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『ニューズウィーク日本版』2016―9・13
P.62〜63
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デンタルフロス神話、崩壊の衝撃
ヘルス:歯科医も推奨する歯問ケアの王道のはずが歯肉炎予防や歯垢除去に効果なしとの説が有力に
デンタルフロスには効果がない ― 先月初旬、アメリカ人を仰天させるニュースが飛び込んできた。発端はAP通信の記者が、5年ごとに政府が発表する「アメリカ人の食生活ガイドライン」の今年度版からデンタルフロスの推奨が消えているのに気付き、理由を探ったことだ。
AP通信は、そもそもデンタルフロスの使用を推奨した科学的根拠を開示するよう政府に求めた。すると政府は根拠が薄弱だったこと、そのため推奨から外したことを書簡で認めた。
APの記事を読んで、すぐに計算してみた。デンタルフロスに私は毎年30ドルと10時問を費やしていたことになる。私たちはなぜ、あのツルツルの糸にからめ捕られてしまったのだろう。
ざっと調べただけでも、フロスの有効性を研究した論文は数十ある。大半は、フロスには歯垢と歯肉炎を減少させる効果が多少見られると結論付けている。だが、それらの研究はたいていジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)やプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)といった関連企業の出資による。フロス業界はあまりに強大だ。
米歯科医師会や歯科医たちも研究結果をうのみにしてきた。しかし近年、データを総合して全体像を見直す「総説」がいくつも執筆され、結果、フロスの有効性に根拠がほとんどないことが判明。政府が推奨を取り消す羽目になった。
そうした総説の1つが、オランダの研究チームが08年に執筆したもの。日常的にフロスを使つても歯垢の除去や歯肉炎には効果がないことを突き止めた。一方、医療研究を評価するイギリスのコクラン共同計画が出資した研究チームは11年、フロスは歯肉炎にはわずかに効果があり、歯垢にもごく限定的な効果が期待できると発表。
だが入手できたデータは質が非常に低く、特に歯垢に関するデータは「信頼できない」とも述べた。
例えば、多くの臨床試験は1〜3カ月と期間が短い。だから確認できたわずかな有効性でさえ「試験効果」、つまり参加者が一時的に熱心かつきちょうめんにケアを行った成果にすぎないかもしれないというのだ。
企業に好意的な研究結果
こうした総説の執筆陣にメールで問い合わせたところ、アムステルダム大学のG・A・ファンデルバイデン教授から返信が来た。彼は「フロスの使用を広く推奨すべき科学的板拠は見つからない」と言う。
ファンデルバイデンによれば、中高年で歯肉の病気がある場合には歯間ケアを行うのも悪くないが、つまようじが最適で、歯に隙間がある人ならまず歯問ブラシを使うべきだという。ただし、「プロ並みの技術で使えるなら」フロスにも効果があるかもしれないと付け加えた。
実際のところ、関連企業がスポンサーを務める臨床試験は、フロスの有効性を正面から調査していない。フロスをめぐる臨床試験の大半は、歯ブラシとフロスを併用した場合と、歯ブラシのみを使用した場合との比較に比重を置いているため、フロス単独の効果は不明だ。
企業が出資する研究が正確性に欠けるのは、フロスに限った話ではない。
アメリカでは医学研究の58%が企業の出資を受けており、その結果は素人には解釈が難しい。結果が公表されるのは調査対象、つまりはスポンサー企業の商品に好意的なものだけ。10年のある調査によれば、政府主導の臨床試験で研究対象に有利な結果が出る割合が50%だったのに対し、企業出資の場合は85%に上った。
もっとも、企業が出資したからといって必ずしもフロス支持の研究結果が出るとは限らない。洗口液リステリンの製造元だったファイザーは02年と03年、リステリンとフロスを比較する研究2件に出資した。すると6カ月以上リステリンを使った被験者の口腔は、同期間フロスを使った被験者よりも健康だった。
米歯科医師会学術評議会はこのデータを吟味。リステリンには「軽〜中程度の歯肉炎に対し、フロスと同程度の効果があることが臨床試験で実証された」とうたうことをファイザーに許可した。ファイザーは、リステリンとフロスがてんびんに載った広告を大々的に打ち出した。
すると今度は、米フロス市場の40%を占めるJ&Jの子会社、マクニール−PPCが誇大広告でファイザーを訴えた。
歯磨きまで効果なし?
04年にニューヨーク南部地区連邦地裁で開かれたこの裁判の記録に目を通したが、めぼしい情報はない。フロス推奨派の鑑定証人で、ノースカロライナ大学のデービッド・パケット准教授は、フロスの効能を熱く擁護。だが反対尋問でその根拠を問われると、回答を拒否した。
対するリステリン側の鑑定証人は、口腔外科医で疫学の博士号も持つワシントン大学のフィリップ・ヒュージョエル。彼は、米歯学界のフロス信仰は「効果がありそう」とのイメージに基づいているだけで、確たる根拠に欠けると主張した。
そんな彼に、裁判官はこう質問した。「25年問、私は歯科医にフロスを強く勧められてきた。これは間違った助言だったのか」。ヒエージョエルはこの質問に明確な回答を避けた。
家庭でのオーラルケアに歯周病の予防効果があるか、という最重要の質問については、ヒユージョエルは無作為化比較試験が3例あるのみで「それらによればいずれも効果は認められなかった」と述べるにとどめた。この質問に答えるには、より多くの証拠が必要だと彼は言った。
最終的に裁判官は「リステリンに『フロスと同程度の効果がある』としたのは歯科医師会の明白な過ち」としてマクニール−PPCの訴えを認め、ファイザーに広告の撤回を命じた。
だが先月、フロス効果に根拠なしとAP通信がすっぱ抜いて以来、ヒュージョエルは引っ張りだこ。見事リベンジを果たした格好だ。ニューヨーク・タイムズ紙の取材に、彼はこう語った。「フロスは効果があるし、フッ化物配合の歯磨き粉を使わなくても歯磨きは歯にいいと信じられている。なのにこれらの効果を裏付ける臨床試験結果がないのは、実におかしな話だ」
ちょっと待った。フッ化物の歯磨き粉を使わないと歯磨きも効果がないの? この論争、終わりが見えなくなってきた。
アニー・ベーア
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