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富士フイルム、富士ゼロックス本社(「Wikipedia」より/Rs1421)
富士フイルム・古森会長、独裁色強まる…狂う世界一へのシナリオ、社長解任説広まる
http://biz-journal.jp/2017/01/post_17742.html
2017.01.17 文=編集部 Business Journal
安倍晋三首相は昨年末、富士フイルムホールディングス(HD)の古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)とゴルフを楽しんだ。2016年12月29日付時事ドットコム「首相動静」には、次のように記されている。
「午前7時2分、東京・富ヶ谷の私邸発。同8時8分、神奈川県茅ヶ崎市のゴルフ場『スリーハンドレッドクラブ』着。昭恵夫人、古森重隆富士フイルムホールディングス会長夫妻とゴルフ。午後3時36分、同所発」
また、安倍首相は元日、キヤノンの御手洗冨士夫会長と同じゴルフ場でプレーした。17年1月2日付時事ドットコム「首相動静」を見てみる。
「午前7時32分、静養先の東京・六本木のホテル『グランドハイアット東京』発。同8時26分、神奈川県茅ヶ崎市のゴルフ場『スリーハンドレッドクラブ』着。経団連の御手洗冨士夫名誉会長、榊原定征会長、渡文明JXホールディングス名誉顧問とゴルフ。午後2時52分、同所発」
安倍首相と財界人のゴルフには、相手によって温度差がある。古森氏とのゴルフは夫婦同伴だ。古森氏はJR東海の葛西敬之取締役名誉会長と共に、安倍首相が自民党の若手幹部当時から、「四季の会」をつくり支援してきた。そして古森氏は、第1次安倍内閣時代にNHKの経営委員会の委員長に就任している。
米倉弘昌氏が経済団体連合会会長を務めていた時代に、経団連と安倍首相の関係は極度に悪化した。経団連との関係修復を図るべく御手洗氏は、安倍首相と経団連首脳がゴルフをする窓口になったという経緯がある。安倍首相が財界人とゴルフをする時のメンバーを人選するのが御手洗氏の役割だ。
ところが、“安倍首相派”といわれる古森氏と御手洗氏は16年、東芝メディカルシステムズの争奪戦で激しいバトルを繰り広げた。
■東芝メディカル争奪戦でキヤノンに敗北
医療をこれからの成長分野と位置付けている企業は多い。16年には、異業種による医療関連のM&A(合併・買収)が相次いだ。その最大の案件が東芝メディカルだった。同社は、コンピュータ断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像診断関連に強みを持ち、年商は4000億円規模だ。
東芝は15年、不正会計(粉飾決算)が発覚。債務超過になることを回避するために虎の子の東芝メディカルを売却することにした。
16年1月に始まった東芝メディカルの入札には国内外から10陣営が参加した。買収金額が吊り上がるとともに、ファンド勢が軒並み離脱。最終入札にはキヤノンと富士フイルムHDの2社が残ったが、結局、キャノンが6655億円で東芝メディカルを買収した。当初、買収価格は4000億円前後とみられていたが、キャノンと富士フイルムHDが激しく争ってどんどん金額が吊り上がり、破格の買収価格となった。
「残念だった」――。16年3月、キヤノンに敗れた古森氏は口惜しさを滲ませた。だが、すぐに気持ちを切り替え、「使わなかった資金は十分使い道がある。その意味で良かった、悪かったどちらにも考えられる。人間万事塞翁が馬。それはそれで良し」と、未練を断ち切った。
富士フイルムHDが東芝メディカルの買収に名乗りをあげたのは、成長戦略の柱に据えた医療事業の規模を拡大するのが狙いだった。キヤノンにさらわれた痛手は大きかったが、6000億円の手元資金(16年3月期)が残った。
この資金で、次のM&Aのターゲットにしたのが、武田薬品工業の子会社で試薬大手の和光純薬工業だ。和光の買収には日立製作所の子会社の日立化成や複数の投資ファンドが名乗りを上げた。キヤノンの傘下に入った東芝メディカルも参戦したが、富士フイルムHDが買収した。買収額は1547億円で、和光が持つ再生医療に必要な技術を取り込む。
■事業構造を転換し、業績をV字回復
00年、富士写真フイルム(現富士フイルムHD)社長に就いた古森氏は、稼ぎ頭だった写真フイルムの市場が大幅に縮小するという「本業消失」の危機に直面していた。このままでは早晩、経営は行き詰まる――。そこで、事業の構造転換を伴う新しい成長戦略を策定した。06年10月、持ち株会社制に移行し、富士写真フイルムから富士フイルムHDに商号を変更した。
液晶用フイルムに代表される高機能材料や、子会社の富士ゼロックスが手掛ける複合機などのドキュメント、後に医薬品や化粧品にまで業容が拡大したメディカル・サイエンスなど、6つの事業分野を新たな成長の核に据えた。なかでも、成長を目指して重点的に投資する分野として医療を選んだ。
08年、富山化学工業を買収した。古森氏は「現在3000億円規模のメディカル・サイエンス事業を10年後に予防・診断・治療の領域をカバーする1兆円規模の総合ヘルスケア事業に大きく成長させる。医薬品は、その中心だ」と展望を語った。富山化学はエボラ出血熱に使える「アビガン」を産み出し、高い評価を受けている。
■“ポスト古森”は不在
16年6月1日付で助野健児取締役執行役員が社長兼最高執行責任者(COO)に就いた。中嶋成博社長兼COOは副会長になり、6月29日開催の定時株主総会をもって副会長も退いた。
富士フイルムHDは、中嶋氏から健康上の理由で辞任したいとの申し出があったと説明した。しかし、額面通り受け取る向きは皆無だ。古森氏が、「東芝メディカルを取り逃がした中嶋社長を解任した」(証券アナリスト)との見方で一致している。
富士フイルムHDは、医療用画像管理システム(PACS)で世界トップの座を狙う。PACS市場では国内首位の「シナプス」を擁している。X線などの画像処理診断装置で撮影した画像を保管し、そのデータを医師が見て診断するシステムだ。17年秋から、人工知能(AI)を使ってX線画像撮影用の処理ソフトを全面的に刷新したシステムを提供する予定だ。
さらに、自社製のX線画像診断装置をPACSと一緒に売り込む狙いがある。12年3月に携帯型超音波診断装置の米ソノサイトを、15年5月に医療ITシステムの米テラメディカを買収したのは、その一環だ。
16年10月、中国有数の複合企業、華潤集団の医薬品製造・販売会社、華潤医薬集団有限公司に108億円出資した。
東芝メディカルの買収に動いたのは、CTや超音波装置などの画像診断機器で国内首位だったからだ。東芝メディカルを手に入れ、PACSで世界首位の米ゼネラル・エレクトリック(GE)を追い上げるシナリオを古森氏は描いていたはずだ。仮に東芝メディカルを買収できれば、メディカル・サイエンス事業の売上高1兆円に王手がかかるところだった。買収がかなわなかったことは、かえすがえすも無念だったことだろう。
富士フイルムHDの“独裁者”となった古森氏の首に鈴を付ける人物は存在しない。今年9月、78歳になる古森氏は、終身トップの公算が一段と強まっている。
(文=編集部)
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