神疾患だけでなく、高血圧症、糖尿病のリスク因子になることが知られている。日本では5人に1人が何らかの睡眠障害を抱えているとされる。日本大学の内山真教授の調査によると、睡眠障害による経済損失は年間3兆5000億円にも上るという。
日本では、睡眠障害の患者に処方される睡眠薬の量も多い。国連の国際麻薬統制委員会は、日本で広く使われるベンゾジアゼピン系薬剤の人口当たりの処方量が、米国の約6倍にも上ると指摘してきた。厚生労働省も2014年度から、同系薬剤の処方を減らすよう働きかけている。
上野社長が注目したのは、薬を使わない「認知行動療法」という治療法だ。認知、つまり現実の受け取り方や物事の見方などに働きかけ、患者のストレスを軽減する。欧米などでは広く普及しているほか、日本ではうつ病の治療法として保険適用となっている。
ただ、この治療法は医師の元に頻繁に通う必要があるうえ、現時点では不眠症の治療法として保険を適用できない。1回の治療に1万円程度の治療費がかかり、患者の負担になっていた。
「認知行動療法をアプリ上で再現できれば、少ない医師でも多くの患者をカバーできると考えた。患者にとっては通院の負担とコストを削減できる」。上野社長は2015年7月に起業した理由をこう語る。その後ディー・エヌ・エー(DeNA)と住友商事が共同出資したDeSCヘルスケア(東京都渋谷区)と組んでアプリを開発。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、実用化に向けて開発を進める。
アプリが医師の代わりに
サスメドが想定するサービスの概要はこうだ。まず医師が医薬品と同じように患者にアプリを“処方”する。患者はアプリに、ベッドに入る前の行動や不安に感じている事柄、ベッドに入った時間などを記録する。アプリにはあらかじめ、医師が監修した対応策が登録されている。患者の記録内容を基にアプリは、その患者にふさわしい対応策を自動的に選び出して通知する。
例えば、早く寝ようと夕方からベッドに横になっていた患者がいたとする。ベッドに入ってもなかなか寝付けないことがストレスとなり、逆に目がさえて眠れなくなっていた。こうした患者にはアプリが、「3時間程度、ベッドに入る時間を遅らせて」と助言する。
携帯機器アプリを活用した事例は他にもある。帝人の傘下で睡眠関連サービスを手掛けるベンチャー、ねむログ(東京都千代田区)は、アプリと組み合わせて使うウエアラブル機器「ツーブリーズ」(税別2万円)を販売している。開発したのはイスラエルのベンチャー、ツーブリーズ・テクノロジーだ。
機器はもともと、高血圧の治療機器として米食品医薬品局(FDA)の承認を得た商品だった。センサーのついた伸縮性のあるベルトを腹部に巻くと、呼吸による腹部の動きを感知。そのデータが有線で音響機器に伝わり、正しい呼吸を誘導するための音楽を流す。例えば、ユーザーが早くて浅い呼吸をしていたら、ゆっくりと息を吸ったり吐いたりできるようにテンポの遅い音楽を流してくれる。
深呼吸を繰り返すと副交感神経が優位になってリラックスし、全身の毛細血管が開くという。そうすることで血圧を下げるのが本来の目的だったが、思わぬ「副作用」があった。深く長い呼吸を繰り返すうちに、利用者が次々と眠りに落ちていったのだ。
ツーブリーズ社はここに目を付け、データを無線でiPhoneやiPadに送れるように改良した商品を作った。これをねむログが輸入して3月から販売している。なお、日本で医療機器の認可を得ていないため睡眠改善の効果を直接的に訴えることはできないが、「仕事の合間や昼休みなどのちょっとした時間にリラックスする効果を望める」(ねむログの濱崎洋一郎・代表取締役)。
深呼吸しやすいよう音でガイドする
●「ツーブリーズ」の使用イメージ
使用者が眠ってしまい、音のガイドに従わない呼吸を繰り返すと自動で電源が切れる
微弱振動や速い減光も効果的
睡眠障害を「モノ」で改善する研究もある。東京工業大学の伊能教夫教授が取り組むのが振動ベッドの研究だ。
「あれ? この路線のこの場所に差し掛かると、いつも子供が寝るなあ」。伊能教授は子供を連れて電車に乗っていた時にふと、こんなことに気付いた。
微弱な振動で眠気を誘う
●東工大・伊能教授による振動ベッドの実験
寝たかどうかを脳波で確認し、振動ベッドの効果を検証した(写真=伊能 教夫)
ベッドの下に設けた駆動装置が細かい振動を生み出す
伊能教授は9路線の電車に繰り返し乗って振動を比較し、その電車内で実際に寝ている人の割合などを調査した。その結果、「人は1秒間に1回程度の振動を受け続けると眠気を催す」という推論に至った。
この推論を生かして試作品の振動ベッドを開発。ベッド下部に設けた駆動装置が動くことで、数mmの幅でベッドを上下左右に振動させる。計測実験では被験者にベッドに横になってもらい、振動を発生させたままどれくらいの時間で眠りに落ちるのかを調べた。すると、普段よりも5分程度早く眠りに落ちることと、微弱な振動の方が効果的だということが分かった。
伊能教授は装置の簡素化を目指して研究を続けており、実用化した際には、長距離ドライバーや看護師など交代制勤務で仮眠を取る必要のある職場での利用を見込んでいるという。
睡眠には光も大きく影響している。太陽のような強い光を浴びると目を覚ます作用があるが、逆にどういう光の落とし方をしたら眠気を催しやすいのか──。そんな研究を進めるのが、早稲田大学の岡野俊行教授だ。
光の落とし方を工夫して眠気を誘う
●光量変化の実験装置
早稲田大学の岡野俊行教授は、照明機器への応用を目指して研究を進める
岡野教授はオムロンヘルスケアなどと組み、基礎研究を進めてきた。人は暗闇の状態でいると脳内でメラトニンという物質が分泌され、眠くなることが分かっている。問題は、どうやって明かりを落としていけば、より眠りやすくなるか、ということだ。
まず一般的な寝室の照明と同程度の明るさ(70ルクス)の部屋を用意。健康な人にこの部屋で過ごしてもらい、3パターンの光量変化を起こしてどれが一番眠りを誘うかを調べた。@光量を変化させないA光量を50ルクス程度に落として維持するB光量を10秒程度で35ルクスまで落としてから、1分程度かけて70ルクスに戻すのを繰り返す──の3つだ。今年の学会で3番目が最も眠気を誘うと発表。照明機器などの事業化に向けて研究を続ける。
日本人の睡眠時間は短い。経済協力開発機構(OECD)の2014年の調査では、加盟国中で最下位の韓国に次ぐ短さ(平均7時間43分)だった。日々ストレスにさらされる現代人にとって、質の高い睡眠時間の確保は文字通り死活問題。企業も労働環境の改善と生産性向上を目指しており、睡眠の質向上はその実現のカギを握る。
(日経ビジネス2016年10月17日号より転載)
このコラムについて
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