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ファミレス「24時間営業」撤退、はたして「生産性」は上がるのか? 長時間労働に関する壮大な勘違い
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50683
2017.01.18 加谷 珪一 現代ビジネス
ファミリーレストラン大手が相次いで24時間営業の見直しに動き始めている。日本では長時間労働が社会問題化していることもあり、外食大手の動きは概ね好意的に受け止められているようだ。
一部では、深夜営業や日曜営業が厳しく制限されてきたフランスやドイツを引き合いに、社会全体で営業時間の短縮を実現しようという動きも見られる。
一方で、時間短縮をやり過ぎると、日本はますます貧しくなってしまうのではないかと危惧する声もある。果たして社会全体での営業時間短縮やサービス縮小は実現できるのだろうか。またそれによる弊害はないのだろうか。
■続々と決まる深夜営業の見直し
「ガスト」や「ジョナサン」を展開するすかいらーくは昨年12月、深夜営業を大幅に縮小すると発表した。
同社はファミレスを全国で約2500店舗展開しているが、このうち約400店が24時間営業、約600店が深夜2時以降までの営業だった。このうち約750店舗について、2017年1月中旬から順次、深夜2時閉店、朝7時開店に移行する。同じ時期、「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングスも24時間営業の廃止を決定している。
電通の過労自殺問題に代表されるように、国内では長時間労働が社会問題化している。外食大手の決断は、こうした社会の動きに合わせたものだとの受け止め方が一般的である。
コンビニの24時間営業や百貨店の元旦営業など、過剰なサービスは必要ないとの声が一部から出ていたこともあり、今回の決定はメディアでも概ね好意的に受け止められた。
すかいらーくは深夜営業を減らすと発表 Photo by GettyImages
だが一方では、深夜営業の店がなくなってしまうと、夜中に働いている人の行き場がなくなる、といった声が出ているほか、横並びで一斉に営業時間の短縮を行うことについては違和感を覚えるとの意見もある。また、営業時間を短縮してしまうと減収減益要因になるとの懸念も根強い。
今回のファミレスの営業時間短縮が、いわゆる働き方改革の一環で実現したと考えてしまうと、物事の本質を見誤るかもしれない。
外食産業の営業時間短縮は、今に始まったことではなく、以前から試行錯誤を繰り返してきたものだからである。
すかいらーくは2013年には600店舗の営業時間短縮に踏み切っており、ロイヤルホストも2011年頃から営業時間の短縮を試みており、24時間営業を行っているのは現時点ではわずか2店舗である。
つまりファミレス業界はかなり以前から深夜営業の見直しを検討してきたのであって、電通問題を受けて急いで対応を決めたわけではないのだ。では、なぜファミレス各社は、深夜営業の見直しを進めてきたのだろうか。最大の理由は、客数の減少と人手不足である。
■人手不足、しかも客は来ない
すかいらーくが2013年に深夜営業の短縮を決めたのは、2012年頃から深夜の時間帯の客数が大幅に減少したからである。外食産業は変動費と固定費のバランスで成り立っている。人件費や食材費は営業時間や注文の数量に応じて変動するが、店舗の原価償却費などは営業時間にかかわらず一定額を支出しなければならない。
支出が固定費だけなら、24時間営業を行って売上げを少しでも伸ばした方が、最終的な利益は大きくなる。だが変動費の負担が大きくなってくると、一定以上の売上高が見込めない場合には、営業しない方が得というケースも出てくる。
かつては深夜営業を行えばそれなりの来客が見込め、深夜の時間帯での勤務を望む労働者もいたので、このシステムはうまく回っていた。
だが、最近では深夜の客足が大幅に減少するとともに、労働者の確保も難しい状況となっている。それに連れて人件費は逆に上昇しているため、深夜営業が割に合わなくなっている。これが24時間営業廃止の最大理由である。
深夜の客数が減っているのは、消費者の購買力が大きく減少していることが主な原因であり、労働者の確保が難しいのは若年層の労働人口が減少しているからである。つまり、24時間営業の廃止は、ワークライフバランスを追求した結果というよりも、日本経済の構造的な問題に起因しているといってよい。
筆者はムダな長時間労働や過剰なサービスは必要ないとの立場だが、こうした構造的な問題を考えずに、社会全体で一斉に時間短縮を行うことについては慎重であるべきだと考えている。
構造的な問題を解決しないまま、むやみに深夜営業や休日営業をやめてしまうと、経済のパイそのものが縮小し、さらに日本経済が貧しくなるというスパイラルに陥る可能性もあるからだ。
深夜営業が割に合わない店舗も Photo by iStock
■一方ヨーロッパでは…
深夜営業や休日営業の規制についてよく引き合いに出されるのがドイツやフランスである。ドイツには有名な「閉店法」と呼ばれる法律があり、小売店の深夜営業や休日営業は規制の対象となってきた。フランスにも同様の規制があり、小売店の種類によっては深夜や休日に営業することができない。
ドイツにおける閉店法の制定は1900年と非常に古く、背景にはキリスト教の安息日の概念がある。単純に労働時間だけに焦点が当てられた法律ではない。
またフランスは革命国家ということもあり、労働者の権利というニュアンスが非常に強いのが特徴である(フランスの規制についても、原型は第三共和政の時代に出来上がったといわれる。また自営業者は労働者ではないので規制の対象外となっている)。
両国とも近年、規制の見直しが進んでおり、ドイツでは2006年に閉店法の権限が連邦政府から州政府に委譲された。各州での議論の結果、多くの州で24時間営業や休日営業が認められるようになり、閉店法は実質的には機能しない状況となっている。
フランスもオランド政権が規制改革を進めた結果、条件によっては深夜営業や休日営業を行うことができるようになった。
だが重要なのはここからである。特にドイツがそうなのだが、大幅な規制緩和が行われた結果、多くの店が24時間営業に移行したのかというと必ずしもそうではないのだ。法律上では規制されていなくても、いまだに深夜や休日には休む店が多いといわれる。
フランスの場合には、イスラム教徒など移民が経営する小売店を中心に、以前から深夜・休日営業が行われており、実質的に不便はなかったという背景はあるが、やはり規制緩和によって多くの店が24時間営業に移行したわけではない。
つまりフランスもドイツも、利用者はそれほど強く深夜・休日営業を求めておらず、事業者側も、無理に営業時間を延長するつもりはないようだ。
■解決すべきは「生産性」の問題
こうした結果になるのはドイツ経済やフランス経済の生産性が極めて高く、基本的に社会が豊かだからである。
厚生労働省が昨年9月に公表した労働経済白書によると、日本の実質労働生産性(マンアワーベース)は38.2ドルだったが、これに対して、フランスは60.8ドル、ドイツは60.2ドルという結果だった。
ドイツやフランスの生産性は日本と比較すると約1.6倍もある。これだけの稼ぎがあれば、小売店も無理に深夜営業や休日営業を実施しなくても十分に利益を上げられるだろう。
要するに日本経済は貧しく稼ぎが少ないという話なのだが、自動車やスマホといった製品価格はグローバルに形成されるので、成長できない国の相対的な負担は大きくなる。
労働時間が短ければいい? Photo by iStock
日本における長時間労働の背景については様々な見解があるが、純粋に数字から判断すれば、長時間労働をしなければ今の生活水準が維持できないというのが主な理由ということになる。
厚生労働省では日本の生産性の低さについて、時間要因ではなく付加価値要因が大きいと結論付けている。つまり日本企業はグローバルな競争環境に適用できておらず、儲からないことばかりやっており、結果として長時間労働にならざるを得ない。
日本はすでに成熟国家のフェーズに入っているが、いまだに途上国型経済から脱却できておらず、中国や韓国といった新興工業国をライバル視している。本来であれば、成熟国型の豊かな消費経済に移行しているはずであり、それが実現できていれば、そもそも無理に営業時間を延長しなくても同じ経済水準を維持できていたはずだ。
営業時間の短縮や長時間残業の是正という問題は、経済そのものの仕組みと深く関係している。この部分を抜きに労働時間の話だけに問題を矮小化してしまうと、本質的な解決はかえって難しくなるだろう。
働きたい人は働き、ゆっくり休みたい人は休むといったように、自由で多様性のある社会を構築することが重要であり、それが実現すれば、消費経済における付加価値は自然と高まってくる。見直すべきは労働時間ではなく、途上国的な日本人のライフスタイルそのものである。
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