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運動すればがんの進行を抑えられるってホント?
おとなのカラダゼミナール
ウォーキングなどでがん抑制、最新の研究が明らかに
2016年11月5日(土)
伊藤和弘=フリーランスライター
聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
がんといえば重病。運動してもいいのだろうか?(©PaylessImages-123RF)
長年にわたって日本人の死因第1位の座を独占し続けているがんは、多くの人にとって最も怖い病気だろう。
がんだと宣告されたら、どうしたらいいだろう? ショックは大きいに違いないが、現代の医学では発見さえ早ければ必ずしも不治の病ではない。希望を捨てず、積極的に治療に取り組むことが大切だ。
そのとき、自分でできることのひとつに“運動”がある。
がんといえば重病に違いない。運動なんかしていいのだろうか? もちろん症状や進行度にもよるが、「運動できる人はした方がいい」というのが最近の定説になっている。では、報告されているエビデンス(科学的根拠)をいくつか紹介しよう。
運動でがんの進行が抑えられる
例えば大腸がんと診断され、転移のない男性668人を20年間観察した研究がある。20年間で258人が死亡し、うち88人は大腸がんが原因だった。「1週間の運動量」を見ると、運動量が多いほど死亡率が低かった。最も運動量が多かったグループは、まったく運動しなかった人たちに比べて大腸がんによる死亡リスクが47%も下がっていたという(*1)。
2750人の前立腺がん患者を追跡調査した米国ハーバード大学の研究では、そのうち117人にがんの再発・転移、死亡が見られた。「週3時間未満のウォーキング」しかしていない人たちと比べると、「週3時間以上のウォーキング」をしている人たちのがん再発・転移、死亡のリスクは57%下がっていた(*2)。
ドクターランナー(事故にそなえて選手と一緒に走る医師)として多くの市民マラソン大会やトライアスロン大会に出場している、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック(神奈川県横須賀市)院長の奥井識仁さんは、「運動によって大腸がんや前立腺がんの進行は抑えられる。実際、米国にはランニングやウォーキングでがんを抑えようという患者のサークルがいくつもありますよ」と話す。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/091500068/110400004/2.jpg
*1 Arch Intern Med. 2009 Dec 14;169(22):2102-8.
*2 Cancer Res.2011 Jun 1;71(11):3889-95.
1カ月120km以上のウォーキングで前立腺がんの死亡率が低下
奧井さん自身も、長いこと前立腺がんと運動の研究を続けている。
前立腺がんと診断された患者102人(平均74.8歳)に、ホルモン治療と併行してウォーキングを指導した。8年間で48人が死亡、うち20人(41.7%)は前立腺がんが原因だったが、「1ヵ月に120km以上のウォーキング」をしている人たちは、死亡率が半分に抑えられたという。
「雨の日も風の日もやる必要はない。1日6km、月20日を目安に指導しています」(奧井さん)
1ヵ月のウォーキングが120kmに満たない人たちは51人中32人が死亡し、うち前立腺がんによって亡くなった人たちは20人だった。それに対して月120km以上ウォーキングをしていた人たちは51人中16人が死亡。前立腺がんによって死亡した人は、なんと1人もいなかったのだ(下図)。なお研究の詳しい内容は、12月に大阪で開催される第8回泌尿器抗加齢医学研究会で発表される予定だ。
ウォーキングは前立腺がん患者の死亡リスクを抑える
平均74.8歳の前立腺がん患者に、治療と併行してウォーキングを指導した。1ヵ月120km以上のウォーキングを実行した人たちは死亡リスクが半減。前立腺がんによる死亡はゼロだった。(データ提供:奧井院長)
筋肉の成長に男性ホルモンが使われる?
なぜ運動によって前立腺がんの進行が抑えられるのだろう? 奧井さんはテストステロン(主要な男性ホルモン)が筋肉で消費されるからではないか、と考えている。
前立腺がんはテストステロンをエサにして増殖する性質を持つ。そのため、治療はテストステロンの分泌を抑えることが基本になる。テストステロンの分泌が抑えられることで、気分が沈む、筋肉が減るなど、いわゆる男性更年期障害のような症状が起こることもある。
彼は、あくまで一つの仮説として提唱する。
「運動で筋肉が刺激されると大量のテストステロンが分泌され、筋肉に運ばれます。筋肉細胞の男性ホルモン受容体にテストステロンがくっつくと、細胞分裂を促進して筋肉を増やす。この体の働きによって筋肉で使われたテストステロンは消えてなくなる、と考えれば納得できます」(奥井さん)
つまり、運動によってテストステロンが筋肉で使われ、前立腺がんのエサになる量が減るのではないか、というわけだ。
運動はやればやるほどいいわけではない。健康な市民ランナーを対象にした奧井さんの研究から、1カ月200km以上走っている男性はテストステロンの数値が低くなってしまうことも確認されている(関連記事「やり過ぎ厳禁! 「適度な運動量」ってどれくらい?」を参照)。「運動によって筋肉でテストステロンが消費される」とすれば、これも納得できる結果だ。前立腺がん患者ならいいかもしれないが、健康な男性にとってテストステロンの低下は弊害の方が大きい。
さらに、奥井さんは大腸がんに関しても仮説を提案する。「大腸がんの場合も同じく、運動でIGF(インスリン様成長因子)が筋肉で使われることが、がんの進行を抑える大きな要因になっているように思います」と奧井さんは続ける。
IGFとはインスリンと構造がよく似ていて細胞増殖作用がある物質。これによって大腸がんが増殖するが、前立腺がんのテストステロンのように、運動することで筋肉にIGFが運ばれ、筋肉細胞の分裂によって消費されているのではないかという。
しかし、これらはまだ解決しないといけない問題が多い。運動とがん抑制というのは、いまだにメカニズムがほとんど分かっていないからだ。「もっと多くのサンプルを集めて、日本全体で考えていくべきテーマだと思います。米国のように、がん生存者が積極的に治療データを後世の研究のために残して、日本のがん治療に役立てるシステムが必要です」と奥井さんは話す。
運動にはがんの予防効果も期待できる
運動は、すでにがんを発症した人だけではなく、がんの予防効果があることも認められている。
国立がん研究センターが45〜74歳の男性3万7898人を約8年間追跡した研究がある。1日の身体活動量(運動量)で4つのグループに分けると、たくさん運動している人はがんの発症リスクが低いことが分かった。運動していない人たちに比べて運動量が最大のグループは、肝臓がんの発症リスクが38%、大腸がんの発症リスクが42%、すい臓がんの発症リスクが45%低くなっていた(*3)。
加えて最近、米国で19〜98歳の約144万人を対象にした大規模な疫学調査の結果が発表された。週5日以上、ウォーキングなどの運動を行っている人は、まったく運動しない人に比べて、食道がんの発症リスクが42%、肝臓がんが27%、肺がんが26%、腎臓がんが23%低かった(*4)。
ヘビースモーカーが全員がんになるとは限らないように、運動していれば絶対がんにならないとは言い切れない。しかし運動の習慣によって、何種類かのがんの発症リスクを低くできるのは間違いないようだ。
*3 Am J Epidemiol. 2008 Aug 15;168(4):391-403.
*4 JAMA Intern Med. 2016 Jun 1;176(6):816-25.
奥井識仁(おくい ひさひと)さん
よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック 院長
奥井識仁(おくい ひさひと)さん 1965年生まれ。東京大学大学院医学研究課程修了。米ハーバード大学臨床医師留学を経て、帝京大学医学部泌尿器科講師、獨協医科大学越谷病院講師などを歴任。2009年から現職。医療法人ウローギネ・ネット理事長。著書に『Dr.奥井式 原始人ダイエット』『人生を変える15分早歩き』(ともにベースボール・マガジン社)など。
このコラムについて
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聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/091500068/110400004
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